2004.11.28 馬場純雄
(C) SumioBaba
2004
[SB035]
波動関数は観測者の心の中にだけ存在する?
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次の問題提起をします。
そもそも1個の素粒子の波動関数の形というものは、物質
世界(4次元時空)の中に「客観的」に実在するのではなく、
その素粒子の周囲の環境を知覚している人の心の中だけ
に、「主観的」に存在するのではないか?
私の心Mは、1個の素粒子と、その周囲の環境との関係性を認識でき
るという、不思議な性質を持っています。私の心Mが認識している情報
は、脳B内部の1個の素粒子の中に詰め込まれているのではなく、脳B
を構成する多数の素粒子の関係性の中に、蓄えられているはずです。
そして、私の心Mがその情報を認識している時、私の脳Bの個々の部分
B1-Bnに随伴する心M1-Mnが、「非局所的相互作用」(俗に言うテレパ
シーのようなもの)で、「1つの心」Mに融合しているはずだ、と主張しまし
た。その作用が、「周囲の環境によって決まる1個の素粒子の波動関数
の形」となって現れるのではないか?という指摘です。
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量子力学の問題を解いている場合を考えます。話を簡単にするため、
時間を含まない定常状態を考えます。箱の中の1個の素粒子でも良い
し、井戸型ポテンシャル内の1個の素粒子でも良いし、ヘリウム原子中
の1個の電子でも良いです。1個の素粒子aと周囲の環境が与えられる
と、ポテンシャルU(r)が決定します。これをシュレディンガー波動方程式
(時間を含まない)に入れると、素粒子aの波動関数の形|a〉が計算で求
められます。
U(r)が与えられると|a〉が決まる。
こう考えると、素粒子aは、周囲の環境との関係性の中で、自分の波
動関数の形|a〉を決めているように見え、それを人間の心が知覚してい
るか否かには無関係であるように思えます。しかし、1個の素粒子aが、
まるで周囲の環境をすべて知っているかのように、自分の波動関数の
形|a〉を決めるというのが、とても奇妙です。1個の素粒子に、大量の情
報など持てないはずです。素粒子aは、自分の周囲の環境を認識してい
るのでしょうか?
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「多世界説」を考えます。存在し得るあらゆる世界の集合をWとし、私
の心Mが知覚するのは、その部分集合W1の重ね合わせである、と考え
ます。
まず私の心Mは、素粒子aの周囲の環境がどんなものかを知覚して
おり、その結果、ポテンシャルがU(r)であることを知っています。この時、
私の心Mは、Wを、
W1: 素粒子aの置かれているポテンシャルがU(r)である世界
の集合
W2: そうでない世界の集合
に分け、W1の重ね合わせだけを知覚していることになります。そしてこ
の、W1という限定された世界の中では、素粒子aの波動関数の形は|a〉
で表されます。
ところが、1個の素粒子aの視点に立つとどうでしょう? 仮に、素粒子
aだけに随伴する心Maが存在するとしたら、Maは外界についての情報
など、何も持たないと思われます。(全く持たない、と断言できるかどうか
微妙なところですが、全く持たないと考えてみましょう)。すると、Maにと
って世界は何も限定されておらず、Maにとっての外界はあらゆる世界
Wの重ね合わせのまま、ということになります。もちろん、素粒子aの波
動関数の形|a〉など、決まってすらいません。すなわち、こう言うべきで
しょう。
素粒子aの波動関数の形は、「客観的」には決まってすら
いない。
素粒子aの周囲の環境がポテンシャルU(r)であることを知
覚している私の心Mにとって、外界の状態は、WからW1に
限定されており、W1の中では、素粒子aの波動関数の形
が|a〉に見えるというだけだ。
|a〉という波動関数の形は、周囲の環境がポテンシャルU(r)
である事を知っている私の心Mの中に、「主観的」に存在す
るだけである。
もう少し過激に言うなら、こうです。
ポテンシャルU(r)が素粒子aの波動関数の形|a〉を決める
のではない。
周囲の環境がポテンシャルU(r)であるという情報を持つ私
の心Mが、素粒子aの波動関数の形を|a〉に決めるのであ
る。
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物質世界の「客観性」を素朴に信じている人は、大いに反発すると思
われます。
そんなことがあるものか!! もしU(r)がU(r)'に変わったとす
ると、たとえキミの心がそれを知らなくても、素粒子aの波
動関数の形は、自ずと|a〉から|a〉'に変わるはずだ。キミ
の心が|a〉を|a〉'に変えるのではない!!
本当にそうでしょうか? じっくり考えてみましょう。
そもそもU(r)というのは、素粒子aの周囲の物理状態を観測して初め
て判るものです。当然、不確定性原理のため、周囲の物理状態の測
定値には、プランクの定数以上の不確定性が伴います。つまりU(r)自
体が、正確に言うと、微妙に異なるU(r),U(r)',U(r)'',・・・の重ね合わせだ
ったということです。それぞれに対応する素粒子aの波動関数の形を
|a〉,|a〉',|a〉'',・・・とするなら、こちらの方もそれらの重ね合わせだったと
言えます。
もし私が、U(r)とU(r)'の違いを知らないとすると、私の心Mの中にど
ちらなのかの情報が存在しないということですから、私の心Mにとって
は、U(r)とU(r)'とが重ね合わせのままであり、素粒子aの波動関数の
方も、|a〉と|a〉'とが重ね合わせのままだった、という訳です。
U(r)であってU(r)'ではない、という情報を私の心Mが得れば、素粒子
aの波動関数の形は|a〉になります。
U(r)'であってU(r)ではない、という情報を私の心Mが得れば、素粒子
aの波動関数の形は|a〉'になります。
U(r)とU(r)'のどちらなのかを私の心Mが知らなければ、素粒子aの波
動関数の形は、|a〉と|a〉'の重ね合わせのままです。
これら3つのどの場合でも、やはり周囲の環境についての情報を得
た私の心Mが、その情報に応じて素粒子aの波動関数の形を決めて
いるのが解るでしょう。
さらに、私は私なりの観測でU(r)だと知り、友人は友人なりの観測で
U(r)'だと知ったとしましょう。物質世界を「客観的」なものだとすると、ど
ちらか一方は間違っていることになります。しかし、物質世界を「主観
的」なものだとすれば、どちらも正しい場合が有り得ます。
私は、Wを、
W1: U(r)である世界の集合
W2: そうでない世界の集合
に分けた時の、W1の重ね合わせだけを知覚しています。この中で、素
粒子aの波動関数の形は、|a〉です。友人は、Wを、
W1: U(r)'である世界の集合
W2: そうでない世界の集合
に分けた時の、W1の重ね合わせだけを知覚しています。この中で、素
粒子aの波動関数の形は、|a〉'です。私と友人とは、住む世界が違うの
ですから、素粒子aの波動関数の形が、私と友人とで異なっていても良
いのです。
素粒子aの位置座標を、できるだけ正確に観測する場合も同様です。
この場合、観測装置が周囲の環境です。観測装置が、素粒子aの存在
位置r=(x,y,z)を、かなりの高精度でr1=(x1,y1,z1)であると表示していると
しましょう。観測装置のこの状態は、観測装置を構成する多数の素粒
子の関係性によって構成されています。観測装置で反射された多数の
光子が私の目に入り、私の脳Bの中に、「観測装置はr1=(x1,y1,z1)であ
ると表示している」という情報が取り入れられます。しかし、この情報も
また、私の脳Bを構成する1個の素粒子の中に詰め込まれているので
はなく、私の脳Bを構成する多数の素粒子の関係性の中に蓄えられて
いるはずです。その情報を読みとり、観測装置がr1=(x1,y1,z1)であると
表示していることを私の心Mが認識するためには、私の脳Bを構成する
多数の素粒子を「非局所的相互作用」で結び付けねばならない、と主
張しました。この「非局所的相互作用」こそが、素粒子aの波動関数を
局所化し、r1=(x1,y1,z1)に存在する「粒子」状態を産み出している、と解
釈できる訳です。
私のそばにいて、まだこの観測装置を見ていない友人にとっては、
素粒子aの波動関数は局所化せず、広い空間内に広がったままです。
この時の友人にとっては、観測装置の状態の方もまた、「r1=(x1,y1,z1)
であると表示している状態」、「r2=(x2,y2,z2)であると表示している状態」、
「r3=(x3,y3,z3)であると表示している状態」、・・・の重ね合わせのままだ
ということになります。
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屁理屈のように思われるかもしれませんが、これが劇的な形で現れ
るのが、いわゆる「絡み合い」です。
例えば、スピンの保存則などを利用し、「電子1のスピンのz成分が+
なら、電子2のスピンのz成分は-」(これを|1+2-〉と書きます)、「電子1
のスピンのz成分が-なら、電子2のスピンのz成分は+」(これを|1-2+〉
と書きます)という、2つの状態の重ね合わせにします。[どちらも+であ
る|1+2+〉や、どちらも-である|1-2-〉は無し、という事です。] この場合
も、どちらなのかを観測しないと、
|1+2-〉+|1-2+〉
という重ね合わせの状態になります。電子1も電子2も、スピンのz成分
は、+と-の両方の可能性が有ります。
電子1と電子2とを十分離した上で、電子1のスピンのz成分を観測し
たら、+だったとしましょう。この瞬間に、
|1+2-〉+|1-2+〉→|1+2-〉
という状態の収縮が起こります。電子1の方は実際に観測したのです
から、+と-の重ね合わせから+だけに収縮するのは、納得できます。
ところが、何もしていない電子2の方も、+と-の重ね合わせから-だけ
に収縮してしまいます。
両者の関係を認識している私の心Mの存在を無視すると、何とも奇
妙です。電子1の方が+と-の重ね合わせから+だけに収縮した瞬間、
いかにも、何かが超光速でその情報を電子2に伝え、電子2を、+と-
の重ね合わせから-だけに変化させたように見えます。しかし、超光
速の情報伝達は、現代物理学の根本理念に反しますし、電子1から電
子2へ超光速で伝わる「意識波」の存在など、これまで検出されたこと
は有りません。
1個の電子が、過去に相互作用した相手の事を覚えてい
て、自分が変化した時に相手の事を思い出し、自分の変
化を時空を越えて相手に伝え、相手の状態を変える
というのは、どう考えても変です。
ここで、私の心Mを思い出すと、話は簡単です。まず私の心Mは、電
子1と電子2との間に「絡み合い」の相関を持たせた事実を知っていま
すから、この時点でWを、
W1: |1+2-〉または|1-2+〉である世界の集合
W2: そうでない世界の集合
に分け、W1の重ね合わせだけを知覚しています。その後、電子1のス
ピンのz成分を観測し、+である事を知ったので、さらにW1が2つに分か
れます。
W11: |1+2-〉である世界の集合
W12: |1-2+〉である世界の集合
そして私の心Mは、W11だけを知覚することになったというのですから、
電子2のスピンのz成分が-に決定しているのは当然です。たったこれ
だけの事です。
W→W1→W11という波動関数の収縮において、Wは何も変わってい
ません。私の心Mが持つ外界の情報が増えるにつれ、私の心Mが知
覚するWの領域が、W→W1→W11と、より限定されていった、というだ
けです。
私の友人は、電子1と電子2との間に「絡み合い」の相関を持たせた
事実を知っていますが、電子1が+か-かをまだ知らないとしましょう。
すると友人は、まだW1の中にいることになります。この友人にとって
は、私の方が「|1+2-〉である事を知った私」と「|1-2+〉である事を知っ
た私」の重ね合わせのままです。
電子1の中には、自分が電子2と「絡み合い」の関係を持たせられた
という情報さえ有りません。「自分が+なら相手は-、自分が-なら相手
は+、という相関を持つ世界」だけでなく、「自分が+なら相手も+、自分
が-なら相手も-、という相関を持つ世界」や、「自分と相手の間には何
の相関も無い世界」である可能性も残っています。さらに、電子1のス
ピンのz成分が+か-かという性質は、電子1と外界(z軸の取り方)との
関係性の上に初めて生まれる性質ですから、電子1自身は、自分の
スピンのz成分が+か-かさえ知り得ないでしょう。つまり電子1にとって
の外界は、Wすべての世界を重ね合わせたものとなります。電子2の
方も同様です。
以上