今回は前回(<愛の城砦>10号)のような半ばやけではなく、マジメなレビュウです。ギャグと間違われかねないので重々念を押しておきます。これは真面目なレビュウです。
(69)『クィン氏の事件簿』 A・クリスティ
ロマンス特集といったら、まず第一に思い浮かべるのがこの作品です。なにしろ探偵の名前がハーリ・クィンというのですから。
ハーリクィンとはそもそも無言劇(パントマイム)の道化役で、パンタルーンの下男、コロンビーヌの恋人役、英国ではクリスマスのおとぎ芝居(パントマイム)に恋人と魔術師の役で登場する。なぜロマンスのシリーズの名前にハーレクインとついたかは今後のとりで編集部の研究を待ちたいところです。
一方、ハーリ・クィン氏ははなはだ漠然とした謎の人物。愛する二人に危機が訪れたとき、七色の光とともに現われ、人生の傍観者サタースウェイト老に力を貸して事件を解決する。クィン氏は恋人たちの味方であり、また、死者の代弁者でもあります。
この本に収められた十二編はどれもみな味わい深いものばかりです。人間の心理や恋愛の葛藤に目が向けられ、中には全然犯罪の起こらない話もあります。ミステリとしても上質です。一回読んだだけではよくわからず、二回目に読んで愕然とした話もありました。
私がクリスティで一番好きなのは、『アクロイド−』でも『オリエント−』でもなく、この作品なのです。
85点。但しハーリクイン度当然100点。
『レディに捧げる殺人物語』 F・アイルズ
この作品は、リナとジョニーの出会いから結婚、そして長年の夫婦生活の末に彼女が彼に殺されるまでを、彼女の目から描いた犯罪心理小説です。これを読めば一歩間違うとロマンスがミステリに化けてしまうことがよくわかります。ははは。
アイルズ=バークリーは私のお気に入りの作家の一人です。この作品は映画『断崖』の原作でもあります。何度も言うようだが、ヒッチコックのばかやろう。
68点。但しシンデレラ度0点。
『押絵の奇蹟』 夢野久作
夢野久作なんてみんなドグラ・マグラしているんだろうと思っているあなた、中にはこんな美しい話もあるんですよ。
音楽会で喀血し病院から失踪したピアノ奏者と彼女を愛する歌舞伎界の名優と博多の神社の二枚の押絵にまつわる世にも不思議な因縁話。ヒロインの語る母親の想い出は美しくもはかない白昼夢を見る思いでした。
これを読んだときには、図らずも涙ぐんでしまい、二人の幸福を祈らずにはいられませんでした。まったくこの世には真実の愛ほど尊いものはないのです。
ほんとにいい話なんだから。なあ、坂中ぁ。
74点。但し奇蹟度92点。