2004.11.26 馬場純雄
(C) SumioBaba 2004
[SB033]
「ホログラフィー仮説」の長所と短所
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「ホログラフィー仮説」の長所と短所について考えてみます。
「ホログラフィー仮説」とは?
脳Bと心Mとにおいて、その部分と部分との間に「一対一対応」が成立し
ているとは考えられません。もし「一対一対応」なら、脳を構成する個々の
ニューロン、個々の分子・原子・素粒子をB1-Bnとした時、個々のB1-Bn
に随伴する心M1-Mnの総和が心Mだということになってしまいますが、明
らかに事実は違っているからです。特に、心Mの方で、これ以上分解でき
ないと思われる最小単位のクオリアでさえ、脳Bの方では多数のニューロ
ンで構成された複雑高度な機能、すなわち、空間的にも時間的にも広がり
を持つ領域に対応していることは、間違いないと思われます。
「ホログラフィー仮説」とは、脳Bと心Mとの間に、「フーリエ変換」のような
関係を考える仮説です。フーリエ変換とは、簡単に言うと、「粒子」を「波」
に、「波」を「粒子」に変える変換です。つまり、「局所性」と「非局所性」とを
入れ換えるような変換です。量子力学もまた、「粒子」状態と「波」状態とを
フーリエ変換で結び付けるものですから、物理学的にも根拠の有る仮説
だと言えるでしょう。
長所
脳Bの方は、物理学的な3次元空間内に存在し、1次元の時間の経過
とともに状態が変化する物体であり、この物理学的3次元空間を「B空間」
と呼びましょう。これをフーリエ変換して得られる空間を、心Mの状態を表
すものとして「M空間」と呼んでおきます。
「B空間」内で脳Bを構成している2個の素粒子を、粒子1および粒子2と
します。粒子1と粒子2とは十分に離れていて、両者の間に「局所的相互
作用」は無いとしましょう。粒子1に随伴する心M1を考える時、何の「局所
的相互作用」もしていない粒子2が、心M1に影響を及ぼすとは考えられま
せん(「非局所的相互作用」を考えない限り)。ところが、これらをフーリエ
変換して得られる波を、波1および波2とすると、これらはどちらも「M空間」
全体に広がる波であり、両者はいたる所で重なり合っています。つまり、
「B空間」では十分離れた位置に在って、何の「局所的相互作用」もしてい
ない粒子1と粒子2が、「M空間」の中では重なり合った波1と波2になり、も
はや独立していないばかりか、心Mの全領域に何らかの影響を及ぼして
いるように見えます。
こうして、脳Bと心Mとの間の「多対多対応」がうまく説明できるのではな
いか、というのが「ホログラフィー仮説」の長所です。
短所
ところがこの仮説は、本質的な欠点を持つように思います。というのは、
確かに「M空間」において波1と波2とは重なっていますが、重なっている
からといって、「1つの心」という統一性を産み出しているとは言えないか
らです。
その良い例が量子力学の「多世界説」です。多数の世界w1-wnが重な
り合っているとしても、それらが線形で、それらの時間発展が独立してい
れば、すなわち、w1の時間発展がw2-wnの存否と無関係に決まるのであ
れば、w1はw2-wnと何の相互作用もしていないことになり、w1は、自分が
単独で存在しているのか、それともw2-wnと重なり合って存在しているの
かを、知ることさえできません。
波1と波2の関係も同じです。波1と波2の時間発展が独立しているので
あれば、すなわち、波1の状態の時間発展が波2の存否と無関係に決ま
るのであれば、波1は自分が単独で存在するのか、それとも波2と重なり
合って存在するのかを、知ることさえできません。つまり、波1と波2とで
「1つの心」という統一性を産み出すことはできないのです。
短所の克服法1
この欠点を克服する1つの方法は、波1と波2とは、単に線形に重なり合
っているだけではなく、何らかの相互作用をしている、と考えてみることで
す。「M空間」内に波1が単独で存在する場合と、波1と波2とが重ね合わ
せで存在する場合とで、波1の状態の時間発展に差が生じる、と考えるこ
とになります。
ところがこれを、フーリエ逆変換し、粒子1と粒子2の関係を見てみると、
何が言えるでしょうか? 「B空間」内に粒子1だけが単独で存在する場合と、
粒子1および粒子2が両方存在する場合とで、粒子1の物理状態の時間発
展(すなわち粒子1の運動)に、差が生じることを意味します。粒子1と粒子2
とは十分に離れていて、両者の間に「局所的相互作用」は無いと考えてい
ます。にも拘わらず、粒子1の運動が粒子2の存否に影響を受けるという
のですから、粒子1と粒子2との間に「非局所的相互作用」の存在を認め
たことになるでしょう。
つまり、フーリエ変換は、「局所性」と「非局所性」とを逆転させることは
できても、相互作用の「有」と「無」を逆転させることはできない訳です。だ
から、「B空間」内で何の相互作用もしていない粒子1と粒子2は、フーリエ
変換によって「M空間」内の波1と波2に変換されても、やはり相互作用は
無く、「1つの心」Mという統一性を産み出すことはできません。波1と波2と
が重なり合っているから、ついつい「1つの心」Mを産み出しているかのよ
うに、錯覚するだけです。
逆に、波1と波2の間に相互作用の存在を仮定し、それによって「1つの
心」という統一性の発生を説明しようと思うのなら、「B空間」内の粒子1と
粒子2の間にも、「非局所的相互作用」を認めねばなりません。
短所の克服法2
欠点を克服するもう一つの方法が有ります。例えば、2つの映画F1とF2
を同時に一枚のスクリーン上に映し出したとしましょう。映画F1の登場人
物がどう行動するかは、F1のフィルムの内容だけで決定し、F1を単独で
映し出しているのか、それともF1とF2とを重ね合わせて映し出しているの
かには、依存しません。つまりF1の登場人物は、F2の存否を知り得ませ
ん。F2の登場人物も同様です。
ところが、この違いを識別できる者がいます。F1の登場人物でもなけれ
ばF2の登場人物でもない、メタ立場から両方を見ることのできる「観客」
です。この「観客」だけは、F1単独でもなければF2単独でもない、F1とF2
とが重なり合って初めて作り出される映像を、知覚・認識することが可能
です。
「M空間」の中で波1と波2とが重なり合い、どちらにも無い性質(例えば
「干渉」や「うなり」)が発生するのを知覚できる、「観客(ホムンクルス)」が
存在するとしましょう。しかもこの「ホモンクルス」は、「M空間」と「局所的
相互作用」ができると仮定してみましょう。これをフーリエ逆変換すると、
「ホムンクルス」から「M空間」への「局所的相互作用」は、「ホムンクルス」
から「B空間」への「非局所的相互作用」になります。
まとめ
「ホログラフィー仮説」は、脳Bと心Mとの間に「フーリエ変換」の関係を
考えるもので、Bの部分とMの部分との間の「多対多対応」を説明できる
という長所を持つ。
しかし、脳B全体に「1つの心」Mという統一性が発生する謎を説明する
ためには、「フーリエ変換」は無力である。
やはり、脳Bの個々の部分B1-Bnの間に「非局所的相互作用」の存在
を認めるか、あるいは、B1-Bnのどの部分でもない第三者の視点から
B1-Bn(M1-Mn)の関係を認識できる「ホムンクルス(霊魂)」の存在を導入
せねばならない。
以上