トップページ 評価と処遇 賃金総論 個別賃金 企業年金


平成14年12月27日

賃金総論のページ


目 次
T.賃金とは何か
U.賃金管理 1.定義と管理体系
2.給与形態管理
3.給与体系管理
4.賞与制度
5.退職金制度
6.総額人件費管理
7.個別賃金管理

T.賃金とは何か

(1)定義、意義

定義 使用者が「労働の対償」として労働者に支払うすべてのもの(労基法11条)
意義 労働者 唯一の生活の糧
使用者 経営資源の一つである労働力を購入する対価としての人件費

(2)額と水準の学説

学説 内容 提唱者
@生計費 生存費説 賃金の額・水準は、労働者とその家族の生活に必要とされる最低の費用である生存費(最低生活費)が労働市場で市場価格として実現されたものである。 アダム・スミス、リカード
労働力再生産費説 賃金の額・水準は、労働力の再生産費を基礎として決定される。
=労働者とその家族の生活費(=標準生活費)
マルクス
A生産力 賃金の額・水準は、労働生産性によって規定される。 クー
B需要供給 賃金の額・水準は、労働市場における労働力の需給関係によって規定される。 ミル、フィリップス
C交渉力説 賃金の額・水準は、労使交渉の結果に規定される。 ドッブ、ダンロップ

(3)賃金の本質

賃金の本質 金額の決定基準 賃金の性格
労働力」という商品の購入価格 労働者の生計費保有労働能力 @生活賃金(年功賃金)、A能力賃金
労働」という役務の購入価格 労働の生産性・職務の価値 B仕事賃金、C業績賃金

(4)種類

種類 内容
通常の賃金 給与 賃金の中心をなすもので、労基法により毎月1回以上支払われるもの。臨時の賃金等以外の賃金。(通勤費も含まれる。)
臨時の賃金等(労基法24条) 賞与 定期または臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないもの(通達)
退職金 労働協約、就業規則、労働契約等によって予め支給条件が明確になっているもので、その受給権は退職により在職中の労働全体に対する代償として具体化する債権であるもの(通達)
その他 1ヶ月を超える期間の出勤・成績等を支給の理由とする精勤手当、勤続手当、奨励給、能率手当(労基則8条)
労働協約、就業規則、労働契約等によって予め支給条件が明確になっている慶弔金等(通達)
現物給付、その他(通達)

U.賃金管理

1.定義と管理体系

定義 労務管理の一領域。企業が支払うべき賃金の額と制度の諸機能を労務管理の目的達成に役立つように管理する施策
管理体系
賃金管理 賃金額管理 @総額賃金管理 ※@総額賃金管理は、財務管理の中の「人件費管理」の一部として財務面から検討されるべき領域である。
A個別賃金管理
賃金制度管理 B給与形態管理
C給与体系管理
D賞与制度
E退職金制度

2.給与形態管理

定義 給与を算定する基準。時間を基準とした定額給制度(「時給」「日給」「月給」)と、成果を基準とした出来高給制度(「出来高給」「歩合給」「業績給」)などがある。
意義 雇用形態、職種、職位に適した支給形態を採用することにより、企業にとって無駄のない人件費の使用と、労働者における労働の納得による労働意欲の惹起を図る
種類 社員区分 意義
時給制 パートタイマー、アルバイト、派遣社員など 働いた分だけ賃金を支給するという最も基本的な形態。一日又は1ヶ月の勤務時間、日数が通常の社員と違う(短く、かつ限定されている)場合に別枠でこの形態を採用する。
日給制 日雇労働者など 一日の労働時間は正社員と同じで、雇用契約期間が臨時、短期の労働者に適した形態。
月給制 通常正社員、契約社員など 生活賃金として生活サイクルに最も適した、安定した形態。
欠勤控除が行われる日給月給制と、欠勤しても一定額が支給される完全月給制がある。
年俸制 管理職、専門職など 成果を求められる職種、職位の労働者に適した形態。
基本年俸と業績年俸に分けられ、業績年俸は本人の成績によって支給額が変動する。
※支給は、いずれも月ごとにまとめてまたは分割して1回。ただし時給制、日給制で雇用期間が短い場合は、日毎または週毎に支払われる。

3.給与体系管理

(1)沿革 (電産型給与体系〜定期昇給制度)

明治末期、日本の賃金体系は西欧流の定額給・能率給の2本建てでなく、基本給の他に各種の手当や賞与、退職金などを必要に応じて設定するようになった。その背景として、このころ技能工を始め労働移動が多く、企業は労働者の企業内訓練、定着管理を組織的に行い始め、それにつれて手当を設定することが多くなった。第1次世界大戦中のインフレ時、この傾向は更に強まり、企業は臨時手当、米価騰貴手当、被服手当とともに家族手当を設ける企業が出てきた。

日中戦争突入後、インフレが起こると、政府は1939年6月、第1次賃金統制令を発した。その主な内容は、@重要産業での男子未経験労働者の賃金を公定とする事(採用初任給は年齢別に定めた)、A賃金額と賃金形態の変更命令権を政府が持つ事、B賃金規則の作成と報告義務などであった。制度的に年齢別賃金を始めて強制したこの統制令は日本の年功賃金制度の起源となった。

戦時下の賃金統制はこの後も続き、1940年1月、電力事情悪化などで作業ができなくても手当を払う「不就労給」を認め、同2月「家族手当」の支給を許可した。「働いていない家族にも賃金を払う」という日本独特の制度はこうして生まれ、ほとんどの産業に広がった。これらの手当は、賃金統制で実質賃金が低下する一方で、戦時の物価上昇に対抗するという恩恵的給付の性格があった。

戦局が決定的になるに連れて、従来の業績報奨型賃金は非難され、賃金は「国民の勤労能力培養」「国家目的に奉仕する勤労者の生活補償」という考え方が強くなった。年齢と家族数とを重んじて「家」を守るためにこそ賃金があるという「皇国賃金観」が叫ばれた。

終戦直後、インフレに人々が苦しむ中、労働組合の要求は、労働者の生活を保証する賃金に向かっていた。1946年秋、日本電気産業労働組合協議会(電産協)は産別会議10月闘争で後に「電産型賃金体系」と呼ばれる賃金体系を獲得した。当時、労働組合の賃金闘争は、賃金の増額を要求するのが普通だったが、電産協はこのとき初めて労働組合の手で賃金体系を作成し、団体交渉を経て、政府、経営者に承認させた。この賃金体系は戦後の約10年間、日本の代表的な賃金体系として、ほぼ全産業に取り入れられた。その構成内容は下図のように本人の年齢で決まる「本人給」と抱えている家族の数に応じて支給される「家族給」とを合わせた「生活保証給」が大部分を占めていた。
電産型賃金体系の賃金構成
賃金 基本賃金 92% 生活保証給 67% 本人給 47%
家族給 20%
能力給 20%
勤続給 5%
地域賃金 8%
その後、戦後のインフレが収束し、経済事情が落ち着いてくると、賃金を「労働の対価」と見ずに、年齢、勤続年数、家族構成によって機械的に増加させる生活給型の「電産型賃金」では、モラール(士気)の高揚が期待できず、ひいては生産性の向上を阻害するなど数々の問題点が浮き彫りになってきた。そんな中で1955年、東京電力は「職務給」を導入した。職務給はアメリカから普及した仕事給の一つであり、職務分析、職務評価に基づいて給与が決定される。近代的時間給の典型と呼ばれている。職務給はその後各産業に普及した。しかし、日本で採用された職務給は、職務の価値と併せて個々人の能力を査定する「人事考課」で決めるものであり、最初から日本的な「職能給」の性格を帯びていた。東京電力が採用した職務給は、今までの電産型賃金に比べると、職級的色合いがやや強まったが、それでも年齢や勤続年数などの属人的要素が相変わらず大きな比重を占めているものだった。

1966年、東京電力はこれまでの年功給を大きく修正する「定期昇給制度」を採用した。職階別定額を定め、これに熟練形成と勤続貢献に対する評価を「定期昇給」の形で織り込むようにした。このように、本来の職務給に我が国の風土への配慮を織り込んだ「職能給」は以後の日本を経済大国にまで押し上げた日本企業発展の原動力となった。

(2)定義とその体系

定義 給与総額を個々の労働者に配分するための基準。月給者の給与については中心となる基本給と付随する諸手当がある。
意義 非正規社員の時給者、日給者は本給一本(+通勤費)であるのに対し、正社員月給者は、上記の歴史を経て、複数の基本給と複数の手当で成り立つ日本独特の給与体系ができ上がった。
給与体系管理とは、企業の経営方針、経営状況、経済状況等を勘案して、最も労務管理の効果が高いと思われる給与体系を選択、維持していく管理のことである。
給与体系全図
基本給 手当
性格 項目 性格 項目
総合決定給 本人給 生活手当 家族手当
生活給 年齢給 住宅手当
勤続給 通勤手当
能力・仕事給 職能給 地域手当
職務給 仕事手当 役職手当
役割給 資格手当
技能手当
特殊勤務手当
精勤・皆勤手当
業績給 歩合給
時間外手当 残業手当
休日出勤手当
その他 調整給

(3)基本給と手当

区分 定義・内容
基本給 給与のうち、量的にその中核をなすものであり、かつ、質的にその性格を規定するもの
賞与、退職金の算定基礎とするケースが多い。
手当 給与のうち、基本給に付随して生じる諸問題の解決を図るもの。

4.賞与

労働(力)の提供に対してその主たる対価は給与であるが、給与以外にも「賞与」が夏と冬の年2回支給される日本独特の慣習がある。
欧米諸国にもクリスマス・ボーナスなど似たような慣習があるがその金額は小さく、フリンジ・ベネフィット(付加的給付)の1分野とされている。

その起源ははっきりしないが、盆・暮れの臨時出費に対する生活費補助の意味でその支給が始まり、後に利益の社員に対する配分や功労褒賞などの意味が付け加えられていったようである。

したがって、現在まで賞与の意義にはっきりしたものがないため、労働組合側は「生活補填一時金」、会社側は「貢献度・業績に対する成果配分」と捉えている。

日本の風土にしっかりと根づいた慣習のため、支給する理由が不明確だから支給しないとする会社はほとんどない。ただし、会社としては成果配分と考えるため、業績赤字の期には支給しないとする会社もある。

給与がある以上、労働力提供に対する反対給付として必ず支給しなければならないものではないが、支給する事が慣習となっており、その本質は従たる労働(力)の対価であると言える。

賞与の性格は、総額管理として@利益配分、A固定人件費、個別管理としてB生活一時金、C業績給、などが考えられる。

金額・水準については、年間で月給の2ヶ月〜6ヶ月程度が相場となっている。年収における割合も大きいため、春闘では毎年、給与の賃上げと共に労使の関心の的となっている。

5.退職金

退職金とは、社員が退職する際、一時金としてまとまった金額を支給する特別な賃金である。

退職金は、商家のノレン分け起源とされ、その時期は江戸時代とも明治後期とも言われている。それが昭和10年代に製造業を中心に広がって制度化された。

退職金も賞与と同様に必ず支給しなければならないものではないが、支給する事が慣習となっており、その本質は従たる労働(力)の対価である。

退職金の性格は、老後の生活保障、後払い賃金、功労褒賞などが考えられる。

金額の計算基礎額は月例給与額であり、基本給とする会社が多い。勤続年数に比例して支給金額は増えていく。その増え方は10年、20年、30年を区切りに累進的に増加する。
退職理由によって区分があり、自己都合中途退職の場合、原則支給額の5割から8割の支給とするところが多い。

金額水準については、企業の規模・体力によって大きく異なる。
大企業大卒30年勤続で平均約2500万円、同高卒1600万円から、小企業では、制度化されておらず事業主からの恩恵としてわずかな一時金の支給とするところまでピンからキリまである。

退職金の支給形態の種類として一時金と年金がある。
退職金は特に支払金額が多額になる大企業などにおいては、その支払準備資金を計画的に貯蓄しておく必要が生じる。企業の退職金支払準備形態として、内部積立型と外部積立型がある。
外部積立型として厚生年金基金、適格退職年金、中小企業退職金共済などの制度がある。
最近、確定拠出年金制度が発足し、適格退職年金制度は10年の経過措置を経て、廃止されることとなった。

近年の平成長期不況により、退職金制度が廃止されたり、制度の抜本的見直しが行われたりしており、支給金額は軒並み減額修正されている。

「企業年金と退職金」のページ参照

6.総額人件費管理(総額賃金管理)

定義 全労働者の適正人件費総額と企業にとっての適正人件費とのバランスをどの点で取るかを@企業の支払能力、A労使の力関係等を勘案して決める管理である。
意義 この領域は、財務管理としての側面が強い。企業支出の項目を大きく分けると「人件費」「製造費」「販売費」「経費」であるが、その中でも賃金を含む人件費はすべての企業において例外なく大きな割合を占めている。そして更に人件費の中で「賃金」は最も大きな割合を占めている。したがって、人件費、賃金を適正にコントロールすることが求められる。

(1)人件費の構成

人件費 役員人件費 役員報酬
役員賞与
役員退職慰労金
法定福利費 社会保険料
福利厚生費 住宅補助、社員旅行補助など
研修費
社員人件費 賃金 所定内給与
時間外手当
賞与
退職金
法定福利費 社会保険料
福利厚生費 住宅補助、社員旅行補助、厚生施設維持費など
募集採用費
研修費
その他

(2)付加価値の分配

付加価値とは、企業が経営活動によって新しく生み出した価値のことであり、その金額は、売上高から他企業から購入し消費した部分を差し引いた額である。

生み出された付加価値は、下表のとおりに分配・支払が行われる。

労働者に分配される分は、労働力の対価たる賃金と付加的給付としての福利厚生費である。

付加価値支払分について、支払先は外部であり、支払額は、法律や契約によって決められている。

問題は付加価値の分配分の配分である。分配先は企業と企業そのものを構成する人々である。分配分の総額を「株主」、「経営者」、「労働者」、「企業」にどんな割合で配分するのか、企業の重要な決定事項である。
区分 分配・支払先 分配・支払項目 性格
分配分 株主 配当金 利益
経営者 役員賞与 利益
役員報酬 人件費
役員福利厚生費
労働者 賃金
社員福利厚生費
企業 内部留保利益 利益
支払分 借入先 借入利息 金融費用
賃借先 賃借料 賃借料
国・自治体 租税公課 税金

(3)総額賃金のコントロール

賃金には、給与、賞与、退職金がある。
退職金は各年度ごとに損金経理が可能な方法を採るなどして、支給原資を別立て管理して、各年度ごとの支出または費用を平準化することが望ましい。
賞与は、支給総額を各年度の利益または付加価値額に連動させて決定する方法を採ることが望ましい。
退職金と賞与をこのように管理することにより、給与の支給総額は個別給与の積み上げ額を微調整する程度で総額人件費のコントロールが容易となる。

7.個別賃金管理

定義 賃金総額を一定の基準に基づき個別配分していく管理である。基準作りに当たり考慮すべき点は@賃金の世間相場、A標準生計費、B労働力需給状況等である。
個別賃金の主な決定基準
賃金の本質 金額の決定基準 賃金の性格
労働力の対価 @労働者の生計費 生活賃金
A労働能力の価値 能力賃金
労働の対価 B職務の価値 職務賃金
C職務遂行成果の価値 成果賃金
その他 D恩恵 恩恵賃金
「個別賃金」のページ参照