両親媒性物質の構造形成-プロトン化による構造制御

水を媒質とする両親媒性物質の構造形成においては、静電相互作用、疎水性効果、水素結合(近距離相互作 用)の三種の相互作用が基本的である。これらの相互作用が織りなす複雑な構造形成を扱う際の重要な概念 の一つに充填因子 (packing parameter) がある。物理的因子による充填因子の調節・制御には、温度、圧 力、電磁波等の効果を別とすると、(a) co-surfactantの添加、(b) 静電効果の調節(イオン強度、対イオ ンの特異吸着、catanionic複合体形成)、(c) 水素結合による複合体形成(脂肪酸の酸性石鹸)、等が知られている。 click here!

長鎖アルキルアミンオキシド類はプロトン化型イオン種(カチオン種)、脱プロトン型非イオン種(ノニオン種)のどちらもが水に高い溶解度を持っている。我々は、プロトン化と共役した極性基間の水素結合によ る二本鎖型への変換を提案している   (図) 。アミンオキシドのプロトン化の場合、充填因子は電荷の導入の結果減少するが、同時に水素結合形成により増加する。この二つの効果により、充填因子はプロトン化度 α= 0.5で極大になり、pHによる充填因子の調節が可能になった。

現在のところ充填因子の調節の研究は定性的な結果が殆どであるが、充填因子の定量化に向けた展開が望まれる。

参考文献  
H. Maeda, R. Kakehashi,
Effects of Protonation on the Thermodynamic Properties of Alkyldimethylamine Oxide Micelles,
Adv. Colloid Interface Sci., 88 (1-2), 275 - 293 (2000).

川崎英也、前田 悠
長鎖アルキルジメチルアミンオキシドの構造形成に及ぼすプロトン化の効果
表面、41(8)、289ー301(2003)

 A. 溶液中の構造形成 

  1. 溶液の粘弾性 click here!
  2. オレイルジメチルアミンオキシドのベシクル形成 click here!
  3. 疎水性対イオンによる構造形成 click here!

B. 固-液界面の吸着膜の構造:原子間力顕微鏡(AFM)観察  click here!

C. 極性基間水素結合ー赤外分光による検討と水素結合の安定性の評価 click here!



イオン性両親媒性物質の熱力学
(I)イオン性 / 非イオン性混合ミセルの熱力学 click here!
1-1.cmcの解析
1-2.対イオン結合度のミセル組成依存性 

(II)イオン性ミセル溶液と塩類のドナン分布 click here!

(III)ミセルの水素イオン滴定 click here!

(IV)イオン性ミセルに対するコリンーハーキンス(CH)式 click here!
4-1.一成分ミセル 
4-2.イオン種/非イオン種混合ミセル


イオン性ポリペプチドのβ構造


蛋白質の示す性質には通常二つの寄与(アミノ酸配列という個性とポリペプチド鎖という共通項)が含まれ 、二次構造は共通項の象徴である。α-helixの基本的なことは1970年代には解決済みであったが、 β構造(β-sheet)については、「分子間相互作用と分子内相互作用の競合」という高分子に共通の難問のた めに未解決なところが多い。α-helixを形成しないモデル高分子を準備して、その一分子の折れたたみ (folding)によるβ構造(分子内β)と分子間会合によるβ構造(分子間β)のそれぞれの系について、 安定性と速度過程および会合の機作の解明を試みた。蛋白質中のβ構造はサイズも小さく、モデルポリペプチドのβ構造とは多くの点で異なるが、 一般的な性質としては有効な情報を与えると期待される。参考文献 (1),(2)
  1. 分子内β構造(一分子結晶):分子内β構造の折れたたみの時間の線電荷密度に対する依存性は、 アミノ酸配列に依存しないモデルポリペプチドにより評価できる。その結果、折れたたみの時間が線電荷 密度に強く依存することが明らかになった。
    電荷が4残基に1個の状態では1000 s 程度であるが5残基に1個では0.1 sにまで速くなる。参考文献 (3)

  2. 分子間会合β構造 -屈曲性鎖状分子の結晶化の問題。
    結晶化の速度論:結晶成長における会合体へ付加する単位となる化学種は、屈曲性の単量体ではなく、 整合型β構造であり、 この付加単位のサイズは二量体でなく三量体として説明可能であった。 参考文献 (4)

  3. β構造の会合:従来は変性蛋白質の再生や変異蛋白質の生産における封入体(inclusion body) が主要な問題であったが、Altzheimer病やprion病などにおいてもβ構造の会合は重要な問題となってきてい る。会合には主として二種類の会合様式があり、蛋白質の場合はこの両者が複雑に組み合っている可能性も ある。(a) シート間の水素結合によるside-by-side型:二次元成長. (b) シート面同士の重なり(stacking)によるface-to-face型:一般的に著しく不可逆である。


高分子水溶液の散逸構造

組成の異なる二つの高分子溶液を重ねると、拡散による均一化が期待される。しかし、通常の拡散ではなく、 'finger' と呼ばれる微小な流れ(太さサブミリメートル)の発生により全体の系が均一になる場合があ る。媒質-勾配物質系と呼ばれる場合には、高分子A(媒質成分)の溶液をA及びそれと相容性のある別な 高分子B (勾配成分)の両方を 含む溶液の上に重ねる。Aとしてデキストランを用い、その濃度は上下両溶液で等しくしておく。 この場合、勾配成分が下の溶液から上の溶液へ向かって流れを生じる。 参考文献 (5)-(7)
  1. 添加塩効果:勾配物質をポリビニルピロリドンにした場合、その移動速度は、2M CsClでは無塩系の40倍の効果があった。 この塩添加効果は主として力学的な機構と考えられる。

  2. 電荷の効果:ポリアクリル酸を勾配物質とした場合、電荷密度の増加により構造形成は促進された。 また、対イオン凝縮が観測された。塩添加により0.5 M NaCl では通常の拡散へ移行する。 これらの結果より、静電相互作用は構造形成に有利に作用すると結論できる。




イオン性ゲルの熱力学

1.イオン性ゲルの膨潤

S. Sasaki, T. Miyajima and H. Maeda,
Low Dimensionality of Cross-linked Carboxymethyldextran Chains in Swollen Gels,
Macromolecules, 25(13), 3599 - 3600 (1992).

S. Sasaki, H. Ojima, and H. Maeda,
Polyelectrolyte Chains in Swollen Gels,
"Macro-ion Characterization" (Ed. K. Schmitz), ACS Symp. Ser. 548, Chap. 38, 499 - 506 (1994).

S. Sasaki, H. Ojima, K. Yataki and H. Maeda,
Flory Exponent of the Chain of the Expanding Polyion Gel,
J. Chem. Phys., 102(24), 9694 - 9699 (1995).

2.感熱性ゲルの体積相転移に対する電荷の効果参考文献 (8)-(10)

非イオン性感熱性ゲルである N−イソプロピルアクリルアミド(NIPA)ゲルは、水溶媒中で温度変化によって体積相転移を示す 非イオン性ゲルである。比較的単純な系で相転移を示すゲルであることから、NIPAゲルを用いて様々な角度から体積相転移現象に 関する多くの研究がなされてきている。
NIPAゲルへの荷電基導入の効果に関しては、荷電基導入量の増大に伴いゲルの体積相転移の不連続性は増大する (相転移温度は上昇し、相転移温度における体積変化が増大する)との報告、とそれに反する、イオン化の増大と伴い 体積相転移は消失する(体積変化は連続的となる)との報告があり、統一的な見解が得られていなかった。
我々は、荷電の導入により膨潤相は安定化され体積変化も増加するが、体積変化の相転移挙動は消失することを明らかにした。 (下図)
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さらに、塩を添加して、クーロン相互作用を遮蔽すれば、体積相転移が回復することを見出した。( click here!)  
また、NIPA−アクリル酸ナトリウム共重合体(NIPA−AA)ゲルでは、弱酸性pHにおいては、プロトン化したカルボン酸による水素結合が協同的に形成される効果により、体積変化の協同性が回復するることを明らかにした。 
また、NIPAゲルの体積相転移の速度はゲルサイズに強く依存する。このゲルサイズの効果についても示差熱解析を用いて明らかにし た。

3. 収縮状態のゲルのドナン浸透圧

イオン基を導入したNIPAゲルの体積変化挙動に及ぼす荷電基量及びイオン強度の効果は、ドナン浸透圧の効果として統一的に理解で きる。
NIPA―AAゲルの体積変化挙動(連続か 不連続か)を特徴づけるために、 膨潤度曲線の温度微分 [- dlog ( V/V0 ) / dT ]を計算し、その最大値Qを求めた。
不連続な体積変化を示すゲルでは、大きなQ値で特徴づけられるため、Q値は不連続性の尺度となる。このQ値とドナン浸透圧 ( Π/RT )との関係を調べた結果、添加塩系(△)及び無添加塩系(●)いずれの場合においても、収縮状態における浸透圧 ( Π/RT )が18 mM以下では、NIPA―AAゲルは不連続な体積変化を示し、それ以上では連続的な体積変化を示すことがわかった。 ( click here!)
強電解質であるスチレンスルホン酸ナトリウムとの共重合体ゲル(NIPA―SSNaゲル)においても同様な荷電効果、 添加塩効果が観測された。図では、無添加塩系の結果を(□)で示してある。