≪特別企画≫
厚生労働省とホワイトカラー・エグゼンプション
〜ホワイトカラー・エグゼンプション・パート2〜
平成18年12月24日
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| U. 「今後の労働時間制度に関する研究会報告書」の検証 | |
| (1)総論(現状分析と方向性)について | |
| (2)具体的現状分析について | |
| (3)成果主義労働者のための新制度について | |
| (4)具体的なエグゼンプション制度について | |
| (5)現行の労働時間諸制度との関係について | |
| V.厚生労働省の姿勢について | |
メインページ 「ホワイトカラー・エグゼンプションと労働時間制度」 へ
パート1 「ホワイトカラー・エグゼンプションに関する緊急逆提言」へ
パート3 「ホワイトカラー・エグゼンプション、事務レベル最終決着」へ
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先の逆提言は、巷で話題が沸騰する中、ホワイトカラー・エグゼンプションの事の発端となった経団連の提言について取り上げ、緊急的に書き下ろしたものである。
経団連提言の後、法案化に向けての模索が厚生労働省素案を元に、「厚生労働省」、「経営側」、「労働側」で始まったが、この三者の意見が正面からかみ合わず、議論の空転が続いた。
経営側の意見は先に分析したように、労働基準法の撤廃を目論むものであり、話にならないものであった。
経団連のメチャクチャな提言を読んだ後、厚生労働省の提示案を読むと概ね正常な論理展開であると感じたが、労働側は厚生労働省提案に真っ向から反対していた。
厚生労働省はこの問題について、苦慮しながら意見集約を図り、ついにこの年末で一気に法案の骨子を固める予定である。
このページは、法案化に向けて準備を進める厚生労働省の考え方についてスポットを当てて、同省の厚生労働行政全体の運営姿勢にまで踏み込んでみる必要があると思い、検証を試みたものである。
厚生労働省は、その後ホワイトカラー・エグゼンプションにかかる検討を重ね、法案の骨子まで煮詰めたものを発表した。それが次の報告(以下「最終報告案」と呼ぶ。)である。
「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)(案)」
(平成18年12月8日発表 労働政策審議会労働条件分科会)
この提案の元になっているものが、経団連提言の後発表された次の報告書(以下「研究会報告書」と呼ぶ。)である。
「今後の労働時間制度に関する研究会報告書」
(平成18年1月27日発表 同研究会)
元になった研究会報告書から厚生労働省の姿勢を探ってみることとする。
研究会報告書の分析・方向性の総論をまとめると次のとおりである。
・労働者の働き方が多様化してきている。
・所定外労働時間が長いまま高止まりしている。
・成果主義労働者が増加している。
・心身の健康の確保の必要がある
・長時間労働を抑制する必要がある。
・サービス残業を解消する必要がある。
・仕事と生活の調和を実現する必要がある。
・成果主義労働者に適した労働時間制度を見直す必要がある。
適切な総論姿勢である。
当該報告書以外の提案を見ても、厚生労働省の総論は、適切な見方であり姿勢である。
現行の労働時間制度で報告書は、
@年次有給休暇
A時間外・休日労働
Bフレックスタイム制
C事業場外みなし
D専門業務型裁量労働制
E企画業務型裁量労働制
F管理監督者
について取り上げてコメントしている。
この具体的な現状分析がまったく現状把握不足である!
ボタンの掛け違いの元はこの部分であった!
厚生労働省は、「労働者の働き方が多様化してきており、それに対応させるように労働法規を見直す必要がある」と考えた。
具体的現状把握がまったくできていないため、この思考の発端が大きな誤りである。
問題なのは、現行の労働法規の内容ではない。現行の労働法規が、正しく運用されず、労働法規違反企業が日本中のほとんどを占め、監督官庁たる厚生労働省がそれを野放しにしているということである!
正しい現状分析ができない限り、正しい改善策を講じることはできない。
現状で法令違反企業を野放しにしておいて、どんな法律改正をしたところで状況は何ら変わらないこと明白である!
厚生労働省が苦慮の調整を経て、2007年の国会には法案提出を予定しているが、ここにきてホワイトカラーエグゼンプションの導入について反対するコメントが様々な団体から出されている。
最後まで予断を許さない状況ではあるが、同制度を無視できないことは明らかである。
よって引き続き研究会報告書の分析を続けることにする。
研究会報告書では、成果主義労働者に関して次のような論理を展開している。
「労働者の中には、仕事を通じたより一層の自己実現や能力発揮を望む者であって、自律的に働き、かつ、労働時間の長短ではなく成果や能力などにより評価されることがふさわしいものが存在する。
これらの労働者については、企業における年俸制や成果主義賃金の導入が進む中で、その労働者本人が、労働時間に関する規制から外されることにより、より自由で弾力的に働くことができ、自らの能力をより発揮できると納得する場合に、安心してそのような選択ができる制度を作ることが、個々の労働者の更なる能力発揮を促進するとともに、日本の経済社会の発展にも資することとなる(原文のまま)」。
成果主義労働者がより能力を発揮するために労働時間規制を外すという理屈はおかしい!
労働時間規制があるから能力が十分に発揮できないと一体誰が言ったのだろうか?!
これについては研究会報告書よりも煮詰まった最終報告案で検証することとする。最終報告案の内容は次のとおりである。
(以上原文のまま)
5 自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設 一定の要件を満たすホワイトカラー労働者について、個々の働き方に応じた休日の確保及び健康・福祉確保措置の実施を確実に担保しつつ、労働時間に関する一律的な規定の適用を除外することを認めることとすること。 (1) 制度の要件 1) 対象労働者の要件として、次のいずれにも該当する者であることとすること。 @ 労働時間では成果を適切に評価できない業務に従事する者であること A 業務上の重要な権限及び責任を相当程度伴う地位にある者であること B 業務遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする者であること C 年収が相当程度高い者であること 2) 制度の導入に際しての要件として、労使委員会を設置し、下記(2)に掲げる事項を決議し、行政官庁に届け出ることとすること。 (2) 労使委員会の決議事項 1) 労使委員会は、次の事項について決議しなければならないこととすること。 @ 対象労働者の範囲 A 賃金の決定、計算及び支払方法 B 週休2日相当以上の休日の確保及びあらかじめ休日を特定すること C 労働時間の状況の把握及びそれに応じた健康・福祉確保措置の実施 D 苦情処理措置の実施 E 対象労働者の同意を得ること及び不同意に対する不利益取扱いをしないこと F その他(決議の有効期間、記録の保存等) 2) 健康・福祉確保措置として、「週当たり40時間を超える在社時間等がおおむね月80時間程度を超えた対象労働者から申出があった場合には、医師による面接指導を行うこと」を必ず決議し、実施することとすること。 (3) 制度の履行確保 1) 対象労働者に対して、4週4日以上かつ一年間を通じて週休2日分の日数(104日)以上の休日を確実に確保できるような法的措置を講ずることとすること。 2) 対象労働者の適正な労働条件の確保を図るため、厚生労働大臣が指針を定めることとすること。 3) 2)の指針において、使用者は対象労働者と業務内容や業務の進め方等について話し合うこととすること。 4) 行政官庁は、制度の適正な運営を確保するために必要があると認めるときは、使用者に対して改善命令を出すことができることとし、改善命令に従わなかった場合には罰則を付すこととすること。 (4) その他 対象労働者には、年次有給休暇に関する規定(労働基準法第39条)は適用することとすること。
この件に関する私の意見は次のとおりである。
@対象労働者要件として、研究会報告書では、「自己の業務量について裁量があること」が盛り込まれていたが、最終報告案ではカットされている。業務量に裁量がない者がいかに職務遂行方法や労働時間配分に裁量があっても無意味であることは先の緊急逆提案で述べたところである。
A年収要件を盛り込んだことは、最後の救いと言える。
成果主義労働者に適用除外規定を適用させるに際し、年収を要件とすることの是非については賛否両論がある。
この点について厚生労働省は、「労働時間規制による保護を与えなくても自律的に働き方を決定できると考えるための重要な要素となるため、一定水準以上の額の年収が確保されていることが必要であると考えられる(研究会報告書原文のまま)」として年収要件を盛り込む考え方を採っている。
私の意見としては、年収を要件とすることは筋から言えばおかしいが、そもそも適用除外制度を導入すること自体がおかしいので、シバリ要件を大きくしっかり採ることで少しでも納得感が高まるため、高い水準の年収シバリが必要である。
経団連提言では、年収400万円以上とする提案で、労働基準法をなし崩しにしようという見識の非常識ぶりを世間に露呈することとなったが、厚生労働省は800万〜900万円以上の者に絞りたい考えである。この額は妥当である。この水準に限定すれば、少なくとも中小企業においては実質的に部長クラス程度に限定されてくるからである。
B対象労働者の業務と地位について、
@ 労働時間では成果を適切に評価できない業務に従事する者であること、
A 業務上の重要な権限及び責任を相当程度伴う地位にある者であること
としているが、これだけでは企業の勝手な解釈によって見境いなく誰でも適用されそうな悪い予感がする。
総じてみると、企業が勝手に判断する余地のない年収要件だけが唯一の救いとなっている。
くれぐれも金額をしっかりと規定していただきたいものである。
研究会報告書は、厳密に言えば厚生労働省の意見ではない。厚生労働省労働基準局長が学識経験者を集めて調査研究させたものを厚生労働省として発表したものである。
この項目をよく読むと、論理の矛盾と労働行政の怠慢を自ずから浮き彫りにしていることがわかる。
論理矛盾は「企画業務型裁量労働制」との関係を述べた次のくだりである。
「現行の企画業務型裁量労働制は、そもそも、実際の労働時間の長短と賃金との関係を切り離すことにより、労働者に自律的な働き方を促すための制度として創設されたものであり、当然、その対象労働者には新しい自律的な労働時間制度の対象労働者となるべき者も相当数含まれていると考えられる。したがって、その制度目的や対象労働者が重なることから、新制度の創設に伴い、企画業務型裁量労働制を廃止することも考えられる(原文のまま)」。
企画業務型裁量労働制と目的が同じなのに、どうしてわざわざホワイトカラーエグゼンプションなどという別の制度を導入しなければならないのか?!
労働行政怠慢は「管理監督者」との関係を述べた次のくだりである。
「現行の解釈では、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあり、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な任務と責任を有し、現実の勤務態様も労働時間等の規制になじまない立場にあるという要件を満たすものを管理監督者としてきたところである。
今後ともこれらの労働者について引き続き管理監督者として労働時間規制の適用を除外すべきものと考えるが、他方で、労働基準法制定時にあまり見られなかったいわゆるスタッフ職のうちに、処遇の程度等にかんがみ管理監督者として取り扱うべき者が出てくるなど、企業における人事労務管理の在り方が変化してきており、現行の管理監督者の要件では、その適正な運用を図ることが困難となっている。
このため、労働時間規制の適用除外という同様の法的効果をもたらす新しい自律的な労働時間制度の創設にあわせ、本来の制度趣旨に照らして、その要件の明確化及び適正化を図り、例えば、同制度の対象労働者となることがふさわしいスタッフ職については、管理監督者から除くこととし、円滑に同制度への移行が図れるようにするなどの整理が必要である。その際、管理監督者は、同制度の対象労働者に比べ、より経営者に近い立場にあることに留意しつつ、要件の明確化及び適正化を図るべきである(原文のまま)」。
原文を要約すると、「多くの企業で、本来の管理監督者ではない一定処遇等のスタッフ職が管理監督者として取り扱われており、ホワイトカラーエグゼンプション制度を施行したら、彼らはそちらの制度に移行させて適正な人事運営を図りましょう」と言っている。
つまり、現状の一定処遇等のスタッフ職の取り扱いが適正でなく、労基法違反状態であったのにそのまま放置してしまいました、と自らの行政指導の怠慢を認めている発言である。
ホワイトカラー・エグゼンプション制度。これまで発表されたいくつかの厚生労働省の報告発表ものを読むと、その論理は、経団連のそれとは違い、一見すれば筋道が通り、内容自体も概ね妥当である。
それなのにどうして多くの労働系団体からこれほどまで猛烈な反対を受けるのか!
それは、現行の労働諸法があまりにもないがしろにされ、監督官庁である厚生労働省は企業の違法行為を法にしたがって罰することをせず、露骨な見て見ぬふりをし続け、労働者の信頼を失ったからである!
私たち労働者は、「しっかり法で保護措置を取りましたから大丈夫ですよ」と言われて、何度も痛い目に遭っている。
裁量労働制が施行されて、業務や時間配分に裁量権がないのに、労使協定もないのに、強引に裁量労働とされて残業代が一切払われず、長時間労働を実質的に強制されている労働者が現に続出していること、多くの人が実際に経験し、見聞きしているところである。
正論が正論であるためには、法や理論が現実に実行されていなければならない。
厚生労働省は、現行の労働法規を徹底遵守させて、労働者の信頼を得るところから始めなければならない。
国民・労働者のよりよい厚生と労働を推進するための国家機関である厚生労働省が法をないがしろにして、反対に労働者を苦しめている現状において、正論を述べたところで誰も耳を貸さないのは自明の理である。