平成15年6月15日

| T.定義 | |
| U.個別賃金決定基準 | (1)個別賃金決定4要件 |
| (2)生計費 | |
| (3)職務の価値 | |
| (4)職務遂行成果の価値 | |
| (5)労働能力の価値 | |
| V.個別賃金決定の考え方 | |
| W.賃金に関する規制・規定 | |
個別賃金管理とは、賃金総額を一定の基準に基づき個別配分していく管理である。
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賃金は@生計費、A労働能力、B職務、C職務成果、の4点により決定される。
労働能力、職務、職務成果は相互に密接な関係にある。
◎ 能力によって職務が決まる。
◎ 能力と職務によって、成果が現れる。
賃金の本質 立場 金額の決定基準 賃金の性格 賃金の種類 ツール 労働力の対価 労働者側 @労働者の生計費 生活賃金 給与 標準生計費 A労働能力の価値 能力賃金 給与 労働の対価 使用者側 B担当職務の価値 職務賃金 給与、賞与、退職金 職務評価 C職務遂行成果の価値 成果賃金 給与、賞与、退職金 人事考課
生計費は本人の年齢と扶養家族の数によって概ね決まってくる。
生計費の算定に当たっては、人事院発表の「標準生計費」を元に算出するのが代表的な方法である。
標準生計費は扶養人数ごとに月間標準消費支出額実績を表したものである。
この標準生計費指標から税金・社会保険料負担等の非消費支出を加えたもの(修正生計費)を月例給与総額水準のベースとして生活賃金を設計する事ができる。
なお、この資料から本人生活給、年齢加算給、家族手当の水準も分析が可能である。
労働者の生計費は、労働内容や企業の生産性において何ら関係のない事柄であるが、生計費を大幅に下回る給与水準では、労働者の生活が成り立たず、雇用関係自体が成り立たない。生計費は賃金決定要因に欠かせない考慮要素である。
企業側から見た生産性対応の最も合理的な支給基準とされる。
部長と平社員が同じ時間労働したからといって同じ賃金額とする事が不合理だという理屈は、それぞれの職務が責任や困難度において大きな差がある事から容易に理解される理屈である。
職務の価値は職務分析を経て職務評価によって決定される。
職務の価値は、責任度、重要度、困難度(難易度・つらさ度)などの職務遂行要件(職務基準書)と知識・技能、判断力、折衝力、企画力、指導力などの職務遂行能力要件(能力要件書)によって価値付けが行われる。
価値付け判断は企業の経営権の範囲であり、決め事であって、正しいとか間違っているとかという性格のものではない。
職務評価は社内の全職務の相対価値比較評価であって、絶対額の算出はできない。
同じまたは同等の職務価値の職務に就く社員同士で、その成果や貢献度が異なる場合、その度合いによって賃金に格差を設けるのは、利益創造集団である企業にとって至極当たり前の論理である。
職務遂行の成果は人事考課制度によって評価する事ができる。
日本企業で人事考課の歴史と経験は豊富であり、人事の専門家によるその理論と制度も基本理念の元に様々なバリエーションが存在し、各企業ごとに企業の特性に合わせて運用しているところである。
しかしながら、これほど研究と経験が豊富であるにもかかわらず、本音の部分で適正な運用ができているという話は聞いた事がない。
人事考課制度は適正評価に困難を極めている、といったところである。
その原因は次のとおりである。
人事考課制度が機能しない理由 原因 内 容 評価項目が不適切 職務ごとにその期待成果は違って当然であるが、職務の総数が多すぎて管理しきれない、そもそも職務分析が行われていない、などの理由で画一的で不適切な評価項目を用いて評価せざるを得ない。 評価対象が不明確 チームワーク、和、協調性など日本人が大切にする特性が重視され、何が成果なのか、適正に限定できない。 考課者の能力不足 そもそも指導・管理適性のない者が管理職に就いている。マネジメントに関する知識のない者が知識を得る機会もなく、考課を行っている。 考課情報不足 考課者が非考課者を指導・観察する時間が十分に与えられていないため、正しい考課ができない。 非公開 考課項目・考課対象から考課結果に至るまで考課制度そのものを非公開で制度運営をしている企業が多く、被考課者はどこに重点をおいた働き方をすれば良いのか、どういう点が評価されるのかを示されないまま、日々の職務を行っている。 刺激の不足 良い評価を受けると具体的に給与賞与がいくら上がるのか、昇進が何年早まるのかなど具体的な処遇との連動性が不明確な制度運用が多く見られ、社員は評価制度を重要視していない。 不適正考課による不満増大 被考課者は、上記の理由で人事考課制度そのものを信頼しておらず、上司の好き嫌い・えこひいきの格好の道具としてモラールアップを図るどころか反対にモラールダウンを招いている。
結論としては、総論で人事考課制度の導入は絶対条件であるが、各論では適正評価はどんなに深く検討しても不可能、という結論に達せざるを得ない。「評価と処遇」のページ参照
しかし、総論で必要なことは間違いなく、より弊害の少ない制度とその運用に心掛けるしかない。
制度作りのポイントを挙げるとすれば以下のとおりである。
適正な人事考課制度のポイント ポイント 内容 考課項目 スタンダードな人事考課の大項目として@成績考課、A能力考課、B情意考課の3つが必要とされているが、職務遂行成果を図るものとしては「仕事がその職務の役割に照らしてどのくらいできたかを評価する」ことが目的であるから、成績考課だけにして、しかも個別評価項目もなるべく少なく絞り込むべきである。 考課表の種類 考課表は職務ごとに作成しなければ、適切な考課はできない。職務ごとの考課項目は人事部門が作成するのではなく、職務の役割を熟知した考課者自身が作成するべきである。 考課者の質と考課情報 考課者の考課能力がなく、考課情報も十分に取れない事を前提とした考課表と考課制度を作成・構築する必要がある。
◎職務遂行評価の限界
職務遂行度の評価は、人事考課制度によって相対評価は可能であるが、その成果の大きさを具体的に金額で計る事はできない。
労働能力は、知識、保有資格、経験などから判断される。
労働能力の範囲は該当職種、職掌、職群における能力に限定される。例えば機械製造職にある者が税務の知識を保有していたとしても能力の範囲には入れないということである。
また労働能力の範囲は、自社における職務等の遂行能力ではない。
労働能力の価値を賃金の決定基準とするのは、労働市場において労働力を調達する際にその労働力の価値を値付けするものであるから、その際の労働能力とはその企業のその職務における職務遂行能力ではなく、社会全体から見て評価する共通の労働能力価値である。
もとより、労働者の保有する労働能力に完全に対応した職務に就けるとは限らない。殊に中途採用者においては、それまでの他企業において同じ職務であっても違う価値観で違う課業を経験しているわけであるから、完全に対応する職務に就けることはない。
職務と労働能力がほぼ一致するのであれば、労働能力の価値は、職務の価値と職務遂行成果の価値によって吸収され、別立てにして捉える必要はなくなる。
この賃金は労働力の調達及び独占使用料としての費用であり、配置職務と労働能力とのミスマッチ分だけ企業の生産性に寄与しない企業の持出分となる。
この賃金は生計費と同様に直接生産性に寄与しない費用であり、支給の必要性は賛否両論があろう。
上記のミスマッチが大きいほど、労働者の活躍の範囲は狭められ、持ち得る労働能力を評価してその分の賃金は支給しないこととした場合、労働市場が自由化していれば、この労働者はもっとミスマッチの少ない職場を探して転職するであろう。つまりこの賃金を支給すべき是非の判断は日本の労働市場の自由度いかんということである。
労働者の職務遂行能力を判定・評価するツールとして職能資格(等級)制度というものがある。
これは労働者の職務遂行能力を評価して、資格等級別に区分し、職能給として支給する制度である。
職能資格制度の始まりはこうである。日本の従来の雇用システムは一社生涯昇進による社員成長システムであり、職務遂行能力があると認められた者は、上の職位に昇進・昇給させたが、中には役職位が満席のため、ポスト待ちの社員も発生した。企業はこのように能力を認めたにもかかわらず、処遇できない社員のために、その能力に対して能力給を支給することによって処遇することとした。
職能資格制度における職能給もまた、処遇給であり、生産性に寄与しない賃金である。
しかしながら、そもそも職能資格制度で評価する内容は職務遂行能力であって、労働能力ではない。
更にその職務遂行能力も職務遂行成果以上にその評価は極めて困難である。
労働能力を判定・評価する方法は一部の資格試験以外に存在していない。
労働能力を金額に換算することは、なおさら不可能である。
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これまで賃金決定4要件の内容を検討してきたが、4要件からどのように賃金額を決定するのか具体的・標準的な方法はない。
4要件の中には適正に評価することや、適正な額を算定することが不可能な要素もあり、なおかつ、4要件をそれぞれどれくらいずつ加味するのかの基準ももちろんない。
結局のところ、賃金を誰にいくら支給するかは、法的規制としては最低賃金法の規定があるだけで、それ以外については一切、経営者がその経営権の下で恣意的に決定し得るものである。各企業が自らの人事・賃金理念に基づいて決定するのである。
ただし、恣意的とは言っても、経営者の役割、職務の目的は企業の継続的成長にあり、支出項目の大きな部分を占める賃金額の適正な管理を行わなければその役割・目的を達成することができない。個別賃金管理において賃金、職務、成果、能力のバランスを欠いた賃金では長期的には労働者を有効に活用できず、労務管理、社員秩序、組織管理に支障が生じてくることは間違いない。また、総額賃金管理において全体の経営バランスを見渡して、企業の支払能力を勘案した賃金水準を設定しなければならない。
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規則名 性格 内容 労働基準法(賃金の章) 法律 支払のルール 最低賃金法 法律 賃金最低額のルール 賃金に関する労働協約 労働協約
(労組がある場合/任意)労働組合と協定するルール 就業規則 社内規則(必須) 就業全般のルール 賃金(給与・賞与・退職金)規程 ※就業規則の別立て 賃金の決定・支払のルール 資格制度要綱 社内規程(任意) 社内資格制度を設けた場合の制度要綱 賃金制度要綱 社内規程(任意) 賃金決定の細則 人事考課制度要綱 社内規程(任意) 人事考課の制度要綱 目標管理制度要綱 社内規程(任意) 目標管理制度を導入した場合の制度要綱
賃金は、法律によって一定の規制がかけられている。賃金は労働者の唯一の生活手段であるため、@確実に労働者の手に渡る支払のルール(労働基準法)と、A最低生活を営むために、賃金の最低額が強制法規として定められている(最低賃金法)。
更に労基法によって、労基法の最低基準を下回らない内容で各事業所ごとに就業のルールを定めた就業規則の制定が企業に義務づけられている。就業規則はその内容の一部に賃金の定めを置かなければならない。就業規則に定める賃金の内容は、計算方法、支払方法、支払日などである。
企業に義務づけられている規制はここまでである。
誰にいくら払うのかという肝心の金額についてのルールは、経営者の賃金理念次第である。金額決定の細則・要綱を定めるか否かについては、次のようなケースとメリット・デメリットがある。
| ケース | @社内規程として公開し、ルール化するケース | A人事主管部の取扱要領として、ルール化するが非公開のケース | Bルール化せずに社長が随時決定するケース | |||
| 評価 | 備考 | 評価 | 備考 | 評価 | 備考 | |
| 社員の会社への理解度・納得度 | ◎ | 社員は将来の賃金についても見当がつく/社員に賃金決定の理念とルールが見えて納得度が高い | △ | × | 明確な賃金理念を持たないか、またはあっても社員に見えないまま、社長がまったく恣意的に決定するため、社員の賃金への潜在的不満は高い | |
| 社員間賃金バランス | ○ | ○ | × | ルールがなく、社長が随時決定するため、細部においては矛盾する賃金額となる場合が多い | ||
| 柔軟な制度変更 | × | 社内規程の変更を伴うため、制度変更には多大な労力を要する | ○ | ○ | ||
| 適正個別賃金の決定 | △ | 制度のメンテナンスが追いつかない場合、不具合のままの自動的決定となってしまう | ○ | ○ | 社長の評価がストレートに反映できる | |
| 総額賃金の管理 | △ | 細部まで決定・公開している度合いが高いほど、総額賃金の管理が難しい | ○ | ○ | 社長が一存で賃金総額からブレイクダウンした個別賃金を決定できる | |
| 主な採用企業 | 大企業 | 中堅企業 | 小・零細企業 | |||