「疾患としてのギャンブル」


菊陽病院 精神科 赤木健利先生

「くまもとたより」1.2号より発行者の承諾を得ました。
2003.2.8


 通称ギャンブル依存症は正式には、「病的賭博」という名の疾患として認められている。国際疾患診断基準ICD−10のF−63衝動行動の抑制の障害の頃に、抜毛症や盗癖など立派な疾患などとともに、この病名が登録されている。
 日本でも厚生労働省がこの基準を採用しているからりっぱな疾患のであるが、しかし、まだ病的賭博の治療を受け入れている病院は少ない。まだまだ「好きでやっていることに健康保険を使ったり、生活保護を出したりするのはおかしい」という反論がでそうだと思ってしまう。
 かつて、アルコール依存症も、急性アルコール中毒や慢性アルコール中毒は「中毒性精神病」として認められていたが、アルコール依存症は「好きで飲んでいるやつに金を出すとは何事か」といわれたものだった。

 ギャンブル依存症の病理は、アルコール依存症と同様、

@ 強迫観念または優格観念、振り払おうとしても払えない強い要求やとらわれがあり。

A その要求を抑えることができない強迫行為または衝動行為が中核である。

B 病気と呼ぶからには何らかの被害がある。被害の中にはギャンブルの元手を得るために不当不法な手段を用いることやギャンブルの結果、経済的に困ったり、多額の時間を浪費したり、仕事や重大な約束を守らなかったりすること、そしてその結果、家族や職場における人間関係や機能に重大な社会的障害を及ぼしたりすることなどが含まれる。

C さらに、このような被害があるにもかかわらずギャンブルを繰り返す、という重大な病気の兆候である。

 精神病理としては、むしろ、この「障害があるにもかかわらず繰り返す」ということ、あるいは「被害を乗り越えてやってしまう」、「それを忘れるためにやる」、「被害を悔やんで自分を罰するためにやる」、などという心の動きが病気を進行させているようである。さらに困ったことに、ギャンブルにはわくわくと、ときめくような覚醒的快感がある。ギャンブル性の高いものほど大きな快感があるが、また一方、負け続けているときに大勝ちすると特に大きな快感が得られるという困った特徴があって、深みにハマっていく要因のひとつになっている。
 つまり、ギャンブルに勝ちたいがためにもやるのだが、ギャンブル依存症は「負ける」ことを繰り返しながら、どんどん進行していくのである。さらに被害が出始めると「嘘」をつき始める。

 被害がひどくなるにつれ生活全般にわたって嘘に覆い尽くされるようになる。自分自身にも何が嘘か、何が真実なのかわからなくなる。被害や嘘を隠すためにギャンブラーはまわりに気を配り優しくする、しかし行き詰ると黙る。また孤独を好むようになる、そうして反省する気持ちは薄れ、やり直す意欲も削られていく。
 ギャンブルの快感の大きさに比較すると人生のいろんな大切なものも、たとえば仕事や趣味やスポーツなども、すべて単なる退屈なものに過ぎなくなってしまう。「勝ち」を夢見ながら負け続ける。いつか大勝ちしてみんなを幸せにしてやることで見返してやる、などと楽しい空想をしている。
 まるで深刻味のない、こういった人格の変化を見て、まわりは見切りをつける。見切りをつけられないのは大抵、世間体を気にしている家族である。家族の中でも冷静な人はまず「これはおかしい、病気ではないのか」と気づく。しかし「借金は返さないわけにはいかない。それが道理だ」、などと家族が責任をとってしまい、家族が尻拭いをしてしまう。尻拭いは確かに一時的な効果があって、数ヶ月は反省と感謝の気持ちからギャンブルからはなれることがある。しかし、長続きはしない。次第に「借金がなくなって肩の荷が降りた、少しぐらいならやってもいいかな」という考えがわき、次第に居ても立ってもおられないくらいの強い欲求に発展していく。我慢した分だけ反動もひどい、という人が多い。
 こういうまわりの誤った対応も依存症を進行させていく要因になっているのである。

 治療の基本は「まず依存症は病気である」こと、「だから病院で治療を受ける」ことである。治療の中心は教育的集団精神療法であり、疾病の理解と、自分が病気にかかっているという「気づき」(病識を得ること)、そして自分の人生を変えていく準備である。これを基本にしながら外来通院と平行して、自助グループに繰り返し繰り返し出席して、人の話を傾聴し、自分の話を共感的に聞いてもらうことである。この中で自分の問題に「気づき」、生き方を変えていくことができる。そして「生きててよかった」と思える人生は何か、「自分の命の尊さを感じながら生きる」、つまりスピリチュアルな生き方を獲得することが可能になるのである。今のところ、ギャンブルから回復するにはGA(ギャンブラーズ・アノニマス)しかない、これが現実だ。  


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