『別冊シャレード 天城一特集4』

『別冊シャレード 天城一特集4』



 <別冊シャレード>の天城一特集は順調にこの後も5が刊行され、天城一短編全集になろうとする勢いである(→作品目録)。

 この巻はまずは書き下ろしの短編が三本。
 「鬼道は果てて」は雪に閉ざされた密室。高利貸しの湖畔の別荘に五人の客が招かれたが大雪の中主人が消えた。スキー旅行中に足止めを食った島崎警部らが捜査に向かう。犯人の狙いは予期せぬところにあったが、登場人物の言う「天の配剤」が題名に見合った結末をもたらす。
 「虚空の扉」は空中密室。映画のロケ中で軽飛行機が不時着炎上したが、操縦士は何者かに刺されて事切れていた。一部始終がフィルムに撮られていた上に犯人の痕跡がない難事件。島崎はある一点に着目して「虚空の扉」をこじ開ける。
 「陽炎」は会社社長と専務が同じ夜に殺された事件。どちらがより早く殺されたかが問題になるが、それと読者が知っている冒頭の挿話二つが矛盾をきたす。 天城が山沢晴雄流アリバイ・トリックに挑んだものだというが、流石に特徴をよく捉えている。
 これらの作品は実に無駄なく構築された探偵小説の短編でありながら、戦後の闇経済の近代化、県政と県警の対立、敗戦からの復興などが隠し味として効いている。作者は島崎警部を通して、かくあった戦後日本についての感慨をもらす。

 つづいて各氏の鑑賞を挟んで、小森健太朗による偽作「白と黒に関する犯罪」を収録。 これは後に芦辺拓によりチェスタトンのブラウン神父ものの偽作「ブラウン神父の日本趣味」(芦辺拓編『贋作館事件』収録)に改作されている。
 天城一の「黒白間なき犯罪」は、小森の偽作に触発されたもので、ペンネームを変えて武乱雲探偵と不蘭坊警部を登場させている。 ネタ自体はチェスタトンでも天城一でもどちらでもありそうなものなのだが、各作家による変奏の仕方が興味深い。

 評論の部では「密室の系譜」と「密室作法」が力作。「密室作法」の初出は<宝石>1961年10月号。「密室の系譜」の初出は講談社文庫のアンソロジー『密室探求 第2集』(1984)であり、なんとも懐かしかった。 天城一の小説はわかりにくいが、評論は実に明確である。特に主題が密室の分類なので、独自の哲学に基づいた分析は冴えに冴える。但し古今東西の密室トリックをばらしまくりなので初心者は要注意。

 同人誌でこれだけ出してくれるのはありがたいが、そのために天城一の商業出版が遠ざかってしまうのは痛し痒しである。 商業出版の方では『密室犯罪学教程』を出してもらうのはどうだろうか。推理作家協会賞の評論部門くらいいけるかもしれない。


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