はじめに:ホウ酸塩が木材保存剤として注目されたのは1930年代です。当初、ホウ酸塩はオセアニアやヨーロッパで実用化されましたが、米国は木材中に固定されない水溶性化合物の使用に批判的でした。しかし、住宅用材の不足に悩んだニュージーランドは、ホウ酸塩処理を条件に虫害に弱いラジアータパインの使用を、非接地・非暴露(雨のかからない)用途に限定して許可しました(1953)。本論文は、ホウ酸塩処理ラジアータパイン材の40年間の総決算として1992年の国際木材保存学会(IRG)で発表され、ハザードクラス2での水溶性保存剤の有効性を確立しました。米国でのホウ酸塩ルネッサンスの原動力になったともいえます。



The Int. Res. Group on Wood Preservation IRG/WP/3692-92
The benefits to New Zealand of Boron salt treatment of Pinus radiata D. J. Cross

ラジアータパインのホウ酸塩処理がニュージーランドにもたらした諸利益

                   

歴史的背景

ラジアータパインは19世紀の始めニュージーランドに導入され、間もなく防風林に適した、成長の極めて早い樹種として注目されるようになった(Poole1969)。ラジアータパインは、当時のカナダ人の林産局長官の好みもあり、最初、紙パルプ原料として1925年から1945年にかけて広く植林された。こんな理由で、生産性に優れてはいるが、耐久性に欠ける樹種が、有効な用途もないまま熱心に植林されたわけである。

 1930年代末に、初期の植林が伐採期を迎え、急激に供給の増加が見込まれるラジアータパインを製材するために、Waipaに最初の国有製材所が建設されると、新木材の経済的な保存処理の探索が急務となった。はじめ、ラジアータパインは箱や梱包材などの低級な用途に向けられたが、軽量住宅用木材の需要が天然針葉樹材の供給を追い越すに及び、住宅建設資金の最大の供給者である国営開発公社がラジアータパインを住宅建設に使用することを熱心に考えるようになった。当時すでに害虫の被害を受けやすい国産樹種辺材の使用が増加して問題を起こしており、ラジアータパインの辺材も害虫に攻撃されやすいことが知られていた。

 このような背景から、問題解決のために国の援助で研究が行われ、住宅のフレーム材をナフテン酸亜鉛で含浸処理する方法が開発され、採用された。この処理法は、第二次大戦終結後、フッ素-クロム-砒素-フェノール混合薬液(タナリス U)の加圧注入法が認定され、唯一の公認処理法となるまでの間、ただ一つの認定された処理法であった。

 また、ニュージーランド科学技術研究局も、簡単なホウ砂/ホウ酸混合物による拡散処理法を開発した。この研究は、広葉樹材をヒラタキクイムシ食害から保護することに成功したオーストラリアの研究(Cummins 1938)をある程度参考にしたものである。ホウ砂/ホウ酸拡散処理法は、経済的で非常に有効な保存処理法であることが証明されたが(Harrow 1951)、これが建築材の処理方法として承認されるには、政府の調査委員会の設立を待たねばならなかった。

 この問題をめぐっての木材保存業界内の軋轢が明白になったため、調査委員会は、新しい処理方法、処理処方の承認を含めた保存処理法及び処理薬品の使用を規制、監督するための木材保存局(WPA)の新設も同時に進言した。

 1955年までには、ホウ素拡散法は、商業的手法として完全に確立され、多数の製材工場で採用された(Harrow 1955)。Entrican1955)によれば、100ボードフットの木材を処理するコストは、CCA加圧注入で40シリングに対し、ホウ素拡散処理では11シリングに過ぎない。

 ホウ酸塩処理に関する最初のTPA規格は、1973年まで改訂されなかったが、世界的なホウ素資源の不足もあって、材芯部で必要とされる注入濃度は、0.2BAEから0.1BAEに低減された。この変更の根拠は、建設途中で数年間風雨に曝されたホウ素処理ラジアータパイン材の解析に基づいている。爾来、0.1BAEが材芯部の注入濃度の規格値となっている。

今日のホウ素処理工業

 1986年の統計値によれば、年間421,000立米のラジアータパイン材がホウ酸塩により処理されているが、これはニュージーランドで、あらゆる方法によって処理される木材の約30%に相当する。

 大部分のホウ酸塩処理は短時間浸漬法であり、束ねた材を薬浴に漬けるか、個々の材に薬液を十分にスプレーした後ブロックに積み上げる。拡散処理は製材直後の生材に対して行わねばならない。処理液の濃度は、材の寸法によるが、ホウ酸換算で15%〜18%である。最初ブロック状に積み上げてから処理した場合を除いて、2〜4日後に、再度浸漬、あるいはスプレーする必要がある。ついで、素早く防水シートで覆い、材寸に合わせて6〜8週間養生する。養生期間終了後、材は最終材寸に合わせて表面仕上げし、識別を容易にするため、縦長の焼きごてで刻印する。

 木材保存局(TPA)を引き継いだ木材保存協議会(TPC)のH1規格を満たすための薬剤保持率は、全ての針葉樹材に対して材芯部(断面積の1/9に相当する中心部)の吸収濃度を0.1BAE、最低総保持率はホウ酸換算で3.4kg/立米とされる。

 消費者の負担する処理コストは平均して$NZ30/立米程度であるが、生産者側のコストは$NZ22/立米と推定される。多数の工場での実際の処理コストの数字は、立米当たり$20から$22の範囲に入る(Cox私信、1990)。

 注:1ニュージーランドドル($NZ)=約70円 

 天井の高さ2.4m、寝室3室の典型的なニュージーランドの住宅では、壁の枠材に使用される木材は3.4立米である。圧倒的多数の家屋では、壁枠材はホウ酸塩処理するので、保存処理のコストは住宅一戸当たり$NZ102となる。

 枠構造は、建物全体の基礎をなすものであり、ホウ酸塩処理した材3.4立米のラジアータパイン材の額面の価値より、はるかに高額の価値を支えている。この事実は抵当権者も認識しており、耐久性材料、即ち枠材にラジアータパインが指定されている場合にはホウ素処理材が使用されていなければ、ローンは借りられないことになる。

 ホウ素処理工業の将来について言えば、今日2,3の改良されたホウ素処理技術が実用化の途上にある。最も簡単な技術は、濃厚ホウ素溶液処理であり、これを使えば処理後数日しての再処理(前出)は全く不要になる。最も手の込んだ技術は、気相ホウ素処理である。この技術は最終切削製品にも適用でき、ほとんど瞬間的に処理が終わり、カバーを掛けて養生する必要もない。



ラジアータパインを未処理で使用する際の生物劣化の危険性

 ホウ素拡散処理は、40年前に導入されて以来大成功を収め、ラジアータパインの軽量住宅への活用を可能にし、結果としてニュージーランド経済に大きく貢献した。この40年間を通じて、正しく処理された木材が仕様書通りに使用され、建物が正しく維持管理された場合、ホウ素拡散処理による保護機能が失敗したと認められた例は、一つもない。

 しかし、ホウ素処理がニュージーランドに広く普及し、成功を収めたこと自体が、今後も引き続きラジアータパインをホウ素処理する必要があるのか、という疑問を起こさせるに至った。問題が全く起こらないと、そもそも何故ホウ素処理が必要だったのか、忘れられがちになる。

 19世紀半ばのヨーロッパ人の初期の移住の頃から、ニュージーランドの建物は圧倒的に木造であった。当時、幾ばくかの広葉樹材に加えて、使用可能な針葉樹材が豊富に入手できたし、また十分に活用された。これらの木材の心材部は、家屋の枠材のような劣化の危険性の低い使用環境では耐久性があったが、辺材は害虫に攻撃されやすく、耐久性不十分であった。問題となった害虫は数種の在来種に加えて、移民が気付かずに持ち込んだシバンムシ(Anobium punctatum De Geer)が含まれた(Miller 1956)

 シバンムシは英国では家具喰い虫といわれたが、気候の適したニュージーランドで急速に広まり、家喰い虫と呼ばれるようになった。シバンムシはニュージーランドで育ったラジアータパインの辺材を攻撃することが知られていたので、20世紀半ばに、前述したように家屋の枠組みに使用する樹種を選定する際にも、最も重要な要因であり、シバンムシの危険を回避するためにも枠組み材の特別な処理が必要とされた。ホウ酸塩の効能を証明する全ての実験で、シバンムシは必ず使われた(Spiller 1948, Spiller and Winsome-Denne 1948)

 Carr1954年には、ラジアータパインを使った家屋に対して、シバンムシの食害は、単に表面的なものに過ぎないのではないかとの見解を示し、ホウ酸塩処理は費用対効果の面ではあまり優れていない、と推論した。その後の40年間で、彼の見解が正しいか否か、証明されたであろうか。

 この問題に自信を持って答えるには大きな問題がある。それは、ラジアータパイン建材のホウ酸処理が広く普及しているため、判断するための基準線、即ち比較例が存在しないことである。国営開発公社をはじめとする担保の供給者や地方の当局は、早くからラジアータパインを枠材に指定するときは必ずホウ酸塩処理するよう主張したからである。

 ホウ酸塩処理が正当化されるか、に回答するためには、未処理のラジアータパインを使用した建物から、直接得られる限られた量の証拠が、どこまで信頼できるのか、という更に大きな議論を持ち込むことになる。

 上の証拠について先ず考えると、未処理のラジアータパインで建てられた家屋は、全て1950年以前に建てられており、このこと自体が解釈上さらなる問題を提起する。当時の木材資源は、今日の多分に人手をかけた人工林の材とは、かなり違った物であったろう。当時の木は、今日よりゆっくり育って、心材比率が大きく、育ちすぎの傾向があっただろう。これらの要因のため、当時の木材は、今日得られる成育の早い新材と比べて、シバンムシにとって栄養価の低いものだったろう。このような条件下でも、軽度の食害は一般的であり、地域によっては、時々中度から高度の食害も見られている。当時の住宅は全て1階建てであり、シバンムシの被害は地面に近いほど、湿気の高いところほど激しい傾向があった。特に内張りのない構造では、食害は天井にまで及んでいる。

 従って、条件さえ整えば、シバンムシは未処理のラジアータパイン枠材の木質のかなりの部分を喰い荒らすにちがいない。しかし、実際の強度低下は推定しにくい。Walford1977)は、ニュージーランド産針葉樹リーム材(Dacrydium cupressinum)が、中程度のシバンムシの食害を受けた場合の、材強度に対する影響を調べたが、確認できなかった。彼は、この程度の食害では、構造問題には発展しないと示唆した。

 しかし、木材保存処理の費用対効果を論ずる場合、構造破壊のみを判定基準とするのは現実的であろうか。被害が目に見えない場所に限られていれば、このような議論もあり得るであろう。しかし、新材では食害の危険性が更に高いとされる状況では、見えない場所だからといって、家屋の損害を成り行きに任せる持ち主は少ないであろう。内張壁以外の建築様式では、どこからでも穿孔虫の成虫が壁のパネルを突き破って出かねないことは、即美観の問題である。

 ホウ酸塩処理を支持するもう一つの論拠は、木材を攻撃する生物はシバンムシだけではないということである。

 ニュージーランドにすでに存在することが知られている木材劣化生物のなかで、潜在的に最大の被害が予想されるのは乾燥腐朽菌、Serpula lacrymansである。ニュージーランドの気候は、この菌の成育に適しているが、この菌に出会うことは希である。繁殖が見られるのは、耐久性の高い木材が使用されていると予想される、比較的古い家や商業的建物である。今日見られるような、広範囲の建築様式と多彩な立地条件を持つ、極めて多くの保存処理した家屋が乾燥腐朽菌の対象として存在していたら、この微生物による被害は、はるかに多かったであろう。

 しかし、この他にも、保存処理していない家屋があれば攻撃しかねない土着の昆虫が存在する。例えば在来種の2種の乾材シロアリ、KalotermesStolotermesがあるが、前者はホウ酸塩処理ラジアータパインが出現する前に立てられた、古い木造建造物中でよく見られる。

 Prionoplus reticularis(カミキリムシ科)は、木材市場や建築予定地に積まれた木材によく卵塊を産み付けるが、今のところ問題になっていない。孵化直後の幼虫は薬剤散布により駆除できる。保存処理していない木材では、含水率が理想的な水準でなくとも、ある割合の幼虫はしばらく生き延びるであろう。偶然に高い含水率に恵まれると、成虫にまで育つ可能性がある。P.reticularisは成長すると、長さ30-40mmに達するので、被害は局部的には深刻なものとなろう。

 未処理のラジアータパインが大量に使用された場合、繁殖する可能性のあるもう一つの甲虫は, Anobiid Leanobium flavomaculatumであろうこの害虫は、大きさや習性はシバンムシ(Anobium)に似ているが、生息地であるニュージーランドの乾燥地域では被害は小さい。しかし、Anobiidはラジアータパインの辺材を攻撃し、Anobiumと比較して、含水率のより低い木材を好む。この2種の害虫を合わせれば、穿孔虫の攻撃は、全ての未処理材の住宅に及ぶことになる。

 構造材としてのラジアータパインにとって、もっと厄介になりかねない甲虫には、外来種のcerambycid(カミキリムシ科 Arhopalus ferus)とゾウムシ類があるが、後者ではTorostoma apicaleが最も知られている。今のところ両者とも被害を起こしていない。

 しかし、将来食材昆虫類が間違って侵入し、思いがけない危険を生ずることはないだろうか。この分野では、沢山の、経済的に重要な有害生物がいる。

 森林庁(Forest Service. 現在のMinistry of Forestry)の記録では、19世紀半ば以来、ニュージーランドには、平均して5年ごとに、新しい木材穿孔虫が入り込んでいる。この割合は今後も続くだろうし、交易物流の増加とともに増加する可能性が高い。世界にはラジアータパインを攻撃する63種の甲虫が知られており、機会さえ与えられれば、これらの甲虫はニュージーランドでも活動するであろう(この統計情報はJohn Bain,1991の好意による)。

 最も危険度の高いものは、地下シロアリ、乾材シロアリ、および甲虫の(Hylotrupes bajulus)と思われる。最後の名前は特に危険で、すでに一度発見されたが幸運にも制御することができた(Milligan 1961)。ニュージーランドでは、未処理ラジアータパインの乾燥材が得にくいこと以外、全ての条件はこの害虫の生存に適している。この害虫は最近オーストラリアでも発見されている(French 私信)。うまく制御できるかは今後の課題である。

 Cryptotermes種の乾材シロアリも明らかな脅威であり、実際ニュージーランドの港で数回押さえられている(Milligan 1970)。ニュージーランドの大部分の地域の気候はCryptotermes種の定着には不適であろうが、南アフリカでの経験からすれば、国内最大の集合都市であるオークランドは十分にC. brevisの繁殖条件を満たすものと思われる。

 経済的に重大な被害をもたらすCoptotermesグループの地下シロアリはニュージーランドでの棲息が可能であり、その実例もあった。しかい、50年ほど前に広葉樹の柱などに隠れて大量に持ち込まれた(Kelsey 1946)ものの、努力の結果駆除された事実から考えて、もう一度定着するには、かなり極端な状況が必要であろうと思われる。そのような状況は、地球の温暖化によって惹起されるかも知れない。一つだけ確かなことは、ホウ酸塩処理したラジアータパインのフレームは、このシロアリの害から免れることである。なぜなら、以前、電柱に紛れて侵入したシロアリのコロニーが、電柱から近所の家に拡がったとき、未処理のダグラスファーの垂木や在来種針葉樹の縁が深刻な被害を受けたのに、ホウ酸塩処理したラジアータパインのフレームは被害を受けなかったからである(Cross 1992, 印刷中)。

結論

 第二次大戦以降、ニュージーランドで大きく変化した要因の一つに、輸入される、特に空輸により入ってくる物品の量と種類がある。更に、入国する人と荷物の流れも増えている。これに従って、新しい昆虫が入ってくる機会も多くなっている。

 有効な検疫業務にも関わらず、毎年1種の割合で、木材に関係する昆虫が入国してくることになる(Bain 既出)。この中で、経済的に深刻な被害を起こしたものが非常に少なかったのは、純粋に幸運だった。気候の変化があれば、被害の危険性は増大する。

 既知の、あるいは未知の害虫の脅威を考えれば、平均的な家屋に使用される枠材のホウ酸塩処理に必要なNZ$102というコストは非常に安いもので、総価格の0.15%の保険料を1回だけ支払うだけである。

 ホウ酸塩処理の要請を解除した場合、1ヶ月1600戸(全て住宅というわけでない)という1989年の新築戸数から考えれば、比較的被害の少ないシバンムシを例にしても、食害が明瞭に現れるまでの10年間に、膨大な量の被害を受けやすい木材が蓄積されることになる。

参考文献

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Introduced Forest and Timber Insects in New Zealand, Internal Report,NZ. For. Res. Inst., Ministry of Forestry

Carr, D.R. 1954  
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Cummins, J.E. 1938
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Entrican, A.R. 1955 
In An. Rep. Director Forestry: N.Z.Forest Service, Wellinton, N.Z.

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Kelse, J.M. 1946
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Spiller, D. 1948
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Spiller, D: Winsome Denne, R. 1948.  
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Walford, G.B.  1977.
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