第5話
暗黒が支配する領域。
微かに光が明滅する。
やがてそれは近付いてくる。
人陰だ。
その人物は剣を手に持ち、迫る闇を払っている。
よく見るとその人、女性は独りではなく何人もの人物達と共に闇を払い続けている。
中でもひと際、派手に動き回り次々と闇を払い光の部分を増やしている女性と思しき人物がいる。
よくみると奇妙に長い耳を持ち腕には長く伸びた爪を持っている。
紫の長い髪を激しく揺らしながらその爪を振るう。
唐突にその女性が
「早くお行きなさい!あなたには成すべき事があるはず!ここは私達に任せて!!
早く!!あれを止めて!!ダーク・ファルスを!!」
その女性がそこまで言うと
私は再び意識を失った。
否、覚醒した。
「あ!」
目を開けるとさっき見た覚えのある花畑にいた。
「あれぇ!?まだ夢の続きかなぁ?」
辺りを見渡すとやはりさっき夢の中で見た景色と同じだった。
天井には青い空と白い雲が流れていて、地面には草原と花畑が広がっている。
そして、あの高い塔も。
ふとついさっきの夢を思い出す。
暗闇の中で迫り来る闇を光の武器で払う人達。
あれは一体。
そして自分にそっくりな耳の長い紫の髪の毛の女の人。
ルキアは思い出したかのように立ち上がり、ふらふらと塔へ向かって歩いて行く。
確かさっきはここに女の人がいたのだ。
だが今はいないみたいだった。
「あの夢は一体何だったのかしら?」
ぼんやりと思い出そうとする。
「我ノ、元ヘ来イ!!」
突然、頭の中に何かが語りかけてくる。しかもボリュームを最大音量にしたような大きな音だ。
そう声ではなく音そのもの、暗い闇の淵から発する音だった。
「何?これは?」
あまりにも大きな音に堪らず耳を塞いでもそれは頭の中に響き渡る。
「早ク、来イ!!」
容赦なくその声は響いてくる。
このままでは頭が割れてしまうと、ふらふらと塔の方へと向かう。
と。
「駄目よ!こっちへ来ては!!まだあなた達は揃ってはいない!ダークファルスに打ち勝つ為の力が!!」
さっき塔にいた女の人の止める声がする。
「オノレ!コノ期ニ及ンデ、マダ邪魔ヲスルカ?」
怒りをあらわにした声が響く。
「急いで戻って!!あの人達を呼ぶのよ!!彼等ならばきっと!!」
ルキアは言われたとおり出口らしき穴に向かって走り出した。
「タトエ戻ッテ、奴等ヲ連テコヨウト同ジ事!我ノ糧トシテクレヨウゾ!!
イマダ、一人ハ我ガ手ノウチダカラナ!!」
哄笑が響き渡るのを後にし私は目の前に現れた転送装置へと飛び込んだ。
「ようやく会えたな。ルキアはどこだ?答えろノトス=ヒューガー!」
目の前に立つ男が動けばいつでも撃てる様に ヴァリスタを構え話し掛ける。
「どうしてここへ来た?エレナ」
ヒューガーはオレの質問を無視しエレナに向かって話し掛ける。
「オレの質問に答えろ!でないと撃つ!!」
脅しではない。オレはこいつを撃つつもりでそう言った。
「君もだハインツ=クルーガー。君程の人間ならば解るはずだこの奥に何が眠っているのかが」
ヒューガーは静かにだが力強くそう言い放った。
「お前!?一体?どう言う事なんだ!?説明しろ!!」
オレはマトモな事を言うヒューガーに少し困惑した。
「言ったとおりだ。ここまで来た君には解るだろう!?この遺跡がダークファルスと言う
災厄を封印した宇宙船だと言う事も。パイオニア1の人々が既にヤツに取り込まれてしまったと
言う事も。レッドリングリコ 則ちリコ=タイレルも奴の復活の為の依代(よりしろ)となっている事も」
全ては予期していた事だった。
ここまで来る間にリコの残したメッセージと予め集めておいた情報と照らし合わせた答えが
今、ノトス=ヒューガーによって全て暴かれてしまったのだ。
「そんな、、、。嘘、、、嘘ですよね!?ハインツ!!?」
信じられないと言った表情でオレにすがりつくエレナ。
オレには何も言う事が出来ない。
「エレナ。安心しなさい大丈夫だ」
ヒューガーが優しい声でエレナに語りかける。
そうきっと彼はこんな感じでエレナに父親として語り掛けていたんだろうと思う。
だが。
「ノトス!?」
困惑した顔でヒューガーを見つめるエレナ。
「まもなくお前達もDFの、闇と破壊の一部となるのだから!!」
悪鬼の様な顔に豹変し、おもむろに腕を突き出しテクニックを発動しようとする。
がオレは間髪入れずにヴァリスタの引き金を絞った。
バス!バス!!バスッ!!
ヴァリスタから発射された3発のフォトン弾は外れる事無くヒューガーに命中する。
が。
「メギドォオオオ!!」
弾を食らいながらもテクニックを発動するヒューガー。
オレに向かって黒い塊が飛んでくる。
「クソ!!」
咄嗟の事でオレは躱す事が出来ない。
突然、オレの目の前に人陰が。
「エレナ!!」
叫ぶ瞬間にその黒い塊がエレナに触れる。
「はぁっ!!」
息を吐き出す様な声が聞こえたと思った瞬間にエレナが、がくっと地面に屑折れる。
オレは慌ててエレナを抱きかかえる。
首筋に手を当てて脈をみる。瞬間、オレの身体に電撃の様な痺れにも似たものが走った後
一気に頭の中が熱くなるのを感じた。
「きさまぁ!!」
息をしていないエレナをそっと地面に横たえると、弾を食らっても尚立っているヒューガーに
向かって歩み寄る。
オレは奴の顔面に思いきり右拳を見舞った。
「ぐほぉ!!」
もんどり打って倒れるヒューガー。
倒れたヒューガーの服の襟を掴み引き起こし
更に顔面に拳を叩き込む。
「がはっ!!」
口から血を吐きうなだれるヒューガー。
こんなもんじゃぁすまさねぇ!!
オレの中の怒りは納まる所か増々湧いてくる。
無理矢理引き起こし鳩尾に拳をくらわす。
「ぐぶっ!!」
前のめりに倒れる。
そこに更に蹴りを見舞う。
「ぐぅ!!」
ぐにゃぐにゃになって倒れる奴。
オレは落ちていたヴァリスタを拾い上げヤツに銃口を向ける。
「死にやがれっ!!」
オレは怒りで目の前が真っ赤になっていた。
「およしなさいっ!!」
オレはその声を聞いた途端に一気に頭の中に満ちていた熱い何かが
醒めて行くのを感じ、その声の主を見遣った。
「その人を殺してはなりません!!」
穏やかだが力強い声でオレを止める。
「ルキア!?」
その声の主はルキアだった、だが少し様子が変だ。
「その人は奴に操られていただけ、罪はありません」
ルキアのものとは思えない優しく威厳に満ち且つ聡明な感じのする声だ。
「だが、エレナが!彼女は死んだ!!」
オレの目から熱い雫がこぼれ落ちる。半機械の目でも涙は出るのだと産まれて初めて今、気付いた。
「大丈夫ですよ。ハインツ=クルーガー」
今度は全てを包む母親の様な優しい声でなだめる。
ルキアは右手をエレナに向けると
「リバーサー」
エレナの体を光が包む。
「もう大丈夫」
優しく微笑む。
オレはエレナに駆け寄り抱き上げる。
息をしている!!
さっきまでは確かに息をしていなかった彼女だったが、今はゆっくりと息をし胸を上下させている。
「よかった!」
オレは心の底から安堵し、エレナを助けた人物を見る。
「あなたは。ルキアでは無いですね?」
そうだルキアには死んだ人間を生き返らせるなんて事は出来る訳が無い。
「私は、、、いえ今はそんな事を話している場合ではありません」
彼女はかぶりを振りつつ
「まもなくダークファルスが復活します。これはもう止めようが無い事、既に決まっていた事。
避けようのない運命。」
目を伏せ語る。
「これは遥かなる時の彼方から延々と続く光と闇の相剋。
いつ果てるとも無く続く輪廻の輪。」
虚空を見つめる彼女、その瞳の奥には永遠とも思える時の流れを感じさせる。
「あれは破壊そのもの。この宇宙が誕生して以来、破壊と混沌を繰り返して来た存在。
かつて封印され、このラグオルへと宇宙船ごと埋められた。
しかし、それは目覚める運命だった事。」
オレの方に視線を戻す。
「しかし、今再びそれを封じる事が出来ます。あなた達の手によって!」
力強くそう言う。
「ちょっと待ってくれっ!!オレにはそんな大それた事なんて出来ない!!
オレは只のしがないハンターズ風情だぜ?世界とか宇宙を救うなんて、どっかの英雄のする事だぜ!?」
慌てて彼女の言葉を否定する。
「いつの世も英雄とは只の何でも無い平凡な人間がなるものです。
かつての私も、、、。ふふ。そんなに英雄と言う言葉にしゃちほこばる事はありませんよ」
女神の様な笑顔をオレに向けている。
一体何者なんだ?どっかで会った様な気もするが、、、?
「しかしヒューガーの話では、あのリコでさえもそのDFとか言うのに取り込まれたとかって言うが?」
オレがぶん殴ったせいで地面にノビている奴を見つつそう言う。
「彼女は、、大丈夫、今ならまだ間に合うわ。でもこのままでは本当に手遅れになってしまう
そうなるともう誰にも手が出せなくなってしまう」
そう言うと、倒れているヒューガーの方へ歩み寄ると
さっきと同じように右手を翳す。
「レスタ」
奴の体を光が包む。
「私を殺せ」
目が醒めた途端にヒューガーはそう言った。
「私は、、自分の娘をこの手で、、、くぅ!」
ヒューガーも涙を流し己が犯した罪を悔いている。
「先程も言いましたが、あなたに罪はありません。もし、あなたがそれを罪と思うならば
償いなさい。ダークファルスを封じる事で。」
「ノトスお義父様。私は大丈夫ですわ」
エレナがヒューガーの手を取る。
「エレナ!?すまない、、、」
親子の再会か。オレはふとルキアはどうなっているのか疑問に思う。
「大丈夫ですよ。もうすぐルキアちゃんを戻しますから。もう少しだけ話をさせて下さい」
とオレの気持ちを察した彼女が言う。
「これであなた達がダークファルスと戦う為に一番大切な物を持っている事を確認できました」
「大切な物?」
オレは問う。
「ええ。人間にとって当たり前に皆が持っている物です。人を大切に思う心と。
人を愛する心です。」
オレ達を見回しながら彼女は話す。
「忘れないで下さい。あなたの流した涙の暖かさを」
「忘れないで下さい。どんなに闇が迫って来ても、どんなに心が闇に捕われても、
あなた方の心に愛がある限り、闇には決して負けないと言う事を」
「それでは御武運をお祈りいたします」
どこかへ去ってしまう様子の彼女にオレは最後に一番聞きたかった事を訪ねる。
「最後に一つだけ教えて下さい!あなたの名前は?」
オレがそう聞くと
彼女の唇が三文字の言葉を発する。
オレはその言葉をしっかりと心に刻んだ。
彼女が目を閉じた途端にそれまでルキアの体から発せられていた不思議なオーラが消える
と次の瞬間。ルキアが再び目を開ける。
「ハインツ!!」
そこにはいつものルキアがいた。
第5話 了
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