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平成16年6月6日

労働裁判のページ
(個別的労働紛争のみ掲載)

目    次

関連法 分類 NO テーマ
憲法 人権侵害 1 プライバシーの侵害
2 思想信条の自由
3 人格権の侵害(セクハラ)
民法 権利の濫用 4 不当解雇(整理解雇、雇止め含む)
信義則 5 経歴詐称
6 機密保持義務
公序良俗 7 男女差別
8 産休・育休等取得による不利益取扱
9 競業避止特約
慣習 10 労使慣行の効力
不法行為 11 労働者の損害賠償責任
懲戒権と命令権 12 懲戒権の根拠と企業秩序
13 企業秩序遵守義務
14 業務命令権・管理強制権
15 人事異動権(総論)
16 人事異動権(転勤)
17 人事異動権(職種転換)
18 人事異動権(降格)
19 人事異動権(出向)
関連法 分類 NO テーマ
民法 雇用環境・条件 20 給与
21 退職金
22 契約期間
23 職場環境
24 就労請求権
労基法 均等待遇 25 パートと正社員の賃金格差
26 昇進・昇格の男女差別
労働時間 27 準備時間・手待時間
28 仮眠時間
就業規則 29 就業規則の強制力の根拠
30 就業規則の不利益変更
31 服務規律
安衛法 安全衛生・健康配慮義務 32 過労自殺

事件別50音順目次

事件 NO テーマ
ア行 アーク証券事件 平成12年東京地裁判決 20 給与
30 就業規則の不利益変更
あさひ保育園事件 昭和58年最高裁判決 4 不当解雇
亜細亜大学事件 昭和63年東京地裁判決 4 不当解雇
茨城石炭商事事件 昭和51年最高裁判決 11 労働者の損害賠償責任
HIV解雇事件 平成12年千葉地裁判決 1 プライバシーの侵害
大隈鉄鋼所事件 昭和62年名古屋地裁判決 11 労働者の損害賠償責任
大阪セクハラ(S運送会社)事件 平成10年大阪地裁判決 3 人格権の侵害
大曲市農協事件 昭和63年最高裁判決 30 就業規則の不利益変更
小川建設事件 昭和57年東京地裁判決 31 服務規律
カ行 関西電力事件 昭和58年最高裁判決 12 懲戒権の根拠と企業秩序
13 企業秩序遵守義務
九州朝日放送事件 平成8年福岡高裁判決 17 人事異動権(職種転換)
九州朝日放送事件 平成10年最高裁判決 17 人事異動権(職種転換)
協栄テックス事件 平成10年盛岡地裁判決 4 不当解雇
蔵田金属工業事件 昭和51年松江地裁判決 16 人事異動権(転勤)
経営コンサルティング会社事件 平成9年名古屋地裁判決 21 退職金
ケンウッド事件 平成12年最高裁判決 16 人事異動権(転勤)
高知放送事件 昭和52年最高裁判決 4 不当解雇
神戸弘陵学園事件 平成2年最高裁判決 22 契約期間
国鉄鹿児島自動車営業所事件 平成5年最高裁判決 14 業務命令権・管理強制権
国労広島地本事件 昭和49年最高裁判決 13 企業秩序遵守義務
サ行 (直源会)相模原南病院事件 平成11年東京高裁判決 17 人事異動権(職種転換)
芝信用金庫事件 平成8年東京地裁判決 26 昇進・昇格の男女差別
秋北バス事件 最高裁昭和43年判決 29 就業規則の強制力の根拠
30 就業規則の不利益変更
進学ゼミナール予備校事件 平成3年最高裁判決 4 不当解雇
新日本製鉄事件 昭和45年福岡地裁判決 16 人事異動権(転勤)
新日本製鉄事件 平成15年最高裁判決 19 人事異動権(出向)
スカンジナビア航空事件 平成7年東京地裁判決 4 不当解雇
仙台セクハラ(自動車販売会社)事件 平成13年仙台地裁判決 23 職場環境
全逓千代田丸事件 昭和43年最高裁判決 14 業務命令権・管理強制権
タ行 大星ビル管理事件 平成14年最高裁判決 28 仮眠時間
大日本印刷事件 昭和54年最高裁判決 4 不当解雇
高松市水道サービス公社事件 昭和62年高松地裁判決 4 不当解雇
炭研精工事件 平成3年最高裁判決 5 経歴詐称
千代田生命保険事件 平成11年東京地裁判決 6 機密保持義務
電通事件 平成12年最高裁判決 32 過労自殺
電電公社帯広局事件 昭和61年最高裁判決 29 就業規則の強制力の根拠
東亜石油事件 昭和51年東京高裁判決 17 人事異動権(職種転換)
東亜ペイント事件 昭和61年最高裁判決 16 人事異動権(転勤)
東急電鉄事件 平成14年地裁判決 27 準備時間・手待時間
医療法人財団東京厚生会事件 平成9年東京地裁判決 15 人事異動権(総論)
東京中央郵便局事件 平成3年東京地裁判決 10 労使慣行の効力
東京電力(千葉)事件 平成6年千葉地裁判決 2 思想信条の自由
東芝柳町工場(臨時工)事件 昭和49年最高裁判決 12 懲戒権の根拠と企業秩序
4 不当解雇
(学校法人)東朋学園事件 平成10年東京地裁判決 8 産休・育休等取得による不利益取扱い
東洋酸素事件 昭和54年東京高裁判決 4 不当解雇
ナ行 ナカヨ通信機事件 昭和51年前橋地裁判決 16 人事異動権(転勤)
ナショナル・ウエストミンスター銀行事件 平成11年東京地裁 4 不当解雇
西日本鉄道事件 昭和43年最高裁判決 14 業務命令権・管理強制権
日銀京都支店セクハラ事件 平成13年京都地裁判決 3 人格権の侵害
日産自動車事件 昭和56年最高裁判決 7 男女差別
日産自動車事件 平成元年最高裁判決 17 人事異動権(職種転換)
日本貨物鉄道事件 平成10年東京地裁判決 28 仮眠時間
日本鋼管(砂川)事件 昭和49年最高裁判決 13 企業秩序遵守義務
日本食塩製造事件 昭和50年最高裁判決 4 不当解雇
日本テレビ放送網事件 昭和51年東京地裁判決 17 人事異動権(職種転換)
日本電気事件 昭和43年東京地裁判決 16 人事異動権(転勤)
沼津セクハラ(F鉄道工業)事件 平成11年静岡地裁判決 3 人格権の侵害
繁機工設備事件 平成元年旭川地裁判決 13 企業秩序遵守義務
日立製作所武蔵工場事件 平成3年最高裁判決 14 業務命令権・管理強制権
日立メディコ事件 昭和61年最高裁判決 4 不当解雇
日野自動車工業事件 昭和42年東京地裁判決 17 人事異動権(職種転換)
ハ行 フォセコ・ジャパン・リミテッド事件 昭和45年奈良地裁判決 9 競業避止特約
福岡セクハラ事件 平成元年福岡地裁判決 3 人格権の侵害
福岡大和倉庫事件 平成2年福岡地裁判決 4 不当解雇
富士重工事件 昭和52年最高裁判決 15 人事異動権(総論)
ブックローン事件 昭和54年神戸地裁判決 16 人事異動権(転勤)
古河鉱業足尾製作所事件 昭和55年東京高裁判決 6 機密保持義務
平安閣事件 昭和62年最高裁判決 4 不当解雇
北都銀行事件 平成12年最高裁判決 30 就業規則の不利益変更
北海道厚生農協連合会事件 平成9年釧路地裁判決 18 人事異動権(降格)
北海道コカコーラボトリング事件 平成9年札幌地裁判決 16 人事異動権(転勤)
北海丸善運輸事件 平成2年大阪地裁決定 4 不当解雇
マ行 丸子警報器事件 平成11年東京高裁判決 4 不当解雇
丸子警報機事件 平成8年長野地裁判決 25 パートと正社員の賃金格差
三朝電機製作所事件 昭和43年東京地裁判決 6 機密保持義務
みちのく銀行事件 平成12年最高裁判決 30 就業規則の不利益変更
みちのく銀行事件 平成14年仙台高裁差戻審判決 30 就業規則の不利益変更
三菱樹脂事件 昭和48年最高裁判決 2 思想信条の自由
三菱重工長崎造船所(第一)事件 平成元年長崎地裁判決 27 準備時間・手待時間
三菱重工長崎造船所(第二)事件 平成7年福岡高裁判決(控訴審) 27 準備時間・手待時間
三菱重工長崎造船所事件 平成12年最高裁判決 27 準備時間・手待時間
三菱樹脂事件 昭和48年最高裁判決 4 不当解雇
目黒電報電話局事件 昭和52年最高裁判決 13 企業秩序遵守義務
ヤ行 ヤマトセキュリティー事件 平成9年大阪地裁判決 17 人事異動権(職種転換)
横浜事件 平成9年東京高裁判決 3 人格権の侵害
横浜ゴム事件 昭和45年最高裁判決 13 企業秩序遵守義務
読売新聞社事件 昭和33年東京高裁判決 24 就労請求権

1.プライバシーの侵害〔分類:憲法(13条)/人権侵害〕

(1)HIV

【HIV解雇事件 平成12年千葉地裁判決
≪事件概要≫外国人社員が、定期健康診断の際、本人に知らされずにHIV検査をされ、感染の事実があったため、解雇された事件。
≪判旨≫「個人のHIV感染に関する情報は保護されるべきであり、事業主において従業員のHIV感染の有無を知る必要性は、(伝染の可能性が通常考えられないため)通常認められない。」
「事業主であっても、特段の必要性がない限り、HIV感染に関する従業員個人の情報を取得し、あるいは取得しようとしてはならず、特段の必要性もないのにHIV抗体検査を行うことは、プライバシーの権利を侵害するものというべきである。」
≪結論≫@プライバシーの侵害としての慰謝料支払い、A解雇無効

2.思想信条の自由〔分類:憲法(13条)/人権侵害〕

(1)採用時

【三菱樹脂事件 昭和48年最高裁判決】
≪事件概要≫試用期間中に、採用試験時の身上書及び面接における「学生運動にかかる」虚偽の申告をしたことが発覚したため、本採用を拒否されたため、争われた事件。
≪判旨≫思想信条の自由を保障する憲法14条、19条は国又は公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律するものではない。
企業は労働者の雇い入れに当たって法律その他による特別の制限がない限り原則として自由に決定できるものであり、特定の思想、信条を有するものをそのゆえをもって雇入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない。
労基法3条の信条による差別禁止は、雇入れ後の制限規定であって雇入れそのものを制約する規定ではない。
≪結論≫破棄差戻(解雇については下級審で審理を尽くされていないと判断)

(2)通常社員

【東京電力(千葉)事件 平成6年千葉地裁判決】
≪事件概要≫全社方針で「反共労務政策」が長年取られ、これによる差別待遇と人権侵害の訴。
≪判旨≫労働基準法3条は、労働者保護の目的で、労働者の信条によって賃金その他の労働条件について差別的取扱をすることを禁じたものである。
当社の賃金体系に即して言えば、原告人労働者は政治的思想だけによっては職級、職位、資格及び査定の面で他の従業員と差別的処遇を受けることがないという期待的利益を有するのであり、この期待的利益は法律上保護に値する利益であるということができる。
≪結論≫@財産的侵害として、少なくとも賃金格差は3割程度存在すると認め、この分の支払
A差別にかかる精神的苦痛に対する慰謝料支払い

3.人格権の侵害〔分類:憲法(13条)/人権侵害〕

(1)セクハラ

【福岡セクハラ事件 平成元年福岡地裁判決
≪事件概要≫上司による性的中傷発言に対する訴。
≪判旨≫@「名誉(感情)」と「働きやすい職場環境で働く利益」は保護法益として認められる。
A使用者は、労務遂行に関連して被用者の人格的尊厳を害し、その労務提供に重大な支障をきたす事由が発生することを防ぎ、またはこれに適切に対処して、職場が被用者にとって働きやすい環境を保つよう配慮する注意義務がある。
≪結論≫@被告人に対して、性的中傷を内容とする発言は民法709条の不法行為責任を負う。
A被告会社は「事業の執行につき」行われたものであるから、民法715条の使用者責任を負う。
【横浜事件 平成9年東京高裁判決】
≪判旨・セクハラの判断基準・身体接触行為≫男性たる上司が部下の女性に対してその望まない身体的接触行為を行った場合において(中略)接触行為の対象となった相手方の身体の部位、接触の態様、程度(反復性、継続性を含む)などの接触行為の外形、接触行為の目的、相手方に与えた不快感の程度、行為の場所、時刻(他人のいないような場所、時刻など)、勤務中の行為か否か、行為者と相手方との職務上の地位・関係などの諸事情を総合的に考慮して、当該行為が相手方に対する性的意味を有する身体的な接触行為であって、社会通念上許される限度を超えるものであると認められるかどうかによる。
【大阪セクハラ(S運送会社)事件 平成10年大阪地裁判決】
≪事件概要≫同僚男性社員の私的強要・性的乱暴・性的暴言
≪判旨≫人格権侵害、性的嫌がらせに当たる
≪結論≫被告人は不法行為に該当、被告会社は使用者責任を負う
【沼津セクハラ(F鉄道工業)事件 平成11年静岡地裁判決】
≪事件概要≫上司Aから性的侮辱発言、上司Bから性的身体接触、噂の流布、会社から当該噂に基づく解雇を受けたことによる訴。
≪判旨・結論≫被告人は人格権の侵害、被告会社は「職場環境配慮義務違反」で不法行為成立
【日銀京都支店セクハラ事件 平成13年京都地裁判決
≪事件概要≫支店長による性的乱暴・私的強要による心身の不調と退職に至った責任追及の訴
≪判旨・結論≫加害者に人格権を侵害する不法行為、使用者として損害賠償責任を認定

4.不当解雇〔分類:民法(1条B)/権利の濫用〕

(1)正社員

【日本食塩製造事件 昭和50年最高裁判決】
≪判旨≫ 使用者の解雇権の行使は、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効となる。
【高知放送事件 昭和52年最高裁判決】
≪事件概要≫アナウンサーである社員が、寝過ごしにより2週間のうち2度もラジオニュースを放送できなかったことにより解雇した事件
≪判旨≫就業規則所定の普通解雇事由の存在が肯定されても、当該事由に基づき解雇することがその具体的事情の下において社会的に相当として是認されなければ、なお解雇権の濫用に該当する。
≪結論≫事情を総合的に斟酌すると、社員に非があったことは認められるが、解雇処分は過酷であり、解雇権の濫用に当たり、無効とする。

(2)試用期間中の社員

【三菱樹脂事件 昭和48年最高裁判決】
≪事件概要≫試用期間中に、採用試験時の身上書及び面接における「学生運動にかかる」虚偽の申告をしたことが発覚したため、本採用を拒否されたため、争われた事件。
≪判旨≫試用期間付きの労働契約は、解約権留保付雇用契約であると解するのが相当である。当該雇用契約における本採用拒否は、雇入れ後の解雇に当たる。試用期間中の解雇は通常の解雇よりも広い範囲で認められる。しかしながら、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認され得る場合、換言すれば、企業者が採用決定後における調査の結果により、または試用期間中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らし、その者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが相当であると認められる場合にのみ許される。
≪結論≫破棄差戻(下級審で審理を尽くされていないと判断)

(3)採用内定者

【大日本印刷事件 昭和54年最高裁判決】
≪事件概要≫採用内定後、理由を示すことなく採用内定を取り消された。
≪判旨≫採用の内定は、採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立した、と解するのが相当である。
採用内定者の地位は、試用期間中の社員の地位と基本的に異なるところはない。したがって採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる。
≪結論≫解雇権の濫用に当たり、内定の取消は無効。

(4)整理解雇

【東洋酸素事件 昭和54年東京高裁判決】
≪事件概要≫赤字のため工場部門の閉鎖を決定し、同部門の社員全員を就業規則に基づき解雇した事件。
≪判旨≫ 整理解雇は「やむを得ない事業の都合による」ものでなければ認められない。
「やむを得ない事業の都合による」とは
@ 企業の合理的運営上やむを得ない必要に基づく場合
A 同一又は遠隔でない他の事業場における他の事業部門の同一又は類似職種に充当する余地がない場合、あるいは配置転換を行なってもなお全企業的にみて余剰人員の発生が避けられない場合
B 具体的な解雇対象者の選定が客観的、合理的な基準に基づくものであること
の3要件を充当することを要す。
≪結論≫整理解雇に必要な要件を備えていないため、解雇無効。
【あさひ保育園事件 昭和58年最高裁判決】
≪判旨≫ 整理解雇は「最後の手段」であるべきであり、その前に使用者は
@残業の削減、
A配転、
B出向、
C新規採用中止、
Dパートタイマーや期間労働者の削減、
E一時帰休、
F希望退職募集
などの措置を検討しなければならない。
≪注釈≫いかなる場合においても必ずこの7つの措置を順に講じなければならないというわけではない。
【高松市水道サービス公社事件 昭和62年高松地裁判決】
≪判旨≫ 労働協約上に人事協議約款(人員整理に際して使用者に労働組合との協議・同意を義務づける条項)が存在する場合はもとより、存在しない場合でも、使用者は労働者に対し整理解雇に至った経緯及びその時期・方法等について十分な説明を行ない意見を聴取する信義則上の義務(当該要件を前記3要件と合わせて整理解雇の4要件という)を負う。ただし、この義務は人事協議約款が存在する場合に要求されるような高度の協議義務ではない。
【ナショナル・ウエストミンスター銀行事件 平成11年東京地裁】
≪事件概要≫経営戦略の転換に基づき、業務の一部を他の銀行に移管することとした。それにより当該業務に従事する社員に退職を勧奨、それが拒否されたので、出向を提案、これについても承諾の返答がなかったため、解雇した。これに対して解雇された社員が地位の確認と賃金の支払いを求めた事案。
≪判旨≫人員削減の方法として他に取り得る方法があったにもかかわらず、そのような方法を選択せずに解雇した本件解雇は、権利の濫用として無効。

(5)変更解約告知

【スカンジナビア航空事件 平成7年東京地裁判決】
≪変更解約告知とは≫新雇用契約の締結の申し込みを伴った従来の雇用契約の解約
≪判旨≫労働者の職務、勤務場所、賃金及び労働時間等の労働条件の変更が会社業務の運営にとって不可欠であり、その必要性が労働条件の変更によって労働者が受ける不利益を上回っていて、労働条件の変更を伴う新契約締結の申し込みがそれに応じない場合の解雇を正当化するに足りるやむをえないものと認められ、かつ、解雇を回避するための努力が十分に尽くされているときは、会社は新契約締結の申し込みに応じない労働者を解雇することができる。
≪結論≫解雇有効

(6)有期契約の更新拒否

≪前段≫
労働者保護の視点からその配慮に欠ける有期労働契約の更新拒否は契約満了ではなく「解雇」に該当し、解雇権の濫用とみなされる。
不当解雇とされる類型は主に次のとおりである。
●類型
@ 契約期間の定めのない契約と実質的に異ならない実態であるもの。
A 労働者から見て雇用継続への合理的な期待が認められるもの。
B 格別の意思表示や特段の支障がない限り、当然に更新されることを前提として契約が締結されたもの。
一方、整理解雇としての雇い止めはこの限りではない。
●裁判所の判断基準
@ 業務内容が恒常的なものか、正社員と同一性があるか。
A 契約上の地位が基幹性を有するものか、正社員と同一性があるか。
B 労働者に雇用継続を期待させる状況があったか。→類型Aと同趣旨
C 更新回数、勤続年数、更新手続の厳格性の程度。
D 他の同様の労働者の更新状況はどうであったか。
E 更新契約や実態に勤続年数、年齢などの上限設定があったか。
【東芝柳町工場(臨時工)事件 昭和49年最高裁判決】
≪判旨≫ 「その採用に関しては、会社側に長期継続雇用、本工への登用を期待させるような言動があり、労働者らも期間の定めに拘わらず継続雇用されるものと信じて契約書を取交わしたものである。」→判断基準B
「期間は一応2ヵ月と定められているが、いずれかから格別の意思表示がなければ当然に更新されるべき労働契約を締結する意思であったものと解するのが相当であり、したがって、労働契約は期間の満了ごとに当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものといわなければならない。」→類型@、B
【日立メディコ事件 昭和61年最高裁判決】
≪判旨≫ 事実上やむを得ない理由により人員削減をする必要があり、余剰人員を他の事業所へ配置転換する余地もなく、臨時員全員の雇い止めが必要であると判断される場合には、これに先立ち期間の定めなく雇用されている従業員につき希望退職者募集の方法による人員削減を図らなかったとしても、それをもって不当、不合理であるということはできない。→類型 整理解雇
【平安閣事件 昭和62年最高裁判決】
≪判旨≫ 「実質において期間の定めは一応のものであって、いずれかから格別の意思表示がない限り当然更新されるべきものとの前提の下に、雇用契約が存続、維持されてきた」ものを、期間満了によって雇用契約を終了させるためには、雇い止めの意思表示及び剰員を生じる等従来の取扱いを変更して雇用契約を終了させてもやむを得ないと認められる特段の事情の存することを要する。→類型B
「社員就業規則、パートタイマー就業規則がそれぞれ制定されているが、社員の勤務時間がパートタイマーのそれより30分長い以外は残業手当及び賞与の支給などにおいても実質的な相違がない」→判断基準A
期間の定めのない契約から雇用期間を1年と明記した労働契約書を取交わして有期契約となったが、「その際、契約期間が経過すれば当然に雇用契約が終了するものであるなどの特別の説明はなされず、労働者らとしては従前と同様、期間の定めがあっても特段のことがない限り将来も引き続き働き続けるものと考えていた」→判断基準E
【亜細亜大学事件 昭和63年東京地裁判決】
≪判旨≫ 大学側に雇用継続を期待させる言動がなかったこと、専任教員と非常勤講師との職務内容、責任、雇用条件の相違などの契約関係の実態を認定した上で、「20回更新されて21年間にわたったものの、それが期間の定めのないものに転化したとは認められないし、また、期間の定めのない契約と異ならない状態で存在したとは認められず、期間満了後も雇用関係が継続すると期待することに合理性があるとも認められない。」→類型@、Aの否定、判断基準@の否定
【福岡大和倉庫事件 平成2年福岡地裁判決】
≪判旨≫ 「期間の定めのない雇用契約であると解することはできないものの、その期間の定めは一応のものであって、単に期間が満了したという理由だけで雇い止めになるものではなく、双方に特段の支障がない限り雇用契約が更新されることを前提として協議され、確定されてきたものである。」→類型B
【北海丸善運輸事件 平成2年大阪地裁決定】
≪判旨≫ 「契約の更新といっても、本店から会社の記名捺印を済ませた契約書を労働者に送付し、労働者がそれに署名捺印して返送するという行為を繰り返しただけのことであり、更新する契約条件などについて何らの協議をしたこともまったくない。要するに機械的に契約の更新が繰り返された」→判断基準C
【進学ゼミナール予備校事件 平成3年最高裁判決】
≪判旨≫ 「……少なくとも労働者が期間満了後の雇傭の継続を期待することに合理性が認められる場合には、解雇に関する法理を類推適用すべきであると解するのが相当である。」しかし、「大学受験のための小規模予備校における業態の性格から、予備校講師の勤務形態・勤務の拘束性は臨時工の勤務と同一視できない。そこで労働者が本件契約の継続すべきものと期待することに合理性がある事情にあったと推認することはできない。」→類型A・判断基準Bの否定
【協栄テックス事件 平成10年盛岡地裁判決】
≪事件概要≫病院の食堂で勤務するパート社員のうち、労働組合員に対して行われた更新拒否
≪判旨1≫ 雇止めそのものに対する評価≫…相当回数更新を重ねてきたといった事情を考慮しても、毎年、期間を1年と明確に定める雇用契約書に署名押印してその契約書の交付を受けていたのであるから、その契約内容を了知していたものといわざるを得ず、使用者の業務形態、就業規則の内容からすれば、労働者と使用者との労働契約が期間の定めのない労働契約であるとか、あるいは実質的には期間の定めのない労働契約と同視できるものであるとまで認めることはできない。
≪判旨2≫ 雇止めに係る事情の評価≫使用者は、原告を含む5名と労働契約を更新しなければ、病院での業務に従事する人員が逼迫するにもかかわらず、あえて一度に5名の人員整理に踏み切ったことが明らかであり、合理的理由がないのに契約を更新しなかった。
使用者は、組合に加入した4名を会社外に排除するため、雇用期間満了にかこつけ、人員整理の必要もないのにあえて労働契約を更新しなかったものと推認する。
【丸子警報器事件 平成11年東京高裁判決】
≪判旨≫ 「労働者らに対する雇い止めがなされるまで、女子臨時社員の退職はすべて本人らの事情によるものであり、会社から更新が拒絶されたことはなかった。」→判断基準D

5.経歴詐称〔分類:民法(1条A)/信義則〕

【炭研精工事件 平成3年最高裁判決】
≪事件概要≫@最終学歴詐称、A刑事事件の秘匿、B有罪判決の無届け、C逮捕拘留による欠勤、Dビラの無断配布による懲戒解雇を不服とした訴
≪判旨≫ 雇用関係は、労働力の給付を中核としながらも、労働者と使用者との相互の信頼関係に基礎を置く継続的な契約関係であるということができる。
使用者が、雇用契約の締結に先立ち、雇用しようとする労働者に対し、その労働力評価に直接拘わる事項ばかりでなく、当該企業あるいは職場への適応性、貢献意欲、企業の信用の保持等企業秩序の維持に関係する事項についても必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負う。
≪結論≫
@最終学歴詐称は、当該就業規則に定めるとおり解雇事由に該当する。
A労働者に公判途中の内容まで公表する義務はない。
B総合的に斟酌すると、懲戒解雇は有効
《注釈》採用時に学歴等を詐称した場合は懲戒解雇事由に相当する。
ただし学説では総じて、反対(懲戒解雇には該当しない→契約無効・取消または普通解雇)の立場である。
判例の態度は、真実を告知したならば採用しなかったであろう重大な経歴に当たるか否かを基準として懲戒解雇の効力を判断してきた。

6.機密保持義務〔分類:民法(1条A)/信義則〕

(1)社員・在職者

【三朝電機製作所事件 昭和43年東京地裁判決】
≪判旨≫労働者は、労働契約存続中、使用者に対し、労働契約に基づく付随的義務として、信義則上、使用者の業務上の秘密を守る義務がある。
【古河鉱業足尾製作所事件 昭和55年東京高裁判決】
≪事件概要≫日本共産党員である社員が党に会社の重要な秘密を漏洩したことをもって、懲戒解雇した事件。
≪判旨≫労働者は労働契約に基づく付随的義務として、信義則上、使用者の利益をことさらに害するような行為を避けるべき責務を負うが、その一つとして使用者の業務上の秘密を漏らさないとの義務を負う。
この義務は労働者すべてに共通であり、…管理職でないからといってこの義務を免れることはなく、又自己の担当する職務外の事項であっても、これを秘密と知りながら漏らすことも許されない。
≪結論≫懲戒解雇は有効
≪補足≫労働契約終了後の秘密漏洩は、「不正競争防止法」によって裁かれる。

(2)役員・退職後

【千代田生命保険事件 平成11年東京地裁判決】
≪事件概要≫常務が退任後、会社の重要な機密を雑誌記者にスクープ記事として提供した事件。
≪判旨≫被告が漏洩した情報は、特定の融資先との融資取引の内容や会社内の人事問題、経営問題にかかる社内の稟議の内容であり、(中略)公表されれば、会社の業務遂行に支障をきたすことは明らかであり、これらの情報は会社の機密に属する事項として、法的保護の対象となる。
元取締役である被告は、取締役の忠実義務の一内容として守秘義務を負うことは当然である。とすれば、元取締役は役員退任後も信義則上、在任中に知り得た会社の内部情報について守秘義務を負うべきである。
≪結論≫損害賠償支払い

7.男女差別〔分類:民法(90条)/公序良俗〕

(1)定年

【日産自動車事件 昭和56年最高裁判決】
≪事件概要≫ 定年年齢を男子60歳、女子55歳と定める会社の就業規則は、公序良俗違反であるとして訴えた事件。
≪結論≫公序に反し、就業規則は無効

8.産休・育休等取得による不利益取扱〔分類:民法(90条)/公序良俗〕

(1)賞与

【学校法人東朋学園事件 平成10年東京地裁判決】
≪事件概要≫支給条件を出勤率90%以上(産休・育休は欠勤にカウント)の者と定めた賞与支給規則の無効を訴えた事件。
≪判旨・結論≫産前産後休業・育児時間の取得について、労働者の責めに期すべき事由による不就労と同視して、これを取得した女性労働者に同様の不利益を被らせることは、法が産前産後休業を保障した趣旨を没却させるものであり、そのような取扱いは公序良俗に反し違法・無効である。
産前産後休業等の期間において給与及び賞与を受けられないことは、ノーワーク・ノーペイの原則により当然である。しかし賞与算定期間の一部に出勤日があったにもかかわらず、90%条項により賞与の全額を受けられないというのは、前段に照らして公序良俗に反するから無効である。

9.競業避止特約〔分類:民法(90条)/公序良俗〕

【フォセコ・ジャパン・リミテッド事件 昭和45年奈良地裁判決】
≪事件概要≫競業禁止特約を締結した社員が退職後、同業の別会社を設立したことにつき、会社が業務禁止を訴えた事件。
≪競業避止特約の内容≫雇用契約終了後満2年間X社と競業関係にある一切の企業に直接にも、間接にも関係しないこと。
≪判旨≫
@原則として競業を禁止する特約が必要であり、かつ、その特約に合理的事情が存するとの立証がないときは、営業の自由への干渉となり、公序良俗に反し無効。

A労働者が他の使用者の下でも修得できるような一般的知識・技能を獲得したにとどまるときは、退職後多いに活用して差し支えなく、これを禁止することは職業選択の事由を不当に制限することとなり、公序良俗に反する。

B当該使用者のみが有する特殊な知識・ノウハウ等は一種の客観的な財産であるから、この営業の秘密を保持するための競業避止特約を結ぶことには合理性がある。

C競業の制限が合理的範囲を超える場合、その制限は公序良俗に反し無効となることはいうまでもないが、この合理的範囲を確定するに当たっては、制限の期間、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償の有無等について、企業秘密の保護、転職の自由、社会的利害の3つの視点に立って検討するべきである。

10.労使慣行の効力〔分類:民法(92条)/慣習〕

(1)休憩時間

【東京中央郵便局事件 平成3年東京地裁判決】
≪事件概要≫ 長年にわたり、就業規則等に定める休息時間を上回る休息時間が慣行上存在していたが、この慣行を当局が廃止したことによる権利の確認の訴
≪判旨≫民法92条(事実たる慣習)により法的効力のある労使慣行が成立していたと認められるためには、次の要件を要する。
@ 同種行為又は事実が長期間反復継続して行われていること
A 当事者が明示的にこれによることを排斥していないこと
B 当該労働条件についてその内容を決定し得る権限を有し、あるいはその取扱いについて一定の裁量権を有するものが、規範的意識を有していたこと
≪結論≫労使慣行たると認められる要件がすべて備わっていないため、却下。

11.労働者の損害賠償責任〔分類:民法(709条)/不法行為〕

(1)会社設備の破損

《前段》
労働過程で使用者に損害を与えた場合、労働者は使用者に対して債務不履行(民法415条)や不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任を負う。
【茨城石炭商事事件 昭和51年最高裁判決】
≪判旨≫使用者の損害賠償請求又は求償は、以下の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度に制限される。
《勘案される事情》その事業の性格、規模、施設の施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、課外行為の態様、加害行為のの予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度、その他
【大隈鉄鋼所事件 昭和62年名古屋地裁判決】
≪事件概要≫深夜勤務で作業中、居眠りをしたため設備にキズをつけたことにつき、会社が社員に損害賠償を請求した事件。
≪判旨≫
@労働過程上の軽過失に基づく事故については、労働関係における公平の原則に照らして、損害賠償請求権を行使できない。
A作業中の居眠り行為は、重大な義務違反である。
≪結論≫諸事情を斟酌すると、損害額の1/4の賠償責任が相当である。

12.懲戒権の根拠と企業秩序〔分類:民法(623条)/雇傭〕

【東芝柳町事件 昭和49年最高裁判決】
≪判旨≫就業規則に解雇事由が明示されている場合には、解雇は就業規則の適用として行なわれるものであり、したがってその効力も右解雇事由の存否のいかんによって決せられるべきである。
【関西電力事件 昭和58年最高裁判決】
≪事件概要≫就業時間外に、社員住宅において、会社批判のビラを配布したことによる譴責処分を不服とした訴え
≪判旨≫労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって、使用者に対して労働提供義務を負うとともに、企業秩序を遵守すべき義務を負い、使用者は、広く企業秩序を維持し、もって企業の円滑な運営を図るために、その雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、当該労働者に対し、一種の制裁罰である懲戒を課することができる。
≪結論≫懲戒処分は正当

13.企業秩序遵守義務〔分類:民法(623条)/雇傭〕

(1)社外の犯罪

【横浜ゴム事件 昭和45年最高裁判決】
≪事件概要≫酩酊して他人の住居に侵入し、住居侵入罪として警察に引き渡された社員を懲戒解雇した事件
≪判旨≫懲戒処分事由に該当する「私生活上の非行」の主たる評価基準は、
@ 会社の組織、業務等に関係のない範囲(=これを「私生活」と呼んでいる)であるか否か
A 受けた刑罰の程度
B 職務上の地位
の3点(実質2点)による。
≪結論≫判旨評価基準の3点の検討につき、いずれも懲戒解雇するものとまで評価するにはあたらず、解雇無効。
《注釈−社外行為の類型》
A私生活上/@刑事法令違反、A反モラル的行為
BB業務・会社関連
社外行為は上記の3類型に分類される。当該判決はこのうちの@についての判断基準について示したものである。
【日本鋼管(砂川)事件 昭和49年最高裁判決】
≪判旨≫会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については、それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであっても、これに対して会社の規制を及ぼし得ることは当然認められなければならない。
そしてそれは必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、当該行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合には、当該従業員を企業から排除し得る。その場合の基準は次の内容を総合して判断される。
@ 行為の性質、情状
A 会社の事業の種類、態様、規模
B その社員の社内的地位、職種
【国労広島地本事件 昭和49年最高裁判決】
≪事件概要≫組合デモで警官と衝突し有罪判決を受けた社員を免職とした事件
≪判旨≫企業秩序の維持・確保は「通常は従業員の職場内又は職務遂行に関係のある所為を対象としてこれを規制することにより達成し得る」が「職場外でなされた職務遂行に関係のないものであっても」、「企業の社会的評価の低下毀損」する所為は「企業秩序」を乱すものとして規制の対象とし得る。
≪結論≫懲戒処分は正当

(2)社外の会社批判活動

【関西電力事件 昭和58年最高裁判決】
≪事件概要≫就業時間外に、社員住宅において、会社批判のビラを配布したことによる譴責処分を不服とした訴え
≪判旨≫企業秩序は通常、労働者の職場内又は職務遂行に関係のある行為を規制することにより維持し得るのであるが、職場外でされた職務遂行に関係のない労働者の行為であっても、企業の円滑な運営に支障をきたすおそれがあるなど企業秩序に関係を有するものもあるのであるから、使用者は、企業秩序の維持確保のために、そのような行為をも規制の対象とし、これを理由として労働者に懲戒を課することも許される。
≪結論≫懲戒処分は正当

(3)社内不倫

【繁機工設備事件 平成元年旭川地裁判決】
≪事件概要≫女性従業員Xは、子持ちのバツイチ。男性従業員Aは妻子持ち。二人は親しく交際をはじめ、男女関係を含む恋愛関係を結ぶに至った。このことが他の従業員や取引先の噂となったため、会社はXを解雇した。
≪判旨≫職場の「風紀秩序を乱したこと」による懲戒事由の該当は、「企業運営に具体的な影響を与えるものに限る。」
≪結論≫風紀秩序を乱し、企業運営に具体的な影響を与えたとは認められないので、解雇無効。
≪注釈≫具体的な裁判例は数多く存在するが、判決は分かれており、必ずしも具体的損害・危険が認定されているとも思われない。

(4)社内の政治活動

【目黒電報電話局事件 昭和52年最高裁判決】
≪事件概要≫作業服の胸に「反戦プレート」を着用して勤務、会社はこれを注意すると、休憩時間中にそれについての不服の「ビラ」を職場で配布した。会社は一連の行動に対し、就業規則に基づく戒告処分に処したことを不服として提訴した事件。
≪判旨・結論≫ 就業規則により職場内における政治活動を禁止することは、企業秩序維持の見地から合法である。
[理由]@従業員間の政治的対立ないし抗争を生じさせるおそれがある
A企業施設を利用して行なうときは、その管理を妨げるおそれがある
B就業時間中に行なう場合は、労働提供義務に違反するとともに、他の社員の業務遂行をも妨げるおそれがある
C休憩時間中に行なう場合は、他の社員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後における作業能率を低下させるおそれがある

14.業務命令権・管理強制権〔分類:民法(623条)/雇傭〕

(1)所持品検査

【西日本鉄道事件 昭和43年最高裁判決】
≪事件概要≫被告会社は電車・バスを運行する会社であり、原告はその乗務員である。
同社では、乗務員による乗車賃着服の不正行為が以前より横行しており、就業規則に基づく所持品検査が行われていた。
所持品検査の内容に脱靴検査は以前はなかったが、最近行われるようになり、原告はこの脱靴検査を拒否したため、懲戒解雇されたのでそれを不服として訴えたものである。
≪判旨≫ 所持品検査は、その性質上常に人権侵害のおそれを伴うものであるから、たとえ、それが企業の経営・維持にとって必要かつ効果的な措置であったとしても、当然に適法視されうるものではない。
所持品検査は、これを必要とする合理的理由に基づいて、一般に妥当な方法と程度で、しかも制度として、画一的に実施されるものでなければならない。
これによって行われる場合の所持品検査には、社員は特段の事情がない限り、検査を受忍すべき義務がある。
所持品検査は「職務上の指示」に当たり、これの拒否は就業規則で懲戒解雇事由に定めある場合は、当該事由に該当する。
《注釈−所持品検査の適法4要件》
@ 合理的理由
A 検査方法と程度の妥当性
B 制度としての画一性
C 就業規則など明示の根拠
≪結論≫解雇有効

(2)就労拒否

【全逓千代田丸事件 昭和43年最高裁判決】
≪判旨≫ 一定の範囲で労働者は労働義務を負い、使用者は労務指揮権を有するが、、次の場合は労働者は労働義務の本来的限界として就労する義務を負わない。
@ 業務命令が強行法や公序良俗に反する場合
A 生命・身体に対して重大な危険が存在する場合

(3)過酷な業務命令

【国鉄鹿児島自動車営業所事件 平成5年最高裁判決】
≪事件概要≫会社は職場規律の乱れが著しかったため、勤務中のワッペン、赤腕章、組合員バッジの着用を禁止したが、原告社員は命令を無視した。このことにより会社は原告社員を本来の業務から外し、桜島火山灰の降灰除去作業に従事する業務命令を発した。これを不服とした訴えである。
≪判旨≫
@降灰除去作業は、会社にとって必要な作業である。
A当該作業は、社会通念上相当な程度を超える過酷な業務に当たるとも言えず、労働契約上の義務の範囲内である。
B通常業務をそのまま行わせることは、会社にとって不都合であることから、職場管理上やむを得ない措置ということができる。
≪結論≫当該業務命令は正当

(4)残業命令

【日立製作所武蔵工場事件 平成3年最高裁判決】
≪事件概要≫残業を拒否した社員に対し、出勤停止処分と始末書の提出を命じ、その他反省を促したが、改悛がないため懲戒解雇としたことに対し、不服提訴したもの。なお、会社は就業規則において、残業の定めを持ち、36協定も締結されていた。
≪判旨≫ 労働基準法32条の労働時間を延長して労働させることにつき、36協定を締結し、これを所轄官庁に届け出た場合において、就業規則に定めがある場合は、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなすから、就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働する義務を負う。
≪結論≫解雇有効

15.人事異動権(総論)〔分類:民法(623条)/雇傭〕

【富士重工事件 昭和52年最高裁判決】

≪判旨≫労働者は企業の一般的な支配に服するのではなく、企業及び労働契約の目的上、必要かつ合理的な限りでのみ企業秩序に服する。

【医療法人財団東京厚生会事件 平成9年東京地裁判決】
≪判旨≫「人事権の行使は、基本的に使用者の経営上の裁量判断に属し、社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用に当たると認められない限り、違法とはいえない。」

16.人事異動権(転勤)〔分類:民法(623条)/雇傭〕

(1)勤務地非限定(大卒幹部要員)の社員

【東亜ペイント事件 昭和61年最高裁判決】
≪事件概要≫人事異動命令につき、「母が高齢、妻は仕事を辞められない、子どもが幼少」という理由で、拒否したため、懲戒解雇されたので、異動命令及び解雇の無効を提訴した事件。
≪判旨≫労働協約又は就業規則で転勤の明記があり、現に転勤が頻繁に行なわれ、労働契約上、勤務地に特段の限定がない場合、会社は個別的同意なしに社員の勤務場所を決定し、これに転勤を命じて労務の提供を求める権限を有する。
一方、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令は無制限に行使することができるものではなく、これを濫用することは許されない。
転勤命令について「権利の濫用となる基準」は次の3点である。(転勤における権利濫用3基準)
@業務上の必要性が存しない場合
A不当な動機・目的を持ってなされたものである場合
B通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである場合
業務上の必要性については、転勤先への異動が余人を持っては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである。
当該転勤命令が労働者に与える家庭生活上の不利益は、転勤に伴い通常甘受すべき程度のものと認定する。
≪結論≫転勤命令は有効
【ケンウッド事件 平成12年最高裁判決】
≪事件概要≫人事異動命令について、「通勤時間が長くなり(40分→1時間45分)、幼児の保育が困難」という理由で拒否したため、懲戒解雇されたので、異動命令及び解雇の無効を提訴した事件。
≪結論≫権利濫用3基準に照らし、転勤命令は有効。不利益は必ずしも小さくはないが、通常甘受すべき程度を著しく超えるとまでは言えない。

(2)家庭に重大な事情がある場合

【日本電気事件 昭和43年東京地裁判決】
≪事件概要≫家族に病人3人(兄はてんかん、妹は心臓弁膜症、母は高血圧症)を抱えている従業員に対する転勤命令
≪判旨・結論≫転勤によって家族の生活が危機に瀕するおそれがあり、他方転勤が余人を持っては代替し得ないほどの必要性がないことを比較衡量して、著しく均衡を失したものであって無効とする。
【ナカヨ通信機事件 昭和51年前橋地裁判決
≪事件概要≫高血圧症の母を夜警をしている父と昼夜交替で看病している労働者に対してなされた転勤命令
≪判旨・結論≫労働者側の事情に十分な配慮を欠き、無効とする。
【北海道コカコーラボトリング事件 平成9年札幌地裁判決】
≪事件概要≫長女がそううつ病、次女が精神運動発達遅延の状態にあり、また両親は体調不良につき家業の農業の面倒を見ている労働者に対してなされた転勤命令
≪判旨・結論≫業務上の必要性は認められるものの、労働者の家庭状況からすると、人選に誤りがあり、労働者に対し通常受忍すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであり、権利の濫用に当たり無効とする。

(3)現地採用の工員

【新日本製鉄事件 昭和45年福岡地裁判決】
≪結論≫現地採用で慣行上転勤がなかった工員を新設の遠隔な工場に転勤とさせるには、本人の同意を要する。

(4)パートタイマー、半農労働者

【蔵田金属工業事件 昭和51年松江地裁判決】
≪結論≫半農半工の労働者や主婦のパートタイム労働者など生活の本拠が固定していて、それを前提に労働契約の締結がなされた場合は、勤務地限定の労働契約が締結されたものとみなす。

(5)事務補助職の女性

【ブックローン事件 昭和54年神戸地裁判決】
≪結論≫事務補助職としての女性従業員は労働契約上、転勤のないことを前提とみなす。

17.人事異動権(職種転換)〔分類:民法(623条)/雇傭〕

(1)特殊な技術・技能・資格を有する者

【日本テレビ放送網事件 昭和51年東京地裁判決】
≪判旨・結論≫ アナウンサーとして難関の専門試験に合格し、20年近く一貫してアナウンサーに就いていた者は、採用時の契約から職種はアナウンサーに限定されていたとみなし、配転命令は無効。
【ヤマトセキュリティー事件 平成9年大阪地裁判決】
≪判旨・結論≫ 語学を必要とする社長秘書業務を含む事務系業務から警備業務への職種変更の配転命令は無効とする。
【直源会相模原南病院事件 平成11年東京高裁判決】
≪判旨・結論≫ 病院の配転命令は系統を異にする職種(医療専門職種)への配転であり、「業務上の特段の必要性及び当該従業員を異動させるべき特段の合理性があり、かつこれらの点について十分な説明がなされた場合か、あるいは本人が同意した場合を除き無効とする。
【九州朝日放送事件 平成8年福岡高裁判決】
≪判旨・結論≫ 「労働契約においてアナウンサーとしての業務以外の職種には一切就かせない旨の職種限定の合意が認められない限り、その地位確認請求はできない。」
【九州朝日放送事件 平成10年最高裁判決】
≪判旨・結論≫ (上記の上告審 アナウンサー)当分の間は職種がそれに限定されるが、相当な期間経過後、一定年齢に達した時点以降は他の職種に配転されるとの合意が成立していたと解される。

(2)専門性が高いとはみなされない職種

【日野自動車工業事件 昭和42年東京地裁判決】
≪判旨・結論≫採用時には特約や専門技能がなくとも、採用後の特別な訓練、養成を経て一定の技能・熟練を修得し、長期間当該業務に従事してきた者の労働契約は、その職種に限定されているとみなす。
【東亜石油事件 昭和51年東京高裁判決】
≪判旨・結論≫技術職の従業員をその技術に関する専門知識を有するサービス・販売職に配転した当該異動命令は、合理性を有する。

(3)経営合理化に伴う職種異動命令

【日産自動車事件 平成元年最高裁判決】
≪判旨・結論≫(機械工の)配転命令が、各人の経験、技能や個人的希望等を個別的に考慮することなく行われた場合であっても、部門の縮小による異動対象者が500名近くの多数に上り、通勤可能圏内の他の職場でこれを受け容れる余地がなく、(中略)従前の工場における(組立工の)生産要員として多数の人員を必要とすることとなったなどの諸事情を考慮すると、それぞれの経験、経歴、技能等を格別に斟酌することなく、一斉に他部門へ配置替えすることとしたのは、あながち不合理とは言い難く、(中略)労働力配置の効率及び企業運営の円滑化等の見地からやむを得ない措置として是認し得る。

18.人事異動権(降格)〔分類:民法(623条)/雇傭〕

【北海道厚生農協連合会事件 平成9年釧路地裁判決】
≪事件概要≫病院を経営する法人が、副看護婦長に対して行った管理職としての権限を大幅に縮小し、通常の指揮命令系統から外すことを内容とする配転命令
≪判旨・結論≫「業務運営の円滑化等、一応の業務上の必要性は認められるが、同人の実務能力自体には大きな問題がなく、管理職としての管理能力に関する欠陥もその権限の縮小を要するほど大きかったとはいえず、また同人を指揮命令系統から排除する必要も認められず、その一方で同人に何らの具体的説明もされず、弁明の機会も与えられないまま、一方的に権限を大幅に縮少され、病院内の情報に接することも困難になり、自己の能力開発の機会を剥奪されるとともに、社会的評価も低下させられ、その名誉を著しく毀損されるという重大な不利益を被ったといえる」として、同命令を人事権の濫用に該当し無効であるとする。

19.人事異動権(出向)〔分類:民法(623条)/雇傭〕

【新日本製鉄事件 平成15年最高裁判決】
≪事件概要≫業績悪化のため、個別の同意なく子会社へ出向命令を出したところ、本件労働者より出向命令無効確認の訴えが出された。なお、就業規則、労働協約で出向に係る規定、協定は存在した。
≪判旨・結論≫就業規則等が存在し、出向労働者の利益に配慮した規定も設けられており、個別の同意なくとも出向命令を発令することができる。業績悪化にかかる出向の経営判断も合理性を欠くものとは言えず、人選基準には合理性があり、本人に著しい不利益が生ずるものとも言えない。

20.給与〔分類:民法(623条)/雇傭〕

(1)減額

【アーク証券事件 平成12年東京地裁判決】
≪事件概要≫会社は年功を加味した職能資格制度を採りながら、成績不振を理由に社員の資格を降格し、これに対応する職能給を引下げ、さらに給与制度の変更を行ない、諸手当を減額したことを不服として訴えた事件。
≪判旨・賃金の根拠に関する部分≫当該降格と降給は、業績の悪化原因としたものであり、給与・人事制度の運用の中でのものではなく、法的根拠なしと認められる。
(一般的な職能資格制度は、いったん備わったと判断された能力がのちにこれを備えないものとして降格することは予定されていない。)
≪結論≫賃金の引下げ・減額は、就業規則および給与システム(制度・規程)による根拠がなければ認められない。
《EX》
(1)管理職給与の一律カットは、就業規則違反である。

(2)会社業績の不振を真の理由とする個人の人事考課による減給は、就業規則および給与制度違反である。

21.退職金〔分類:民法(623条)/雇傭〕

(1)死亡保険金

【経営コンサルティング会社事件 平成9年名古屋地裁判決】
≪事件概要≫Aグループ保険で死亡社員に保険金相当の退職金が支払われなったことについて、遺族が請求した事件。
なお、本件被告企業に退職金規定はなかった。
≪団体定期保険・Aグループとは≫
@保険契約者=会社、保険料支払人=会社、被保険者=社員、保険金受取人=会社
A契約に被保険者の同意が必要
B保険金の全部又は相当部分は、退職金又は弔慰金の支払いを目的とする。
≪判旨1≫本件保険契約は、死亡退職金又は弔慰金の支払いや従業員の福利厚生を目的とし、かかる趣旨の下に本件同意を得て締結されたものであり、従業員の死亡により被告会社が保険金によって大きな利得を得る結果になることは許されない。
この観点からは一般の退職金水準を超える高額の退職金になったとしてもやむをえない。
また、弔慰金、死亡退職金の非課税範囲は相当広範囲に及んでおり、相当高額な退職金、弔慰金も税務上社会的に相当とされる場合があり、死亡退職金が高額になっても、必ずしも不合理ではない。
≪判旨2≫権利の性格について、保険金相当額の請求権ではなく、「退職金請求権」が存在する。その根拠は本件保険契約ではなく、雇用契約上の合意としての「付保規定合意」である。退職金の額の認定は、雇用契約の解釈適用の問題である。
※「付保規定合意」とは、保険契約時に本人が被保険者となることの同意。
≪結論≫今までの保険料や既に支給された退職金を控除して、保険金の8割が死亡退職金として認定された。
≪参考事項≫
@契約時に本人の同意(付保規定合意)がない場合は保険契約自体が無効となる。(その場合当然遺族に保険金請求権はない。)
A退職金規定等が整備されていて得られる保険金との関係が明確になる場合は、それらの規定に基づいて算定された金額のみ会社に請求し得るにとどまる。

22.契約期間〔分類:民法(623条)/雇傭〕

(1)試用期間とされる有期契約

【神戸弘陵学園事件 平成2年最高裁判決】
≪事件概要≫1年契約で教員として契約を締結し、その後は勤務状態を見て再雇用するか否か判定するという口頭説明を受けた。
その後期間満了とともに会社は契約を当然に終了したが、本人が教員としての地位確認を求めて提訴した。
≪判旨≫使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用期間に期限を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、当該期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。
≪結論≫原審差戻

23.職場環境〔分類:民法(623条)/雇傭〕

(1)設備・風紀

【仙台セクハラ(自動車販売会社)事件 平成13年仙台地裁判決
≪事件概要≫男性社員が女子トイレを覗く事件が発生し、@構造欠陥設備を会社が放置したこと、A事件そのものの対応が不適切だったことを訴えた事件
≪判旨≫@事業主は、従業員に対し、雇用契約上の付随義務として、良好な職場環境の下で労務に従事できるよう施設を整備すべき義務を負っている。〈職場環境整備義務〉
A事業主は、雇用契約上、従業員に対し、労務の提供に関して良好な職場環境の維持確保に配慮すべき義務を負い、職場においてセクハラなど従業員の職場環境を侵害する事件が発生した場合、誠実かつ適切な事後措置を取り、その事案にかかる事実関係を迅速かつ正確に調査すること及び事案に誠実かつ適正に対処する義務を負っている。〈職場環境配慮義務〉
≪結論≫@設備構造欠陥(清掃用具置き場から女子個室トイレが見える構造となっていた)は認定するも、会社に事件の予見可能性はないとして、職場環境整備義務は否定。
A侵入事件当日に具体的な対応をしなかった会社の職場環境配慮義務を肯定。

24.就労請求権〔分類:民法(623条)/雇傭〕

【読売新聞社事件 昭和33年東京高裁判決】
≪事件概要≫解雇の意思表示を受けた者が、その効力停止と同時に就労妨害排除の申請を併せて行なった事件。
≪判旨≫「労働契約においては、労働者は使用者の指揮命令にしたがって、一定の労務を提供する義務を負担し、使用者はこれに対して一定の賃金を支払う義務を負担するのが、その最も基本的な法律関係であるから、労働者の就労請求権について労働契約等に特別の定めがある場合または業務の性質上労働者が労務の提供について特別の合理的な利益を有する場合を除いて、一般的には労働者は就労請求権を有するものではない。
≪結論≫棄却

25.パートと正社員の賃金格差〔分類:労基法(3条)/均等待遇〕

【丸子警報機事件 平成8年長野地裁判決】
≪事件概要≫正社員と臨時社員の賃金格差が違法であるとして損害賠償を求めた裁判。
≪判旨@同一労働同一賃金≫
(1) 我が国の多くの企業で採用されてきた年功序列賃金を見ても、昨今の新しい賃金体系を見ても、当該基準が適用されているとは必ずしも言えない。
(2) 職種が異なる労働を比べて評価判定することは著しく困難である。
≪@の結論≫同一労働同一賃金の原則という法規範は存在しない。
≪判旨A均等待遇≫
均等待遇の理念は、賃金格差の違法性判断において、ひとつの重要な判断要素として考慮されるべきものであって、その理念に反する賃金格差は、使用者に許された裁量の範囲を逸脱したものとして公序良俗違反の違法を招来する場合がある。
≪Aの結論≫ 本件賃金格差につき判断した結果、使用者が臨時社員に対し、正社員の賃金の8割を下回る水準の賃金しか支給していないのは違法である。
≪本件の前提≫
@ まったくの同一労働であった
A 本件臨時社員の勤続が25年と長く、長期勤務の意思があった

26.昇進・昇格の男女差別〔分類:労基法(3条)/均等待遇〕

【芝信用金庫事件 平成8年東京地裁判決】
≪事件概要≫女性であることを理由に男性と比較して昇格及び昇進において著しい差別的処遇を受けたとして訴えた事件。
≪判旨1 昇格≫当社は就業規則3条で差別的取扱をしない旨を定めており、これは労基法第3条の均等待遇を具体的に保障したものと解することができる。
当社の人事制度は、年功的要素を加味した職能資格制度であると認められる。
同期の男性社員については、当該年功制度により、ほぼ全員が副参事に昇格しているが、女性社員について同様な制度の適用がなかったことは、許されない。
≪判旨2 昇進≫就業規則3条(=労基法3条=均等待遇の原則)と職位付与とは直接的な関係がない。労使慣行も確立していない。
≪結論≫昇格差別は認容、昇進差別は棄却

27.準備時間・手待時間〔分類:労基法(32条)/労働時間〕

【三菱重工長崎造船所(第一)事件 平成元年長崎地裁判決】
≪事件概要≫労働時間外として扱われていた@タイムレコーダーから更衣所を経て作業場までの歩行時間、
A更衣所での作業服等の着脱時間、B就業後の手洗い・洗面・入浴に要する時間、は労働時間であるとして、賃金支払を求めた裁判。
≪判旨≫労働時間とは、使用者の指揮監督下に労務を提供している時間をいうと解されるところ、労務の提供のうちには本来の作業に当たらなくとも、その作業を遂行するため必要不可欠ないし不可分の行為も含まれる。
≪結論@≫始業時における「作業服への更衣・安全衛生保護具等の装着」は、使用者が安全配慮義務の履行、作業能率の向上、生産性の向上、職場秩序の維持など経営管理上の見地から、労働者に義務づけた行為であり、「本来の作業を遂行するに当たり必要不可欠ないし不可分の準備行為といえるから、使用者の指揮監督下においてなされる労務の提供と解され、これに要する時間も労働基準法上の労働時間に含まれる。」
その後の作業場までの往復の歩行時間及び終業時における保護具等の脱具に要する時間も労働時間に該当する。
≪結論A≫午後の終業後及び午後の始業開始までの休憩時間中の歩行、保護具等の着脱、手洗等は「各労働者の選択でその負担によりなすべき」である。
使用者は「原則として午前の終業時に労働者を作業場において実作業から解放すれば足りる。」
作業終了後の洗身入浴については、使用者が義務づけたものではなく、特段の事情がない限り原則として使用者の指揮命令下における労務の提供とは解されない。
【三菱重工長崎造船所(第二)事件 平成7年福岡高裁判決(控訴審)】
≪判旨≫労基法上の労働時間とは、「労働者が使用者の指揮監督の下に置かれている時間」であり、労働契約上の労務提供義務の履行はもちろん、「労務提供義務と不可分一体のものとしてそれ時代を義務づけられ、かつ事実上使用者の拘束下で行なわれる活動に要する時間もこれに含まれる。」
【三菱重工長崎造船所事件 平成12年最高裁判決】
≪結論≫一審、二審は踏襲。その他、入門から更衣所まで、作業後の更衣所から退門までの移動時間は、使用者の指揮命令下に置かれているとは言えず、労働時間には該当しない。
【東急電鉄事件 平成14年地裁判決】
≪事件概要≫時間外に行われていた@点呼および勤務場所までの移動、A引継ぎ、に対し時間外手当を請求した事件
≪判旨≫労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、この労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めいかんにより決定されるものではない。
労働者が就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務づけられ、またはこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものに限り、労基法上の労働時間に該当する。
≪結論≫
@点呼及び移動は、準備行為であり、労働時間に当たる。
A引継ぎは、勤務時間開始後でも可能であり、強制されたものではなかったと認定し、却下

28.仮眠時間〔分類:労基法(32条)/労働時間〕

【日本貨物鉄道事件 平成10年東京地裁判決】
≪事件概要の一部≫夜勤を伴う警備業務で仮眠時間その他の休憩時間を労働時間として超過勤務手当を支払うよう求めた裁判。
4名の警備職員がローテーションで業務を遂行。
≪一部判旨・一部結論≫ある警務職員の休憩時間には他の警務職員が警備業務を遂行することとされていた。警備室には仮眠室と休憩用区画が設けられていた。したがって、使用者が労働者に対し、休憩時間にも労務を遂行しなければならない職務上の義務を課していなかったものと認める。
【大星ビル管理事件 平成14年最高裁判決】
≪事件概要≫24時間勤務で建物の警備・設備保全の業務に従事していた技術員の仮眠時間として定められた時間中の賃金を請求した事件
≪判旨≫本件技術員らの職務は、もともと仮眠時間中も必要に応じて、突発作業、継続作業、予定作業に従事することが想定され、警報を聞き漏らすことは許されず、警報があったときは何らかの対応をしなければならないものであるから、何事もなければ眠っていることができる時間帯といっても、労働からの解放が保障された休憩時間であるということは到底できず、本件仮眠時間は実作業のない時間も含め、全体として会社の指揮命令下にある労働時間というべきである。
≪結論≫当該仮眠時間は労働時間であるから、賃金の支払いが必要である。

29.就業規則の強制力の根拠〔分類:労基法(89条)/就業規則〕

【秋北バス事件 最高裁昭和43年判決】
≪事件概要≫
旧就業規則で「定年は、50歳。定年以後は必要に応じて嘱託採用する。」
新就業規則は「定年は50歳、主任以上は55歳とする。」
主任以上の職にあって、55歳に達していた原告が新就業規則の無効を訴えた事件。
≪判旨・就業規則の法的性質に関する部分のみ≫労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものである限り、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている(民法92条)ということができる。
【電電公社帯広局事件 昭和61年最高裁判決】
≪事件概要≫被告会社は就業規則及び健康管理規程により必要に応じて社員が一定のルールで検診を受けることを義務づけていた。
原告社員は検診受診の業務命令を拒否したため、戒告処分とされたことを不服とした訴えである。
≪判旨≫就業規則が労働者に対し、一定の事項につき使用者の業務命令に服従すべき旨を定めているときは、就業規則の内容が合理的なものである限りにおいて当該具体的労働契約の内容をなしているものということができる。
≪結論≫懲戒処分は正当

30.就業規則の不利益変更〔分類:労基法(89条)/就業規則〕

(1)原則

【秋北バス事件 最高裁昭和43年判決】
≪事件概要≫
旧就業規則で「定年は、50歳。定年以後は必要に応じて嘱託採用する。」
新就業規則は「定年は50歳、主任以上は55歳とする。」
主任以上の職にあって、55歳に達していた原告が新就業規則の無効を訴えた事件。
≪判旨≫就業規則の不利益変更は原則として許されないが、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない。
≪結論≫就業規則の変更は有効。原告の退職も有効。

(2)賃金・退職金

【大曲市農協事件 昭和63年最高裁判決】
≪事件概要≫企業合併により、退職金規程が、一部以前の会社の規定より条件が悪くなったことについて、原告が旧規程に基づき支払われるべきであるとしてその差額を請求した事件。
≪判旨≫秋北バス事件にいう当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみてそれによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうと解される。特に賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し、実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。
≪結論≫合併後の規程が適用される。
理由@不利益の程度は大きくない。別の部分では反対に有利に変わった面もある。
A折衝を続けてきた
【アーク証券事件 平成12年東京地裁判決】
≪事件概要≫会社は年功を加味した職能資格制度を採りながら、成績不振を理由に社員の資格を降格し、これに対応する職能給を引下げ、さらに給与制度の変更を行ない、諸手当を減額したことを不服として訴えた事件。
≪判旨・不利益変更に関する部分≫@就業規則の不利益変更が認められる場合の「合理性」とは、会社の業績が著しく悪化し、変動賃金制を導入しなければ企業存亡の危機にあるなどの高度の必要性が存する場合に、代替措置、経過措置、不利益緩和措置が執られるなど、「現に雇用されている従業員が以後の安定した雇用の確保のためにはそのような不利益を受けてもやむを得ない変更であると納得できるものであるなど、会社の業績悪化の中で労使間の利益調整が為された結果としての合理的内容」と認められた場合のことをいう。
≪結論≫変更は無効

(3)高年層の賃金

【みちのく銀行事件 平成12年最高裁判決】
≪事件概要≫就業規則、人事給与制度を変更し、55才以上の者を専任職階として賃金を減額した。
≪判旨≫ 「就業規則の不利益変更の合理性の有無は、(先の最高裁判決に加えて、)具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合などとの交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況などを総合考慮して判断されるべきである。」
本件における就業規則などの変更は、変更の対象層(→55歳以上)、賃金減額幅(→33%〜45%)及び変更後の賃金水準(→地域水準としてはなお優位にあるが格別高いものでもない)に照らすと、高年層の行員につき雇用の継続や安定化を図るものではなく、逆に、高年層の行員の労働条件をいわゆる定年後在職制度ないし嘱託制度に近いものに一方的に切り下げるものと評価せざるを得ない。
(中略)企業の存続自体が危ぶまれたり、経営危機による雇用調整が予想されるなどといった状況にある時は、労働条件の変更による人件費抑制の必要性が極度に高い上、労働者の被る不利益という観点から見ても、失職したときのことを思えばなお受忍すべきものと判断せざるを得ないことがあるので、各事情の総合考慮の結果次第では、変更の合理性があると評価できる場合がある。
しかしながら本件では、差し迫った必要性に基づく総賃金コストの大幅な削減を図ったものではない。
≪結論≫就業規則の変更は無効、仙台高裁に差戻して審理のやり直しを命令。
【みちのく銀行事件 平成14年仙台高裁差戻審判決】
≪判旨≫専任職発令後は本給の約半額を占める業績給が50%削減、役職・管理職手当3〜12万円の廃止、賞与支給率1/3削減。
制度改定後経過措置経過後の55歳以上の者の賃金減額率は40%強〜50%強。
専任職発令から退職時までの総賃金削減率は平均33%〜48%。
これらに相応した労働の減少はなく、救済措置・緩和措置も不十分。
専任職制度の導入に伴う本件就業規則等の変更は、それによる賃金に対する影響の面から見て、本件工員ら高年齢層の工員に対してはもっぱら大きな不利益のみを与えるものであって他の諸事情を勘案しても変更に同意しない本件工員らに対し、これを法的に受忍させることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるとは認められない。
≪結論≫就業規則の変更は無効

(4)労働時間

【北都銀行事件 平成12年最高裁判決】
≪事件概要≫1日の労働時間が増加したが、年間労働時間が減少した就業規則変更
≪判旨≫ 「年間の所定労働時間が減少して時間当たりの基本賃金額が増加し、しかも連続した休日の日数が増加することからすれば、平日の労働時間の延長による不利益及びこれにともないある程度は生ずるであろう事が予想される時間外勤務手当の減収を考慮しても、実質的不利益は、全体から見れば必ずしも大きいものではない。」
≪結論≫就業規則の変更は有効、不利益変更には当たらない。
≪備考≫当該事件は、一審で有効、二審で無効、当該最高裁で有効と二転三転した判断の難しい事件であった。別の事件でも下級審では不利益変更に当たると認定されていた。

31.服務規律〔分類:労基法(89条)/就業規則〕

(1)アルバイト禁止

【小川建設事件 昭和57年東京地裁判決】
≪事件概要≫勤務終了後、他社でアルバイト就労(キャバレーで夜中まで)をしている社員を就業規則に基づく解雇した事件。
≪判旨≫ …就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別な事情を除き、合理性を欠く。しかしながら、労働者がその自由な時間を精神的肉体的疲労回復のため適度な休養に用いることは次の労働日における誠実な労務提供のための基礎的条件をなすものであるから、使用者としても労働者の自由な時間の利用について関心を持たざるを得ず、また、兼業の内容によっては企業の経営秩序を害し、または企業の対外的信用、体面が傷つけられる場合もあり得るので、従業員の兼業の許否について、労働提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮した上での会社の承諾にかからしめる旨の規定を就業規則に定めることは合理性を有するものである。
≪結論≫解雇有効

32.過労自殺〔分類:安衛法〕

【電通事件 平成12年最高裁判決】
≪事件概要≫会社から長時間残業を強いられ、その心身の疲労からうつ病にかかり、自殺し、両親が損害賠償を請求した事件。
≪判旨≫労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして疲労や心理的負荷などが過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のある事は周知のところである。
労働基準法は、労働時間に関する制限を定め、労働安全衛生法65条の3は作業の内容などを特に限定することなく、同法所定の事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めているが、それは前記のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。
これらのことからすれば、使用者はその雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷などが過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、上司(使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者)は、使用者の前記注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。
≪結論≫(上司の行為に関して会社の)民法715条(使用者責任)に基づく損害賠償責任を肯定