『別冊シャレード 天城一特集9』 『別冊シャレード 天城一特集10』

『別冊シャレード 天城一特集9』 『別冊シャレード 天城一特集10』


『別冊シャレード 天城一特集9』

 <別冊シャレード>の天城一特集もこの二冊で終わりだろうか。よくぞここまで天城一の作品を読めるようにしてくれたものだ。単行本の商業出版もつい先日実現したが、天城一の全貌は<別冊シャレード>がなければ知ることはできなかっただろう (→作品目録)。

 『天城一特集9』の前半はエッセイ集で、後半は入手困難作の再録。
 エッセイ集の方は残念ながら初出が載っていない。創作よりもエッセイの方が書かれた年代が重要になるのでこれはいただけない。『天城一特集10』の巻末リストと首っ引きで読むようになった。
 先ずは探偵作家との交友記。鮎川哲也山沢晴雄ら親しい作家とのもの。あまり親しくはなかった高木彬光とは、名探偵神津恭介の数学論文の内容を代作したのが天城だったことが明かされる。乱歩に関してはいつもながら愛憎さまざま。乱歩に近く接して後に疎まれた渡辺剣次について、直接聞いて知ったことを記して弁護する。
 探偵小説に関するものは短いものが多いが、筆者ならではの鋭い指摘が多い。『むかで横丁』『新むかで横丁』に関する思い出話は楽しいものであった。島崎警部が摩耶抜きで単独で活躍するに至った頃の事情も説明されている。 鮎川哲也による「新・幻の探偵作家を求めて」も再録されている。

 再録作のうち「摩耶博士と十分間」と「誰が鸚鵡を殺したか」はエッセイの部の方に紛れていた。

 「メチール時代の一神話」から「神の言葉」までは極短いもの。一枚ものと称して好んで書いていたものの代表的なものが「メチール時代の一神話」や「失われたアリバイ」。 「ある晴れた日に」は短いながらある趣向を凝らしたもの。 「スターダスト」は天城のアイデアに島久平が付け足して連作「百面相捕物帳」中の一編として新聞に掲載されたもの。 「三つの扉」はラジオドラマの原作。 「神の言葉」は専門の数学雑誌に掲載されたコント。

 「早春賦」は鮎川哲也編『本格推理』に掲載されたもの。 「朧月夜」「冬景色」 と三部作をなす最初の作。とある地方都市の政争に絡んだ殺人事件に島崎はその都度駆り出される。 本作の展開は目まぐるしいが、島崎出馬の報だけで哀れむべき犯人は自滅して事件は解決する。

 「呪いの壷」は、初めて島崎が単独で登場した作。逮捕しようとした容疑者たちが次々と「呪いの壷」と言い残して死んでいく怪奇。 宝の奪い合いという筋のためかハメットの文体を意識的にまねているという。 トリックは古典的ながら、あやつりテーマとして収穫だった。

 「我らのローレライ」は、戯曲形式。主人公が湖畔の村で知り合った美女には満月の夜に結婚したばかりの夫を二人も斧で殴り殺したという過去があった。 命を懸けてもいいと思った彼は島崎の助力を仰ぐ。 この作は改作されるはずだが、まだなせていないという。

 「湖畔の殺人」は、「鬼道は果てて」(2001)の原型。 山スキーで悪天候に巻き込まれた島崎たちは湖畔の村に辿り着くが、その村にある高利貸しの別荘でとんでもない事件が起きていた。 典型的なクローズド・サークルと見せて、思わぬ趣向が仕掛けられた作。改作版の方がすっきりはしているが、原型では島崎による技巧と犯人の真情の吐露があった。天城以外の手がかなり入っているという。

 「恐るべき密室」は、破棄されて「春嵐」(1986)に改稿されたもの。短さと大掛かりなトリックで印象深い「春嵐」だが、原型の方には大トリックはなく指摘がなければ到底同じ話とは思えない。原型の方は失礼ながら単なる寒いギャグという感じ。

 『特集10』は、天城作品に対する評論集。山沢晴雄の「天城式鉄道ミステリを読む」は、さすがアリバイ・トリックの第一人者によるもので、腑分けのように細かいところまで読み取って圧巻。 その他、『沈める濤』や『圷家殺人事件』に対する評など。
 風見詩織「店内消失」も何故か収録されている。『本格推理』に収録された短編の改稿とのこと。


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