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「私の・・・夢?」 あかりは訳がわからないといった風に都筑を見た。 密はもっと困惑した表情で都筑を見つめる。 密はあかりの見た夢というのを知らない。 だから都筑の言っていることは密にはさっぱりわからなかった。 「あのね、あかりちゃん。密ちゃんに夢のこと話してくれないかな?」 都筑が遠慮しがちにあかりに言った。 あかりは密を見つめ、密もあかりを見た。 「わかりました・・・。」 そう言ってあかりはいつか見た夢のことを密に話し始めた。 それは水辺にたたずむ少女の夢。 水の中に身を投げて死んでしまう少女。 それを見つめて涙を流す男性。 全てを話し終わると密の顔は真っ青だった。 身体は震え、落ち着きがない。 都筑の予想はやはり当たっていたのか。 だが密は都筑のまったく予想していなかった事をした。 涙を流したのだった。 これにはあかりも驚いた。 「お姉ちゃん!?どうしたの?」 あかりは自分が泣かせてしまったのかと慌てふためいた。 おろおろと右往左往するあかりに密はふるふると首を振った。 「違う・・・・その女の子が・・・かわいそうで・・・・それで・・・。」 密はやっとそれだけ言うとまたぽろぽろと涙を流した。 その様子を見た都筑はやはり言うべきではなかったと後悔した。 たかが夢。 その夢と自分の根拠のない仮説で密ちゃんを傷付けて一体何の意味があるというのか。 「ごめん・・・・ごめんね、今のは忘れて。」 都筑はそう呟いた。 しばらくすると密も泣きやみ、本来の目的であるあかりの召喚に移ることになった。 とはいえ、あかり自身がもう召喚される事を承知しているので何も大変な事などなかった。 ただあかりと一緒に冥府に行くだけだったのだから。 あかりの魂が都筑と密によって身体から離れた。 魂となったあかりはベッドに横たわる自分の体をじっと見つめた。 「これで最後になるけど・・・やり残したことはない?」 都筑がそう言うとあかりは首を振った。 「私がもう死ぬ事はわかってたから。もう覚悟はできてました。大丈夫です、行きましょう?」 あかりはしっかりとした口調でそう言ってにっこり笑った。 その笑顔に都筑は少し罪悪感を覚えた。 いつもいつも召喚のときにいい気持ちはしない。 生きたい生きたいと願う魂を召喚するのは気がめいるし、かと言ってあかりのように全て悟りきった魂を召喚するのも嫌だった。 自分がこれから死ぬのがわかっているというのはどういう気持ちなんだろう。 都筑は自分が死んだ日のことをあまりよく覚えていない。 おそらくその時自分は正気ではなかったのだろう。 ただただ死にたかった。 死にたかったから手首を切って、そして死んだ。 覚えているのはそれだけ。 死後の世界には何もないと思っていたのに自分は今こうして新しい身体を得てまだ生きている。 いつも感じる罪悪感。 生まれながらに持った罪。 そんな都筑の心を読んだのか、密が不安そうに顔を覗き込んできた。 都筑は大丈夫といった風に笑った。 「行こうか・・・。」 暗闇の中、三人は冥府を目指して飛んでいった。 「お帰りなさい、二人とも。」 召喚課に帰ってくると巽がそう言って二人を迎えた。 中のデスクに亘理も座っていた。 「あれ?もう定時過ぎてるよね。また残業してたの?巽。」 「ええ、あなたたち二人が今日中には帰ってくるだろうと思いましてね。それにあなたたちだってわざわざ課に顔を出さなくても直帰してよかったんですよ?」 「うん・・・まぁそうなんだけどね。」 都筑はコートを脱いでデスクについた。 帰るつもりはないらしい。 「ちょっとさ、わからないことがあって。」 「なんや?わからんことって。」 すぐ側にいた亘理が声をかけた。 「あかりちゃん、何で鬼籍に名前が載った後も生きてたんだろうね?」 あかりは自分が既に死んだと知っていた。 召喚のときも思い残した事はないと言った。 それならばなぜ現世に残っていたのか。 「密ちゃん、どう思った?」 まだ入り口のところに立っている密に都筑は声をかけた。 密はちょっと考えてからわかりませんと言った。 三人はその様子に少し違和感を感じたが、都筑がそうと言って話を切った。 「あの・・・私、もう帰ってもいいですか?」 密が遠慮がちに巽に言った。 「ああ、構いませんよ。今日の仕事は終わりですから。お疲れ様でした。」 密はぺこりと頭を下げて足早に去っていった。 「嬢ちゃんなんか隠してるんとちゃうか?」 密の足音が聞こえなくなってから亘理が言った。 「そうですね、様子が変でしたし、何かを隠してると見て間違いないと思います。」 「あのさ、巽亘理。」 都筑の言葉に二人は都筑を見つめる。 「あかりちゃんの見た夢があるんだ。俺、その夢のことが気になってさ。」 「夢?」 「うん、一人の女の子の夢。俺の根拠のない仮説なんだけどね、その夢に出てくる女の子が密ちゃんじゃないかと思うんだ。」 巽と亘理は顔を見くばせた。 「で?その夢ってちゅうのはどんなんや?」 都筑はあかりが言った夢のこと、そしてその夢の話を聞いたときの密ちゃんの反応を話した。 話し終わると巽も亘理も考え込んでいた。 そしてうなづきあって巽が都筑に言った。 「都筑さん。あなたと密さんが出かけている間に私たちも考えた事があるんです。」 「え?」 「そ、嬢ちゃんの正体についてや。」 「聞く気は・・・ありますか?」 巽と亘理の様子から都筑はその話がよい話ではないことを感じた。 それでも都筑はしっかりとうなづく。 「聞かせて・・・。」 そして巽と亘理も今日自分たちが立てた仮説を話し出した。 密は一人暗い道を歩いていた。 話さなくてよかったんだろうか。 そのことを何度も自問自答していた。 あかりは密にあるもの渡していた。 都筑には話さなかったがそれは初めにあかりに会った時にもらったものだった。 密はカバンの中からそれを取り出した。 あかりの日記だった。 あかりが見た夢のことが書いてある夢日記。 あかりの夢がただの夢でないことは密が一番よくわかっていた。 何故ならあかりが都筑に話した夢、それは紛れもなく密の事だった。 若干違いはあるもののあの夢は間違いない。 この日記には他に何が書いてあるのか。 それを全部読まないからには他の人にこの日記を見せることはできなかった。 密が・・・「密」でいるために。 都筑は俺のことに敏感だからそのうち気づくんじゃないか? ふと、何処からともなく声が聞こえて密は立ち止まった。 その声が何処から聞こえるのか、誰のものなのか密はよく知っていた。 「都筑さんってそんなに勘がいいの?」 いや、霊感的なものは全然ダメだと思うぜ。 「それならどうしてそんなことが言えるの?」 自惚れじゃなくてさ、都筑は俺のことになると何かとよく勘が働くからな。 「そう、「密」がそう言うんならそうなんでしょうね。」 どうするんだ? 「しょうがないから・・・少しだけ身体を返してあげるわ。でも少しだけだからね。ほとぼりが冷めたらまた・・・。」 そう言うと密の身体が少しずつ変わっていった。 次の瞬間そこに立っていたのは一人の少年だった。 「あーあ、こんな服着てるなんて誰かに見られたくないな。」 密はそう呟いてスカートの裾をつまんだ。 「そうですか?とてもよく似合っていますよ、坊や。」 その声に密は過敏に反応した。 緋い満月がその人物を照らし出している。 密が大嫌いで、会いたくない人物・・・邑輝一貴を。 一人の少年と一人の少女。 その二人は二人で一人。 水面に揺らめく満月が、空に輝く満月が 二人を照らす満月が。 緋く輝く満月が その全てを知っている。 戻る 次へ |