作家シリーズ/天城一

作家シリーズ/天城一


 一人で毎度毎度3ページも使っているというのは顰蹙物のような気もしないではないけれど

【作家シリーズ/天城一】
 「SRの会」に入ってよかったと思うことの一つは、天城一の長編が二冊も読めたことです。あまり 面白くはなかったけど。この二冊の自費出版本の話をする前に作風・経歴等を紹介しましょう。
 本名 中村正弘。数学者。東北大学理学部出身。極めて寡作。その短編の一つ一つは芸術的と言っていいほど巧妙に組み立てられ、込められた機知と皮肉が読者を刺します。代表作といったらやはり初期の「高天原の犯罪」。チェスタトン「見えない人」に挑んだ好短編です。この時期の主役は二人。奇矯な哲学者の摩耶と彼に翻弄される気の毒な島崎警部補。天城一の摩耶物が一冊にまとまったら(そんな奇特なことをしてくれそうな出版社は東京創元社しか考えられないが)10冊ぐらい買ってお江戸会で配って回ってもいいと思うくらい入れ込んでます。
 二十年あまりの沈黙からの復活後は「急行《さんべ》」のような鉄道物が多くなります。警部となっ た島崎は黒衣の美女の訴えに悩まされつつ事件解決に乗り出すことになります。
 そして、昨年からが第三期、長編時代ということになるんでしょうか。『風の時/狼の時』と『DESTINY CAN WAIT』のどちらも第一期に書かれた草稿の改稿で、それぞれ戦争直前と直後を舞台にしています。それにしても頭の良過ぎる人の書く長編はよくわからなくて困る。筋はとぶ。時間は超える。謎の機関が跳梁し、悪魔同志が火花を散らす。まあ、筋は追いきれなかったけど前者の方が面白かった。そのガジェットが。戦史や革命史のペダントリー。あるいは作者がユダヤ人のためナチスに抹殺されたという有機合成論の幻の名著。それを読みこなすことができた少数の人物の中からノーベル化学賞受賞者が輩出したとのエピソードを読み、恥ずかしながら私も買ったまま繙いていなかった専門書数冊を読み通す気になりました。
 さて、この二冊はワープロで書かれ自費出版されたものです。作者は今年七十二才の筈ですが、生涯にあと三作の長編探偵小説を書くと言明しています。確かに引退後の余技としては悪くないけど、DTPの発達は予想もし得なかった恐ろしい事態を引き起こしつつあることであるなあ。天城一ならまだいい方で、山沢晴雄が!長編を!執筆中というので私は恐怖しています。山沢晴雄なんて名前を聞いてわかる人、日本に千人いるかなあ。




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