『別冊シャレード 天城一特集7』 『別冊シャレード 天城一特集8』

『別冊シャレード 天城一特集7』 『別冊シャレード 天城一特集8』


『別冊シャレード 天城一特集7』
 鉄道ミステリ集

『別冊シャレード 天城一特集8』
 
鮎川哲也さんの想い出に捧げる
 不可能犯罪集

 <別冊シャレード>の天城一特集。特集6は『圷家殺人事件』で『「密室」傑作選』で読んだのでパス。特集7、8は殆ど既読の作品ばかりなのでまとめて扱うことにする(→作品目録)。

 特集7は「鉄道ミステリ集」。
 「失われたアリバイ/特殊急行一〇〇二列車」(1978)は「収差」(1994)の原型。完璧と思われた犯罪が思わぬことから崩壊する様を短い枚数で描いて、ぴりっとした味わい。

 「準急《皆生》」では、東京の女を殺した容疑で大阪の男が逮捕される。男はアリバイを申し立てるが、その証人となるべき部下の男が行方不明になってしまっていた。裁判も含めて長期化した事件を島崎はRルームの美女からの情報を元に建て直す。記憶喪失とアリバイ証言との結びつけが面白い。

 時刻表ものは苦手なので、コメントは初読の作品のみにつけた。 この集収録で一番好きなのは、ガチガチの時刻表ものと思わせてまんまと外してみせた「急行《西海》」。

 特集8は、”鮎川哲也さんの想い出に捧げる”ということで「不可能犯罪集」。
 「炎と新月」は「落葉松の林をすぎて」(1999)を縮めたもの。とある人物がトランクを発送したにもかかわらず、受け取られたトランクにはその人物の死体が入っていたという不可能状況。あまりにも削りすぎて、これではどうやって犯行が実現できたのかわからない。動機となる人間関係の綾はうまい。

 「加里と氷」は、狩久の追悼として狩の処女作「氷山」(1951)を踏まえて書かれたもの。ショートショートと言える枚数でありながら、衆人環視下での毒殺を扱う。手品トリックではありながらも、ある人物の人生で最も輝いた「星の時間」を描いて印象深い。「星の時間の殺人」(1991)に改作されている。

 「冬の日の怪談」は「村のUFO」(1991)の原型。ひなびた村でUFOが目撃される中、被害者以外に足跡のない雪の上に手製のショットガンで撃たれた死体が見つかる。密室ものよりは意外な凶器トリックとしての方が評価できる。

 「冬景色」は、警察と暴力団に追われて山に逃げ込んだ男がいつの間にかに厳重な包囲網を突破した謎。作中で設定された犯罪組織まがいの会社と社長が物凄いが、それがあってこそこの話全てが生きる。

 「朽木教授の幽霊」では、名門女子大の学生が名物教授の自殺の現場に立ち会ってしまったのだが、その幽霊が大学構内に出るのだと言う。天城作品はどれもそうであるが、寓話的な印象が極めて強い。

 「遠雷」「春嵐」では、長編『DESTINY CAN WAIT』(1990)での仇役ヴィンセンズの名前が出てくる。どちらも短い枚数でありながら、不可能状況を決定付けるために派手な大技が炸裂する。

 「火の島の花」「惜春賦」は、乱歩が絶賛したある海外作家の先鞭をつけた不可能状況に挑戦したもの。前者は摩耶ものの「夢の中の犯罪」(1949)の改作、後者は「恨みが浦」(1991)の原型。「惜春賦」は、島崎警部シリーズの名脇役、Rルームの美女自身の事件であることも興味深い。

 「失われたアリバイ」は作品ノートよりも本編の方が短い掌編。鮎川がその趣向を愛好したという。

 不可能犯罪ものは流石に上手い。特にこの集は改作や原型が多く収められているので、作品の成立事情がよくわかるようになっている。『密室犯罪学教程』(1991)に見られるように、天城一は先ずトリックの型を決めた上でそれが一番生かしうるストーリーや状況を設定する。小説を構築してその上でギリギリまで削ぎ落として、こうした寓話が生まれる。
 私にとって既読の作品も現在は入手困難なものばかりだから、若い人たちにはこうしてまとまった形でぜひ味わってもらいたいと思う。



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