彼が彼女に出会ったのは、ラグオルに降り立ってから半年ほど経過したころだった。
これまで以上に強力なエネミーが出現し始め、慣れたラグオルの森でさえ危険きわまりない場所と化している。
今もトーロウと呼ばれるエネミーに囲まれて強烈な攻撃を喰らったものの、なんとか木陰まで命辛々逃げ延びることができた。
一息つき、後ろ手にバックパックを漁ってトリメイトを探したが一向に出てこない。
トリメイトだけでなかった。ディメイトもテレパイプですら出てこない。
手前に持ってきてみると、バックパックの底には大きな穴が開いていた。
どうやらここまでくる間にエネミーの攻撃を受けてしまったようだ。
「まいったな……」
焦燥感が顔に漂っている。
このまま敵に会わずにシティまで戻れるだろうか?
それとも危険を承知でコンテナを壊して探すか……
大きく息を吐いたその刹那、
──がさり。
背後で物音がした。
追ってきた!?
ホルスターからハンドガンを引き抜き、音のした方向へ構える。
10秒……20秒……
1分経ってもエネミーは出てこなかった。
不安に駆られながらも小銃を顔の前で構えたまま、木々をかき分けて様子をうかがってみる。
大丈夫だ、エネミーはいない。
戻ろうときびすを返し、視界を移動させたその端に不意に赤い色が入ってきた。
視線をゆっくりと落とす。
──そこには少女がいた。
赤を基調としたコスチュームに身を包み、大きな木を背に座り込んでいる。
顔は俯いたままで、まるで生気がない。
「大丈夫かい?」
恐る恐る尋ねてみたものの、返事は返ってこない。
彼は改めて彼女をじっくり眺めた。
小柄で華奢な身体を包んでいるコスチュームはフォマールのものだ。顔は帽子と俯いていることで見えないが、アッシュグレーの髪は斜陽を浴びてキラキラと輝いて見える。
その髪や衣装に乱れはなく、エネミーの攻撃をかいくぐってここに辿り着いたようではなさそうだ。
彼は心配になり、足の間に置いてある彼女の手を出して脈を取ってみた。
鼓動はしていなかった。
それもそのはず、彼女の手はアンドロイドのそれだったのだ。
彼はどうしようか暫し悩んだが、彼女を背負ってパイオニア2に戻っていった。
それから3日後、彼女は目を覚ました。
彼は自分の名前「ガナーズ」とハンターズという身分を明かし、彼女の名前とどうしてあそこに倒れていたのかを尋ねてみた。
彼女はひとこと「メルリーン」とだけ答えた。
ただ、それ以外は思い出せないと言う。
何らかのショックによる混乱であろうか?
それよりも気になることがあった。
通常アンドロイドは人工皮膚の着用を認められていない。それはヒューマンやニューマントとアンドロイドを区別する為なのだが、 このメルリーンの頭部はヒューマンとなんら変わりない(耳はもちろん小さい)。しかし頭部より下はアンドロイドの身体なのだ。
無礼を承知で、寝ている間に頬の辺りを指で押してみたところ、ふっくらと柔らかくてとても人工皮膚を使用しているとは思えなかった。
つまり──
頭部はヒューマンのままということになるのだが……
そんなことがあるのだろうか?
人道的なものとしてそれはまずあり得ないし、政府も身体損傷によるアンドロイドパーツの使用は禁じている。
なによりここまで大がかりなものになるとよほどの専門的知識と科学力、そして資金が必要となるだろう──
「あの……」
おとがいに手を当てて考え込むガナーズにメルリーンが近寄る。
「わたしは……どうなっているのでしょうか……?」
その顔は不安で一杯だった。
「これってアンドロイドですよね。でも違うんです。わたしはそうじゃないんです。だけど何も思いだせなくて……」
二つの瞳からポロポロと涙が零れ、それを青色掛かった指で拭う。
コスチュームから部屋着に着替えさせる時に見てはいけないと思いつつ見てしまったのだが、メルリーンの身体は頭以外はすべてアンドロイド化されていた。
少し光沢のある青色ベースの身体がそれを物語っている。
「大丈夫、僕が何とかするから。それよりもまだ横になっていたほうがいい。まだ疲れているだろうからさ」
メルリーンは小さく首肯するとベッドに横たわった。
「さてと、ちょっと探りをいれてみるか」
ガナーズは携帯端末装置を何やら操作し、メルリーンを残して部屋を後にした。
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