2003.10.14 馬場純雄
              (C) SumioBaba 2003

                  [SB003]
          「非局所的相互作用」によるBINDING

                  ******

 [SB001]で、[A]と[B]を仮定すると[D]が導かれることを示しました。この
[D]は、脳Bのどんな小さな一部B1でも、B1に随伴する心M1の状態がB1
の機能だけで(すなわち、B1の「初期状態」およびB1が受ける「周囲から
の局所的相互作用」の2つだけで)決定せねばならず、脳Bの残りの部分
B2(=B-B1)の物理状態には依存しないこと主張しています。つまり、脳B
のマクロな領域を何かが「非局所的相互作用」で結び付けないと、脳Bに
随伴する心Mは、個々のニューロン、個々の分子・原子・素粒子にまで
分解し、消滅することを意味しています。現実には、脳Bには立派に心M
が随伴していますから、脳Bのマクロな領域が「非局所的相互作用」で結
び付けられている事実を示しています。そこでこの「非局所的相互作用」
について、もう少し積極的に考えてみます。
 
 脳Bの中の2個のニューロンをB1,B2とします。そして、B1+B2(=B12)全
体を、「非局所的相互作用」が結び付けているとしましょう。B1に随伴す
る心M1の状態は、B1の機能だけでは決定できなくなり、「非局所的相互
作用」のためB2の機能にも依存します。B2に随伴する心M2の状態も、
B2の機能だけでは決定できなくなり、「非局所的相互作用」のためB1の
機能にも依存します。B12に随伴する心M12の状態は、B12の機能だけ
で決定します。このM12は、B1の機能だけで決定するM1でもなければ、
B2の機能だけで決定するM2でもないし、そのようなM1とM2の独立した
和でもありません。
 2個のニューロンだとまだ単純ですが、1万個、1億個ものニューロンが
複雑に絡み合えば、極めて高度な情報処理機能が構成できるでしょう。
脳B内部のそのような領域Ba全体を「非局所的相互作用」が結び付けて
いるとすると、Baに随伴する心Maもまた、極めて複雑な状態になり得る
でしょう。しかもMaは、Baの機能に対応した様々なクオリアを持ちながら
も、2つ以上の独立した部分に分解できない「1つの心」という統一性を持
てるはずです。
    Ba全体を「非局所的相互作用」が結び付けている

    Ba全体に統合された「1つの心」Maが随伴する
とは、互いに必要十分なのではないでしょうか?
 binding という言葉が有ります。脳の様々な機能で産み出された様々
なクオリアが、「1つの心」 に統合される(束ねられる)という意味です。例
えば、「色」と「形」と「動き」とは、脳の異なる領域で情報処理され、それ
らが binding されて、「赤い車が猛スピードが走って行った」といった知覚
が構成されるらしいと言われています。「客観的面」(関係論的側面)の機
能だけであれば「局所的相互作用」だけでも、機能の統合は可能ですが、
「主観的面」(実在論的側面)すなわちクオリアを binding するには、どうし
ても「非局所的相互作用」が必要なのです。

 これは、フリップフロップの問題にも適用できます。フリップフロップ全
体をB、それを構成する2個の素子をB1,B2とします。
 まず第三者の立場から観察する「客観的面」の場合、B1とB2とを分割
した状態では、B1にもB2にも「記憶」という機能は見い出せませんが、B1
とB2とを接合してフリップフロップBを構成すると、B全体の中に「記憶」と
いう機能が構成された、と認識できます。
 ところが「主観的面」(クオリア)の方はそうではありませんでした。[A]と
[B]を仮定して[D]を適用すると、フリップフロップBを構成している時でさえ、
B1に随伴する心M1の状態はB1の機能だけで決定し、B2に随伴する心
M2の状態はB2の機能だけで決定し、B1とB2を分割していた時と何も変
わりません。つまり、B1とB2とを接合してフリップフロップBを構成したとい
う事実が、B1に随伴する心M1にも、B2に随伴する心M2にも、何一つ反
映されません。だから、分割した状態で個々のB1,B2に「記憶」というクオ
リアが随伴していないのなら、フリップフロップBを構成している時も、「記
憶」というクオリアは「創発」できないのでした。
 そこでフリップフロップB全体を、「非局所的相互作用」が結び付けたと
しましょう。すると、B1に随伴する心M1の状態は、B1の機能だけで決定
できず、B2の機能にも依存するようになります。B2に随伴する心M2の状
態も、B2の機能だけで決定できず、B1の機能にも依存するようになりま
す。その時に初めて、フリップフロップB全体に「記憶」というクオリアが発
生する可能性が出てきます。

以上