2004.11.21 馬場純雄
(C) SumioBaba 2004
[SB032]
MはM1,M2,M3,・・・の線形の重ね合わせではない
******
量子力学の不確定性原理および線形の重ね合わせについて考えて
みます。1個の素粒子は、「粒子」と「波」の中間の状態として表現され
ますが、
1つの「粒子」状態は、多数の「波」状態の重ね合わせ
であり、かつ、
1つの「波」状態は、多数の「粒子」状態の重ね合わせ
です。
******
1個の素粒子の位置座標xと運動量pの不確定性関係を、取り敢えず
一次元の問題として考えてみます。
1個の素粒子の位置座標xが広がっている領域をx1,x2,x3,x4,x5,x6の6
つと考え、位置座標がそれぞれの領域内だけに広がっている状態を|x1〉,
|x2〉,|x3〉,|x4〉,|x5〉,|x6〉とします。運動量pの方も6つの領域p1,p2,p3,p4,
p5,p6を考え、この1個の素粒子の運動量pがそれぞれの領域内だけに
広がっている状態を|p1〉,|p2〉,|p3〉,|p4〉,|p5〉,|p6〉とします。
まず、個々の|x1〉,|x2〉,|x3〉,|x4〉,|x5〉,|x6〉はどれも、運動量の方で見る
と、|p1〉,|p2〉,|p3〉,|p4〉,|p5〉,|p6〉すべての重ね合わせだとします。
(1) |x1〉は、|p1〉,|p2〉,|p3〉,|p4〉,|p5〉,|p6〉の重ね合わせ
(2) |x2〉は、|p1〉,|p2〉,|p3〉,|p4〉,|p5〉,|p6〉の重ね合わせ
(3) |x3〉は、|p1〉,|p2〉,|p3〉,|p4〉,|p5〉,|p6〉の重ね合わせ
(4) |x4〉は、|p1〉,|p2〉,|p3〉,|p4〉,|p5〉,|p6〉の重ね合わせ
(5) |x5〉は、|p1〉,|p2〉,|p3〉,|p4〉,|p5〉,|p6〉の重ね合わせ
(6) |x6〉は、|p1〉,|p2〉,|p3〉,|p4〉,|p5〉,|p6〉の重ね合わせ
次に、位置座標xがx1,x2領域全体に広がっている状態は、|x1〉,|x2〉の
重ね合わせで表されますが、それらを重ねる時、|p4〉,|p5〉,|p6〉が打ち消
し
合って消滅し、|p1〉,|p2〉,|p3〉だけの重ね合わせになるとします。|x3〉,|x4〉
の場合や|x5〉,|x6〉の場合も同じだとすると、
(7) |x1〉,|x2〉の重ね合わせは、|p1〉,|p2〉,|p3〉の重ね合わせ
(8) |x3〉,|x4〉の重ね合わせは、|p1〉,|p2〉,|p3〉の重ね合わせ
(9) |x5〉,|x6〉の重ね合わせは、|p1〉,|p2〉,|p3〉の重ね合わせ
さらに、位置座標xがx1,x2,x3領域全体に広がっている状態は、|x1〉,|x2〉,
|x3〉の重ね合わせで表されますが、それらを重ね合わせる時、|p3〉,|p4〉,
|p5〉,|p6〉が打ち消し合って消滅し、|p1〉,|p2〉だけの重ね合わせになるとし
ます。|x4〉,|x5〉,|x6〉の場合も同じだとすると、
(10) |x1〉,|x2〉,|x3〉の重ね合わせは、|p1〉,|p2〉の重ね合わせ
(11) |x4〉,|x5〉,|x6〉の重ね合わせは、|p1〉,|p2〉の重ね合わせ
最後に、位置座標xがx1,x2,x3,x4,x5,x6領域全体に広がっている状態は、
|x1〉,|x2〉,|x3〉,|x4〉,|x5〉,|x6〉の重ね合わせで表されますが、それらを重ね
合わせる時、|p2〉,|p3〉,|p4〉,|p5〉,|p6〉が打ち消し合って消滅し、|p1〉だけが
残るとすると、
(12) |x1〉,|x2〉,|x3〉,|x4〉,|x5〉,|x6〉の重ね合わせは、|p1〉
となります。
******
不確定性原理の言っている事をイメージ的に表現してみました。|x1〉は、
素粒子の位置座標xがx1領域だけに比較的局所化した「粒子」に近い状
態ですが、これを運動量pの方で見ると、|p1〉,|p2〉,|p3〉,|p4〉,|p5〉,|p6〉全部
という広い領域の状態を重ね合わせたものですから、
位置座標xが局所化すると、運動量pの不確定さが増す
ことを示しています。逆に|p1〉は、運動量pがp1領域だけに比較的局所化
した「波」に近い状態ですが、これを位置座標xの方で見ると、|x1〉,|x2〉,|x3〉,
|x4〉,|x5〉,|x6〉全部という広い領域の状態を重ね合わせたものですから、
運動量pが局所化すると、位置座標xの不確定さが増す
ことを示しています。6=1X6=2X3=3X2=6X1が、プランクの定数hに対応し
ます。
しかもこの説明で面白いのは、個々の|x1〉,|x2〉,|x3〉,|x4〉,|x5〉,|x6〉の中
には、|p1〉,|p2〉,|p3〉,|p4〉,|p5〉,|p6〉のすべてが含まれているのに、|x1〉,
|x2〉,|x3〉,|x4〉,|x5〉,|x6〉のすべてを重ね合わせると、|p1〉だけが残り、
|p2〉,|p3〉,|p4〉,|p5〉,|p6〉のすべては打ち消し合って消滅する、という点で
す。
******
さて、この説明が何の役に立つのかというと、脳と心の間にも、これとよく
似た関係が見付かるのです。
私の脳Bを、B1,B2,B3,B4,B5,B6の6つの部分から成るとし、それらの領域
だけに随伴する心を、M1,M2,M3.,M4,M5,M6とします。私が知覚している外
界の状態も、W1,W2,W3,W4,W5,W6の6つの状態が量子力学的に重ね合わ
せられているとします。
まず、個々のB1,B2,B3,B4,B5,B6の中には、外界についての情報が少しず
つしか含まれていないので、個々のM1,M2,M3.,M4,M5,M6の視点に立つと、
どれもが外界の状態をはっきり特定できず、W1,W2,W3,W4,W5,W6すべての
重ね合わせとしてしか知覚できないとします。
ところがM1とM2を線形に重ね合わせると、外界の状態はW4,W5,W6が打
ち消し合って消滅し、W1,W2,W3だけの重ね合わせになるとしましょう。M1と
M2とM3とを線形に重ね合わせると、W3,W4,W5,W6が打ち消し合って消滅し、
W1,W2だけの重ね合わせになるとしましょう。さらにM1,M2,M3,M4,M5,M6の
すべてを線形に重ね合わせると、W2,W3,W4,W5,W6が打ち消し合って消滅し、
W1だけが残るとしましょう。そうすれば、M1,M2,M3,M4,M5,M6を線形に重ね
合わせるだけで、外界の状態は、W1,W2,W3,W4,W5,W6すべての重ね合わ
せから、W1だけの状態へと収縮するように見えます。つまり、
M1,M2,M3,M4,M5,M6を「非局所的相互作用」で融合したもの
がMである、などと考える必要は無く、M1,M2,M3,M4,M5,M6を
線形に重ね合わせたもの(独立した和)を、そのまま脳B全体
に随伴する心Mだと見なしても、外界の波動関数の収縮
W1+W2+W3+W4+W5+W6→W1
を説明できるではないか?
という訳です。
******
ところがそうはいきません。似ているようで、異なるのです。[SB031]で
挙げた例を考えてみます。
物体PQが、
(|P+〉+|P-〉)(|Q+〉+|Q-〉)
=|P+〉|Q+〉+|P+〉|Q-〉+|P-〉|Q+〉+|P-〉|Q-〉
という4つの量子状態の重ね合わせになっているとします。
私の脳の機能を、多数の物質粒子や光子の世界線が複雑に絡み合っ
た世界線ネットワークBであるとし、Bを2つの部分B1とB2が接合されてい
ると解釈します。そして物体PQの状態が4つのうちどれかを私が観測した
時、B1に「Pは+である」という情報だけが、B2には「Qは+である」という情
報だけが入ったとします。
もし、B1だけに随伴する心M1が発生したとすると、
M1にとっての物体PQの状態は|P+〉|Q+〉+|P+〉|Q-〉 ・・・〈1〉
です。もし、B2だけに随伴する心M2が発生したとすると、
M2にとっての物体PQの状態は|P+〉|Q+〉+|P-〉|Q+〉 ・・・〈2〉
です。そして、もしB=B1+B2全体に随伴する心Mが発生したとすると、
Mにとっての物体PQの状態は|P+〉|Q+〉 ・・・〈3〉
です。〈1〉と〈2〉をどんな重みを付けて線形に重ね合わせても、〈3〉にする
ことはできません。|P+〉|Q-〉と|P-〉|Q+〉を打ち消すことができないのです。
「Mが知覚する物体PQの状態」|P+〉|Q+〉は、「M1が知覚する
物体PQの状態」|P+〉|Q+〉+|P+〉|Q-〉と「M2が知覚する物体PQ
の状態」|P+〉|Q+〉+|P-〉|Q+〉の線形の重ね合わせで表現でき
ない
すなわち、
Mは、M1とM2の線形の重ね合わせ(独立した和)ではない
のです。
******
これは、論理積andや論理和orが、線形の重ね合わせで表現できない
事実と対応しています。A,B,Cの3つが0または1の値を取るとし、AとBの
論理積Cを
C = A and B = aA+bB
という線形に表せたとすると、A=B=1のときにC=1ですから、
1=a+b
A=1,B=0のときにC=0ですから、
0=a
A=0,B=1のときにC=0ですから、
0=b
これら3式は矛盾しており、3式を同時に満たすa,bは存在しません。論
理和orの方も同様です。
M1は「|P+〉|Q+〉または|P+〉|Q-〉」を知覚しており、M2は「|P+〉|Q+〉また
は|P-〉|Q+〉」を知覚している訳で、この両者に論理積andを取ると、答は
見事|P+〉|Q+〉となり、Mの知覚になります。
1/(a+b) は (1/a)+(1/b) とは異なる
というのにも似ています。
M1は「Pは+である」という情報だけを持ち、M2は「Qは+である」という
情報だけを持ち、両者は独立しています。一方Mは、統合された「1つの
心」でありながら、「Pは+である」「Qは+である」の両方の情報を持ってい
ます。
M: 「丸」と「四角」の両方を知覚している心
M1: 「丸」だけを知覚している心
M2: 「四角」だけを知覚している心
とする時、
Mは、M1とM2の独立した和(線形の重ね合わせ)ではない
というのと同じです。
M1とM2とが独立している時、両方の状態は、M1+M2という「和」で表さ
れるような状態です。それに対し、M1とM2とが融合して、統合された「1
つの心」Mになっている時には、むしろM1XM2という「積」で表すべき状態
になっている事を意味しています。
Mが外界について持つ情報が増えれば増えるほど、Mが知覚する外界
の状態は限定されていき、波動関数は収縮していきます。そこまでは量
子力学の常識ですが、「1つの心」Mの中に大量の情報が詰め込めると
いう事実、すなわち、Mは大量の情報を持ちながら独立したM1-Mnの総
和に分裂していないという事実こそ、
絶対に有り得ない事が起きている!!
と叫びたいくらい奇妙な事実だと思います。
以上