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春も終わりに近づき、日も長く暑くなってきたそんな日。 都筑と密は街のカフェテラスにいた。 都筑が病院で調べてきた事を密に話しているのだ。 あかりは両親を無くして孤児院で暮らしている。 そして今の病気にかかり、両親の残してくれた遺産を入院費に当てて入院しているという。 両親を無くしているせいか看護婦たちの話によるととてもしっかりした子らしい。 だからこそあかりをこの世に縛り付けているものが何なのかわからない。 両親はいないし、孤児院での生活はけして良いものではなかった。 死んでもなお魂を縛り付けるほどの強い思い。 巽は簡単な仕事だと言っていたがどうやら少し時間がかかりそうだ。 カフェテラスでしばらく過ごした後、都筑と密は再びあかりの病院に向かった。 「あ、ねぇ都筑さん、ちょっと待って。」 病院に向かう道のりを歩いていると、密が後ろから都筑に声をかけた。 そこは丁度花屋の前だった。 「あかりちゃんの病室に行くんでしょう?だったらお見舞いにお花を買ってもいい?」 お見舞いと言っても調査のためで、実際にはあかりを「殺し」に行くようなものなのだが。 少しでもあかりに不信感を持たせないようにするにはいいかもしれない。 都筑も同意して花屋で無難な花を選んで持っていくことにした。 「あれ、おねえちゃん?」 あかりの病室に都筑と密が現れるとあかりは不思議そうに言った。 さっきお見舞いに来たと言っていた密が自分の病室に現れたのが不思議だったのだろう。 「あなたのことが気になってね。お見舞いに来たの。」 密はそう言って笑った。 都筑はあかりのベッドの側にある椅子に座り、密は花瓶に花を生けに行った。 「初めまして。俺は都筑麻斗っていうんだ、よろしく。」 都筑は営業スマイルでにっこりと言った。 突然やってきた黒ずくめの男に不信感を抱かないのか、あかりも「木崎あかりです。」とあいさつを返した。 その表情はどこか寂しそうだった。 白い肌にうつろな瞳をしていて、ますますこの子がこの世に残っている理由がわからない。 今までの魂たちは強い思いを残していたためほとんどの者が強気だった。 なのにこの子は今にも消えてしまいそうだった。 一体この少女をこの世に縛り付けているのはなんだろう。 「どうして・・・私なんかのお見舞いに来てくれたんですか?私とあなたたちは何の面識もないのに・・・。」 あかりが言ったのはもっともな質問だ。 密だってついさっき会って少し話をしただけなのだから。 「密ちゃんから君の話を聞いてさ。ちょっと気になったから来てみたんだ。」 あかりはまた寂しそうに俯いた。 そこに戸が開いて密が花瓶を持って入ってきた。 花瓶には花が綺麗に生けられている。 「へぇ、綺麗だね密ちゃん。」 「こういうのは得意なんです。」 密はそう言ってあかりの横の机に花瓶を置いた。 あかりはその花瓶の花をじっと見つめていた。 「この花で良かったかな?」 密がそう言うとあかりはこくんとうなづいた。 「ねぇ、聞いてもいい?さっき花占いで何を占ってたの?」 「え・・・?」 「さっき中庭で花占いをしてたでしょ、あれで何を占っていたのかなぁって。」 「・・・私が死ぬか死なないか占ってたの。」 「・・・・!?」 あかりの言葉に都筑も密も声が出なかった。 死ぬか死なないかを占っていた、あかりは自分がもう長くない事を知っているという事だろうか。 それとも・・・・・・もしかしたら自分が既に死んでいることを知っているのだろうか。 だとしたらこれほど悲しい事はない。 都筑は一刻も早くあかりの魂を召喚したいと思った。 だがあかりがなぜこの世に残っているのかもわからないのに召喚するのは嫌だった。 死後もなおこの世に魂をとどめるほどの強い思い。 できる限りなら叶えてやりたい。 「どうしてそんなこと占ってたの?」 密があかりに聞いた。 あかりは少し俯いて、それから顔を上げてはっきりとした口調で言った。 「だって・・・私はもう死んでいるんでしょう?わかるもの、私が死んだ事。夢で見たから。私の夢とってもよく当たるの。それで私が死んでお迎えがやってくるのを見たの。」 そしてあかりは花瓶の花を一本抜き取ってくるくる回し始めた。 「私が死んだ事はわかってた。別に悲しくなかった。ああ、死ぬんだなぁってそう思っただけ。でも私はまだ生きてた。私の夢が外れた事なんてないの。だから絶対に私は死んだはずなの。でも生きてる、ううん生きてるふりをしてるの。」 「だから本当に死んだのかどうか占ってたの。」 あかりはそう言って花びら一枚ずつちぎり始めた。 「死ぬ、死なない、死ぬ、死なない、死ぬ・・・。」 ぽつぽつとそう言いながら花びらをちぎっていくあかりに都筑と密は何も言えなかった。 そのままどのくらいの時が経っただろう。 窓から差し込む明りには赤みが混じってきていた。 窓から見える夕焼けは悲しいくらい美しく、白い病室を赤く染めていった。 ベッドで眠るあかりを残して都筑と密は病室を後にした。 帰り道、都筑と密は何も話さなかった。 何ともいえない感情が二人の中にあった。 自分が死んでいるかどうかを占っていた。 あかりはどれだけつらい思いをしたのだろうか。 だがそれよりも都筑には気になることがあった。 あかりの言っていた夢の話だった。 実はあの後、密が少し席をはずしたときにあかりと話をしたのだった。 あかりの見た夢について。 あかりは自分の見た夢についていくつかぽつぽつと話し始めた。 その中に都筑はとても気になる夢を見つけたのだった。 ある小さな少女の夢だった。 沼というか・・・淵のような所にたたずんでいる一人の少女。 その姿は光に包まれたようにおぼろげでこの世の人かどうかもわからなかった。 その少女には顔がなく、表情も何もわからなかったがとても寂しそうにしていた。 そしてしばらくその少女を見ていると、その少女は沼の中に身を投げてしまった。 慌てて助けようとしてあかりが沼に近づいても既に少女の姿はそこになかった。 ただ水面には彼岸花が一輪浮いていた。 ふと視線を感じて後ろを振り向くとそこには5,6人の人が立っていた。 気付かなかったがその人たちはどうやら少女が沼の側にたたずんでいたときからいたようだった。 少女が死ぬとき側にいたのに何もしなかった。 むしろ死ぬように言っていたかのようだった。 だがその中に一人だけ涙を流している男の人がいた。 色素の薄い髪に、緑の瞳。立派な着物を着た男性。 その人だけが少女の沈んだ沼を見つめてとめどなく涙を流している。 あかりがその男性に話し掛けようとしたところで目が覚めたらしい。 都筑はその夢の話がとても気になっていた。 夢に出てくる男性は密に似ている。 だがあかりが言うには20歳は確実に越えた男性らしい。 ならば密のはずがない。 だが密でなくとも密の血縁の誰かかもしれない。 そしてその夢が「密」と「密ちゃん」の関係を表しているような気がしてならなかった。 霊感のたぐいには全くと言っていいほど才能のない都筑だが密の事ならなぜかわかるような気がする。 あかりの夢の中に何かがあるような・・・そんな気がする。 都筑には「密ちゃん」とこの仕事の依頼を受けたことすら偶然とは思えなくなっていた。 夢で出会ったその少女。 水面に浮かぶその花は。 遠く旅立つその人へ 誰かが供えた手向けの花。 暗い水面に赤く浮く 悲しく美しい血の色の花。 戻る 次へ |