「企業年金と退職金」のページ |
平成17年11月26日
| T.退職金について |
| U.国の年金(老後所得保障)政策と企業年金 |
| V.企業年金(制度退職金)の概要 |
| W. 企業年金(制度退職金)と退職金の関係 |
| X.退職金制度の実態調査結果 |
| Y.企業年金制度の課題と現状 |
| Z.退職金制度の縮小と受給権 |
退職金については「賃金総論のページ」で述べたとおりですが、企業年金を理解するに当たって一部おさらいしなければなりません。
賃金とは「使用者が労働者に対して、労働の対償として支払うもの」であり、賃金には@給与、A賞与、B退職金、Cその他の4種類があります。
このうち給与は、労働基準法により必ず支払わなければならないものであり、それ以外は就業規則や慣例により決められるもので、支払いの有無やその中身は企業それぞれです。
給与以外の賃金もルール(就業規則、退職金規程等)として定めた場合は、定めの範囲でれっきとした支給義務・受給権が発生します。
退職金制度を持つ企業にあっては、支払金額が一度に多額となる場合があるため、支払形態は一時金方式のほか年金方式があり、また積立方式として社内積立方式のほか社外積立方式があります。
このうち、企業にとっても従業員にとってもより安全確実な方法は、年金方式で社外積立方式を採用する方法です。
国が行う様々な社会保障制度のうち、老後の所得保障制度として国民年金と厚生年金の制度があります。
しかし、これらの制度が発足した当時、年金の支給額はとても低いものでした。
そこで国は国民の老後生活の一層の安定を図るため、企業の退職金制度をより普及させようと、一定の条件を満たすものには退職金税制にさまざまな優遇措置を講じました。優遇措置の主なものは次のとおりです。
(1)退職金受給時には、退職所得控除を大きく採る。
(2)外部積立方式をとる場合、毎月の掛金に損金算入を認める。
(3)労働者本人が払う掛金には保険料控除を認める。
この「一定の条件を満たす」ように法律で枠や機構を作って整えられた社外積立方式の制度のことを「制度退職金」、このうち主たる給付が年金であるものを「企業年金」と呼んでいます。
(一般に「退職金制度」というときは、一企業内の退職金の制度のことを指します。)
制度退職金の主な制度は次のようなものがあります。
・中小企業退職金共済(退職一時金)
・適格退職年金(企業年金)
・厚生年金基金(企業年金)
・確定拠出年金(企業年金)
・確定給付年金(企業年金)
制度概要一覧表参照
企業年金(制度退職金)のしくみは一口に言うと次のいずれかのタイプになります。
(1)企業自ら制度の主催者となって金融・保険会社と契約して、その運営を任せる。
(2)単独または複数の企業が共同して基金を設立し、基金にその運営を任せる。
(3)事実上国などが用意した機構と企業が契約して、その運営を任せる。
いずれにしても企業年金(制度退職金)とは、企業と運営会社・基金・機構等との契約の話であって、これだけでは労働者の退職金とは直接何の関係もありません。
最初の項で触れたように、労働者が退職金の受給権を持つ根拠は退職金規程(就業規則)です。
企業年金(制度退職金)とは、退職金規程によって将来の支給を約束した分の原資を確実にするために、この制度を使用して運営会社・基金・機構等に退職金原資を積み立てておこうとするものです。
退職金規程は、企業がどういう基準でどのくらいの水準の退職金を出そうかというポリシーをもって作られたものですから、退職金規程で計算される金額と、ある程度規格化された制度退職金から支給される金額は一致しないほうが普通です。
したがって、実際に退職金を支給する際は、多くの場合次のような支払い方法になります。
退職金総額=退職金規程で計算された額=制度退職金運営団体からの支給+企業の現金預金からの支給
※厚生労働省の「平成15年就労条件総合調査」より
退職金制度実施状況
制度あり 制度なし 年金制度 一時金制度 規模平均 87% 54% 47% 13% 大企業(1000人以上) 97% 89% 11% 3% 小企業(100人未満) 85% 46% 54% 15%
積立制度採用状況※併用企業があるので合計で100%を超える
適格退職年金 厚生年金基金 確定拠出年金 中退金 特退金 自社積立 規模平均 66% 47% 2% 32% 11% 3% 大企業(1000人以上) 70% 52% 3% − 1% 3% 小企業(100人未満) 59% 48% 2% 39% 13% 3%
退職金額※勤続20年以上の定年退職者
大卒 高卒 高卒現業職 大企業(1000人以上) 2500万円 2200万円 1300万円 小企業(100人未満) 1300万円 1200万円 700万円
平成13年(2001年)、確定拠出企業年金法、確定給付企業年金法が成立し、適格退職年金制度が10年後に廃止されることが決まりました。更にやや遅れて改正厚生年金基金令が施行されました。この年は、企業年金制度の根幹にかかる大改正の年となりました。
なぜ、このような大改正が実施されたのか。
それは長く続いた平成不況下で、年金資産の運用利率が予定利率を大きく下回った結果、退職金原資の多大な積立不足額が発生したためです。
企業はこの多大な積立不足分の追加負担を迫られるとともに、2000年に導入された新会計基準の退職給付会計により、将来の退職金債務を会計に計上しなければならなくなっており、従来の退職金制度を見直す必要が生じていました。
その結果、企業年金の代表である厚生年金基金と適格退職年金契約の脱退、解散、解約、予定利率の引下げ、給付額の削減が相次ぎました。これは社員にとっても、多大な不利益を被る結果となりました。
従来、企業年金制度は、企業にとっては税制上の優遇措置がある、経理負担が平準化する、確実な積立ができるなどのメリットがあり、社員にとっても支払いが確実であるということで企業、社員双方にとってよい制度であると誰も疑いを挟むことなく常識とされていましたが、それが幻想であることが白日の下に露呈されたわけです。
新制定された2つの新法は、今まで以上に社員の受給権を保証するとともに、企業の財政負担が多大にならないよう財政再計算・再検証のしくみを法制化することとしました。
この新法を受けて、企業として企業年金制度を改正する2つの大きな流れがあります。
ひとつは、厚生年金基金に加入する企業の対処です。
当初企業が選んだ選択肢は、基金からの脱退や基金そのもののの解散でした。
相次ぐ解散で基金数は最盛期の半分以下に減りました。
このため国は労働者の受給権保護のため、改正令により、受給権者や加入者を保護するため、基金を解散または脱退する場合は、積立不足金を一括納付しなければ解散・脱退できないこととし、遅れて厚生年金の代行返上を認めることとしました。
代行返上は、積立金不足の額が多大に累積する中で、厚生年金代行分にかかる運用資金総額を縮小することにより、いわゆる「逆ザヤ」の額を減少しようということです。
その結果改正令の後は「厚生年金基金→基金型確定給付年金」(=このことを代行返上と呼ぶ)の移行が相次いでいます。
もうひとつは、廃止される適格退職年金を持つ企業の対処です。
新法による「規約型確定給付年金制度」は適格退職年金の後継型と想定して作った制度であり、「適格退職年金→規約型確定給付年金」を中心とした適格退職年金の移行が中規模以上の企業で行われました。
しかしながら廃止までの期間が10年あり、適格退職年金制度を持つ中小企業では、なかなか移行措置が進んでいません。
その理由は、規約型確定給付年金制度は、適格退職年金制度に比べ、受給権保護のため規制が厳しくなっているためで、今後中小企業は「適格退職年金→中退金」を中心とした移行措置が多く採られるものと思われます。
また、新法のもうひとつの確定拠出年金は、今まで日本になかった形の年金制度のため、今後長い間、試行錯誤が続くものと思われます。
団塊の世代の退職に向けてその支払いが企業業績を大きく圧迫するという予測は10年あるいは20年以上前からあり、その間賢明な企業は退職金制度を着々と縮小させてきました。
それに加えて、前項のとおり新企業年金制度が発足し、企業は退職金にかかる様々な契約や制度の変更をしているところです。
退職金制度の変更については、当然のことながら労働者に既得権があり、企業が勝手にできないことも多くあります。
新聞報道に載るような一流大企業においては、すべての整合性や労働者の既得権、必要な手続きを経て、制度を改定していると思われますが、中小企業においては、経営者が勝手に労働者に不利益な変更をしているケースが多く想定されるので、この点については労使ともに注意が必要です。
自分が入社したとき存在する退職金規程は、労働契約の一部を成し、労働契約は基本的に双方合意で締結するものであるから、退職金規程を会社側が勝手に変更することは許されないことは当然です。
退職金制度の変更に当たって勘違いしやすい点があります。それは既得権たる退職金受給権の範囲です。
退職金制度を変更する場合、今までの制度で現在まで計算した退職金を保全して、将来の退職金額を従来の金額より低くするような変更方法の考え方がありますが、これは誤りです。
退職金受給権は将来退職するそのときまで現行制度上で計算される分の受給権が既に確定しています(計算方法が確定していて、具体的金額と支給時期は未確定)。
したがって不利益変更とならないように変更するためには、既存社員については既存の制度で定年退職した場合の金額と同水準になるような制度変更が必要となります。
退職金制度を変更して実際に減額できるのは、変更後に入社した社員と、不利益変更に同意した既存社員だけです。
既に退職した年金受給者には本人の同意がなければ当然に制度変更の効力は及びません。
繰り返しになりますが、W項で述べたこともまた勘違いしやすい点です。
制度退職金契約を変更したからといって、それに対応する退職金規程を変更しなければ、労働者にとっては法的に何の影響もないのです。
企業年金契約の変更で受給額を減額することはできますが、減額分は当時の退職金規程により、企業が自ら支払う必要があります。