万能タイプのインフルエンザワクチン開発成功の報道について

1月29日の読売新聞が伝えるところによると、国立感染研究所、北海道大学、埼玉医科大学、日油(旧日本油脂)からなる厚生省研究班が、あらゆるタイプのインフルエンザに対して効果のある万能インフルエンザワクチンの開発に取り組み、現在、マウスを使った動物実験について有効性を確認したとの成果を26日、東京新宿区戸山の国立感染症研究所で発表、との報道がなされた。

 インフルエンザワクチンは、その表面突起のうちのHA(ヘマグルチニン)によって人の細胞に付着、細胞内へとりこまれてゆく。この付着によって、ヒトの細胞で増殖し、やがてその細胞を破壊しつくして飛び散ってゆき、爆発的勢いでヒトの体内を破壊してゆく。

 従来のワクチンは、このHAという表面突起を攻撃する。すなわち、インフルエンザウイルスをニワトリの胚の中で増殖させ、そのウイルスを抽出破壊し、HAの部分を不活化・精製し、ワクチンとする。このワクチンを打てば、ヒトの体内には、HAに対する抗体が産生され、かりにインフルエンザワクチンが体内に侵入して来た場合、そのウイルスのHAに抗体が攻撃をかけ、インフルエンザワクチンがヒトの細胞にとりつけなくなる。この抗体の働きによってインフルエンザの感染を食い止めるという方法がとられているのである。

 しかしながら、インフルエンザは、HAを含むその表面抗原を、くるくると変異させてはくり返し侵入してくる。このために、毎年ワクチンはその年に流行するタイプをあらかじめ予想して作成されている。仮に予想がはずれてしまうと、インフルエンザワクチンはほとんどその効果がなくなってしまうということもありえるのである。

 そのため、今回報道された研究班は、この表面の突起を形成するタンパク質ではない、別のタイプのワクチンを開発しようとの意図で研究に取り組んできた。着目したのは、インフルエンザウイルスの内部のタンパク質に対しての抗体の産生をうながすようなワクチンであるという。

 ヒトだけでなく動物の体内では、ウイルスから攻撃をうけた細胞は、ウイルスの一部を切り取って細胞外に提示して、これを認識したTリンパ球という免疫細胞から自己を破壊するようにと、『自爆のお願いサイン』を提示する能力がある。抗原提示とよばれる機能の一つである。

 ワクチン開発では、新型である鳥インフルエンザを含めてこの抗原提示されるインフルエンザウイルスの内部構造の部分を特定し、これを人工合成できたことによって、新たなワクチンの開発が可能になったのではないか、と推定される。

 マウスには、ヒトHLAトランスジェニックマウスというヒトの遺伝子を組み込んだものを用いてワクチンの有効性を確認したという。したがって、このやり方であれば、マウス内でありがながら人間の免疫応答に近い状態で実験ができた、ということを示すものと思われる。

 さらに、動物実験では、ウイルスが変異した場合にも効果があったことを確認した、と伝えている。

 ただ、この方法は、いわば“攻撃型”のワクチンではない、“自爆型”のウイルス抑制方法である。抗原提示できる細胞というものは、一般的にはマクロファージ、B細胞、樹状細胞等の免疫にかかわる細胞で免疫上で重要な体内の機能を担っている細胞が中心であるとされている。したがって、感染をおこした細胞すべてにこのワクチンは果たして効果をもたらすのかどうなのか、ということがまず問題である。

 さらに、感染が急激に広がったとき、この“自爆型”のワクチンでは逆に自己破壊的に作用しないのか、ということである。つまり、極端な言い方をすれば、インフルエンザウイルスは死んでしまったが、そのまえに感染を受けた人間が先に死んでしまった、ということにならないのか、ということを想定する必要があるのではないか、と思うのである。

 従来のワクチンに比べて、現在のところ感染に対しての効果が安全で確実にもたらされるものなのか、注目しておく必要があるのではないか、と私は思う。もし、安全で確実に効果があがるのであれば、このワクチンは画期的であることは、むろん言うまでもない。