ジェノサイド-5- 綺真友栄

「──メルリーンか!?」
 悲鳴というよりも絶叫に近い声が2ブロックほど向こうから上がった。
 まだ節々は痛むが、そんなことに構ってはいられない。
 扉を潜り声が聞こえてきた林の中をかき分けてゆく。
 やがて視界が開け──
「あ……ガナーズさん……」
 そこにはメルリーンが立っていた。赤いコスチュームをさらに紅く染めさせて。
 言葉を掛けなければいけないと思ったが、声がでなかった。
 少し踏み出すと何かに蹴躓いた。
 それは変わり果てた姿のルシエントだった。
「あの……わたし……全部思いだしちゃいました」
 少し声のトーンを上げてメルリーンは言う。
「あの日もこうやって人を殺して逃げてきたんです。だって……殺戮兵器として改造されたなんて悲しすぎるじゃないですか。今まで普通に暮らしてきて、ラグオルを冒険して……」
 堰が壊れたように大粒の涙が溢れ出す。
「でも……やっぱり殺戮兵器なんですよね。こうやっていとも簡単に殺めてしまうんですもの」
 と笑った。とても自虐的で悲しい笑い顔だった。
「それにエネミー対策なんて嘘。本当はクーデターを起こす為だって聞いたもの。人を殺すために造られたのよ」
 ガナーズは何も答えない。ただメルリーンの言葉に耳を傾け続けた。
「この数週間はとても楽しかったです。できれば記憶なんて戻らずにずっと暮らしてゆければよかったです」
 くるりとガナーズに背を向ける。
「死ぬのはちょっと怖いけどそれだけ罪を犯したし、わたしがいるとガナーズさんにも迷惑がかかるから……」
 そこで振り返り、
「ありがとうございました」
 いま作ることのできる心からの、精一杯の笑顔をガナーズに向けると、メルリーンは走り出した。
 涙を拭きながら走り、ガナーズの横を通り過ぎ──
 メルリーンは立ち止まった。
 左腕を──アンドロイド化したその腕をガナーズが掴んでいた。
「迷惑なんてことはないよ」
「えっ?」
「過去になにがあって、そして君がなんであれ関係ない。メルリーンはメルリーンだ」
「でも──」
「もう君の生活を脅かす者はいない。もし君を見て悪態を吐く奴がいたら僕がそいつをブン殴ってやる」
 ガナーズはメルリーンを抱き寄せた。
「大丈夫。必ず僕が守ってみせる。誰からも文句は言わせない」
「……ありがとう」
 メルリーンはガナーズの胸の中で泣いた。

 ──後日、ガナーズはメルリーンと連れだって総督府へと向かった。
 タイレル総督を前にこれまでの経緯、メルリーンのこと、知りうる限りの全てを話した。
 総督府は早速捜査に着手。関わったとみられる一部の研究者と軍人を地下房に幽閉し、被害に遭った者たちの合同葬を開いた。
 メルリーンには処分は下されず、ハンターズライセンスも再発行されて生活も保障された。
 奇異の目で見てくる者も多少はいるが、メルリーンはもう気に留めないことにした。
 自分を大切にしてくれる。そしてなにより、一人の女の子として見てくれる人がいるから……

「チッ、トーロウか。やっかいなヤツが出てきたな」
「あらそうかしら? わたしは平気よ」
「そりゃ君はね」
 そういうとガナーズはメルリーンの後からトーロウに太刀を浴びせる。
「もう、わたしを盾にしないでよね。誰だったかしら? 必ず僕が守ってみせるっていったのは?」
「それは言わないでくれっていったじゃないか〜」
「ふふふっ。これで終わりよ」
 メルリーンの放ったラフォイエがトーロウを焼き尽くす。
「まいったな」
 その強さにガナーズはため息をついた。
「守られっぱなしなもの考えものだな〜」
 でもその表情はどこか嬉しげだった。

おわり


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