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来世紀とコロイド科学


九州大学 理学研究科 前田 悠


昨今の世の中を見ていると、景気不況に世紀末が重なり、一種の閉塞感がこの国を覆って いるようである。この閉塞感は今世紀の科学技術の時代の限界に由来するとする論調が少なくない。 そして、来世紀は自然との協調を中心とした、芸術・感性の時代であるという主張へ続く。 この論調には、傾聴すべき部分が多いのであるが、私はいつも何処かに違和感を感じていた。 
今日、近代技術は私達の生活の隅々にまで入り込み、私達の行動や考え方までも規制している。 原理的なことから考えを構築してゆくことを許さず、マニュアル的な対応を強制する環境は、 毎日の生活において私達を圧迫している。そして、近代技術に取り囲まれている現代人の、 その考え方が合理的といえるものとは程遠いものであることに驚くことが多い。 科学を支える合理精神が変質乃至は消滅しつつある土壌の上に、利便性追及の技術ばかりが仇花を 咲かせているのではないかという疑問が湧く。
問題は、科学技術・理性と芸術・感性の対比ではなく、 科学技術と理性の乖離にあるように思える。このような認識が的外れでなければ、 来世紀の一つの選択肢として、合理的精神の復活、つまり、科学技術・理性のペアの再生という方向も ありうると期待している。
しかし、科学技術と理性の乖離というこの現状を齎らした原因の主要な部分が 今世紀の自然科学の在り方そのものに由来していることは否定できない。したがって、今世紀の自然科学 を貫いている分析的・要素還元的なものの延長であっては、新展開といっても多くは期待できない。
このような視点に立つとき、来世紀の自然科学は分析と総合の双方向に理性が活動する性格のものと なり、その重要な一翼をコロイド科学が担うことになると予想される。
コロイド科学はその誕生以来、 多成分多相系の複雑な現象を主たる対象としてきた。その複雑さを隠れ蓑にしたマイナスの面も否定で きない。この負の部分の克服として、原子、分子レベルでの解析に基づく分析的研究を進め、大きな発展 をとげた分野もあることは正当に評価されねばならない。その後、これら要素還元主義により成功を収め た分野の多くは、コロイド科学の外に新しい学問領域を建設した。これは学問の性格の違いが深刻なもの であることを示すものであろう。
コロイド科学の特色のひとつには、本来その本質が要素還元できない系 や現象を排除せず対象とすることである。このことを今改めて認識する必要がある。それではこのような 複雑な系の科学を、分析方向に偏らずかつ現象論に留まらずに展開してゆく上で、何が必要であろうか? この点については、既に前号の巻頭言で金子克美教授が正しく指摘されている。それは、新しい理論と新 しい測定手段の開発である。さらに私に付け加えることがあるとすれば、学問の基本というものの重要性 を認識し、それを尊重する土壌の重要性である。既成の思考様式に捉われない若い研究者がこの土壌の上 で大きな樹に育ってゆくことを願っている。
(1998)
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