「本当にガナーズさんが呼んでいるのですか?」
「ああ本当さ。ちょっと動けないからメルリーンを呼んできてくれってな。メールも見せただろ?」
もちろんそれは嘘のメールであるし、呼んでいるのはガナーズではなく自分をこんな身体にした研究者たちだということはメルリーンは知る由もなかった。
『ピリリリリ』
その携帯端末装置からメールが着信した知らせが入る。
メールの内容を確認したルシエントの口元がつり上がる。
「……思ったより早ぇじゃねえか」
「なにか?」
「いや、ちょいと用事ができちまってな。ここを真っ直ぐ歩いて3つ目の扉を潜ったら左の林へ入っていってくれ。
そこにガナーズはいる。敵も片づいているし、すぐ判るさ」
メルリーンは頷くと、
「ありがとう」
と言って、小走りに駆けだした。
「──ありがとうか。こちらこそありがとうだな」
ルシエントは背負っていたヴィクターアックスを取り出し、
「さて、邪魔者を片づけるとするか」
ときびすを返し、今しがた歩いてきた道に戻っていった。
予感は的中した。
かなり大きな殺気がどんどん近づいてくる。
気配を消さないということは素人かよほどの自信があるかのどちらかだ。
どう考えてみても、今でいえば圧倒的に後者であろう。
オロチアギトを青眼に構えながら、ガナーズは前方の扉を見やった。
ゆっくりと開いてゆき、逆光の中から黒い影が歩み寄ってくる。
「どうして君が?」
問いかけると影は歩みを止めた。その後ろで扉が閉まり正体を現す。
「俺はコレさえ貰えればいいんだよ」
と、ルシエントは親指と人差し指で円を作ってみせる。
「カネは裏切らねぇからな」
いつもと同じようにガハハと笑う。
「裏切ってまでカネが欲しいのかい?」
「裏切る? 俺ぁ誰とも組んだ憶えはねぇぜ。依頼があればそれをこなすだけだ」
「そうか……彼女を助けたいのだけど」
「ああ? 今頃はあの研究者共に捕まっているんじゃねぇのか」
「そこをどいてくれないか?」
その言葉に何を況わんやとばかりにルシエントは笑い出した。
「なんだぁ? 俺とやろうってのか?」
と、ヴィクターアックスを構える。
「そうするしか無いんだろう?」
「そういうことだ!」
言い終わる前にルシエントは行動を開始した。
とはいってもただエモノを右手に突進するだけだが。
体重の乗った横薙ぎの一撃がカナーズの頭一つ分上をかすめてゆく。
体勢を低くしなければそのまま頭だけ飛ばされていたであろう。
尚もルシエントはその回転を利用して、下から上へと斜めに斬り上げる。
これをステップバックでかわしたガナーズは、無防備になった左胸めがけてオロチアギトを突き出す。
がきぃぃん。
甲高い金属音とともに両者の距離が開く。
「武器は防具としても成り立つものだぜ」
柄の部分で突きを振り払ったらしい。
手に痺れを覚えながらもガナーズは尚も攻撃を繰り出す。
何度かルシエントの身体を斬りつけたものの、有効打とまではいかないようだ。
逆に体格・力そして何より経験の差でじりじりと押され出していた。
「貧弱だな。もうすこし鍛えたほうがいいぞ。エネミーも強くなっているしな」
ルシエントには無駄口を叩く余裕すらある。
そして、
「どうぅぅりやぁ!」
渾身の一撃がガナーズの脇腹に食い込む。
喉の奥から熱いものがこみ上げてくる。
やがて口の中が鉄の味に染まり──
「ぐぼぁっ」
ガナーズは血しぶきを上げた。
それでも容赦なしにルシエントは攻撃を加える。
必死に抵抗するガナーズだったが、5発目の攻撃を受けてついに膝をついてしまった。
「どぉうら!」
そこへ体重の乗ったルシエントの蹴りが入った。
ガナーズは5メートルほど飛ばされて、木の根本に寄りかかるようにして止まった。
「……はぁ……はぁ……」
呼吸が弱々しい。
「んん〜もう終わりかぁ〜?」
ガナーズには答える余裕すらない。
「ここまでだな」
そういってルシエントはガナーズのバックパックを取り上げる。
「誰かが通り掛かれば助かるだろう。もっともそれまで命があるかどうかだがな。ガッハッハッハッハ」
そのバックパックからディメイトを取り出し一口に頬ばる。
「あばよっ、生きていたらまた会おうぜ!」
ヴィクターアックスを背負い、バックパックをぽぉんと茂みに放り投げてルシエントは歩きだした。
「……うう……」
霞む視界の中からその姿が消えてゆく。
レスタをかけようにも、とてもテクニックを使える精神状態ではなかった。
正に絶体絶命の状態だったが、
「備えあれ……ばってやつか……」
感覚のほとんどない右手で左腕を覆うようにしているパッドを外すと、内側のポケットから銀色の包みを取り出した。
歯を使いその袋を開けると、中から小麦色の物体が出てきた。トリメイトだ。
以前、バックパックに穴を開けられて中身を全て落としてしまったことがった。
それ以来ガナーズは予備としてパッドの中にトリメイトを一つ忍ばせていたのだが、まさかこういう形で役立つとは思ってもみなかったであろう。
口の中は血が乾いて不快極まりない状態なのだが、これを体内に取り入れなければそれこそ死が待っている。
それでもあわてずゆっくりとトリメイトを噛み砕いてゆく。
「……なんとかいけるかな」
トリメイトを食べきり、武器を支えにしてゆっくりと立ち上がる。
多少感覚が鈍っているものの、やれないことはない。
「必ず助けてみせるからな」
ガナーズはルシエントの後を追った。
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