| 社団法人 日本コリークラブの月刊機関誌「コリーファンシー」に掲載されたトピックス記事です。 |
| 【まえがき】 子犬を入手されるときや子犬の躾等はコメントされていますが、年老いた犬の話題は余りありません。 そこで、老犬のケアについて私の所属するJCCの機関誌コリーファンシー掲載の記事ですが、大変参考になると思います。 筆者は、コリー&シェルティに魅せられて40年。 血統を残すために1〜2年毎に繁殖をして、展覧会で楽しんでいますが、残した犬はすべてご自分のところで生涯を全うさせています。 展覧会好きというと、とかく次々に犬を変えてというイメージがありますが、決してそのようなことのない真の愛犬家です。 |
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人間社会は高齢化が進み、厚生省の統計によれば平成5年度の日本人の平均寿命は、男性が、76.25才、女性は82.51才となっています。 一方犬の平均寿命も人間と同様、年々延びてきていて12〜13才になろうとしています。 これは、30年前の平均寿命が 6.5才でしたから、この間に倍近く長生きになったといえます。 犬を愛するものにとって、大変喜ばしいことで、更に長寿を祈りたくなります。 この様に犬の寿命が延びたのは、 1. 獣医学の進歩、とりわけワクチン及びフィラリア症の予防薬の開発。 2. 環境の整備による衛生状態の改善。 3. ドッグフード利用による栄養状態の改善。 4. 家族の一員としての飼育意識の変革。 5. 関係業者の規模拡大、内容の充実 等があげられ、これ等の要因が相互に関連し合って良い結果を生んできたと言えます。 私達人間が不老不死を望むのと同様、家族の一員として長い間喜びや悲しみを共にしてきた愛犬にも、元気に少しでも長生きして欲しいと願っています。 しかし、人も犬もその願望を達することが出来ないのが現実です。 脳や神経細胞、心臓を形成する心筋細胞は生まれたときのまで、新生する事はありません。犬の細胞増殖機能は4〜5才をピークに減退し始め、8〜9才を越えると諸処に老化現象が見られます。 老化現象には個体差がありますが、先ず口吻の周囲の毛が白くなり、被毛の艶や勢いが失せ、視・聴力が低下、歯の脱落、動作の緩慢化、牝犬では排卵数が減少する等繁殖能力の低下が見られるようになります。 牡犬は精巣のトラブルにより受胎率が低くなり、性ホルモンのアンバランスで前立腺肥大を起こすことがあります。 呼吸器、循環器、泌尿器にも異常が現れ、代謝系では感染症の免疫力が低下、罹患率の増加や回復力が衰えます。 従って展覧会で活躍したり、可愛い子犬を産んだり、野山を風のように駆け廻ったり 出来る華々しい時期は一生のうちのホンの束の間です。 その後をいかに健康で楽しく生活を送らせてやるかが私達の努めなのです。 高齢に伴って起きる老年病には、糖尿病・白内障・難聴・歯根膜炎・心臓弁膜症・慢性腎炎・膀胱炎・子宮蓄膿症・椎間板ヘルニア・骨粗鬆症・皮膚ガン・乳腺腫等が挙げられます。 これらの疾病のうち、高齢による物で避けられない物もありますが、食餌、環境、手入れ管理、運動を適切にすることで、更に健康を継続させ得ることも可能です。 人間の場合いわゆる痴呆症(アルツハイマー病変)が見られることがあります。 犬も糞尿を処かまわずしたり、徘徊(理由無く歩き回る)、昼も夜もなく吠え続ける、食餌をしたばかりなのに空腹を訴える等の痴呆症に似た行動をとる物もいます。 これは脳の機能障害は少なく、膀胱炎や目、耳、脊椎、脚部等の疾病による物、栄養障害による物等諸説があり、治療や不足している栄養素を補給して回復した例もあります。 1.食餌 犬は元来、肉食でたんぱく質を多く摂るので、高齢犬になる腎機能が低下している物が多くなります。 加齢に従ってたんぱく質の要求量が減ってきているのに多給した場合、腎不全から尿毒症を起こします。 8才を過ぎた頃からたんぱく質は2割ほど少なくします。 また動作の緩慢による消費エネルギーの減少から、脂肪は成犬時の6〜7割と控えめにします。 一方繊維は3〜6割り増し、カロリーを低くすると同時に便秘を防ぎます。 ミネラルでは食塩を制限して心疾患を予防して、カルシゥムを過不足無く与えることで骨折を防ぎます。 高齢になるに従って肥満犬も増え、飽食の時代といわれる昨今では、8才を過ぎた犬の約40%が肥満しているとの調査報告があります。 食餌量は少な目にしますが、更に一日分を2〜3回に分与し、消化器への負担を軽減してやります。 その反面、臭覚が衰えると食欲不振になることもありますので、嗜好性が良く消化吸収の良い物を与えて下さい。 ですから、幼犬用、成犬用のドッグフードをそのまま与え続けることは問題です。 上記のことを配慮して開発製造された老犬用のドッグフード(ライト、シニア)が市販されていますので、これを与えると簡便で間違いないでしょう。 また、老犬は渇感が減退し、飲水量が減ってきます。 飲水量の不足は、脱水、尿毒症の誘因になりますので、いつでも飲めるように水を用意するほか、食餌には水やスープを加えて下さい。 2.飼育環境 1. 視力が低下しますので、飼育環境を変えない方が不安感を与えません。 2. 体温調節の機能が減退しますので、寒暑に配慮し、快適な温度(15〜25゚C)を保ちましょう。 屋外で飼育することの多いコリーやシェルティは、最適な温度にしてやることが困難です。 冬は、ハウスを南向きにして、毛布等を敷いて暖かくし、特にすきま風が入らない構造にして下さい。 夏は、直射日光を避け、風通しの良い場所に移して下さい。 3. 食餌は、同じ場所、同じ時刻、同じ食器で与えて下さい。 3.手入れ 1. ブラッシングは、入浴を十分にさせることの出来ない老犬にとって特に大切です。 皮膚、被毛の汚れを取り除き、血行を良くし、新陳代謝を促します。 コミュニケーションを取り、全身に触れることで、異常を早く発見することが出来る意味でも有意義です。 また、汚れが目立つようなら、暖かい日を選んでシャンプーして、皮膚、被毛を清潔にしてやりましょう。 2. 歯石は口臭の原因となり、歯根膜炎を起こします。 定期的に除去し、ぐらついた歯は、動物病院で抜歯して貰いましょう。 4.運動 なるべく同じ時間に同じコースをゆっくり歩き、激しい運動は避け、心臓病や運動機能に障害のある犬は制限して下さい。 老犬の体調は変わりやすいので、異常に気づいたら早めに対応し、必要な時にすぐに信頼できる獣医師と連絡が取れるようにしておくことです。 気持ちを若く持たせ、精神的に老いさせないためにも、絶えず話しかけて対話を心がけてやりましょう。 年を重ね、飼い主との付き合いの永さが信頼感となることはすばらしいことです。 愛犬の老化を遅らせ、例えボケて寝たきり老犬になっても、天寿を全うさせる秘訣は家族の愛情に勝る物はないでしょう。 近年わが国でもヒューマン・アニマル・ボンドと言われる人と動物との触れあいによる効果を、人と動物双方の福祉に結びつけようとする精神が重視されてきています。 これはアニマル・セラピー(動物療法)に代表され、ペットに接することで、老人や知能に障害のある人たちの精神安定や活気、身体的好調が現れる効果があります。 ですからコリーやシェルティを飼い続けている会員はこの恩恵に浴しているわけで、実際の年より若く見える人たちが多いのは、精神年齢だけによる物ではないのです。 老犬もまた、飼い主の暖かい思いやりと、常に話しかけ、触れてやることが何よりの薬で、置き換えれば、ヒューマン・セラピーと言えるのかも知れません。 私は、コリーを飼いはじめて36年近くになります。その間一度もコリーを絶やしたことがなく、常に現役で来ましたので、当然年老いてやがて死を迎えた犬達に何頭も接してきました。その殆どが自家繁殖犬ですから、わが家で産声を上げ育んできただけに各々の犬に忘れられない思い出が強く残っています。 今考えると、中には天寿まで生き永らえさせてやることの出来なかった後悔が頭をよぎります。 このときの経験は後日の飼育上のトラブルの解決や再発防止に大きく寄与してくれていて、決して「犬死に」になることがないよう肝に銘じています。 世間一般の平均寿命の通り、当初の頃より段々長寿になり、生活を共にする年月も長 くなっています。 何の取り柄もない私達の名を知らしめ、犬を通じてのかけがえのない親戚や、損得をかけ離れた素晴らしい犬友をもたらしてくれたことに感謝を込めて、快適な老後のケアを心掛けているつもりです。 それは老化を遅らせ、華の時代を少しでも長く過ごさせてやるような管理努力を重ねていることなのです。 一つの例をとれば、9才近くになる「優」を展覧会で、堂々と競り合えるコンディションと若さを保つことで立証していると自負しています。 しかし、いくら老いて盛んと言っても、やがて悲しい結末が訪れるのは宿命で、仕方 のない事実です。 ケアの記録 コリーファンシー(注:JCCの月刊機関誌)'95/1月号の「老犬特集」に私と一緒の写真が掲載されたJCC-G-CH. THREE LUCKS KISS ME KATHY (シェルィ 呼び名キャティ)は、G.CH.チキの4胎目の子として1980.7.19.に誕生しました。 翌1981年の特別展にCH組から勝ち上がりでベストシェルティグループとなり1985年まで連続5年間勝ち続けました。そして1988年7才5カ月で6回目のグループに輝きました。 12月の展覧会ではコートコンディションが万全でなく、今一歩の処、いつも毛吹きで泣かされたものです。 この子はコリー達の中で育ちましたが、外観はシェルティでも、自分はコリーと思っていて性格や態度に大物感があり、向こうっ気が強く負けず嫌いのお転婆娘に育ちました。 運動場ではコリー達の先頭に立ち、ハトやカラスを追いかけ、心臓が飛び出さんばかりに走り回り、何頭ものコリー達を仕上げてくれたものでした。 その運動能力はトリミング台に助走なしで飛び上がり、降りるジャンプ力と、展覧会でのタフなショウマナーと歩様は群を抜いていました。 その後も元気な老後を迎えて順調でしたが、10才になったある日、突然てんかんの発作を起こして倒れ、私達を驚かせました。 心当たりがあるとすれば、3才になった頃、車との衝突事故があったことです。 この時、脳に傷が付いていて後遺症となったものとのことでした。 運動で培われた強靭な筋肉に守られた骨組みは、骨折することもなく安心していましたが、その洗練された頭蓋は脳を保護する術もなかったものと考えられます。 発作は日を重ねるに従って回数が増え、症状も悪化してきました。 倒れると歯が折れてしまうのではないかと思う程くいしばり、四肢は激しく打ち震え、尿を飛び散らせ、まるで地獄絵図を見るようで、正視するに忍びない状態でした。 若い頃の過激な運動で鍛えられた心臓がなければ、すぐにも絶命してしまいそうな有り様でした。涼しげな形の良い目の輝きと、美しい表情は消えて、喜んで尾を振ることさえなくなりました。 発作が起きそうな日は、人間の赤ちゃん用の紙オムツに、尾の出る穴を開けて履かせるようになりました。そのうち慣れて自分から仰向けに寝て待つようになりました。 オムツをしたまま歩き回っていて、それが急に落ちたので調べてみたら、大と小の重みが原因だったこともありました。 食欲は旺盛で、私達が食事するときは、キャティが眠っているのを確かめてから気づかれないようにしていても、いつのまにか起きてきて側で催促していることもありました。 眠ることが多く、その間に出かけて留守にすると、部屋の真ん中に嫌がらせのウンチやオシッコがしてあり、苦笑させられました。吠え出すと止まらなくなったりする痴呆症の徴候が見られました。 何れにせよ世話をする役目の者には、手の掛かるおばあさんでも、悪気のない童女のような仕草と表情には怒るわけにも行かず、ただ我ままを聞いてやるだけでした。 妻は歩き回って騒ぎ続けるときには、人間用のおんぶ紐で背中に背負って家事をする等、文字どおりつきっきりの世話が続き、展覧会は好まない息子も夜の食事が終わると、必ず抱いて排便に連れていく協力を惜しみませんでした。 それでも生まれ持った資質と、運動で備わった脚力は衰えることなく、外に出していて少し油断していると、あっと云う間に視界から消え、冷や汗をかいたこともありました。 昨年の酷暑も、何度かの危機はあったものの乗り越えました。 10月30日、激しい発作が繰り返し襲い、意識が薄れてきました。 この状態からこれまでも不死鳥のように蘇った経験から一縷の望みを持ちました。 しかし、長年の闘病からその体力が奪われ、残っていませんでした。 体を横たえる時間が長くなり、ときどき苦しそうに哭くようになりました。 あれほどあった食欲も段々なくなり、殆ど受け付けなくなりました。 汚れを知らず、皆に喜びをもたらしてきた天使のようなキャティが、なぜこの様な苦痛を受けるのか、全く不条理で納得のいかないもので、出来れば代わってやりたいと、胸が締め付けられる思いでした。 この苦しみから早く解放してやりたい反面、このまま植物犬となっても生き続けて欲しい気持ちが交錯しました。 やがて、11月 7日未明、誕生から今まで14年以上の永い時を共にし、一番信頼していた妻に抱かれて眠るように静かに息を引き取りました。 その顔は、あれ程苦しんでいたとは思えない安らかな表情でした。 介護の上で、全てやったという満足感より、あの時ああしてやれば良かったとの思いが去来し、悲しさは募るばかりでした。 さすがに妻のショックは大きく、食事も喉を通らず、放心状態の日々が続き、慰めの言葉もありませんでした。 死後暫くは、家の中を歩き回る足音が聞こえ、食事時にはキャティの気配を感じてあわてて身構え、ハッと我に返ることもありました。 現在も小さな骨壷が家にあり、生花の絶えることがありません。 今ごろ、先立った多くのコリー達に迎えられ、先頭を切って走り回っていることでしょう。 わが家にはまだ12才を頭に、2才までの9頭のコリー(全て自家繁殖で牝ばかり)をかかえています。 これから少なくとも9回以上は同じ経験をするかと思うと、いささか気が滅入ってしまいます。 一度飼ったら最後まで面倒を見てやれるのは、私達の大切な家族であるからなのです。 自分自身も年老いて行くことを考えると、複雑ではありますが、まだまだ体力の続く限り現役でいたいものです。 ーーー 完 ーーー 【あとがき】 長いことお読みいただきありがとうございました。 本稿を見るのは三回目ですが、入力していて何度か目頭を熱くしました。 筆者ご夫妻とは、お互いに十代の頃から系統は違っても、コリー&シェルティを愛するものとして展覧会で競い合いながら、論争を重ねながら、良き競争相手として、彼らが独身時代からのお付き合いをいただいております。 キャティも誕生から死までを見ています。 核家族化と云われ、医療機関の発達により、病院で亡くなることが多くなり、子供達が「死」というものを現実に目にする機会が少なくなりました。 それと共に「命」の尊厳、大切さを認識する機会が減り、あまりにも人の命を粗末にしすぎているのではないでしょうか。 私も、彼らと同じくらいの永久の別れを経験しています。 幸い家の子供達は、喜怒哀楽を共にすることの出来る人類最古の友「犬」と接することによって、その「死」を迎えたときに、涙することができます。 他のことは忘れていても、二才の時に死んだ犬のことは覚えています。 今は、直接理解できなくても、その経験がきっと役立つときが来るものと思っています。 たかが「犬」を通じて、しかし犬がいたからこそ「犬を大切な家族の一員」と言える感性を持った多くの友人を持てたことは、私の大切な財産となっています。 |