あの花見から1週間。 召喚課の面々も密の事にはだいぶ慣れて今ではなんら変わりない日常が続いている。 「密」には記憶がほとんどあったので召喚課のメンバーとの交流にはあまり困らなかった。 あまり、というのは約2名交流に困るメンバーがいたからだ。 その二人とは北海道の二人、弓真とさやだ。 密が女になった(実際には違うが)となってはこの二人が黙っているはずなどなかった。 早速北海道から帰ってきて密にピンハを着せようとする。 そしていつもの密なら着てたまるかと逃げ回るのだが・・・・。 「わぁ〜可愛い洋服ですね。」 「でしょでしょっ。密ちゃんのために買ってきたのよ。」 「早速着てみてくださいな。」 「え!?いいんですかぁ〜。」 「もちろんですわそのために買ったんですもの。ねぇ弓真?」 「そうね、さや。密ちゃんのおかげで永年の夢が叶えられるわ。ささっ、早速着てみて。」 「はいv」 「密」にとってはピンハなど初めて。 しかも中身はれっきとした女の子。 おしゃれだってしてみたいのだろう。 弓真さやが持ってきたピンハにはのりのりで喜んでいた。 「坊・・・あれ着るんか?」 「亘理・・・あれは密ちゃんだよ。」 「んなことわかっとるわ。でも・・・なんかあれやと坊が可哀相やないか?」 「そうだけど・・・俺は素直に嬉しい。」 (・・・すまん坊。俺も嬉しいわ。) 男二人もひそひそと話し合っていた。 「あんたたちはそこで何を話しこんでるんですか?」 突然巽が後ろに現れた。 その腕には今日皆に振り分ける書類が乗っている。 「うわ!?巽かぁ〜脅かすなや。」 「はいはい、あんたたちは真面目に仕事しなさいね。都筑さん、密さんの仕事ですよ。」 「え?仕事?」 都筑は思わず聞き返した。 密が慣れるまでは二人の外での仕事は皆がやってくれたし、もしくは都筑が一人で行っていたのだ。 「密さんももうだいぶ慣れたようなので。お二人の初仕事ですね。と、言うわけで悪いですがピンハは着ないでくださいね。」 「「「ええ〜!!!」」」 折角着てもらえると思ったのにと恨めしそうな弓真さやを尻目に巽は皆に書類を配り終えると都筑と密を課長室に呼んだ。 「仕事はそんなに難しいものではありませんから。1日で終わると思います。都筑さん、よろしくお願いしますね。」 課長室で二人に資料を渡しながら巽が言った。 今回の仕事は基本的な魂の召喚。 不治の病で入院していた少女が鬼籍に名が載っても死なずにいるというものだった。 確かに大きな問題もなさそうだし、「密」の初仕事としても大丈夫だろう。 都筑と密は説明を一通り聞くと召喚課を後にした。 都筑と密が出て行き、課長も留守な課長室で巽は一息入れていた。 「あの二人行ったんか?」 「ノックぐらいしなさいよあんたは・・・。」 唐突に現れた亘理にとりあえず巽はいつもの嫌味を言う。 亘理はそんなんええやんか〜と言って巽の向かいのソファに座った。 下界では桜などほとんど散ってしまっている中、課長室の窓から見える桜にはまだ多くの花がついている。 風に舞う花びらが輝く4月下旬の午前中。 二人はしばし言葉のないまま向かい合って座っていた。 先に口を開いたのは巽だった。 「この間の花見で・・・・わかったことがあると言ってましたよね?そろそろ教えてもらえませんか。」 1週間前の花見。 密に起こった突然の出来事のせいで召喚課中が落ち着かない中決行された花見。 巽は反対したが亘理に言いくるめられて結局4人で花見をしたのだった。 巽自身はまったく成果など得られなかったが、亘理にはあの花見でわかったことがあるという。 この1週間どんなに聞いても亘理はそれを教えてくれなかった。 だが今は密たちは出払っている。 巽は今日こそは聞き出すと譲らなかった。 「そうやなぁ、都筑も嬢ちゃんも居らんしそろそろええかな。」 亘理はもったいぶった風に言ったが巽の怒りのオーラを感じ取って話を進める事にした。 「この前の花見んときな、嬢ちゃんに桜は好きかって聞いたんや。そしたら好きやってゆうとった。自分自身のような気がするってな。」 「それがどうかしたんですか?」 「なんやぁ〜巽、これだけ言うてもわからんのか?」 巽は亘理に馬鹿にされた気がして頭にきたが今は一刻でも早く続きを聞き出したかったので亘理に先を促した。 「坊が言うとったやんか、邑輝の旦那が桜の木の下で人殺してるの見たんやって。」 ここでその名前が出てくるとは思っていなかった巽は露骨に嫌な顔をした。 巽にとって、そして他の何人かにとってあまり聞いていて良い名ではなかったからだ。 「嫌な名前を思い出させてくれますね。それが何か?」 「何があったんかは詳しく知らんけどそのときに呪詛をかけられたんやろ?やったら桜っちゅうのは坊にとって嫌な思い出の象徴やと思うんや。」 「それなのに桜が好きなのはおかしい・・・と?でも密さんは黒崎くんとは別の人物で・・・・。」 巽はそこまで言って気が付いた。 「気付いたみたいやな。」 「ええ・・・確かにおかしいですね。だとすると・・・・。」 「ま、結論は一つやろうな。まだ詳しくはわからへんけど。」 「え〜っと今回の対象者は木崎あかり。3年間不治の病で入院。鬼籍に名が載ったのが2週間前だけど未だに生きているっと。」 都筑が巽に渡された資料を読み上げた。 「俺たちの仕事は木崎あかりの魂を冥府へと送る事。そんなに難しい仕事じゃなさそうだな。」 「これからどうするの?」 「う〜んそれじゃあ俺は病院関係者に話を聞いてくるから密ちゃんは待っててよ。」 「何もしなくていいの?」 「うん、とりあえずはね。初仕事だからわからないこととかあるだろうし。」 「わかった。それじゃあ後でね。」 都筑はそのまま病院の中へと入っていき、密は中庭の方へと向かった。 下界ではすっかり桜は散って全て葉桜となっている。 中庭にはある程度の花が咲いてはいたが木はほとんど緑一色だった。 芝生は綺麗に整えられ、春の陽気が気持ち良い。 このまま寝転がって寝てしまいたいと密は思った。 顔を掠める風も草木のにおいも何もかもが新鮮だった。 この地上にあるものが生きているのだと感じる。 花も草も木も風も。 力強く生きるものたちの中に密はしばしたたずんでいた。 「・・・ねぇ、あなた誰?」 突然声をかけられて後ろを振り向く。 そこには密と同じくらいの少女が立っていた。 彼女の名前は木崎あかり。 今回の召喚の対象者だった。 風が吹いて花が散り 風に乗って花が舞う。 鳥が鳴き、声が聞こえて夢を見る。 水面に映るその人は今も寂しい顔をして。 彼の地であなたを呼んでいる。 遠くであなたを呼んでいる。 戻る 次へ |