ジェノサイド-2- 綺真友栄

 この時間のロビーはラグオルへ降りる多くのハンターズで溢れ返る。
 パーティがシティに消える度、また人がやってくる。
 その光景を見ながら待つこと数分、
「おー悪ぃ悪ぃ、待たせちまったな」
 野太い声を背中に受け、
「いや、今来たところだよ」
 ガナーズは振りざまにそう行った。
 目の前には2メートルはありそうな大男が立っている。しかも横にも広いからかなりの威圧感がある。
「悪いね急に頼んじゃって」
「なぁにいいってことよ! 貰えるモンを貰えればな!」
 大男はそう言ってガハハと豪快に笑う。
 彼の名前は「ルシエント」という。
 かわいい名前に反して屈強な身体と厳つい顔は正に戦士(ハンター)だ。
 しかし力だけではない。パイオニア2内のことなら知らないことはないというくらいに強力な情報収集力を持つ。
 もちろんヤバイ方面にも精通しているが、それを頼むにはそれなりの出費が必要となる。
 ガナーズは懐から封筒を取り出しルシエントに渡す。
「で、どうだった?」
 やたらと大きな声を張り上げていたルシエントだったが、次の瞬間には声のトーンを落として、
「その件だけどな、かなりヤバいことになっているぞ」
「というと?」
「実はな、軍の上層部と科学者の一部が手を組んで、対エネミー用の殺戮兵器を創り出そうとしたらしい」
「殺戮兵器!?」
 とんでもない言葉に、ガナーズはオウム返しに聞き返す。
「そうだ。攻撃防御共に優れた自立型兵器。どうやらアンドロイドの持つ強靱な身体とフォースのもつ強大な精神力を組み合わそうとしたらしい」
 尚もルシエントは続ける。
「ここ最近ラグオルへ降りて戻ってこないヤツらがいるだろ? どうやら拉致って実験台にしているようだ。拒否反応を起こして失敗ばかりしていたようだが、先日初めて成功したらしいが──」
「逃げ出した、と」
「そういうことだ。ヤツらは躍起になって探しているらしいがな」
 ふむ、とガナーズは小さく何回か頷く。顔色は曇っている。
「どうすんだ? 研究所に帰すのか?」
「いや、こんな話を聞いてむざむざ帰すわけにはいかないだろう。総督府にでも保護を頼もうか……」
「おい待てよ! 総督府の勅令ってことも考えられる。今はまだ動かない方がいい」
「そうか……そうだよな。ありがとう、助かったよ」
「ああ、何か判ったら連絡するからな」
 ルシエントは指で挨拶をしてニヤリと笑うと、カウンターに向かってき、そして消えた。
 取り残されたガナーズは暫らく考えに耽っていた。

 日が経つにつれてメルリーンの精神状態も安定してきたのか、以前のように急に泣き出したり、自分の身体を見て嘆くことは少なくなった。
 ──こうなってしまったものは仕方がない。
 そう笑うこともあった。
 なんて強いんだろうとガナーズは思う。
 ただ、ルシエントから聞いた真相だけは喋らないようにしていた。
 記憶のほうも大分取り戻せているようだったが、ある部分だけはまったく思い出せないという。
 無理に恐怖を思い出させることはない。
 ほとぼりが冷めるまでこうして暮らしていければ──そう考えることも屡々あった。
 が──
 平和な日々というものは長くは続かないものだ。
 ギルドで少々やっかいな依頼を頼まれ、なんとか片づけて帰宅すると、いつも出迎えてくれるメルリーンの姿がなかった。
 1時間、2時間と過ぎてゆくが、まったく帰ってきそうな気配はなかった。
 彼女の状態を考えると遠くまで一人で出歩くことは考えられない。
 ということは──
 例の関係者に見つかったのかもしれない。
 ガナーズは慌ててこの居住区一帯をチェックしている監視室へと向かった。
 居住区には要所要所に監視カメラが設置されており、連れ去られたとしたらその姿が映っているかもしれない。
 普段では立ち入ることのできないエリアに監視室はあるのだが、外の守衛に大まかな事情を話して中へと入れて貰った。
 すぐさま監視カメラのログを調べさせてもらう。
 時間の逆行と共に人通りが疎らになってゆく。この時間帯はほとんどのハンターズは休息を取っているころだ。
 ガナーズは依頼が長引いたために留守にしていたのだが。
 やがて通路に見慣れたコスチュームのフォマールの姿が映し出された。
「ゆっくり回して下さい」
 その声に呼応してモニタ内のフォマールもゆっくりと歩きだす。
 そしてその隣にモニタからはみ出るほどのゴツいヒューマーが映し出された。
「チッ、そういうことかよっ!」
 ガナーズは管理人に礼を言うと、一目散に転送機を目指して走り出した。
 行き先はどこだ?
 ルシエントはメルリーンが殺戮兵器として創り出されたのはもちろん知っている。手荒な真似をすればどうなるか判っているはずだ。それにカメラ内のメルリーンはとても連れ去られているようには見えなかった。
 誘い出したとしたら……
 今日の依頼は森だった。
 それはもちろんメルリーンにも伝えてある。
 もしこの依頼が初めから仕組まれていたものだとしたら──
 可能性はある。
 ガナーズはシティへと降りて装備を調え、ラグオルの森へと降下していった。


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