2004.02.13 馬場純雄
(C) SumioBaba
2004
[SB026]
量子力学は心の統一性を説明できない?
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ホームページ「心は脳で作れない?」
http://homepage3.nifty.com/BABASUMIO/
の第五章「量子力学は心の統一性を説明できない?」の内容について、
簡単に説明します。心の統一性を産み出す「非局所的相互作用」は、
量子力学を適用しても説明できないのではないか?と考える根拠を示し
ます。ただし、私自身、量子力学をどの程度正しく理解できているのか、
全く自信を持てない状況です。間違いが有りましたら、ぜひご指摘下さ
い。
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まず、よく指摘されるように、量子力学は分子・原子・素粒子くらいの
ミクロなスケールでは重要だけれども、ニューロン以上のマクロな物理
現象を考える時には、古典物理学の範囲で十分ではないか?、という
点が挙げられます。私も一応、そう思います。ただし、脳の中にマクロ
な量子効果が存在し得るという根拠を、理論的に示している人もいる
ようですので、単純に無視はできません。
むしろ私は、たとえ脳の中にマクロな量子効果が存在し、古典物理
学で説明できない現象が存在したとしても、それが心の統一性を産み
出すことは無さそうだ、と考えます。
波動関数の「重ね合わせ」について
1個の光子aの波動関数が、脳B全体に広がることは有り得るかもし
れません。しかしそれが、脳Bのマクロな領域を「非局所的相互作用」
で結び付けている、と考える訳にはいきません。粒子としての性質が強
い「フェルミオン」だけでなく、波としての性質が強い「ボソン」の方も、相
互作用する時は、(光電効果のように)、1個の点粒子として「局所的相
互作用」をするだけです。
正常な脳Bを、n(≧2)個の部分B1-Bnが接合されている、と解釈しまし
ょう。
|Bs〉: 光子aの波動関数がB全体に広がっているBの状態
|B1〉: 光子aの波動関数がB1だけに広がっているBの状態
|B2〉: 光子aの波動関数がB2だけに広がっているBの状態
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
|Bn〉: 光子aの波動関数がBnだけに広がっているBの状態
とする時、|Bs〉は|B1〉,|B2〉,・・・,|Bn〉を線形に重ね合わせたもの、と解
釈できると思います。
<1> |Bs〉=|B1〉+|B2〉+ ・・・
+|Bn〉
もし何らかの方法で、この光子aがB1-Bnのどこに存在するかを観測す
ると、どれか1つの状態に収縮します。
<2> |Br〉=|B1〉 or |B2〉 or
・・・ or |Bn〉
添え字のsはsuperposition(重ね合わせ)、rはreduction(収縮)の意味で
す。重要なのは、シュレディンガー波動方程式で求められる|B1〉,|B2〉,
・・・,|Bn〉の時間発展が独立している、という点です。例えば|B1〉の時間
発展は、<2>のように単独で存在する時と、<1>のように他のn-1個の状
態と重ね合わせられている時とで、全く同じものになるはずです。つまり、
<1>のようにn個の状態が重ね合わせられていても、|B1〉,|B2〉,・・・,|Bn〉
相互間には何の相互作用も無い、と解釈できます。
(|B1〉において、B1の中の電子がこの光子aと「局所的相互作用」する
ことは有り得ます。|B2〉において、B2の中の電子がこの光子aと「局所
的相互作用」することも有り得ます。しかし、|B1〉と|B2〉との間には、相
互作用は何も有りません。だから、B1の中の電子とB2の中の電子が、
この光子aの波動関数の「非局所性」を利用して「非局所的相互作用」
をする、ということもできません。これが、波動関数の「非局所性」を利
用して「超光速の情報伝達」ができないことの、1つの説明です。)
<2>の単独状態において、|B1〉に随伴する心M1、|B2〉に随伴する心
M2、・・・、|Bn〉に随伴する心Mnなるものを考えましょう。たとえこれらを
<1>のように重ね合わせたとしても、n個の心M1-Mnは「1つの心」Mに融
合できないと思われます。なぜなら、|B1〉,|B2〉,・・・,|Bn〉相互間に相互
作用が存在しない以上、個々のM1-Mnは、自分が<2>のように単独で
存在しているのか、それとも<1>のように重ね合わせられているのかを
知り得ず、たとえ<1>の状態であったとしても、互いに独立したままだか
らです。nを大きく取り、B1,B2,・・・,Bnを小さくすれば、個々の|B1〉,|B2〉,
・・・,|Bn〉における光子aの波動関数はどこまでも局所化し、点粒子に近
づきます。つまり、たとえ光子aの波動関数が脳B全体に広がったとして
も、それが脳B全体をマクロな「非局所的相互作用」で結び付け、「1つ
の心」Mという統一性を産み出す効果は、何も期待できないと考えられ
ます。
波動関数の「干渉」と「収縮」について
さらに、波動関数の「干渉」や「収縮」も、[心・脳同一説]の立場を取る
限り、意識を説明することはできないと思います。例えば、
|P〉=5|A〉+4|B〉, |Q〉=4|A〉-5|B〉
の時、
|P〉+|Q〉=9|A〉-|B〉, |P〉-|Q〉=|A〉+9|B〉
となり、|P〉と|Q〉の重ね合わせ方の違いで、|A〉の重みは大きくなったり
小さくなったりします。これが波動関数の「干渉」です。しかし|A〉自身の
状態および時間発展は、|P〉,|Q〉,|P〉+|Q〉,|P〉-|Q〉どの環境の中にいる
時も、全く同じです。さらに、
a|A〉+b|B〉→|A〉
という波動関数の「収縮」が起きたとしても、結果として生じた|A〉の中に、
aやbの値がいくらだったのかという情報は何も残っていません。a=1,b=0
だったとすれば、「収縮」など起きていないことになります。つまり|A〉は、
現在自分が単独で存在するのか、それとも|B〉と重ね合わせられている
のかも知り得なければ、たった今「収縮」が起きたのかどうかをも知り得
ないのではないでしょうか。実際、t0<t1とし、
<3> a|A(t0)〉+b|B(t0)〉→|A(t1)〉
<4> |A(t0)〉→|A(t1)〉
の2つを比較すると、確かにその過程は異なりますが、時刻t1における
状態はどちらも|A(t1)〉で全く同じものです。|A(t1)〉を脳状態であるとし、
この|A(t1)〉に「何か意識したか?」と尋ねたなら、どちらも同じ答が返って
くるでしょう。波動関数が「収縮」した<3>の過程を経た|A(t1)〉だけが「意
識した」と答え、波動関数が「収縮」していない<4>の過程を経た|A(t1)〉
の方は「意識していない」と答えるような差は、何も生じ得ないからです。
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このように、波動関数の「重ね合わせ」も「干渉」も「収縮」も、第三者
のメタレベルでのみ知り得る現象であって、|A〉や|B〉自身はそれを知る
こともできないのですから、[心・脳同一説]の立場を取る限り、意識を産
み出す説明には成功しないと思います。いかがでしょうか?
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にも拘わらず、
波動関数の収縮過程が「意識」である
という仮説は、非常に魅力的です。様々な状態が重ね合わせられてい
る時には何も意識できておらず、その中のどれか1つの状態に決定す
る過程こそが「意識」である、という説明は、「意識」の本質を捉えてい
るように感じます。
そこで、ここでも[霊魂説]を取り入れてみます。脳状態|A〉や|B〉は、自
分が単独状態にあるのか、それともa|A〉+b|B〉という重ね合わせ状態に
あるのかを、自分で知り得ません。ところが「霊魂」は、a|A〉+b|B〉全体を
結び付けることができるとしましょう。そして、その時の心の状態は、「霊
魂」が|A〉だけに随伴する時の心の状態でもなければ、「霊魂」が|B〉だけ
に随伴する時の心の状態でもなく、そのような2つの心の独立した和でも
ない、としてみます。そうすれば「霊魂」は、<3>と<4>の過程の違いを認
識でき、波動関数の「収縮」が起きた<3>の場合にだけ「意識した」と答
え、「収縮」の起きていない<4>の場合には「意識していない」と答えるこ
とができるかもしれません。<3>と<4>のどちらの過程を経て来たかの情
報は、脳状態|A(t1)〉の中には有りませんが、「霊魂」がその違いを記憶
している、という訳です。
さらに、2つの脳状態 |A〉と|B〉の差が十分小さい時(プランクの定数h
未満の時?)には、「霊魂」がa|A〉+b|B〉全体を結び付けることができるけ
れども、 |A〉と|B〉の差が大きくなると、「霊魂」は
|A〉と|B〉のどちらか一
方だけしか結び付けられなくなる、と考えましょう。これを「霊魂」の視点
から見ると、まさに、a|A〉+b|B〉→|A〉 または
a|A〉+b|B〉→|B〉 という波
動関数が「収縮」する過程に感じるはずです。「霊魂」が、|A〉に随伴する
状態と|B〉に随伴する状態とに分裂してしまう、と考えれば、「多世界説」
も成立します。
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1個の素粒子を「粒子」として、その位置座標rをできる限り正確に測
定すると、様々な位置に存在する「粒子」状態
|r1〉,|r2〉,|r3〉,・・・のうち、
どれか1つだけが観測されます。1個の素粒子を「波」として、その運動
量pをできる限り正確に測定すると、様々な運動量を持つ「波」状態
|p1〉,
|p2〉,|p3〉,・・・のうち、どれか1つだけが観測されます。ところが、1つの
「波」状態である|p1〉は、無数の「粒子」状態
|r1〉,|r2〉,|r3〉,・・・の重ね合
わせですし、1つの「粒子」状態である|r1〉は、無数の「波」状態|p1〉,|p2〉,
|p3〉,・・・の重ね合わせです。いわば、 |p1〉を知覚している時には、|r1〉,
|r2〉,|r3〉,・・・という「多世界」の重ね合わせを同時に知覚し、|r1〉を知覚
している時には、|p1〉,|p2〉,|p3〉,・・・という「多世界」の重ね合わせを同時
に知覚している、と解釈できます。
R・ペンローズも、電子のスピンの話で、似たような疑問点を指摘して
います。スピンのX成分が+か-かを測定すると、+か-かどちらか一方だ
けが観測されます。スピンのZ成分が+か-かを測定しても、+か-かどち
らか一方だけが観測されます。ところが、X成分が+か-かに決定してい
る状態は、Z成分が+の状態と-の状態の重ね合わせです。Z成分が+か
-かに決定している状態は、X成分が+の状態と-の状態の重ね合わせ
です。(だから、X成分の+-とZ成分の+-とを同時に測定することはでき
ません)。X成分が+か-かを測定すると、+か-かどちらか一方しか観測
されませんが、Z成分が+か-かを測定するという方法で、X成分が+の
状態と-の状態とを、重ね合わせのままで知覚することができる訳です。
つまり、こういうことです。2つの状態 |A〉と|B〉が線形の重ね合わせ状
態にあり、相互作用は何も無く、しかも直交条件〈A|B〉=0
を満たしてい
る場合、「|A〉か?|B〉か?」という観測をすれば、確かに|A〉か|B〉かどちら
か一方しか観測できません。ところが、「|A〉か?|B〉か?」を識別しない観
測をする場合には、a|A〉+b|B〉という重ね合わせのままで観測できる場
合が有る、ということです。|A〉と|B〉は何も相互作用しておらず、互いに
相手の存在や状態を知り得るはずが有りません。明らかに「自分の心」
がa|A〉+b|B〉全体を結び付けている、と考えるべきではないでしょうか?
以上