2005.06.14 馬場純雄
              (C) SumioBaba 2005

                  [SB042]
      量子力学は「非局所的相互作用」を隠蔽している?

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 量子力学には、古典物理学に無かった奇妙な性質がいろいろ現れ
ます。いわゆる「不確定性」「非局所性」「相補性」などと呼ばれるもの
で、ここでは次の3つを挙げてみます。

               (1)[不確定性原理]
    粒子の「位置座標」と「運動量」の両方を同時に正確に測
    定することは不可能で、一方を正確に測定すると、他方は
    不確定になる。

            (2)[多数の状態の重ね合わせ]
    様々に異なる物理状態の重ね合わせというものが存在し、
    その中のどれなのかを観測しないと、重ね合わせのままで
    状態が時間発展していく。

             (3)[観測による状態の収縮]
    様々な物理状態の重ね合わせの中で、実際にその中のど
    れなのかを識別するような観測を行うと、どれか1つの状態
    だけが観測にかかり、他の状態は初めから存在しなかった
    かのように消滅する。「波動関数の収縮」とも言う。

 量子力学を特徴付ける概念として、「非局所性」という言葉がよく用い
られますが、これは、空間的距離を飛び越えて作用し合う「非局所的相
互作用」とは別概念です。現在の量子力学は、相対性理論と矛盾しな
いよう、相互作用に関してはやはり古典物理学と同様に、光速以下で
空間を伝わり、距離ゼロまで接近して初めて及ぼし合える「局所的相互
作用」だけで理論を作っています。
 一個の点粒子であるはず(?)の素粒子の波動関数が、空間内に非局
所的に広がって波のように振る舞ったり、一個の素粒子が二重スリット
の左右の穴を同時に通り、スクリーン上で干渉を起こすことも有ります
が、これもまた、様々な位置に存在する粒子状態の重ね合わせである、
と解釈できます。光電効果の現象等で知られる通り、相互作用する時
は必ず、四次元時空内で二個の素粒子が同一位置に存在する場合だ
け、と考えます。これが「局所的相互作用」です。
 現在のところ、量子力学の正しさは様々な実験によってますます実証
されていくばかりです。では、量子力学の成功は「非局所的相互作用」
の存在を否定している、と見なすべきでしょうか?

 実はそうでもないのです。なぜなら、すでに書いた(1)(2)(3)という奇妙
な性質を含んでいるので、計算結果は実験値とぴったり一致しても、理
論的には、量子力学はまだ問題が残っていると考えるべきです。その
根拠を明らかにするため、次の問題提起をしてみます。

                 [問題提起]
    本当は「非局所的相互作用」が存在しているのに、それを
    「局所的相互作用」だけで説明しようとすると、(1)(2)(3)が
    必然的に生じる。
    すなわち、本当は「非局所的相互作用」が存在しているの
    に、量子力学は相変わらず「局所的相互作用」だけでそれ
    を説明しようとするため、そこに発生する歪みこそが(1)(2)
    (3)ではないのか?

                  ******

 空間軸をx軸だけの一次元の問題として考えます。ヨコ軸に時間軸tを、
タテ軸に空間軸xを取り、一個の粒子の運動を、この平面内の世界線で
表現します。
 粒子が、周囲と何の「局所的相互作用」もしていない場合を考えまし
ょう。もし「非局所的相互作用」が存在するなら、この粒子は、直接ぶつ
かってもいない全宇宙の物質の影響を受け、t-x平面内で描く世界線は、
曲線になると思われます。これを、曲線Lと呼びます。それなのに、
    「非局所的相互作用」など存在しない!!
    周囲と「局所的相互作用」していないこの粒子の世界線は、
    直線を描くのだ!!
と決め付けてみましょう。そうすると、必然的に(1)(2)(3)が導かれる事を
示します。


             (1)[不確定性原理]を導く

 3つの時刻t0,t1,t2におけるこの粒子の位置座標をx(t0),x(t1),x(t2)と
すると、これらは曲線L上の点なので、これらを
    L0=L0(t0,x(t0))
    L1=L1(t1,x(t1))
    L2=L2(t2,x(t2))
で表します。

 まず、時刻t0でこの粒子の位置座標x(t0)を測定したとします。これが
点L0です。次に、時刻t1にこの粒子の位置座標x(t1)を測定したとしま
す。これが点L1です。本当は「非局所的相互作用」のため、この粒子
は曲線L上を運動して来たのに、それを無理やり直線上を運動して来
たのだと解釈すると、この粒子は、L0→L1という傾きk=k01の直線を描
いて来た、ということになります。もし、時刻t0の後、時刻t1ではなく時
刻t2に粒子の位置座標x(t2)を測定したのであれば、この粒子は、L0→
L2という傾きk=k02の直線を描いて来た、と解釈されます。
 ここで、もし曲線Lが直線であれば、k01=k02ですが、実際には曲線
なので、一般に、k01≠K02です。この点が重要です。
 kは、t-x平面内でこの粒子が描く世界線の傾きk=dx/dtであり、この
粒子の速度vを表します。粒子の質量をmとすると、運動量はmv=mkで
す。簡単のため、質量m=1と見なしてmを書くのを省略すると、傾きkが
粒子の運動量そのものとなります。

 さて今、時刻t0に粒子の位置座標x(t0)を測定し終えた状態だとしま
す。次にいつ測定するかは、まだ決めていません。するとこの粒子は、
運動量k01でL0→L1と運動中なのか、それとも、運動量k02でL0→L2
と運動中なのか、両方の可能性が存在し、時刻t0の時点では決まって
いないことになります。

    時刻t0において粒子の位置座標x(t0)を測定すると、時刻t0
    での粒子の運動量k(t0)の方は不確定になる。

 逆も言えます。L0→L1の傾きk01とL0→L2の傾きk02とは異なるの
に、無理して同じ傾きk(t0)の直線で、L0→L1とL0→L2の両方を結び
付けようとすると、どうなるか? L0→L1における点L0と、L0→L2にお
ける点L0とは、もはや同一点ではなく、異なるものになってしまいます。
異なる2つの点L0の時刻だけはt0で同じだとすると、位置座標x(t0)の
方が異なる2つの値x01とx02(x01≠x02)に分裂し、1つに定まりませ
ん。すなわち、

    時刻t0において粒子の運動量k(t0)を測定すると、時刻t0
    での粒子の位置座標x(t0)の方は不確定になる。

これで、(1)[不確定性原理]が導けました。


         (2)[多数の状態の重ね合わせ]を導く

 今、時刻tが、t0<t<t1<t2、である状況を考えましょう。時刻t0での観
測は終わっていますが、次に時刻t1とt2のどちらで観測するか、迷っ
ている状況だとします。
 もし時刻t0に、粒子の位置座標x(t0)を正確に測定したのであれば、
運動量k(t0)の方は、k01とk02の重ね合わせのまま時間発展中、とい
う訳です。もし時刻t0に、粒子の運動量k(t0)を正確に測定したのであ
れば、位置座標x(t0)の方は、x01なのかx02なのか不明のまま時間発
展中、という訳です。
 時刻t1とt2だけでなく、次に測定する時刻はt3,t4,t5,・・・と無数の可
能性が有ります。つまり、観測していない時には、多数の状態が重ね
合わせのまま時間発展していく、という(2)が導けました。


          (3)[観測による状態の収縮]を導く

 さらに、時刻t1とt2のどちらかに粒子の位置座標x(t1)またはx(t2)を
測定すると、その時点で、2つの状態のうちどちらか一方だった事が決
定します。
 時刻t0の時点で位置座標x(t0)を正確に測定していた場合なら、もし
時刻t1に位置座標x(t1)を測定すると、運動量はk01に決定するし、もし
時刻t2に位置座標x(t2)を測定すると、運動量はk02に決定します。
 時刻t0の時点で運動量k(t0)を正確に測定していた場合なら、もし時
刻t1に位置座標x(t1)を測定すると、x(t0)はx01だったことになるし、も
し時刻t2に位置座標x(t2)を測定すると、x(t0)はx02だったことになりま
す。これが、(3)です。
 この解釈の場合、実際に存在したのは1つの状態だけであり、多数
の状態が本当に重ね合わせられていた訳ではありません。ただ、「非
局所的相互作用」の存在のために、時刻t0の時点での「位置座標」と
「運動量」が、次に時刻t1,t2,t3,t4,t5,・・・のいつ観測するかという違い
にも影響を受けるため、時刻t0の時点では、「位置座標」x(t0)と「運動
量」k(t0)の両方を定めることはできない、ということです。

                  ******

 D・ボームは、一個の素粒子の運動に全宇宙の物理状態が影響し得
るとする仮説で、量子力学と全く同じ計算結果が得られる理論を示して
おり、「非局所的な隠れた変数理論」と呼ばれています。ただし、一個
の素粒子に、直接ぶつかってもいない全宇宙の物質が影響し得るとな
ると、たとえ理論だけは作れても、実際に計算することは不可能になる
ため、あまり支持する人はいないようです。
 さらに、二重スリットの実験で、一個の素粒子が同時に左右両方の
穴を通り、スクリーン上で干渉する波のように振る舞うのは、紛れもな
い事実です。実際には片方だけしか通っていないとする立場でこれを
説明するには、周囲が及ぼす「非局所的相互作用」の効果をどう考え
れば良いのか、かなりの工夫が必要です。

 少なくとも、(1)(2)(3)の誤魔化し(?)を取り入れて良いのなら、本当は
「非局所的相互作用」が存在しているのに、それを無視して「局所的相
互作用」だけしか存在しないような理論を作ることは、簡単にできるとい
うことです。量子力学の成功は、「非局所的相互作用」の存在を否定し
ているどころか、逆に肯定しているかもしれないのです。

以上