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平成15年9月20日

評価と処遇のページ


目 次
第1編 提言
第2編 会社・組織と人事制度 T 会社の成立と組織
U 人事戦略
V 人事制度体系
第3編 評価 T 評価制度理論
U 評価理論の考察
V 評価の本質
第4編 処遇 T 能力・成果主義と処遇
U 処遇とは何か
V 処遇手段
W 処遇の意義と疑問
第5編 認められたい願望の構造
第6編 まとめ
用語解説
賃金・人事制度の変遷
評価表の典型例

第一編 提言

あなたは、自分に向けられた会社の評価、自分の働きに対する賃金、自分に与えられた役職・仕事に不満を持っていませんか?

あなたは、評価、賃金、役職等の不満で会社を辞めようと思っていませんか?


☆人事考課、査定などの評価は、もともと正当に評価できないものなのです。
こんなもので喜んだり、嘆いたり、反省したり、不満を持ったりして心が動かされたり、ましてや不満が乗じて会社を辞めようなどと考えることは愚の骨頂です。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
人は、よりよく生きようという思いを実現するためにすべて行動します。
日本国家も憲法等で国民の基本的人権や思想の自由、職業選択の自由、行動の自由、契約の自由などを認め、国民がよりよく生きるために行動することを認めています。

一方、多くの人は生活に必要な賃金を得るために会社に入社して働きます。
会社と雇用契約を結んだ者は、その限りにおいて会社のルールに縛られます。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
会社(企業)はモノを作り、販売し、またはサービスを提供することにより、利潤を獲得することが目的の団体です。
(利益が上がれば会社は継続します。つまり会社の最低限の目標は会社が存続し続けることです。)
したがって会社のルールは、利潤の極大化という目的に添うように作られています。
だから会社のルールは、労働者がよりよく生きられるように作られているわけではありません。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
会社が会社として成り立つための機能として、営業、業務、総務、(技術、開発)、経営管理などがあります。
すべて必要不可欠な機能ですが、自由競争原理下において多くの企業で営業が中心となります。営業成績さえ順調であれば、それ以外は不十分であっても会社は当面、継続できます。これが営業至上主義のゆえんです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
営業成績の向上を至上命題として行動原理に持つ会社は、総務がおろそかになりますが当然の帰結です。
そして評価、昇給賞与、昇進。これらの機能は総務(人事)に属します。
これらの機能は、特に生き残りに精一杯の中小企業にとっては二の次です。
だから労働者にとっては重要な位置付けとなるこれらの機能ですが、期待してはいけないのです。

労働者にとって一番大切なことは、生活最低賃金の得られる働く場を生涯に渡って確保すること、これだけなのです。
どうしても働く場が自分にそぐわない時はもちろん退職して他に働く場を探すことは自由です。
しかし、評価、昇給賞与、昇進が意に添わないという理由で不満を持つ、ましてやそれを理由に退職するなどということがあれば、それはそもそも間違った思考であると私は考えます。
会社に期待してはいけません。人がよりよく生きようとする思いは会社の中では実現できない仕組みになっているのです。会社の外でその実現に努力すべきでしょう。

第二編 会社・組織と人事制度

T. 会社の成立と組織

@目的
会社(企業)はモノを作り、販売し、またはサービスを提供することにより、利潤を獲得することが目的の団体です。
A成立
会社は経営者(発起人)が発起し、株主が資本を提供して成立します。
(中小企業では発起人みずからが資本を投資し、株主と経営者を兼務します。)
B雇用
成立後、実際に実務を行う労働者を雇用し、配置します。
C組織・配置・賃金
業務の拡大とともに労働者の雇用数も増えると、管理体制を敷いて組織を作り、職務を確立し、分業体制を構築します。
D組織と分業体制の確立は、同時に労働者をどの職務に配置し、賃金をどう配分するか、という管理が発生してきます。

これが「組織管理」「配置(人事)管理」「職務分掌管理」「職務権限管理」「人事制度」「賃金制度」などと呼ばれる経営管理です。

U.人事戦略

1.経営戦略
会社を経営していくポイントを敢えて挙げると
事業戦略 事業・業務をどう展開させていくか
資金計画 カネをどう回していくか
人事戦略 労働者をどう使っていくか
この3点です。

2.人事戦略
人事戦略は経営管理3本柱のうちの一つであり、極めて重要な課題です。
いかに優秀な能力を持つ人材を雇っても、その労働者は会社から仕事を与えられなければ何もすることはできません。
労働者一人一人の仕事は組織立てられており、仕事の種類(営業、開発、経理etc.)とその範囲及び配置職位における上司部下との権限、責任と分業関係が確立していなければ、組織は混乱をきたします。

人事戦略は、組織戦略と一体となって組織と人事を次のとおり司ることです。
経営 領域 内容
経営戦略
(経営者がやる)
組織管理 @ 機能的な組織編成
A 機能的な職制・職務編成
雇用人事労務管理 @ 雇用人事理念の確立
A 理念に沿った雇用制度・人事運用・労務管理・処遇政策
B 理念に沿った賃金制度
C 効率的な配置管理
経営管理
(管理職がやる)
部門業務管理 @ 部門計画と実績管理
部下管理 @ 指導・育成・その他管理
A 人事評価

3.人事理念
労働者の賃金、配置などの決定についての考え方を人事理念という。
人事理念は大きく分けると属人主義と属職主義がある。
(1)属人主義
属人主義とは、労働者の属性によって賃金や配置を決定する人事理念です。
属性の内容は、年齢、勤続年数、性別、学歴、発揮能力・成果などです。
日本では属人主義で労働者管理を行っています。
日本の大企業では以下の方法で労働者の配置と賃金を決定しています。
雇用 毎年定期に新卒労働者を、基礎能力と協調性を基準に選抜して、雇う。
配置@ 会社は末端の欠員・拡充ポストに新採用社員を配置する。
配置A 毎年、人事異動を行い、適性を勘案して職種非限定で水平異動、または能力発揮度・勤続年数等を勘案して昇進を行い、管理職に登用する。
賃金 役職位とは別に個人に資格をつける。資格は人事考課と勤続年数によって上昇させる。賃金はこの資格と年齢による賃金表によって主要部分が決定される。

(2)属職主義
これに対してアメリカでは属職主義で労働者管理を行っています。
属職主義とは、職務を中心に人を配置し、賃金を決定する人事理念です。
具体的には以下の方法で労働者の配置と賃金を決定しています。
雇用・配置@ 職位に必要な「能力要件」を整備する。(職能要件書)
雇用・配置A 仕事(職務)が増えたり欠員が出ると、拡充・欠員ポストの職能要件を基準に社内又は社外から募集して選抜し、配置する。
賃金@ 職務遂行の対価を職務の難易度、責任度などから予め決めておく。(職務評価、職務給)
賃金A 配置した労働者の賃金は配置された職位の対価としての職務給を中心に賃金が決定される。

(3)両者の違い
上記のとおり、職務に賃金をつけるのがアメリカの属職主義であり、人間に賃金をつけるのが日本の属人主義です。
何故この違いが生まれたのか? それは産業の発展の仕方、国民性、歴史、風土による違いによるものです。
どちらか良くてどちらが悪いというものではありません。どちらで管理した方が経営が効率的かということであって、アメリカの風土の下では属職主義の方が効率的であり、日本の風土の下では属人主義が効率的であったということです。

(4)日本の属人主義の変貌
属人主義にも基準が大きく分けて2通りあります。
生活水準を基準とした生活主義(年功主義能力を基準とした能力主義です。日本は戦後の経済混乱期には、生きることだけで精一杯の人々が溢れ、賃金水準も低かったため、生活主義が取られましたが、経済の安定、賃金水準の上昇とともに能力主義が徐々にその度合いを強めてきました。
そしてバブル崩壊後、成果主義が提唱され、最近では役割(職務)の大きさをベースとする成果主義が大企業を中心に用いられ始め、日本的属職主義へ変貌を遂げようかという昨今の情勢です。→賃金・人事制度の変遷

V.人事制度体系

1.人事制度
人事制度とは人事労務管理(人事戦略)の中で、特に労働者の個別的な処遇を通して、労働者からより多くの労働とその成果を引き出させるための経営施策である。
広く使われている概念としては、人事制度はコア3制度と呼ばれる@評価制度、A資格制度、B賃金制度を中心として構成される。
個別的処遇とは、賃金、役職(ステータス、社内権力)等である。
貢献の高い働きをしたと「評価」された者は、「資格」が上がり、それに伴い「賃金」も上がる、つまり人事制度はコア3制度が連動して本来の目的が達成されるものである。

中小企業では、人事制度に関して未確立の企業が多く、あってもほとんど不備である。
《人事制度のイメージ》
@評価 仕事ぶりを中心とした基準を設けて、組織上の上司が部下の評価を行う。
                                                            
A−1資格 資格は評価結果の積み重ねによって上昇する。
A−2役職 役職も評価結果の積み重ねにより査定され、ポストに空きができるか、新ポストが必要となった時、昇進する。
                                                            
B賃金 賃金の中心は資格給と役職手当の体系を持つ企業が多く、資格と役職の昇格、昇進とともに賃金も上昇する。
(勤続給、年齢給体系を持つ中小企業も多く、この部分では他の人事制度とは連動せずに賃金が上昇する。)
2.日本の人事制度の発祥と流派
人事制度は法律で決められたものではなく、経営政策の一環である。したがって各社各様であるが、元となるその理論の源流を辿ると2人の人物に行き着く。弥富賢之氏楠田丘氏である。各氏の理論はそれぞれ弥富式、楠田式と呼ばれている。両者の大きな違いはそもそもの目的の違いに終始する。
弥富式は賃金決定のための制度として捉えているため、賃金制度部分が細かく、資格制度と評価制度は比較的単純である。評価の対象は成績(プロセスと成果)のみである。
一方楠田式は社員の能力及びモラールの向上をその目的として捉えているため、評価制度が極めて細かい。楠田式では評価のことを独自に「人事考課」と呼ぶ。評価の対象は、成績、能力、意欲態度の3点である。世に有名な「職能資格制度」は楠田氏が確立したものである。
※Column【楠田丘氏と弥富賢之氏】
楠田丘
大正12年生まれ、昭和23年労働省に入所し長らく勤務した後、昭和45年日本賃金研究センター及び日本(社会経済)生産性本部在籍、昭和56年同センター代表幹事、平成6年同本部理事となる。
昭和50年以降ほとんどの大企業が採用した職能資格制度構築の立役者。

弥富賢之
人事院に在籍中公務員の労働関係や給与制度を確立。その後本田技研にて賃金人事制度を構築。昭和35年賃金管理研究所を創設。
以後大小6000社に賃金人事制度を導入。その理論は特に各地の中小企業に根強く息づいている。

第三編 評価

人事の世界で評価といえば人事評価と職務評価がある。日本では単に評価といった場合、人事評価のことを指す。
人事評価が必要な会社は、能力主義型属人主義の人事理念を持つ会社である。
労働者の能力や成果を「人事評価」して、賃金や配置を決定しなければならないからである。
現在の日本ではほぼすべての株式会社が該当する。
では具体的にどのように評価をするのか、以降、代表的な弥富式と楠田式の基本評価理論を説明する。

T.評価制度理論

1.評価項目
何を評価するのか、その具体的基準が「評価項目」である。
評価項目について弥富式と楠田式の典型例を挙げると別表のとおりである。
別紙の例は一般職の例であり、これ以外に管理職用、(指導職用)などがある。
弥富式ではこのまま使われることも多い。
それに対して楠田式ではこの例を元に、各社・各社長が、自社・自分の人事理念を加えて自社用に作っていく。更にこれらを職種別にカスタマイズしてそれぞれ職種別に作る。

2.評価段階と評語
評価段階は5段階。各段階の評語は次のとおりである。
結果水準 楠田式の例 弥富式の例
たいへんよくできた S 14点 S
よくできた A 12点 A
ふつう B 10点 B
やや不出来 C 8点 C
不出来 D 6点 D

3.評価水準と職務(課業)評価
楠田式の場合、資格ごとに、仕事の要求度(=仕事の出来栄えの評価水準)を変える。これを行うためには、全社一人一人のすべての課業(ひとかたまりの仕事)を拾い出し(=課業洗い出し)、各課業に資格等級に見合ったランクをつけていく。(=課業評価
そして課業の難易度たる課業ランクと、その課業の担当者の資格とを照らし合わせて評価を行う。これを絶対評価といい、楠田理論の重要ポイントの一つである。
例えば、労働者甲氏の資格は5等級、甲氏が担当する幾多の課業のうちA課業の課業評価はランク4であり、甲氏の当該課業に対する出来栄えは普通であった場合、甲氏の当該課業にかかる評価はBではなく、Cとなる。
(※ランク4は4等級の人が普通にやってB評価の難易度と仮定する。資格等級は1等級が最低とする。)

なお、弥富式では等級ごとの役割期待度に職務成果全体を照らして、評点を決定するので、課業レベルまで細かく分析することはない。個別課業洗い出しと課業評価は不要である。

4.評価期間
いつからいつまでの仕事ぶり、成績結果を評価するのかを設定する。
期間設定は主に次の点を考慮して設定する。
@ 成果が計りやすい切り方
A 賃金にリンクしやすい切り方
B 定期異動にリンクしやすい切り方

5.評価対象行動の選択と要素の選択
楠田式の場合、なにより綿密な評価が前提であり、そのために評価者は被評価者の日常行動観察メモを逐次記録しておかないと、評価ができない。
評価者はこのメモに書かれた被評価者の行動を評価時に逐次振り返って、その行動と結果はどの評価項目で評価するかを決定する。記録した個別行動と評価項目をつなげる作業のことである。

楠田式評価表の原則は成績考課、情意考課、能力考課の3要素から成り、一つの行動とその結果をどの項目で評価すれば良いのかを判断することが、かなり難しく、本を良く読んだり、考課者研修を何度も受講しなければマスターできない複雑な仕組みになっている。

なお、弥富式では、この作業は前提としていない。
弥富式評価表の原則は成績評価だけで評価項目も比較的わかりやすい。

6.評価者と評価者段階
評価者は、ピラミッド構造に作られた組織の直上位者が選定される。
数次の階層組織となっている場合、評価構造も数次に設置される。一般社員の評価は係長が一次評価、課長が二次評価、部長が三次評価、課長の評価は部長が一次評価、社長が二次評価という形となる。

7.課者訓練(研修)
楠田式の場合、考課者訓練は重要ポイントの一つである。その目的は考課のルールを正しく理解させることと、価値基準の全社的統一を図ることである。
名称が示すとおり、考課者訓練は楠田式独自の発想であり、弥富式にはない。

8.面接とフィードバック
楠田式の場合、考課期間開始前(目標設定面接)、期間中(指導面接)、期間後(フィードバック面接)に考課者が被考課者の面接を行い、本人の職務に即した具体的考課事項を確認し、指導し、評価結果の総括をする。
弥富式にはこの概念はない。

9.評価結果の使用
このようにして評価された個人成績は、評語を一定のルールで点数換算し、その点数は昇給額、賞与額を決定する要素の一つとなる。
また同時に昇格、昇進を決定する手段ともなる。
楠田式評価制度の主目的は人材育成なので、賃金決定要素以外にも様々な用途で使用される。まず評価の過程における逐次の指導それ自体が評価制度の目的でもある。また評価は多角的に綿密に行われ、様々なデータが取れるため、記録された能力と適性が配置異動や教育訓練等に使われる。

U.評価理論の考察

1.楠田式の考察
前章で紹介した内容は、ほんの概略である。それでも十分に言えることは、これだけ複雑で手間暇のかかる管理ができるはずはない!ということである。
@もっとも複雑なアイテムとしては課業一覧表と課業評価である。しかも膨大な手間暇をかけて出来上がった頃には、外部環境の変化で仕事の内容が変化していることが多い。いたちごっこで永久に制度が完成することはない。
A制度が仮に完備したとしても、実際に運用するのが現場の管理職である。かれらが制度どおりの運用をしようとしたら、その評価管理の仕事だけで自分の本業は一切できない状態であることが容易に推察される。管理職の役割は部下の仕事を管理・チェックすることが本業ではなく、部下を手足に使って部門業務を自ら推進していくことである。
B目標面接時に部下の仕事に即して評価の基準を細かく設定しておかなければ、納得のいく評価結果には至らない。人それぞれに価値観が違うわけであるから、考課者はこの点を重視する、この点は軽視するということを十分に部下に伝えなければそれだけで不公平な評価と言われても仕方がない。
C仕事の内容は刻々と変化していく。通常は1年間の評価期間中に当初予定の仕事が変わってしまう現実の方がずっと多い。変わったところで新たに具体的設定の面接を設けて管理することとなるが、こうなるともう収拾がつかないほど評価するには複雑になる。

2.弥富式の考察
弥富式評価制度とその運用は、比較的単純である。単純であるから制度設計も現実的であるし、運用も可能である。使用目的も明快である。
だから評価制度に限れば、弥富式の方が現実運用としては妥当性が高い。
しかし反対に、しくみがアバウトであるということは、永遠のテーマである人が人を評価することの限界がある。

3.まとめ
つまり、弥富式では人が評価する限界があり、楠田式では評価することだけが仕事の専門管理職を設置しなければならないがそれは不可能な話であり、いずれも企業という場において、労働者を公正に評価することはできない!

前述したが、ほとんどの日本企業の人事制度は、弥富式か楠田式のいずれかを基盤においてある。(もちろん時代の変遷とともに変わるべきところは変わるが基礎理論として紹介した。)
改めて比較考察してみると、いずれも深い追求がなされながら、両極端な違いがあることに気づく。
そしていずれの理論においても現実の企業で理論どおりに運用することは不可能である。
最近ではアメリカから輸入された「コンピテンシー評価」という手法が脚光を浴びているが、その他のたいていの理論も@細部がアバウトで公正さを保てないか、A制度作りと運用が複雑で手間暇・カネがかかりすぎて理論どおりに運用できないか、のいずれかに落ち着く

参考までに、完全でない2つの理論がなぜこれほどまでに日本で広まったかという点について述べる。
評価制度はそれだけでは意味を持たず、人事制度としてその役割を発揮する。
その人事制度の目的は「労働力の有効活用」である。
弥富式は、評価が多少不公平であろうと「働きぶりを査定して社員の賃金に差をつけます」というメッセージであり、社員を緊張させるに足るシステムであり、まじめにしっかりと働こうという気持ちを持たせることでその役割が果たされている。
楠田式では、評価結果というより、評価の過程で多くの指導育成の機会を持つこととなり、人材育成の目的がそこで達成されているのである。
※Column【コンピテンシー評価】
アメリカで生まれた人事評価の手法。
日本語では「行動特性」などと訳される。
「高い業績を上げた社員の行動や発想の特徴」に着目し、これらを整理して評価項目とする。
従来の評価手法の着眼点は、成果の結果を評価したのに対し、コンピテンシー評価の着眼点は、成果を上げるためにどう考えて行動したのかという、思考とその行動そのものを評価する内容となっている。
いわば当社で成果を上げるためにはこんな考え方で動くと成果が出やすいですよ、という支援プログラムとも言える。
従来型の成果結果評価と組み合わせて使われるケースが多い。
会社(業種風土、地域性、規模、自社風土等)によって高業績者の行動特性はみな違うため、各社ごとにコンピテンシーデクショナリー(自社用の職務別評価項目)を作成する必要があり、これが膨大で専門的なため、導入したほとんどの企業は人事コンサルタントを入れて作成している。

V.評価の本質

1.能力とは何か
人間の能力・知識には、どんなものがどれくらいあるのだろうか。
この分野の研究を私は知らないが洗い出し不可能なほどたくさんあることは間違いない。遠くを見る能力、小さな音を聞き分ける能力、重いものを持ち上げる能力、速く走る能力、人の心を正確に読み取る能力、たくさん食べられる能力、大声が出せる能力、難しい論文を早く正確に理解できる能力、周りを明るく楽しい雰囲気にさせる能力、説明が上手な能力、誰とでも上手につきあえる能力、早く正確にキーボードが打てる技能、専門知識力、柔軟な発想力、常識感覚、様々な体力、人を魅了する容姿、気配りのできる能力…

会社でいう能力とは「職務遂行能力」を指す。これらの中から職務ごとに重要な職務遂行能力を抜き出す。これが能力評価の項目となる。
重要な職務遂行能力は企業ごと職位ごとに全部違う。だから甲会社のA職位で働いていた時はとてもよい評価がつけられたが、乙会社のB職位に転職してから最悪の評価ばかりである、ということは当然にあり得る。
つまり会社からの評価が低い、能力がないと上司から日々罵られているとしてもそれは偏った評価でしかない。それは決してあなたの仕事をする能力が低いということにはならない。その会社のその仕事の評価基準とあなたの能力とかたまたまマッチしていない、というだけの話である。

2.評価の本質
評価の対象、評価の視点。これは会社ごとに全部違います。会社の価値観、成り立ち、人事理念がそれぞれ違うわけですから、当然の話です。
具体的には、例えば、成果主義の人事理念を持つ会社なら、結果に重きを置きますが、能力主義の会社なら、努力と過程に重きを置きます。年功主義の会社ならあまり評価事体に細かい管理をしません。
全社主義・家族主義の会社なら、協調性や規律性に重きを置き、個人成績主義の会社ならときに同僚の顧客を奪ってでも個人成績に重きを置きます。
古風な会社なら仕事のやり方を忠実に守り、上司の命令に忠実に従い、会社の細かい諸ルールを忠実に守り、周りに合わせて適当に残業する仕事ぶりが評価され、斬新な会社なら仕事のやり方に常に創意工夫を凝らし、会社や上司に積極的に新規提案や改善提案を出し、効率的に仕事をこなす社員が評価されます。
この場合、会社が変われば評価はまったくさかさまになります。
すべては社長を中心とする会社の価値観によって社風が形成され、評価のあり方も決まります。
営業至上主義を経営理念に持つ会社はたくさんありますが、それでもそれぞれ違いがあります。売上高に重きを置く会社なら、とにかく顧客を騙してでも、できないことでもとりあえず契約して売上を伸ばそうとします。粗利益に重きを置く会社なら、利幅の高いものを積極的に売るようになります。売上回収に重きを置く会社なら、安全な顧客にクレームが出ない良質な商品を提供するようになります。
付き合いを大切にする会社なら、人間性に信頼の置けそうな営業マンを採用しますが、短期業績を求める会社なら押しの強そうな性格の営業マンを採用します。

要するに、どんな評価制度を作っても、社長や会社のキーマンが考える価値観の中でよくがんばったとか自分に忠実だと認められた社員の評価がよくなるのです。先に挙げた評価項目の具体性がどれほどのものかをすこし検討してみればわかりますが、いくらでも恣意的な評価が可能なのです
※Column【賢い労働者】
良い評価を得たいと思っている賢い労働者は、まず入社して会社の価値観の研究を第一にします。この会社ではどういう考え方・行動が好ましい思考・行動なのかを。同時に自分を取り巻く権力構造の研究もします。自分の評価に当たって誰が影響力のあるキーマンなのかを探ります。そしてそのキーマンの価値観を探ります。この人は残業の評価が高いのか、協調性の評価が高いのか、改善提案・業務効率化の評価が高いのか、細かい配慮にポイントが高いのか、営業成績にのみ興味があるのかなど…。
3.評価の前提 〜前提なき評価のあきれた実態〜
正当な評価を下すための前提は実にたくさんありますが、ここでは前提の中の大元の前提を考えます。

評価←行動←思考←職務配置

労働者は職務(職位)に配置され、与えられた職務の中で考え、行動し、その結果が評価される。
つまり人事評価は職位(ポスト)が確立していなければ、そもそも評価のしようがないのである。

このポストはどんな課業をどこからどこまで行うのか(職務範囲)、どこまで裁量権限が与えられているのか、どこまでの責任をまっとうするのか。

職務編成」と呼ばれる組織管理の重要な手法である。
中小企業の経営者や管理者は、驚くばかりにこの手法の存在自体を知らない! 人事評価はみんな知っていても、その前提たる職務を確立しようとは思っていない。
これが人事評価の真実である!

いかに人事評価がバカげたものであるか、おわかりいただけたろうか?
評価結果に一喜一憂して、知ったかぶりの上司の叱咤激励に真剣に反省することの愚かさのほどがおわかりだろうか?

それでも賢いごく少数の上司(評価者)は、制度の限界を知って、制度によらず、部下のための適切なアドバイスをしてくれるだろう。

第四編 処遇

T.能力・成果主義と処遇

バブルがはじけ能力主義がさかんに叫ばれた頃、能力主義ですか、年功主義ですかと尋ねると、たいていの会社は、うちは能力主義でやってます、と答えていた。
しかし、少し追求すると中小企業の中にはとんでもないのが少なくなかった。
当該企業における能力とは何か、成果とは何か、ほとんど社員に示されず、具体的な回答もできない中小企業が大半であった。
更に賃金を少し追求すると勤続年数と性別と役職で賃金カーブが描ける、つまり賃金実態から見れば社長が何と言おうとこの会社は年功主義の会社なのであった。
実はこの例は一部の会社に限った話ではない。バブル崩壊後の平成不況期初期における能力主義の実態は中小企業ではたいていこんなものであり、賃金に限れば大企業も例外ではなかったのである。

そもそも能力主義、年功主義と一概にいっても難しいものがある。
日本の企業の中で能力主義一辺倒の会社も年功主義一辺倒の会社もほとんど存在しない。どちらの要素がどれくらいの比重で処遇にかかっているか、ということである。
時代の流れは年功主義→能力主義→成果主義と流れている。一般的にはより多くの人々が好ましいと認める方向を示す。だから会社としてもつい世相に迎合したくなり、わずかでも能力(成果)部分が入っていれば、うちは能力主義でやってます、などと聞き障りのよい言葉を発したわけである。

U.処遇とは何か

処遇という言葉は日常生活ではそれほど使わないので、辞書を引いてみると「身分や待遇などについての取扱い方」とある。
会社が社員を処遇するというときの処遇とは「実績を上げた社員の働きに報いること」である。
具体的な処遇手段として次のものが考えられる。
賃金(昇給、賞与)
昇級昇格
昇進
権限、権力の付与
その他待遇改善(就労時間・場所の自由化、個室の付与、専属秘書の設置、使用備品・車両の高級化・専属化・ランクアップ、出張時の乗り物や宿泊施設のランクアップ、接待交際費・タクシーチケット等の経費使用枠増大その他)。

処遇の目的は、過去の貢献実績に報い、労働のモチベーションを高めて将来の更なる貢献を引き出すことである。

V.処遇手段

1.賃金(昇給・賞与)
(1)巷の賃金制度
まず巷の賃金制度がどうなっているのか、簡単に触れます。
☆賃金制度事情
人事、賃金制度の寿命はこれまでの例でざっと10〜15年である。→賃金・人事制度の変遷
新しい制度はまず人事コンサルタントか一流企業が取り入れる。注目が集まると、3〜7年後に他の大手企業に広まりトレンドをなす。
中小企業が新制度の採用に至るのは10年〜15年後である。
現在トレンドとなっている制度が「役割評価と役割給」「業績連動賃金」である。

バブル崩壊後、企業は能力・成果主義を叫びながら、その真の目的は「総額人件費の削減」にあった。
成果主義が大手企業で最初に出現した年が1993年。成果主義がトレンドとなった年は1998年くらいから。そして早くも2002年には制度のほころびが現実に現れ始めた。まじめに取り組んだ人間は、残業量も増え、能力成果を今まで以上に出し切ったにもかかわらず、賃金が伸びなかった、あるいは評価の不公平さが増したことなどによる活気の停滞が主な理由である。(真の目的が社員にバレたため)
そして企業とコンサルタントは職務給に注目し始めた。
能力がどんなに上がっても、どんな優秀な人でも就いている職務で出せる能力成果の限界がある。ゼロ成長時代の今日、優秀だからと言って思うように就かせるポストも仕事もない。能力成果主義ではここのところに矛盾がある。
そこで賃金の基準を職務価値においたわけである。
役割給を簡単に説明すると職務給に成果を加えた給与算出方法である。

(2)リンク時の特徴
評価結果は賃金にリンクします。ただリンクするといっても勘違いしやすい点が2つあります。
ひとつは年功賃金と能力・成果賃金及び職務賃金の割合をどう仕組んでいるかです。
何度も繰り返すようですが、一口に能力・成果主義の会社と言っても、成果主義一辺倒ではありません。人事理念の中に能力・成果によって社員を処遇する要素が入っています、と言う意味です。
成果主義を標榜する会社の典型的な賃金制度を紹介すると次のような組み立てになっています。

月例給与 ベース給(資格別)+定期・評価昇給+業績給(資格別)+役職手当+歩合+扶養手当+…
賞 与 基礎賞与+業績賞与(いずれも資格または役職別)

具体的な数値・割合は省略しますが、能力主義、成果主義といっても、能力・成果の評価でつく賃金の差は、多くの企業の場合、考えているよりずっと小さいのです!
賃金の差は資格役職の違いで大きくつきます。

もうひとつは、評価が上がったからといって、賃金が上がるとは限らないということです。
賃金の原資は、付加価値です。付加価値の源泉は売上です。売上が一定以上下がるなどの変化で、付加価値が下がると総額賃金は下げざるを得ません。特に賞与はパイの社員同士の奪い合い(配分)ですから、パイが昨年度より縮まれば個人の評価が上がって配分率が上がっても、配分額が下がることがあるのです。
平成不況で企業業績が軒並み低迷する中、この傾向は多くの企業で見られました。

※Column【成果主義・業績連動賃金への抜本的批判】
労働者の本旨は、使用者の指揮命令に従って、決められた職務を遂行することである。職務の遂行に当たり、労働者は雇用契約上、原則として裁量権を有していない。裁量権のない者に成果は出せない。

そもそも業績・成果などというものは、経営者(使用者)本人の力量によるものである。
どんなに一営業マンが自分の担当職域内で頑張ったところでそれで上下する営業数値より、常に変動を続ける外部環境によるものと、経営者がいかに取引先等へ働きかけるかで上下する営業数値は比べ物にならないほど大きい規模である。

役員の報酬は一定、役員賞与は業績によって変動があるも自分たちのお手盛りで決定し、経営の成果たる業績責任を使用人である労働者に押しつける。これが成果主義・業績連動賃金の本音である。

2.資格(昇級昇格)
資格は処遇の典型的な手段です。
資格は社員の「格・グレード」を示し、賃金の資格給部分に直結連動します。
資格給はかつて多いに流行った職能資格制度では「職能給」と呼ばれました。
職務遂行能力主義理念の会社の資格は「職能資格」で賃金の中心は「職能給」、属職主義の会社なら「職務等級」で「職務給」となるわけです。
資格名とその段階は、たいてい1等級、2等級などとつけられます。
資格給は等級内に「号俸」などと呼ばれる複数の賃率が設けらます。
昇級とは、資格の等級号俸が上がることをいいます。
昇格(昇級)とは等級が上がることをいい、号俸だけが上がることを習熟昇級といいます。

人数の少ない中小企業ではないところも多く、あっても役職とほとんど同じで意味が乏しいのが実体です。

3.役職(昇進)
(1)役職の意義
役職とは業務と人を管理する組織管理上の役割です。
役職ポストは組織の必要によって設置します。
役職ポストは欠員が発生すると補充配置し、または組織拡大による新ポスト設置により配置されます。
下の職位から上の職位に異動することを昇進といい、かつてはサラリーマンの目標となっていました。
そして昇進の基準の第一が人事評価です。
空きポストが発生した場合に、数年の評価を勘案して誰か一人を選別して昇進させるのです。

(2)中小企業の実態と役職処遇の問題点
実は中小企業では、評価結果と昇進基準がリンクしてないところも非常に多いのです。
大企業では、企業全体として空きポストがそれなりに出ますので、その数の分だけ人事評価結果のよい者を抽出して昇進者を決定していきます。
これに対して中小企業では、空きポストもポスト待ち人数もとにかく少ないため、評価を待つまでもなく、ポストが空いたら次席者の昇進でよいか否かという判断のみで昇進が決まります。

資格制度のない中小企業では、ポストがないところに本人の処遇のため、組織を無視して、役職に昇進させてしまうところも多く見られます。
部下もなく、権限もなく、組織もないところに単に課長とか係長とか役職を与えてしまうのです。特に営業部門に多く見られます。営業職のほぼ全員が課長だったりして、もうめちゃくちゃです。
反対に部長職が欠員となったにもかかわらず、昇進処遇に値する者がいないと判断すると、欠員のまま代理も置かず、放置する会社があります。上位の職制が欠員となれば、業務遂行に重大な支障をきたすはずなのに、下位の者が部長職を事実上兼務遂行し、それで業務が回ります。不思議な話です。実はこのような企業、部長などいなくても良かったのです!

このような役職を手段とする処遇人事は、組織を崩し、指揮命令系統を崩し、その結果末端社員は、ときに組織上直属上司でない複数の人間からあれこれと異なる指示を受けることとなり、ときに欠員職制の職責まで担わされ、その職位は実にストレスの多い人間関係をさばく高度なもの、または重い職責を担う高度なものへと変貌しますが、賃金は変わらず、人間関係はギクシャクし、モラールの低下をもたらします。

処遇の問題点は組織管理との競合である。
処遇は人事管理の領域である。一方処遇手段としての昇進や権力・権限の付与は組織管理の領域にある。
例えば非常に高い貢献をしたある一般社員を報いるため、その処遇として部長に昇進させたとしよう。しかし、部長たる職制は会社の組織機能上、必要な役割があって設置したものであり、彼が部長職の役割を遂行できるかどうかという視点を欠いた人事であれば、以後組織として成り立たなくなってしまう。
ましてや処遇のために必要もない中間ポストを新たに設置して配置するとますます組織は混乱する。
だから、組織管理と競合するような処遇手段(=昇進)を用いることは好ましくない。
そもそも昇進すれば賃金は上がるが、その分だけ仕事の厳しさも増える。組織人事管理ができている会社なら、賃金と職制職責のバランスも取れており、昇進人事が特段の処遇とは私には思えない。

W.処遇の意義と疑問

処遇の定義と目的を再度検証してみる。
処遇とは「実績を上げた社員の働きに報いること」であり、処遇の目的は、「過去の貢献実績に報い、労働のモチベーションを高めて将来の更なる貢献を引き出すこと」である。

そもそも処遇は必要なのか、という疑問がある。
「処遇」という言葉、日常用語としてはそれほど使われないが、人事の世界でその用語及び概念は確立されている。
処遇の概念を改めて考えてみると、属人主義理念を強く持つ日本ならではの発想ではないかという気がしてくる。

会社は社会のためになる財・サービスを作り、販売することにより収益を上げ、経済を担い、雇用を作り、庶民に労働者としての生活手段を提供する。
会社は経営上の必要のために労働者を雇い、仕事をさせ、その対価として賃金を支払う。
役職は組織上の必要のために設置する。
大きく社に貢献した(またはこれから期待できる)者には、賃金を多く支払い、活躍範囲の大きい役職位に配置することにより、更なる業績の向上を期する。

このことを「処遇」と呼び、扱うことに大きな問題があるような気がする。
「働きに報いる」という発想が、何かおかしいような気がする。
大きく社に貢献した(またはこれから期待できる)者に多くの賃金を支払い、役職位に配置することは、会社にとって必要な措置であり、労働者にとっても当然のことであり、「報いる」という趣旨のものではないと思う。
この報いた、報われた、報われないの発想が、日本の場合人事の発想のキーポイントとなっていることが、様々な人事問題を惹起する根元の一つであるような気がする。
もちろん、労働者のやる気を引き出すための経営施策は当然必要であるのだが…。

第五編 認められたい願望の構造

1.会社で認められたいという意識
評価と処遇の原点は「各労働者をどの職務に配置し、賃金をどう配分するか」という企業における組織人事の必要性から発生する管理です。
企業は経営を推進するために、労働者の働きぶりを評価し、評価を基準に賃金や役職を決定します。
労働者数が多くなると、労働者間で競争意識が芽生えます。
賃金は今もそうですが、かつては役職と大いに関連していたので、労働者間で出世(=昇進)競争が激しく行われました。
賃金も役職も決めるのは会社です。
このようにして「働きぶりを会社から認められたい」という意識・願望は、サラリーマンの常識となりました。
労働者一人一人から発せられるこの気持ちで会社には見えないエネルギーが充満しているのです。

2.役職者は偉いという意識
日本のたいていの会社は、「役職は偉い」という意識が厳然として存在しています。(役職が権限が大きくて偉いということでなく。)
役職は会社組織の必要に応じて設置したものであり、配置は労働者の中からたまたま最適任者として決められたものであり、本来ならいつ上下関係が逆転してもおかしくはないのに、従来からの配置人事は一度職制に配置すると昇進はあっても降職はありえない、という運用をしているため、配置が固定し、役職についた個人が偉くなってしまうのです。
この風土は会社の性格から考えて、まったく不条理なものです。不条理なものからは様々な矛盾が生まれます。この風土から軍隊的絶対服従の社風も生まれました。労働者はこれらの社風によって、精神的に負担を負わせられて無理な労働を強いられ、同時に少しでも権力に近づきたいと願い、出世を望むのです。
一方会社としてはこの風土により、より多くの働きを労働者から得ることができ経営に貢献したことも事実です。

3.社会的地位
役職については日本風土の特質がからんでいます。
会社での地位が社会的なステータスにもなっている、という風土です。
会社の外の世界に出ても、会社で地位が高い人は人間としても立派な人だとみなされる風土です。

このような会社偏重社会の中で日本人は会社での地位をとても重要視します。
だから役職昇進を処遇手段として用いてはいけないといっても、なかなかなくならないわけです。

第六編 まとめ

1.評価
評価の目的は、賃金の配分(昇給・賞与)と、職務の配置(昇進)を決定するためである。
評価基準は会社と経営者の価値観によって決まるものであり、会社ごとに違う。
評価制度とその運用は、どのように作り運用しようと、公正さを保つことはできない。
職務が明確に決まっていなければ、評価のしようがない。(日本の会社風土は職務を明確に決めず、配置された人によって仕事の内容が変わるため、そもそも評価すること自体がナンセンスである!)

2.処遇
評価がよくても賃金が下がることがある
資格制度のない中小企業では昇進を処遇人事として用いており、その結果組織(命令系統、職務、人間関係)はめちゃめちゃになっている。
能力主義、成果主義といっても、それが賃金にリンクする割合は通常イメージするものよりずっと小さい。
賃金に大きく影響するものは役職と資格である。役職は評価がダイレクトにリンクするものではなく、資格も最近は属人主義である職能資格から属職主義の役割職務資格に切り替える企業が増えている。(役割職務資格の評価は人事評価ではなく、職務評価であり、人が努力すれば上がるというものではない。)

3.結論
◎ 労働者は、このようなナンセンスな会社の評価に振り回されてはいけません。
◎ 評価から連なる昇給、賞与、昇進にも同時に振り回されてはいけません。
◎ 価値観の多様化の時代です。人はみな社会から「認められたい」という願望をもっていますが、「誰から(どこから)」「どんなことで」認められることが価値のあることなのかを、自分で考えて絞る時代なのではないでしょうか。

☆職務用語の解説

用語 定義 経理部の例 製造部の例
職掌 仕事をその系統によって大綱的に区分した単位 事務職 製造職
職種 仕事の種類別に区分した単位 経理職 組立工
職務 同一職種内で、困難度・責任度が類似の職位をひとまとめにした単位 経理中級職 一般組立工
職位(ポスト、ポジション) 従業員1人分の仕事として複数の課業をまとめた単位 出納係長 組立係員
課業 一定の目的を持つ最小単位の仕事のまとまり 経費支払資料の作成 仕上作業
動作 仕事の中の一つ一つの行動 電話をかける 仕掛品を作業台に乗せる

☆組織用語の解説

用語 解説
職制 社長と末端職位をつなぐ指揮命令系統の中間に位置する管理職位(役職位)。
賃金では、役職手当がつく。
人事異動 配置替えのこと。人事異動には次の種類がある。
@ 昇進、降職(上下異動)
A 水平異動
B 職種異動
C 転勤(勤務地異動)
D 出向
E 転籍

☆処遇用語の解説

用語 解説
資格 社員処遇の最も重要な制度。社員の「格・グレード」を表すもの。
等級と等級内号俸で区分けされる事が多い。賃金の資格給部分とリンクする。
中小企業にはないところも多い。
昇級 資格が上がること。号俸が上がることを習熟昇級、等級が上がることを昇格(昇級)という。