平成20年1月8日
生活保護制度の概要
当ページの要旨◎生活保護は、困窮するすべての国民に受ける権利がある。【無差別平等の原理】
◎しかし困窮と認められる条件は、原則として次のとおり多岐にわたる。
〔保護前提条件その1 困窮か否かは、原則として個人単位ではなく、世帯単位で図る。〕【世帯単位の原則】
〔保護前提条件その2 生活保護は、管轄する福祉事務所でのみ取り扱う。〕
〔保護前提条件その3 生活保護は、原則として書面申請が必要である。〕【申請保護の原則】
〔保護前提条件その4 困窮は、原則として生活必需品以外一切の保有資産を売却し、資産を持たない者について認める。〕
〔保護前提条件その5 困窮は、稼働能力があるのに働かない者にはこれを認めない。〕
〔保護前提条件その6 困窮は扶養能力のある扶養義務者がいる場合、その扶養を保護に優先させる。〕
〔保護前提条件その7 困窮による生活保障は、他法他施策を優先する。〕その4〜その7まで【補足性の原理】
〔保護本条件 困窮は、計算により「最低生活費」>「収入充当額」となったとき、これを認める。〕【基準及び程度の原則】
| 第1章 生活保護制度の法体系 | |
| 第2章 生活保護の目的と困窮の定義 | |
| 第3章 対象者と保護の単位 | T.対象者 |
| U.保護の単位 | |
| 第4章 保護の実施機関 | T.福祉事務所 |
| U.福祉事務所の役割 | |
| 第5章 保護受給に至る手続 | T.保護決定までのプロセス |
| U.保護の申請と決定 | |
| V.相談 | |
| 第6章 保護の補足性 | T.概説 |
| U.補足性その1 資産の活用 | |
| V.預貯金・現金の保有 | |
| W. 補足性その2 能力の活用 | |
| X. 補足性その3 私的扶養 | |
| Y. 補足性その4 他法他施策の活用 | |
| Z.補足性の例外 | |
| 第7章 保護の要否判定と支給基準 | T.概説 |
| U.2つの保護基準 | |
| V.最低生活費 | |
| W.収入充当額(収入認定額) | |
| X.預貯金・現金の取扱い | |
| 第8章 保護費の計算と支給 | |
| 第9章 最低生活費の具体的水準 | |
| 第10章 指導指示、被保護者の権利義務、保護の廃止等 | T.概説 |
| U.福祉事務所の指導指示調査権と被保護者の権利義務 | |
| V.指導指示と自立の助長 | |
| W.保護の廃止等 | |
| 第11章 裁判、審査請求 | T.審査請求と裁判 |
| U.裁判による裁定等と法令の修正 | |
生活保護制度の法体系は次のようになっている。
●憲法第25条(生存権)
●生活保護法(法律。以下単に「法」または「本法」という。)
●生活保護法施行令(政令。以下「施行令」という。)
●生活保護法施行規則(厚生労働省令。以下「則」と略す。)
●生活保護による保護の基準(厚生労働省告示。以下「保護基準告示」という。)
●生活保護法による保護の実施要領について(厚生事務次官通知。以下「次官通知」という。)
●生活保護法による保護の実施要領について(厚生省社会局(現厚生労働省社会・援護局)長通知。以下「局長通知」という。)
●生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて(厚生省社会局保護課(現厚生労働省社会・援護局保護課)長通知。以下「課長通知」という。)
●その他
☆当該法体系からは外れるが、「福祉事務所」の組織機能を定めた法律として「社会福祉法」がある。
第2章 生活保護の目的と困窮の定義(法第1条)
法第1条(この法律の目的) この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
「困窮」とは、どのような状態をいうのか。
困窮であるか、そうでないかの境目の判断は非常に難しい。
実際に法令中、困窮の定義はどこにもでてこない。
憲法第25条(生存権) @すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
A国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
憲法は、「健康で文化的な最低限度の生活」をすべての国民に保障し、それが自力で達成できない者に対して、国は国民のための助力に努める義務を有し、「社会福祉、社会保障及び公衆衛生」に係る究極制度としてこの「生活保護制度」を設けたわけである。
法第1条では「最低限度の生活を保障」することとなっている【最低生活保障の原理】。
したがって、ここにいう「最低限度の生活」とは、肉体的生存に必要な最低限ではなく、憲法第25条にいう「健康で文化的な最低生活」水準である。
この水準は水準均衡方式という方式によって一般国民の消費水準の動向に即して決定及び随時改定されている。
それでは「困窮」とは、「健康で文化的な最低限度の生活水準に対して、それ未満である状態」と定義することができるだろうか。答えは否である。実際、最低生活水準未満の生活水準であっても、保護対象から外れる場合がある。
改めて憲法と生活保護法の表現の違いを比べてみよう。
○憲 法 すべての国民は最低生活を営む権利を有する。
○生活保護法 困窮する国民に最低生活を保障する。
生活保護法には「困窮」の言葉を入れ、本法にも下位法令においてもその定義をしなかったために、結果として、その適用対象者(被保護者)が非常にわかりづらく、微妙なものとなってしまっている。
敢えて「困窮」を敢えて正しく一言で定義すると、逆説的に、「要保護(保護が必要と認められること)と認めて保護を決定する条件(以後「要保護条件」と呼ぶことにする。)をすべて満たしている状態」が困窮である、という言い方しかできない。しかしこれでは定義とはいえない。
よって以後、要保護条件を、法制度すべての中から読み取って確定させなければならない。
何故なら生活保護制度は、「困窮」であるか否かが、最も重要なことだからである。
法制度があいまいにしている「困窮」の定義は、次章以下で「要保護条件」として一つずつ拾い出していくことにする。
要保護とされるためには、さまざまな要件が必要とされている。様々な要保護条件は、整理の都合上、保護前提条件と保護本条件に分けることにする。
さて、一旦要保護と認定されれば、最低水準の生活が保障される。
「困窮の程度に応じ、必要な保護」については、非常に細かく規定されている。
一言で表すと、最低生活の基準額から収入と認定された額を差し引いた不足額をその内容に即して、金銭、物品又は現物給付でサービスを支給することをいう。
「生活」の保障とは、生活維持全般の保障のことであり、「食糧費」やアパート代(「住居費」)だけでなく、病気であれば「医療費」、要介護者であれば「介護費用」、就学年齢の子供がいれば「教育費用」、その他必要な生活維持費を含めて保障される。
なお、「自立を助長」については改めて後述することにする。
T.対象者
生活保護の対象となる者は、困窮するすべての国民である(法第1条、2条)。
旧法(救護法)においては、失業、素行不良などによる困窮は救護の対象とはしないという差別的、制限的なものであったが、現行法では、困窮に至った原因については、一切問わない【無差別平等の原理】。
※生活保護法は昭和25年制定。
○外国人−外国人は国民ではないので原則として対象外である。しかし国内に存する外国人で一定の永住・在留資格者には適用される(社発第382号局長通知)。
○借金のある人−対象者ではあるが、支給される保護費は最低生活を維持するためのものであり、借金の返済に充てる趣旨ではない。自己破産を申し立てるなど借金の整理方法を講じない限り、認められない。
○ホームレス−そもそも対象者である。平成14年にホームレス自立支援法が制定されたことから、更に保護と処遇の改善がなされるようになった。
U.保護の単位
法第10条(世帯単位の原則) 保護は、世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。但し、これによりがたいときは、個人を単位として行なうものとする。
これを「世帯単位の原則」という。
人は通常、世帯単位で生計を立てているから、個人ではなく世帯を生活水準捕捉単位としたものである。
「世帯」の認定は、原則として次官通知第1で次のように定めている。
@原則 同一住居に居住し、生計を一にしている者
A別居住であっても同一世帯と認定することが適当である者
(ただし特別な事情がある場合、例外として世帯分離制度がある。)
〔保護前提条件その1 困窮か否かは、原則として個人単位ではなく、世帯単位で図る。〕
T.福祉事務所
生活保護の実施機関は、都道府県知事と市(区)長と福祉事務所を管理する町村長である。
窓口と実際の実施は、福祉事務所(または市町村の福祉部・福祉課)で行われる。
日本全国にある福祉事務所のそれぞれの実施責任範囲は次のようになっている。
@原則 管轄する区域内に居住地を有する要保護者
A管轄する区域内に現在地を有する要保護者(居住地がない場合、居住地が明らかでない場合)
B管轄する区域内に現在地を有する要保護者(居住地はあるが、急迫した状況にある場合)(以上法第19条)
※居住地とは、現に住んでいるところであって、住民票の有無に拘わらない。
※現在地とは、実務上、前の晩泊まった市区町村とされているそうである。
〔保護前提条件その2 生活保護は、管轄する福祉事務所でのみ取り扱う。〕
U.福祉事務所の役割
福祉事務所の役割は、生活保護法に基づく保護の窓口及び実施だけではない。
児童福祉法、母子及び寡婦福祉法、老人福祉法、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法に基づく事務をつかさどる
(社会福祉法第14条E)。
つまり福祉事務所は、相談に訪れた人の生活問題を整理することと、生活保護を含めた利用可能な制度を漏らさず提示することが求められている。
T.保護決定までのプロセス
生活保護は、通常次のプロセスを辿って決定される。
@事前相談、面接
A申請、受理
B調査(調査の中心は「保護の補足性の原理(後述)」)
C要否判定
D決定(要保護決定または保護申請却下)
U.保護の申請と決定
保護は、要保護者、その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請によって開始する(法第7条)【申請保護の原則】。申請は書面を提出して行なわなければならない(則2条)。
〔保護前提条件その3 生活保護は、原則として書面申請が必要である。〕
福祉事務所は、申請があったときは、保護の要否、種類、程度及び方法を申請日から14日(特別な事情がある場合は30日)以内に決定しなければならない(法第24条)。
福祉事務所は、要保護者が急迫した状況にあるときは、申請がなくてもすみやかに保護を開始しなければならない(法第25条)(申請保護の例外=職権保護)。
V.相談
福祉事務所は、相談をしにきたわけではなく生活保護の申請をしに出向いた人に対しても、「申請」の前に必ず「相談」を行う。しかしこの「強制事前相談」は、生活保護の決定に際して法的に必要な手続ではない。
福祉事務所が、強制事前相談を行う理由は、いくつか考えられる。
@とにかく申請希望者を追い払うため。
A保護の補足性(後述)など保護の要件を初期の要件段階で明らかに満たさない者には、申請前に非該当であることを本人に告げて、申請を思いとどまらせるため。
B他方他施策(後述)の活用を生活保護に優先して検討するため
(福祉事務所の役割は生活保護法のためにだけあるわけではないことは既に述べたとおり)。
実際、正式に申請を受理した後の保護の要否調査には多くの手間がかかる。
しかし、生活保護の申請はすべての国民の権利である。
このように申請に先立って相談を行い、申請を思いとどまらせあるいは申請を受付けない福祉事務所の行為は「水際作戦」と呼ばれている。なお申請を受付けない行為は「保護の申請権の侵害」に当たり、違法である。
第6章 保護の補足性(法第4条)
T.概説
法第4条(保護の補足性) @保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活を維持するために活用することを要件として行われる。
A民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行なわれるものとする。
生活保護の経費は国民の税金で賄われる。したがって、保護を受けるためには、各自がその持てる能力・資産を十分に活用して最善の努力をする必要があり、そのような努力をしてもなおかつ最低生活を営めない場合に、初めて保護が行なわれる。国民の税金によって、最後の手段として生活保護が行なわれることを「保護の補足性(の原理)」という。
最後の手段と認められるためには、@資産の活用、A能力の活用、B私的扶養、C他法他施策の活用をした上でなおかつ困窮する場合に行われる。
U.補足性その1 資産の活用
次官通知第3 最低生活の内容としてその所有又は利用を容認するに適しない資産は、次の場合を除き、原則として処分のうえ、最低限度の生活の維持のために活用させること。なお、資産の活用は、売却を原則とするが、これにより難いときは当該資産の貸与によって収益をあげる等活用の方法を考慮すること。
1 その資産が現実に最低限の生活維持のために活用されており、かつ、処分するよりも保有している方が生活維持及び自立の助長に実効があがっているもの
2 現在活用されていないが、近い将来において活用されることがほぼ確実であって、かつ、処分するよりも保有している方が生活維持に実効があがると認められるもの
3 処分することができないか、又は著しく困難なもの
4 売却代金よりも売却に要する経費が高いもの
5 社会通念上処分させることを適当としないもの
資産の種類ごとに具体的な取扱いは、局長通知、課長通知で次のように決められている。
(1)保有が認められる家屋
・当該世帯の居住用家屋−ただし部屋数が多い場合は間貸し活用させ、処分価値が著しく高価な場合は売却させる。
・事業用家屋−地域の低所得世帯と比べて高価でないものに限る。
※貸家は保有を認めない。ただし、おおむね3年分の家賃が売却代金よりも多い場合のみ保有を認め、貸家として活用させる。
(2)保有が認められる土地
・当該世帯の居住用家屋に付属した宅地のうち必要面積
・事業用宅地のうち必要最小限度の面積
・田畑−当該地域の平均的面積に限り、かつ、耕作により収入増加に著しく貢献する場合に限る。ただし処分価値が著しく高価な場合は売却させる。
・事業用又は自給用の山林・原野−当該地域の低所得世帯の保有面積に限り、かつ、利用により収入増加に著しく貢献する場合に限る。ただし処分価値が著しく高価な場合は売却させる。
(3)保有が認められる事業用品
・設備、機械器具、商品、家畜−当該地域の低所得世帯の保有内容に限り、かつ、利用により収入増加に著しく貢献する場合に限る。ただし処分価値が著しく高価な場合は売却させる。
(4)保有が認められる生活用品
・家具什器及び衣類寝具−利用の必要があると認められる品目及び数量に限る。
・趣味装飾品−処分価値の小さいものに限る。
・処分価値の小さなその他の物品
・処分価値のあるその他の物品−利用の必要があると認められ、かつ、当該地域の一般所得世帯の保有内容に限る。
〔例〕楽器、テレビ、カメラ、ステレオ
※貴金属及び債券は保有を認めない。
(5)保有が認められる自動車
・障害者の通勤用−他の通勤方法がまったくないか、自動車通勤以外の通勤が極めて困難な場合に限る。
・山間へき地等居住者の通勤用−@他の通勤方法がまったくないなど自動車通勤がやむをえない場合、かつ、A当該地域の自動車普及率を勘案し、自動車を保有しない低所得世帯との均衡を失しない場合、かつ、B自動車の処分価値が小さい場合、かつ、C当該勤務の収入が自動車維持費を大きく上回る場合に限る。
・障害者の通院通所通学用−@他の公共交通機関がまったくないか、自動車以外の通院等が極めて困難な場合、かつ、A自動車の処分価値が小さい場合、かつ、B障害者用に改造してあるものであって通院等に必要最小限のものである場合、かつ、C自動車維持費用が他からの援助で確実にまかなわれる場合、かつD運転者は専ら本人、生計同一者または常時介護者である場合に限る。
(6)保有が認められるその他財産の具体例
・ルームエアコン−身障者、寝たきり老人等の場合に限る。
・学資保険−解約返戻金額が50万円以下のものに限る。
〔保護前提条件その4 困窮は、原則として生活必需品以外一切の保有資産を売却し、資産を持たない者について認める。〕
V.預貯金・現金の保有
不思議なことに新規保護要件における預貯金・現金の取扱いについて、法はまったく触れていない。
局長通知、課長通知には、一切見当たらず、法令の現金預金に関する規定は、前述した法第4条1項と次官通知第3しかない。
この2つに規定によれば、原則として金になる資産はすべて売却して、現金にして、生活維持費用に充てなさい、と言っている。
「売却して現金化すること」とそうして作った現金を「生活維持費用に充てる」ことを、「活用」といい、活用することを要件として保護が行われるわけであるから、現金だけを持っている人は、資産活用要件については保護を受ける前提要件を満たしていると解釈できる。
また、次官通知でいう「資産」は、「処分」「売却」できる資産であることからも、「現金・預貯金」は資産のうちには入らないということが理解できる。
(ただし、例えば現金100万円を保有している者は、保護前提条件のうち資産活用条件はクリアしても、保護本条件(後述)で否認されて、最終的に保護は認められない。)
しかし「現金・預貯金」についてはっきりとした規定がないことは、実際には、現場でも厚生労働省でも大きな混乱をきたしている。現実に次のようなことが起こっている。
●所持金は1円たりとも認めない−ある現場←この判断は明らかに誤りである。
●最低生活費の半分程度まで認める−多くの現場での目安
●最低生活費の1か月分未満なら保護の要件を満たす。最低生活費の1/2になるまで保護が適用されないわけではない−厚労省生活保護制度のあり方に関する専門委員会第17回説明資料(H16.10.27)
●保護開始時に保有可能な預貯金等の額について現行は最低生活費の0.5ヶ月分−厚労省生活保護制度のあり方に関する専門委員会報告書(H16.12.15)
現預金については、さらに「保護の要否判定と支給基準」の章で触れる。
W.補足性その2 能力の活用
稼働能力があるのに働かない者は保護を受けることができない。
ただし働く意志と能力があり求職活動を行なっている者(=失業者)は、現に働いていなくても保護を受けることができる。また、稼動年齢(15歳〜64歳)にない者は、稼働能力がないとみなす。
〔保護前提条件その5 困窮は、稼働能力があるのに働かない者にはこれを認めない。〕
X.補足性その3 私的扶養
民法第730条(親族間の扶け合い) 直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない。
民法第752条(夫婦の同居、協力及び扶助の義務) 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
民法第877条(扶養義務者) @直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
A家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
民法では、上記のとおり一定の親族に扶養義務を課している。
親族の中で、配偶者、直系血族及び兄弟姉妹を「絶対的扶養義務者」という。
それ以外の特別な事情のある三親等内の親族を「相対的扶養義務者」という。
これらの関係を「生活扶助義務関係」という。
またこの中でも特に、夫婦間、または親と未成熟の子(中学3年以下の子)との関係を「生活保持義務関係」 (この定めは民法ではなく、「局長通知第1の1の(3)」) という。
「扶養義務」は「互い」にある。生活扶助義務関係にあるAとBで、Aが困窮し、Bに扶助する資力があれば、Bに扶養義務があり、Aには被扶養の権利があるということで、両者が困窮していたら両者とも扶養義務も被扶養の権利もない。
つまり扶養義務は、一方が困窮し、他方に一定の資力(扶養能力)がある場合に発生する。
扶養の程度は、関係の近さと扶養能力に応じて次のとおりとなっている。局長通知第4の2の(5)(扶養の程度) 扶養の程度は、次の基準によること。
ア 生活保持義務関係においては、扶養義務者の最低生活費を超過する部分
イ 生活扶助義務関係においては、社会通念上それらの者にふさわしいと認められる程度の生活を損なわない限度
ちなみに現在の民法親族法は、昭和22年に大改正されて以後内容的にはそのまま現在に至っている。国民の生活状況は当時と現在とでは大きく変わり、現在では親族間の関係は極めて希薄になっており、この扶養義務は実態とかけ離れた制度となっている。
生活保護法令は、この点を考慮しながらも原則は民法どおりとし、福祉事務所は、扶養義務者に「扶養照会」をして、扶養の意思と能力を確認する。
〔保護前提条件その6 困窮は扶養能力のある扶養義務者がいる場合、その扶養を保護に優先させる。〕
Y.補足性その4 他法他施策の活用(他法優先の原理)
他の社会保障法または公的貸付制度などで給付や貸付が受けられる場合は、生活保護に優先してその給付や貸付を受ける必要がある。
〔保護前提条件その7 困窮による生活保障は、他法他施策を優先する。〕
Z.補足性の例外
法第4条B(補足性の例外) 前2項の規定は、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない。
法第25条(職権による保護の開始) @保護の実施機関は、要保護者が急迫した状況にあるときは、すみやかに、職権をもって保護の種類、程度及び方法を決定し、保護を開始しなければならない。
急迫した事由がある場合は、前項までの補足性の原理にかかわらず、保護を受けることができる。
「急迫した事由・状況」とは、単に最低生活が維持できない状況ではなく、生存が危うくされるような場合とされる。
T.概説
生活に困窮した国民が、前章までに述べた要保護条件を満たしている可能性がある場合、福祉事務所は、申請を受理し、前提条件の確認とともに、保護の要否判定のための計算に入る。法第8条(基準及び程度の原則) @保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。
A前項の基準は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、且つ、これをこえないものでなければならない。
これを「基準及び程度の原則」という。
次官通知第8前段(保護の要否の決定) 保護の要否(中略)は、原則として、当該世帯につき認定した最低生活費と第7によって認定した収入(以下「収入充当額」という。)との対比によって決定すること。
保護の要否とその程度は、上記法第8条及び次官通知第8によって決定される。
上記により、保護を決定する基準は、計算によってと算定された場合に要保護を決定し、その差額が支給額となる。
対象者世帯の「最低生活費」>対象者世帯の「収入充当額」
この算式を保護基準という。
この計算をするために、対象者世帯の「最低生活費」と「収入充当額」を正確に把握しなければならない。
保護の要否計算に当たっては、金銭(円)を単位として行う。
実際の支給方法は、医療・介護が必要な場合はサービスの現物で支給し、それ以外は原則として金銭で支給する。
金額の期間計算単位及び支給期間単位は、「月」であり、保護費の支給も金銭によるものは月1回1か月分である。
〔保護本条件 困窮は、計算により「最低生活費」>「収入充当額」となったとき、これを認める。〕
U.2つの保護基準
保護基準には次の2つの性格がある。
@保護の要否を決めるための尺度としての保護基準
A保護費の支給額等を決めるための尺度としての保護基準
この2つの保護基準は、両方とも「保護基準」と呼ぶものの、中身が微妙に違うので、注意が必要である。
V.最低生活費
最低生活費は、保護基準告示(=法第8条1項中の「厚生労働大臣の定める基準」)と当該告示等を受けて局長通知以下で具体的に定めた「特別基準」などと呼ばれるプラスアルファを加えて算定される。
その種類と金額は、「年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮」(法第8条第2項)して膨大且つ複雑に区分され、その種類(費目)ごとの金額が決められており、その種類(費目)だけを以下に示すと、別表1のとおりとなっている。
このうち、「保護費の支給額等を決めるための尺度」としての最低生活費の種類(費目)は、このすべてであるが、「保護の要否を決めるための尺度」としての最低生活費の種類(費目)は、おおむね先のプラスアルファを含めない保護基準告示のみとしている。
具体的には別表1の要否判定使用欄のとおりである。
W.収入充当額(収入認定額)
収入充当額に関する定めは、次官通知以下によって定められている(保護基準告示では一切触れていない。)。
計算式は以下のとおりである。
収入充当額(認定額)=収入額−収入認定除外額−実費控除額−勤労控除額−その他控除額
具体的な項目は別表2のとおりである。
収入認定額(のうち控除額)も最低生活費と同様に2つの尺度があり、支給額等を決めるときには算入するが、保護の要否を決めるときには算入しない項目がある。別表2の要否判定使用欄のとおりである。
なお、収入認定額の計算にあたっては、収入の安定度に応じて次のとおりとする(次官通知第7)。
@ おおむね定期収入の場合 当該収入月額
A @でない場合 前3ヶ月程度における1月当たり平均額をもって算定する。
B 数ヶ月以上に渡って収入事情を把握する必要がある場合 長期間の観察結果により、適正に算定する。
X.預貯金・現金の取扱い
計算の結果、「最低生活費>収入充当額」となれば要保護が決定される。
収入充当額の内容は、別表2のとおりであり、この中にはあらゆる収入の取扱いが記載されているが、保有する現預金は含まれていない。
「収入ではない現預金」というのは、そもそも予定されていなかったから規定していない。
しかし、現に収入ではない現預金は、次のような場合などに発生する。
・保護の当初から保有していた現預金
・前月分以前に保護費として支給された現金のうち、節約して残った現預金
・収入認定除外額や勤労控除額などと認定され、残るべくして残った現預金
・上記の現預金を利殖して生み出した現預金
現預金について、次官通知第8には規定がなく、ないものを収入充当額とすべきではないと考えられる一方で、法第8条第1項には「…その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う…」とあり、この規定によれば、保有する金銭分は、収入充当額と認定するべきである、とも考えられる。
この現預金の問題については結局、課長通知において、次のように定められたところによる。
@保護開始時における手持金は、最低生活費の5割を超える額について、収入充当額とする。
A保護費のやり繰りによって生じた預貯金等は、「その使用目的が生活保護の趣旨目的に反しないと認められる場合」については、収入充当額としない。
※「収入充当額とする」という意味は、保護支給費がその金額分差し引かれるということ。
現預金にかかる補足性の制限、要否判定、支給額決定を一覧でまとめると下表のとおりである。
保護開始時における手持金
保護費のやり繰りによって生じた預貯金等
保護の前提条件=要否判定
最低生活費の半額または全額まで認める。(明確な基準がない。)
−
支給額決定(医療扶助及び介護扶助を除く)
最低生活費の5割を超える額について、収入充当額とする。
収入充当額としない。ただしその使用目的が生活保護の趣旨目的に反しないと認められる場合とする。
上記までの手続、調査及び要否判定の計算によって、要保護が決定され、保護が行われる。
当該法令が用意した保護の内容(種類と方法)は、全部で次のとおりである。
(法第11条〜18条、30条〜37条の2)
保護の種類 概要 支給方法の原則 1 生活扶助 衣食その他の日用生活に最低必要なもの 金銭給付 2 教育扶助 義務教育に最低必要なもの 金銭給付 3 住宅扶助 住居に最低必要なもの 金銭給付 4 医療扶助 病気の治療に最低必要なもの 現物給付 5 介護扶助 介護に最低必要なもの 現物給付 6 出産扶助 分娩に最低必要なもの 金銭給付 7 生業扶助 自営又は就職に最低必要なもの 金銭給付 8 葬祭扶助 葬祭に最低必要なもの 金銭給付
要保護者(=要保護世帯)には、これらのうちから、「必要とされた種類と程度」において、給付される。
「必要とされた種類と程度」の具体的な計算は、次のとおりである。
@ 前章で示した「保護費の支給額等を決めるための尺度としての保護基準」を用いて最低生活費及び収入充当額を計算し、その差額として支給額を算出する。
A @で計算された収入充当額を、最低生活費の種類別計算額に充当して支給額内訳明細を決定する。このときの充当順は、生活費、住宅費、教育費及び高校就学費、介護費、医療費、出産費、生業費(高校就学費を除く)、葬祭費の順とする(次官通知第8後段)。
B Aで計算された支給額内訳明細により、要保護世帯それぞれの状況に応じ、支給される。原則として医療については、医療券交付による現物、介護については介護券交付による現物が支給され、それ以外は原則として金銭で支給される。
住居がない者には、原則として「居宅」つまりアパートの賃借費用が計算されて、金銭支給されるべきであるが、直ちにこれによりがたいときは、宿泊施設の提供等現物給付となる。
最低生活費の水準は、憲法第25条にいう「健康で文化的な最低生活」水準であり、この水準は一般国民の消費水準の動向に即して決定及び随時改定されていることは既に述べた。
計算項目も別表Tでできるだけ細かく示した。
しかし肝心の金額は示せない。
何故なら、「年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類」に応じて、膨大且つ複雑に区分・規定されているからである。
支給額を決める際に計算される収入認定額については、大雑把でもだいたいの金額の検討はつくだろう。
(勤労控除は10万円の給与で約2万、特別控除はざっと年13万である)
肝心の最低生活費水準は、実際にはだいたい幾らくらいになるのだろうか。
ざっと、医療・介護以外の最低生活費を概算で試算してみる。
○ホームレスの場合で7万円前後(+保護施設に寝泊りできる)
○都市部に住み子供3人を扶養する母子家庭の場合は30万円弱!
さらに、平成19年度のモデル世帯の生活保護の基準額が次のとおり示されている。
○夫婦と子供一人の3人世帯で、都市部居住の場合18万円、過疎地居住の場合14万円
○老人の単身世帯の場合、都市部居住の場合9万円、過疎地居住の場合7万円
(賃貸アパート居住の場合は、この基準額に都市部で3万円、過疎地で2万円を上乗せ)
T.概説
生活保護制度の目的は法第1条で定めるとおり2つある。
@困窮する者に、最低生