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 室勝『ベーシック・イングリッシュ入門』(洋販出版、1985年)から、その序章にあたる「Basic English の成立」という文章を転載します。これは、ベーシック・イングリッシュがどのようなものであるかを、その成立の狙いにまで踏み込んで、ていねいに分かりやすく解説した文章となっています。
 同書は現在、残念ながら販売されていません。続きをお読みになりたい方は、図書館や古書店等でお探しください。なお、この「Basic English の成立」の初出は、『国際通信レヴュー』(国際電信電話株式会社)という、一般向けの雑誌でした。
 この文章は、著作権法で保護されています。このページからの転載・二次利用は、しないでください。


 

  Basic English の成立
    ―― 英語の心をつかむコツ ――

                室 勝

 

850 語で自然な英語を表現する

 今までに、大きな誤解を受けたままで消え去った思想や、学問や、運動が、どれほど多くあったでしょうか。現代では、広く人びとに受け入れられるものだけが、立派なものであり、正しいものであるかのように、考えることが一般化しているのではないかと思われることがよくあります。今日のように情報化されている社会を考えると、人目に立つこと、人気を得ることがすなわち価値であるかのように、特に若い人が感じていても、無理ではないかもしれません。しかし、そのものの持っている価値の性質上、どうしても人から容易には受け入れられないような学問や、考え方や、技術があるのだということを想像し、理解する能力が、極めて大切ではないでしょうか。このことは、静かに歴史を振り返ってみると、思い当たることがいろいろあるような気がします。このような理屈をはじめからくどくど述べたのは、Basic English とは何であるかをほんとうに理解するには、これがどうしても必要な最低限度の心の準備であると考えたからです。
 Basic English を草案した C.K.0gden(1889-1957)は、イギリスのケンブリッジ大学で、研究し、活躍していた心理学者です。高度な心理学定期刊行物『サイキ』(『Psyche』)の編集責任者でもあり、博学多才で非常に有名だった人です。また現代における実践的文学批評の基を築いた L.A. Richards(1893−1979)と共著で、1923年には『The Meaning of Meaning』という本を出しました。この本は、現代意味論の源流の1つとなっている古典です。Basic English はこの本の中に書かれている考え方の一部が実現したものです。
 Basic English の母体となる考えは、それまでにも Jeremy Bentham(1748−1832)をはじめ、多くの哲学者や思想家の頭の中にありましたが、ここでは、この問題にこれ以上立ち入る余裕はありません。『The Meaning of Meaning』の中に、主として語の意味の定義について論じた部分があり、その中で、それまでにとかくなおざりにされていた、語の意味を定義する場合に守るべき基準や方法等について、細かく論じています。この部分が大まかに言って、Basic English が考え出された土壌になったと考えてよいでしょう。この土壌に、先に言及した Jeremy Bentham の虚構(fiction)についての考えが種としてまかれ、それに Ogden の天才的頭脳と英語の特殊性という2つの肥料が注がれて生まれたのが Basic English だという比喩も、あながち的を外れてはいないと思います。
 Basic English は簡単に述べてしまうと、わずか 850 語で普通のことなら何でも、自然な英語で表現できる、英語の体系であるということになります。こういうことが可能であるのを理解するのにいちばん大切なのは次のことです。すなわち、表面的に語数を制限しようとは考えないで、重要な思想や、基本的な感情や、社会生活上必要な情報の交換に欠くことのできない最低限度の語を英語の中から探せば、どういう語であるかを調べようというのが Ogden の態度でありました。これは、単に頻度順によって語を制限するのとは、根本的に違うところなのですが、これはきわめて大切な点なので、あとでもう一度触れることにして、先に進みます。
 英語の特殊性ということを言いましたが、これについては2つの点から考えることができます。1つは歴史的、国際的要因で生じたものです。具体的に言うと、昔はラテン語、後にはフランス語が一種の世界語の役目を持っていましたが、その後は英語が次第に世界語的性格を帯びてきたことです。Ogden が新しい言語を作ろうとはしないで、自然言語を整理することで、一種の国際語の役目をいっそう効果的に果し、その上学ぶのに時間を費やすことの少ない言語体系を考え出そうとしました。これが英語に目をつけた動機の1つです。
 1930 年以前でも、英語をさまざまな目的で使っている人の数を約5億と、Ogden は算出しています。その後、第2次大戦を経て、50 年以上もたち、その間の社会や国際情勢の変化などを考えるとその倍以上の人が、今では何らかの分野で、英語に頼って生活しているのではないかと思います。
 英語のもう1つの特殊性は、英語そのものの言語構造に根ざしています。非常に数少ない語(実際には come,get,give,go,keep,let,make,put,seem,take,be,do,have,say,see,send の 16 語)が、人間の根源的操作を示すために使われ、これらの語が、方向や位置を示す短い語、すなわち前置詞その他の不変化詞(particles)とともに用いられて、3千から4千にも及ぶ普通動詞の役目を果しています。このような基本操作を示す語を他の動詞と区別して、Ogden は operation words(操作語)と名づけています。このように operation words を particles などと結合させて、複雑な動作までも示すことができ、英語としても不自然にならず、かえって分析的で明確な表現が可能である点が、英語に内在する顕著な特性です。
 以上のような英語の特殊性を利用し、日常生活の表現必要度とでも言うべきものに基づき、Ogden が最後にたどり着いたのが、850 語から成る Basic English です。
 彼がこの 850 語に到達するのに、何十万語もある英語の語いをそのまま分析の対象としたのではありません。まず常識的に考えて、誰の目にも必要であると思われる 7500 程度の語いを相手として作業を進めました。数名の助手を使って7年もの間、さまざまな分野の文書を簡明な用語で書きかえ、いろいろな人の意見を聞きながら、第1回目の Basic English 語表を 1929 年に前述の心理学誌『Psyche』に発表しました。その後少しの手直しをして、1930 年に現在の形の 850 語表となりました。
 ここで一応 Ogden が考えた方針の概略を次に記してみます。
1. 10 語以下で言いかえることのできる語は、排除してみる。 たとえば、gale は strong wind、 physician は medical man、 bitch は female dog と言い直せば一応ことは足りると考える。
2. 特殊な用語、すなわち専門的分野での術語は省く。
3. 感情的色彩の強い語は除外する。
4. 文学スタイルのための語、すなわち、さまざまな連想を日常生活には不必要なまでに伴う語や、リズムの美しさだけで使われるような語は、採用しない。
 これは、Ogden による語の排除の大ざっぱな基準です。この基準に照らして、排除しておいてもよさそうな語が、時には 850 語の中に見いだされることがありますが、これは、その語が metaphor(隠喩)的に用いられると、大きな表現力を持ったり、あの語があるから、この語はいらないというような、他の語とのかかわりあいで、採用したり、排除したりしたので、たいへん複雑で深い考慮の結果であって、いちいちここで述べるいとまはありません。隠喩というのは、けっして文学がかかわる場合に生じる現象ではなく、日常普通の言語使用の根本を支える原理です。このことは、あとで context(文脈)の話をするとき、もういちど触れます。
 上の4つの基準を読んでみると、850 語の用法を全部認めて採用しているように見えるかもしれませんが、そうではなくて、ある語の意味用法のうち、どれとどれが、どうしても必要であるかを考え、その上で、その語を採用するかどうかをきめているのです。この点も極めて重要なので、言い添えておきます。
 ここまで書いてきて、少し理屈を言いすぎたような気がしないでもありません。特に 850 語と何度も言いながら、その語がどんなものかを提示もしないのは片手落ちであると思われたかもしれませんが、その前に、わずか 850 語で書いた Basic English 文がいかなるものかをお見せし、それについて解説しながら具体的な点に少しずつ触れていきたいと思います。

 

リンカーンの演説を Basic English にすると

 ここに示すのは、有名な Gettysburg における Lincoln の演説です。原文と Basic English 訳(by C.K. Ogden)の順で示しますが、よく読んでいただいて、Basic English 文についての印象やお考えを、一応はっきりさせておいて頂くと、その後のわたしの説明も分かり易いのではないかと考え、少し長くなりますが、引用します。

(原文)
  “Fourscore and seven years ago our fathers brought forth upon this continent a new nation, conceived in liberty, and dedicated to the proposition that all men are created equal.
  Now we are engaged in a great civil war, testing whether that nation, or any nation so conceived and so dedicated can long endure.
  We are met on a great battle-field of that war. We have come to dedicate a portion of that field as a final resting-place for those who here gave their lives that that nation might live. It is altogether fitting and proper that we should do this. But in a larger sense we cannot dedicate, we cannot consecrate, we cannot hallow this ground. The brave men, living and dead, who struggled here, have consecrated it far above our power to add or detract. The world will little note nor long remember what we say here, but it can never forget what they did here. It is for us, the living, rather to be dedicated here to the unfinished work which they who fought here have thus far so nobly advanced. It is lather for us to be here dedicated to the great task remaining before us; that from these honored dead we lake increased devotion to that cause for which they gave the last full measure of devotion; that we here highly resolve that these dead shall not have died in vain; that this nation, under God, shall have a new birth of freedom; and that government of the people, by the people, and for the people, shall not perish from the earth.”

(Basic English訳)
  “Seven and eighty years have gone by from the day when our fathers gave to this land a new nation ― a nation which came to birth in the thought that all men are free, a nation given up to the idea that all men are equal. Now we are fighting in a great war among ourselves, testing if that nation, or any nation of such a birth and with such a history, is able long to keep united. We are together on the field of a great event in that war. We have come to give a part of that field as a last resting-place for those who went to their death so that that nation might go on living. It is in every way right and natural for us to do this. But in a wider sense we have no power to make this place an offering in their name, to give any mark of our respect, any sign of our belief.
  Those men, living and dead, who had no fear in the fight, have given it a name far greater than our poor power to make additions or to take away. The future will take little note of what we say here; will not long keep it in mind. But what they did here will never go from memory. It is for us, the living, to give ourselves to the work which is not ended, which they who were in the fight have taken forward to this point so well. It is for us to give ourselves here to the great work which is still before us, so that from these dead who are in our hearts we may take an increased love of the cause for which they gave the last full measure of their love; so that we may here come to the high decision that these dead will not have given themselves to no purpose; so that this nation, under the Father of All, may have a new birth in the hope to be free; and so that government of all, by all, and for all, may not come to an end on the earth.”
     (Put into Basic English by C. K. 0gden)

 Basic English 文と原文とを、ここでは詳しく比べることはしませんが、皆さんが、それぞれの観点から比較してみて、その違いを具体的に少しでも発見して下さると、Basic English の利点に気付かれるにちがいありません。中にはもちろん、特に英語のできる方々から、回りくどいとか、耳慣れない言い方であるとかの反応があっても、それはあたりまえのことです。このような反応が自分に起こったときにどうしてなのかと考えてみることを出発点として、Basic English で出来ることと、出来ないことが、わかってきて、そこからBasic English に存在していて、他の簡易英語で書かれたものには全く見いだされない、英語の根幹とでも言える部分が Basic English 文の中に保存されていて、われわれ日本人の英語の学習に、特にその発表能力開発に強い基盤を与えてくれることに気付くはずです。
 Lincoln の文には、Basic English にない動詞が 25 語ほどあります。その他 Basic English の 850 語で言い直さなければならなかったものも 30 語ばかりあります。これらについては最初の部分で Ogden が彼の 850 語を選ぶときの基準を述べた部分を思い出して考えてみて下さい。このように少しずつ細かい点に注意をむけて読んでみることも必要ですが、それよりもいっそう大切な事は、Lincoln が言おうとしている事のうち基本的な事がらが、どちらの文から、皆さんの頭にいっそう明確に入ってくるかという点です。語対語で、ささいな点にとらわれないで、Lincoln の文が果たしている仕事のうち大切な部分を、ほとんど同じ程度に、いやそれよりもいっそうはっきりと、Basic English の文が果たしているということに気がつくかもしれません。
 Ogden が選んだ 850 語がどういうものかを、具体的に示さないで、くどくどとここまで読まされたことに不満を感じられる方もおられるでしょう。しかし語表を最初に示されると、こんな語がないのに、こんな語が入っている、これはおかしいというように、ささいなことに心を奪われて、自然語としての英語の最小限度の発表組織としての Basic English の最も重要な部分を見過ごしてしまう恐れがあります。そして、Basic English の 850 語をひとつの「体系」として見すえることが出来なかったため、これを学んで利用することから受ける利益を逃がしてしまった人たちが実に多かったことを、わたしは経験から身にしみて知っています。
 この Lincoln の演説の Basic English 訳を読んでみて、さまざまな疑問がわいたことと思います。 Basic English の詳しい解説はあとに譲ることにして、この訳文を読むとき当座役に立ちそうな点を少し書いておきましょう。まず、普通の動詞は排除されていて、16 語の operation words でことが足りると言っておきながら、動詞らしきものが、語尾に-ed や、-ing をつけて多数使われている点がまず気になるのではないかと思います。Ogden は3百数語の事物の名称(名詞)にこれらの語尾をつけて、性質や状態を示す語、すなわち、文法で言う形容詞のように使ってよいと言っています。これを心得ているだけでも皆さんの疑問の多くは解消するでしょう。このことについては、あとで Ogden の極めて独特な考え方を詳しく述べますが、ここでは、参考のため、-ed と -ing をつけた語の使用例を2つ3つ示すだけに止めます。
 He is airing the room.(彼は部屋に風を通している)
 Nothing was answered about it.(それについては何の答も返ってこなかった)
 850 語の Basic English 語表は、普通の便せんより少し大きいくらいの紙に普通の視力の人ならひと目で見えるようにしようという考えで作られました。そのためにはどうしても 700 語くらいから 1000 語くらいまでにしなければなりません。Ogden はいつも英語を外国語として学習する人を頭においていましたから、簡単にポケットに入れて持ち歩くことができ、感覚的な知識として、各語をおぼえ、それで自分の考えが表現できるようにするには、語数があまり多くては、手に余ることになります。その上、前に述べたようなさまざまな条件を満たさなければなりません。すなわち自然な英語にならなければいけないとか、表現力が大きくなくてはならないとか、その他雑多な相矛盾する条件の間の妥協を図った結果、1930 年に発表したのが現在の 850 語表というわけです。

 

自然な英語への工夫

 発表されたままの形式の語表は、さまざまな理由で、版権が確立されています。そこでわたしは、この語表をわたしなりに分析して、内容はそのままですが、ABC順にならべかえ、いくつかの記号を工夫して、別表としてかかげました。(もとの表をごらんになりたい方は、この項の最後に示す何冊かの参考書についているものをごらんください)
 @の番号をつけてある語は全部で 100 語です。これは前に示した 16 語の operation をあらわす語や may と will の助動詞や前置詞、その他、短いつづりの語、たとえば about,across,after など 20 語ばかりの前置詞をはじめとして、the,a,no,some,such,that,this,because,when,no,yes,などで、英語で文を作ろうとすれば、くさびの役を果たすような語です。Aの番号をつけてある語は一般的な名詞、すなわち絵にかいただけでは特定できないような語、いわゆる抽象名詞、物質名詞それから普通名詞でも総括的に物を示す語、つまり絵だけでは何を指すのかはっきりしない語です。Bの番号をつけてある語は、名詞の中で、絵にかくだけで、その語が何を指すかが直ちに理解できる語です。Aは 400 語、Bは 200 語です。Cの番号がついている語は、いわゆる形容詞のうち、比較的一般的な語 100、Dの番号のものは、やはり形容詞ですが、一般的形容詞 100 語の中か、あるいは、その他の語の中に、この 100 語の反対概念を示す語が見いだせるような 50 語です。
 以上のように Ogden が 850 語を5種類に分類して示したのは、学習者の便宜のためです。こういう分け方をした理由が、はじめて Basic English に接した人には、なかなかわかりにくいのですが、この語表を使って文を作成することを、しばらくでも実行してみると、Ogden の意図が次第に理解されてきて、深い考慮の末であったことがわかります。
 以上をもういちどまとめてみますと、自然な英語を成り立たすために働く必要最低限度の 100 語、事物の名称を 400 語と 200 語に分けて、計 600 語、事物の性質を示す語を 100 語と 50 語に分けて計 150 語、総計 850 語となります。この 850 語を以上のような分け方にしたのは全く学習者の記憶を助けるためだと Ogden は言っています。ですからこの分類をどのように利用するかは、学習者の工夫次第ということになります。わたしが並べ直した表の中のいくつかの語のあとに、+印がついているのがあります。この印のある語は、必要ならば語に -er,-ing,-ed をつけて用いられることをあらわし、はじめから -ing で終る語で+印がついているのは、-ing を -er にかえて使ってもよいことを示しています。
 これに関しては、Ogden は彼特有の説明をしています。すなわち約 300 の名詞にこれらの語尾をつけて、-er,-ing,の場合は、新たな名詞を、-ingの場合には、形容詞と同じ働きをする語を、-ed がつけてあるときも形容詞に相当する働きをさせることができるというのです。このことは、Lincoln の演説の Basic English 訳をかかげたときにも触れましたが、変わった説明であるし、大切な約束であるのでもういちど述べたわけです。この約束によって 850 語で書ける文の範囲が一挙に増大し、しかも、書かれた文が英語としてけっして不自然になりません。言うまでもありませんが -ed をつけた語を動詞の過去形として用いることはできないことになっています。

 

ABC 順にならべた Basic English の語表

 a @  able C  about @  account A
 acid C  across @  act A  addition A
 adjustment A  advertisement A  after @  again @
 against @  agreement A  air A  all @
 almost @  among @  amount A  amusement A
 and @  angle B  angry C  animal A
 answer A+  ant B  any @  apparatus A
 apple B  approval A  arch B  argument A
 arm B+  army B  art A  as @
 at @  attack A  attempt A+  attention A
 attraction A  authority A  automatic C  awake D
 baby B  back A  bad D  bag B
 balance A+  ball B  band B+  base A+
 basin B  basket B  bath B  be @
 beautiful C  because @  bed B+  bee B
 before @  behaviour A  belief A  bell B
 bent D  berry B  between @  bird B
 birth A  bit A  bite A  bitter D
 black C  blade B  blood A  blow A
 blue D  board B+  boat B  body A
 boiling C+  bone B+  book B+  boot B
 bottle B+  box B+  boy B  brain B+
 brake B  branch B+  brass A  bread A
 breath A+  brick B+  bridge B+  bright C
 broken C  brother A  brown C  brush B
 bucket B  building A+  bulb B  burn A
 burst A  business A  but @  butter A+
 button B+  by @
 cake B+  camera B  canvas A  card B
 care A  carriage B  cart B+  cat B
 cause A+  certain D  chain B+  chalk A+
 chance A+  change A+  cheap C  cheese B
 chemical C  chest B  chief C  chin B
 church B  circle B+  clean C+  clear C
 clock B  cloth A+  cloud B+  coal A+
 coat B+  cold D  collar B  colour A+
 comb B+  come @  comfort A+  committee A
 common C  company A  comparison A  competition A
 complete D  complex D  condition A  connection A
 conscious C  control A+  cook A+  copper A+
 copy A+  cord B+  cork A+  cotton A
 cough A+  country A  coverA+  cow B
 crack A+  credit A+  crime A  cruel D
 crush A+  cry A+  cup B  current A
 curtain B+  curve A+  cushion B+  cut C+
 damage A+  danger A  dark D  daughter A
 day A  dead D  dear D  death A
 debt A  decision A  deep C  degree A
 delicate D  dependent C  design A+  desire A+
 destruction A  detail A+  development A  different D
 digestion A  direction A  dirty D  discovery A
 discussion A  disease A  disgust A+  distance A
 distribution A  division A  do @  dog B
 door B  doubt A+  down @  drain B+
 drawer B  dress B+  drink A  driving A+
 drop B+  dry D+  dust A+
 ear B  early C  earth A  east @
 edge A+  education A  effect A+  egg B
 elastic C  electric C  end A+  engine B
 enough @  equal C  error A  even @
 event A  ever @  every @  example A
 exchange A+  existence A  expansion A  experience A+
 expert A  eye B+
 face B+  fact A  fall A  false D
 family A  far @  farm B+  fat C
 father A  fear A+  feather B+  feeble D
 feeling A+  female D  fertile C  fictionA
 field A  fight A  finger B+  fire A+
 first C  fish B+  fixed C  flag B
 flame A  flat C  flight A  floor B+
 flower A+  fly B  fold A+  food A
 foolish D  foot A  for @  force A+
 fork B+  form A+  forward @  fowl B
 frame B+  free C  frequent C  friend A
 from @  front A+  fruit A  full C
 future D
 garden B+  general C  get @  girl B
 give @  glass A  glove B+  go @
 goat B  gold A  good C  government A
 grain A  grass A  great C  green D
 grey C  grip A+  group A+  growth A
 guide A+  gun B
 hair B  hammer B+  hand B+  hanging C+
 happy C  harbour A+  hard C  harmony A
 hat B+  hate A+  have @  he @
 head B+  healthy C  hearing A+  heart B
 heat A+  help A+  here @  high C
 history A  hole A  hollow C  hook B+
 hope A+  horn B  horse B  hospital B
 hour A  house B+  how @  humour A+
 I @  ice A+  idea A  if @
 ill D  important C  impulse A  in @
 increase A+  industry A  ink A+  insect A
 instrument A  insurance A  interest A+  invention A
 iron A+  island B
 jelly A  jewel B+  join A+  journey A+
 judge A+  jump A+
 keep @  kettle B  key B+  kick A+
 kind C  kiss A+  knee B  knife B+
 knot B+  knowledge A
 land A+  language A  last D  late D
 laugh A+  law A  lead A+  leaf B
 learning A+  leather A  left D  leg B
 let @  letter A+  level A+  library B
 lift A+  light A+  like C  limit A+
 line B+  linen A  lip B  liquid A
 list A+  little A+  living C+  lock B+
 long C  look A+  loose D  loss A
 loud D  love A+  low D
 machine A+  make @  male C  man A+
 manager A  map B+  mark A+  market A+
 married C  mass A+  match B  material C
 may @  meal A  measure A+  meat A
 medical C  meeting A  memory A  metal A
 middle A  military C  milk A+  mind A
 mine A+  minute A  mist A  mixed D
 money A  monkey B  month A  moon B
 morning A  mother A  motion A+  mountain A
 mouth B+  move A+  much @  muscle B
 music A
 nail B+  name A+  narrow D  nation A
 natural C  near @  necessary C  neck B
 need A+  needle B  nerve B+  net C
 new C  news A  night A  no @
 noise A  normal C  north @  nose B
 not @  note A+  now @  number A+
 nut B
 observation A  of @  off @  offer A+
 office B    oil A+  old D  on @
 only @  open C+  operation A  opinion A
 opposite D  or @  orange B  order A+
 organization A  ornament A+  other @  out @
 oven B  over @  owner A
 page A+  pain A+  paint A+  paper A+
 parallel C  parcel B  part A+  past C
 paste A+  payment A  peace A  pen B+
 pencil B+  person A  physical C  picture B+
 pig B  pin B+  pipe B+  place B+
 plane B+  plant A+  plate B+  play A+
 please @+  pleasure A  plough B+  pocket B+
 point A+  poison A+  polish A+  political C
 poor C  porter A  position A  possible C
 pot B+  potato B  powder A+  power A
 present C  price A+  print A+  prison B+
 private C  probable C  process A+  produce A+
 profit A+  property A  prose A  protest A+
 public D  pull A+  pump B+  punishment A
 purpose A+  push A+  put @
 quality A  question A+  quick C  quiet C
 quite @
 rail B+  rain A+  range A+  rat B
 rate A+  ray A+  reaction A  reading A+
 ready C  reason A+  receipt A+  record A+
 red C  regret A+  regular C  relation A
 religion A  representative A  request A+  respect A+
 responsible C  rest A+  reward A+  rhythm A
 rice A  right C  ring B+  river A
 road A  rod B  roll A+  roof B+
 room B+  root B+  rough D  round C
 rub A  rule A+  run A
 sad D  safe D  sail B+  salt A+
 same C  sand A  say @  scale A+
 school B+  science A  scissors B  screw B+
 sea A  seat A+  second C  secret D
 secretary A  see @  seed B+  seem @
 selection A  self A  send @  sense A+
 separate C+  serious C  servant A  sex A
 shade A+  shake A  shame A  sharp C
 sheep B  shelf B  ship B+  shirt B
 shock A+  shoe B  short D  shut D+
 side A+  sign A+  silk A  silver A+
 simple D  sister A  size A  skin B+
 skirt B+  sky A  sleep A  slip A+
 slope A+  slow D  small D  smash A+
 smell A  smile A+  smoke A+  smooth C
 snake B  sneeze A+  snow A+  so @
 soap A+  society A  sock B  soft D
 solid D  some @  son A  song A
 sort A+  sound A+  soup A  south @
 space A+  spade B  special D  sponge B+
 spoon B  spring B  square B+  stage A+
 stamp B+  star B+  start A+  statement A
 station B+  steam A+  steel A+  stem B
 step A+  stick B  sticky C  stiff C
 still C  stitch A+  stocking B  stomach B
 stone A+  stop A+  store B+  story A
 straight C  strange D  street B  stretch A+
 strong C  structure A  substance A  such @
 sudden C  sugar A+  suggestion A  summer A
 sun B+  support A+  surprise A+  sweet C
 swim A  system A
 table B  tail B  take @  talk A+
 tall C  taste A+  tax A+  teaching A+
 tendency A  test A+  than @  that @
 the @  then @  theory A  there A
 thick C  thin D  thing A  this @
 though @  thought @  thread B+  throat B
 through @  thumb B+  thunder A+  ticket B+
 tight C  till @  time A+  tin A+
 tired C  to @  toe B  together @
 tomorrow @  tongue B  tooth B  top A+
 touch A+  town B  trade A+  train B+
 transport A+  tray B  tree B  trick A+
 trouble A+  trousers B  true C  turn A+
 twist A+
 umbrella B  under @  unit A+  up @
 use A+
 value A+  verse A  very @  vessel A
 view A+  violent C  voice A+
 waiting C+  walk A+  wall B+  war A
 warm C  wash A+  waste A+  watch B+
 water A+  wave A+  wax A+  way A
 weather A+  week A  weight A+  well @
 west @  wet C  wheel B+  when @
 where @  while @  whip B+  whistle B+
 white D  who @  why @  wide C
 will @  wind A  window B  wine A
 wing B  winter A  wire B+  wise C
 with @  woman A  wood A  wool A
 word A+  work A+  worm B+  wound A+
 writing A+  wrong D
 year A  yellow C  yes @  yesterday @
 you @  young C

 

考えて想像力を働かすことが大切

 Basic English で書いた文が、不自然にならないと言いましたが、これについて、Basic English が 1932 年ころ、日本に紹介された時、Basic English の文は不自然だと言って、やっきになって反対した英語の大先生たちがあり、へたな Basic English 文をその例にいくつも提出したことがありました。まことに馬鹿らしい話です。たとえ full English で書いてもへたな文は不自然にきまっています。ただし、Basic English の 850 語を選んだからには、それなりの制約があることはあたりまえです。すなわち分解的な説明的な文体となり、その代り明快になり、時には文が少し長くなります。これに対しては、総合的な、複雑な内容を1語の中に押し込んだ語で書かれた文を読み慣れた人には、取っつきにくい感じを与えるかもしれないことは、否めません。
 16 の operation をあらわす語を前に示しましたが、そのうち2語ずつ組にして、次の8語についてその用法の説明をしましょう。put−take,keep−let,give−get,go−come の4組ですが、これはそれぞれ反対の動作を示しわれわれが体で表現して、その基本的意味合いを会得でき、そこから各語の比喩的用法が理解できるので、英語の特徴を知る上で極めて、大切な出発点となります。
 まず put と take ですが、put を「置く」、take を「取る」と訳しておぼえておけばいいように思っていたら、大変な思い違いです。put は「あるものをある位置に移す」ということから、「あるものをある状態に移す」ことをあらわし、その「あるもの」は動物でも、人間でも、抽象的なことでも、何でもよいのです。こういう使い方には、少し英語を読んでみれば、すぐ遭遇するはずです。たとえば I put a question to him. という文を「わたくしは彼に質問した」と訳しておぼえ、put a question を「質問する」という熟語だと考え、それをまる暗記することで事が足りるときめているのはまちがいのもとです。すなわち「彼に向かって、疑問を置いた(提出した)」と考えておいて、question と、him の位置にさまざまな語を、必要に応じて置いてみれば、The mother put her baby to sleep. が「母親は赤んぼを、眠りの状態に置いた」すなわち、「母親は赤ちゃんをねかせた」ことであると理解するのは、それほどむずかしいことではなく、put の使い方の広い分野が、次第に見えてくると思います。非常に多くの場合、語と語との習慣的な結びつきをただちに熟語ときめてしまって、それを暗記すればこと足りるとするのが、英語の使用能力をはばんでいる大きな障害です。 He put a story into words. は「彼はある話を語ってくれた」または「彼はある話を書いた」となり、I put much money into the business. は「わたくしは多額の金をその仕事に注いだ」ことですし、I put him out of such a doubt. は「わたくしは、彼にそのような疑いを捨てさせた」 I am unable to put you off doing that. が「わたくしは、あなたがそのことをしないですむようにしてあげることはできない」ということを示していることも、少し考えるとわかってくるでしょう。この「考える」ということが大切なのです。最小限度の記憶がきわめて重要であることは、明白ですが、それにも増して、「考えてみること」、「想像力を働かすこと」の方が、生産的に英語を用いるためには必要なことです。
 take は put の反対動作を示す語で、ある位置または状態にある事物をそこから「取る」ことですが、どの方向に取るかは、この語に続く前置詞または副詞によってきまります。take の目的語となるものは、put の場合と同じく、どんな物でも事でもいいのです。言いかえれば、空間→時間→抽象的関係という方向にその用法が移っていきます。これは、英語に限らず、すべての自然言語における使用方向の延び方について言えることです。この線に沿って take の用例を少し示してみましょう。
 Will you please take the orange from the table for me? 「テーブルからオレンジを取って下さいませんか」
 I am ready to take anything offered to me. 「わたしに差し出されたものは、何でもちょうだいするつもりです」
 You will certainly be sent to prison for taking the company's money. 「会社のお金を使い込めば、きっと刑務所送りですよ」
 This dog will probably not take such food. 「この犬はそんな食べものは、恐らくは食べないでしょう」
 Writing on that question will take much time. 「その問題について書くには、時間を要します」
 I will take a chance of coming across him there. 「そこで彼に会えるかどうか、ためしてみよう」
 Please take a look at the picture on the wall. 「壁の絵を見て下さい」
 She took down almost every word of my talk. 「彼女はわたくしが話したことを、ほとんど一語ももらさず書き取った」
 He seems to take much pleasure in helping others. 「彼はひとを助けることがたいへんうれしいらしい」
 keep と let も put と take と同様対立する動作を示す語です。keep は、何かを一定の時間保持していることを、let はそれを解放することをあらわします。ですから日本語の「保つ」と「放す」に相当する使い方があることになります。用例は、あとであげてみますが、let を「せしめる」という訳語で縛ってしまうことはまちがいのもとです。そうすると make の用法との混乱が生じ、日本語訳で英語の使い方を誤解するよい例になってしまいます。let はむしろ「許す」ことで、make のように、主語となっているものが、何かの力を加えて「強いること」とは大変な違いです。
 keep を用いるときは、前にも言ったように必ず時間の概念が人ってくるので、他動詞としては、「守る」「保つ」「とどめる」などの日本語に対応することが多く、自動詞としては、「続けている」「とどまる」などに相当します。
 He is used to keeping late hours.「彼は夜ふかしをすることに慣れています」
 I am going to keep your letters for ever.「わたしはあなたからの手紙をいつまでもとって置くつもりです」
 She keeps two dogs and three cats.「彼女は大を2匹と猫を3匹飼っています」
 She will be able to keep happy for a short time.「彼女はしばらくは幸福でいられるでしょう」
 I will keep in this town till the end of this year.「わたしは今年中はこの町にとどまります」
 次に「許す」意味で使われた let の用例を2つ示してみます。
 I will never let them go.「わたしは彼らをけっして行かせはしません」
 He was kind enough to let me go with him.「ありがたいことに彼はわたしがいっしょに行くのをみとめてくれた」
 give と get は「渡す」と「受けとる」という訳語で頭に入れておいて、それが使われている文の中、すなわち文脈に応じて、さまざまな日本語に対応する用い方になることを、理解するようにしましょう。
 go と come は同じくものごとが動くことをあらわす語ですが、go はどこかからはなれて「行く」ことを示し、come はどこかに向かって「来る」ことを示します。この2語も、以上説明した語と同様、内容が大へんに広く、比喩的用法も多い語です。give と get、go と come については用例を省きますが、あとで示す Basic English 文の中に何度か出てくると思いますので、そのつど考えて使い方の広がりを理解してください。

 

Basic English は何でないか

 ここでは単に Basic English は何でないかを列挙して、簡単な説明を加えるだけとし、その詳しい解説はあとにゆずることにします。

@ Basic English は単に850語の語表ではない。
 850 語という少数の単語からなる簡易英語であると考えるのは誤りです。また Basic English の単語表を見て、当然ふくまれているであろうと思われる語がないため、強い疑問が起ってくることがあるでしょう。このような疑間が、Basic English を理解する出発点となるでしょうし、またこのような疑問点のあることが、Basic English がただの簡易英語の語表でない証拠ともなります。すなわち、一つ一つの語は、他の語との関連性のゆえに、言いかえれば、文の中で果たす語の役割を考え、Basic English という言語組織の中で、はっきりした仕事の分担を与えられて、語表の中に組み入れられているのです。原文の能う限りさまざまな解釈に、いやおうなしに到達せざるを得ません。何とか自分の解釈を成り立たさなければ、Basic English のような性質の言語にはその内容をうつし得ないからです。第三には、明確な思考をする癖がつきます。これは Basic English では、意味のあいまいな語を使ったり、多義な言い方などできず、ものごとを分解して考えないわけに行かないためです。

A Basic English は統計によって選ばれた語で成立しているのではない。
 統計によって頻度を決定し、これをもとにして選ばれた語彙では、有機的関係をもった体系的な言語組織を形づくることはできません。ただ読書の際に比較的しばしば遭遇する語を示してくれるだけです。わずか 850 語で成立している独立した言語組織の中で、高度の思想までも表現し得るようにしようとすれば、統計的方法は役に立ちません。頻度によって用語を決定しようとすれば、たとえ 2000 語の重要語彙を選ぶばあいにも、表現上欠くべからざる語が漏れてしまう恐れがあると同時に、表現上必ずしも必要でない語がまぎれ込む可能性が多くなります。また Basic English における用語決定の方法は主観的で信じることができないと言い、頻度による方法こそが、客観的で科学的な方法であると説く人がありますが、頻度発見に用いる言語材料を選定する人の主観を考えたならば、頻度計算による語彙決定が必ずしも客観的であるとは言い難いことは明らかです。

B Basic English は英語を改革しようとするものではない。
 Basic English は英語の欠点を批判し、これに手を加えて、改良された英語を作ろうとしているのだと考えるほど、大きな思い違いはありません。 Basic English はただ英語に内在するいろいろな特異点を土台としてできた、英語の中のもうひとつの小形英語とでも言うべきものです。これは改良された英語または変形された英語ではなく、いねば英語の核の役を果し、英語らしさを失わず、しかもこれだけでまとまった表現能力を持つている独立した補助言語の一種です。

C Basic English は細かい情緒を表現するには適してしていない。
 もともと、なるべく分析的に、明確に、知的に表現するのに必要な語を選んでできた組織であるから、具体的にものごとを指示するには適しているが、特殊な情緒を表現するには必ずしも適していません。すなわち文学よりも実務や科学に適した言語です。Ogden がはじめて Basic English を発表した時以来、Basic English で書れた多くの本の巻頭に、British American Scientific International Commercial の5語をかかげていますが、これはこれら5つの語の頭文字を綴れば Basic となるという一種のしゃれではありますが、これによって彼は Basic English の目的とするところを明示したのです。

D Basic English の 850 語だけで、特殊な分野に関することまで、詳細に表現することはできない。
 日常生活に必要な一般的なことは、十分明確に表現できるような組織になってはいますが、科学、実務その他の分野での特殊なことがらを表現するには不足を来たすことは明かです。そのため主として名詞の形で一般科学用語と、詩の用語としておのおの 100 語、それに加えて科学の特殊分野の用語としてそれぞれ 50 語と、聖書用語として 50 語が選定されています。すなわち、それぞれの科学の専門家は合計 1000 語の英語で自分の研究の発表ができるようになっているわけです。またすでに国際的となっている名詞については、使用することは自由ですが、だいたいの目安となる 51 語が Ogden によって選定されています。Basic English の新旧約聖書は上に述べたような 1000 語(Basic English 850 語と詩用語 100 語に加えて聖書用語 50 語)の範囲内で完成し、1949 年に発行されました。

E Basic Englishで書いたものは、英語としてけっして不自然ではない。
 Ogden が Basic English の発表を考えていたとき、いつも心から離れなかったことは、英語として立派でないものは、Basic English としても立派ではないという考えでした。すなわち、英語の文法と慣用法の枠内で、もうひとつの独立した英語を考えていたのです。
 英語に限らず、いかなる言語で書いても、悪文もあれば、また同時に上手な読みよい文もあるように、Basic English で書いた文にも、下手な不自然な文もあれば、英語として自然な、読みよい立派な文もあります。Basic English が日本に紹介された頃、Basic English で書いた悪文をわざわざ引用して、それを根拠に Basic English を非難したとさえ思われるいわゆる英語の大家がありました。この人たちはよほど理解力が低かったか、またははなはだ偏狭であったのでしょう。恐らくは、普通英語を逐語的に Basic English で言いかえてみて、こういう非難をしたのかもしれませんが、これは、Basic English 成立の背景となっている言語思想のはなはだしい無理解から起ったことです。

F Basic English に熟達するのは必ずしもやさしくはない。
 使用語数が少ないから Basic English はやさしい英語であると単純に思うのはまちがいです。もともと Basic English は極めて要素的な語を主体として、相当高い程度の思想も表現できるようになっているのですから、まずその用語の徹底的理解が必要です。しかも分析的に考えて表現しなければならないため、自分が言おうとすることはあらかじめ十分に理解していることが必要です。何となしに言葉をならべて文を作り、その場をごまかすというようなことはけっしてできません。したがって、英語もふくめて他の言語を Basic English に言いかえるときには内容をよく理解した上で、Basic English で表現し得る方法で、時には全然言い方をかえて、表現しなければなりません。このことは非常にたいせつな点であり、Basic English の理解に関する根本的な問題です。

G Basic English は単に表現用言語として役に立つのみではない。
 実はこの点が Basic English の教育的価値を考えるばあい、もっともたいせつなところです。まず第一に、Basic English を学習する過程で、自然に言語上の基本的な訓練を自らに課することになります。これは Basic English がことばの働きで、きわめてたいせつな役割を果している文脈や隠喩の考えに、深く根ざして成立した言語であるからです。
 第二には読書力の増進に貢献します。たとえば、あたえられた英文を Basic English に書きかえようとすれば、原文の能う限りさまざまな解釈に、いやおうなしに到達せざるを得ません。何とか自分の解釈を成り立たさなければ、Basic English のような性質の言語にはその内容をうつし得ないからです。第三には、明確な思考をする癖がつきます。これは Basic English では、意味のあいまいな語を使ったり、多義な言い方などできず、ものごとを分解して考えないわけに行かないためです。

 

さまざまな角度からいろいろな言い方ができる

 以上 Basic English について、どうしても必要な事項をかいつまんで話しました。ところが残念なことに、100 点位はあったはずの Basic English で書かれた本が、今では全くと言ってよい程絶版になっていて、実際に Basic English の文に接する機会が余りありません。今でも手に入る数点については終りに紹介するつもりですが、わたしの手元にある Basic English で書かれたものの中から文例を少し示しておきます。今までの説明の不足分を、実際に Basic English 文に接することで補ってください。
 まずわたしが書いた Basic English 文を説明をつけながら提示してみます。今までの解説でもお分りのように、Basic English は、英語を母語としない者が、英語で自分の考えを表現しようとするばあいの最低限度の語いはどういうものかを考えて選ばれたものであります。日本人であるわたしたちが Basic English で書いてみようとすれば、多くのばあい日本語で大体のことを考え、それを Basic English に直すということが多くなります。すなわち一種の和文英訳の形をとることが多くなるわけです。しかし注意しなければならないことは、語から語への翻訳にならないようにすることです。特に Basic English の 850 語で書こうとすれば、言いたいことをよく考え、分析し、言い直し、言い加えなどして読む者がその真意をよくのみ込むよう工夫をすることが必要です。
 「一期一会(いちごいちえ)」ということばがありますが、これをどのように Ogden の 850 語で表現したら、分かってもらえるかと、47 通りに書きわけてみたことがあります。いわゆる直訳というものが通用しない例として、そのうち 20 を下に示してみます。これを One time one meeting. などと訳したのでは笑い話にもなりません。

1. You might take every meeting as the only one on this earth.
2. You would do well to take every meeting as if it were the last one.
3. It is quite right for every meeting to be taken as one never to come about again.
4. Any event of your meeting others has to be taken as one which will never take place again.
5. Every chance of your getting together would as well be taken to be quite different from the like which may be experienced again.
6. Any of your meetings would rightly be taken as the last one in your days.
7. It would be right to take every get-together as something never to take place again.
8. Every chance of your getting together would as well be looked on as the last one on this earth.
9. Every time you see somebody, you are having an experience never to be had a second time.
10. Every experience of your meeting with any other person is in fact a special one in your existence.
11. Every meeting of ours is to be taken as quite special in our experience.
12. This may be your only chance of being together in your days.
13. Every meeting of ours is certainly a special event in our days.
14. You may as well take any chance of meeting another to be an experience special to you in your existence.
15. This chance you now have of seeing another is one never to come to you again.
16. Every experience of your seeing some body will never be the same as any like experience you might have again.
17. Every experience of your meeting another will certainly be a special event in your days.
18. Every meeting of yours would rightly be looked on as something never to be experienced a second time.
19. Every time you have a chance of getting together, you have need to take it as one never equal to anything like it you may have again.
20. You may rightly be said to have only one chance of meeting another in quite the same way.

 以上の訳文の中には、原意に非常に近く思われるのもあり、離れ過ぎていると考えられるものもあるでしょう。しかしどれも、何らかの点で「一期一会」が言おうとしていることを表現しているはずです。
 このように多くの Basic English 文を示したのは、この中にいろいろな構文が入っているので、それによって、Basic English に少しでも慣れてもらえたらと考えたからです。また、ほとんど同じ内容を、たとえ 850 語でも、それが Basic English のようによく選ばれたものであると、さまざまな角度から見て、いろいろな言い方ができることを知ってもらいたかったのです。

 

名詞を重視した英語の構文に慣れる

 次に比較的やさしい読みやすい Basic English の文の例として有名な黒馬物語(Black Beauty)のはじめの部分を引用し,少し解説をつけておきます。

 The first place of which I have a clear memory was a beautiful wide field with a hollow full of clear water in it. The hollow was shaded by some trees, and there were some waterplants and flowers at the deep end. Over the line of low trees on one side was a ploughed field; and through an opening on the other we had a view of our owner's house, which was by the roadside.

 これを読んで、主人公である黒馬が子供時代に育った田舎の情景が目に浮びますが、ともかく何らかの絵が頭の中にできるまで何度も読んでみることをすすめます。
 850 語の中には remember という動詞がないので、memory という名詞を用いて of which I have a clear memory(それについてはっきりおぼえている)となっていますが、このように名詞を重視した英語の構文に慣れるためにも Basic English はたいへん役立ちます。a hollow はここでは「小さな池」のことです。at the deep end は「池の水が深くなっている方」のこと。the line of low trees は、「低い並木」、through an opening on the other は「池の反対側の、さえぎる物のない方から眺めると」had a view of…は「…が見えた」ということ。これも名詞を使った英語らしい表現です。our owner's house は「わたしたちの飼い主」ということ。
 ここまで書いてきて、あとで補足的説明をすると約束したことがあったのを思い出しました。それは、metaphor と context です。しかしここでは metaphor(隠喩的用法)は context(文脈)によって無理なく生ずるのが自然言語のすがたであると説明するより以上深入りする紙数がなくなったのが残念です。

 

Basic English の将来

 最後に Basic English の将来性に触れておきたいのですが、正直なところ英国で最初に発表された時のような人気は今は本国ではありません。英語の基本的な部分を重視しているために、表面的に現代の日常英語と似ていないところにのみ目をつける人には親しみを持ちにくいのです。そのため商業的には取り付きやすいいろいろな簡単な英語をあつかっている本とは、売れ行きの点で太刀打ちが、むつかしくなっています。その結果、Basic English で書いた本や、Basic English に関する本は今ではほとんどすべて絶版です。今手に入るのはケンブリッジ大学の出版部で出している『The Bible in Basic English』位のものです。ただし日本では F.J. Daniels さんの北星堂版の『英文を書くための辞書』と『沖縄民話』と、同じく北星堂版の牧雅夫さん著の『自信をもって英作文を教える』と『自分で使える英語:ベーシック・イングリッシュ』は貴重です。『沖縄民話』はなだらかな Basic English 文の手本としておすすめできます。わたしの本では、評論社の『500 語でできる英語会話』、ジャパンタイムズ社の『新 850 語で書く英語』、洋販出版の『英語を書く本』などを読んで下さったら幸いです。最後の本は、小高一夫さんとの共著です。またたいへんわかりやすい初歩者用の本としては、山田初裕さんたちの著書、『ベーシック先生の英語術』をおすすめします。
 なお、Basic English だけで定義した辞書に『The General Basic English Dictionary』があり、『ベーシック英英辞典』として書店で購入できます。
 Basic English の将来については、少し大げさになるかもしれませんが、これを生かすかどうかは、わたしたち日本人の手にかかっていると言えないこともありません。何度も言うように Basic English は英語の本質の深いところに根ざした組織で、頻度数にもとづいたものではないため、取りつきにくいのですが、皆さんとしてはこれをもとに自分の必要によって、いかようにも利用の方法を工夫し、英語力の強化を図り、ひいては言語そのものの理解に役立てて下さるよう願っています。