現代のアンチ・ミステリ −竹本健治と笠井潔

現代のアンチ・ミステリ −竹本健治と笠井潔


 反推理小説(アンチ・ミステリ)と呼ばれる分野があります。日本探偵小説史上にそびえたつ三巨峰、『黒死館殺人事件』『ドグラマグラ』『虚無への供物』がそれです。それらは推理小説の形は成しています。しかし、極端な技巧偏重、そして内包する思想によって自らその形を崩壊させています。こうしたアンチ・ミステリを書ける有力な若手が近年二人も輩出しました。

 まずは竹本健治(28)『匣の中の失楽』千二百枚が<幻影城>に連載されたときは弱冠二十二歳でした。
 探偵小説狂のファミリーの内で殺人事件が起こる。その一員が書いている実名小説のとおりに。ところが第二章になると第一章こそが小説であり別の人物が殺される。第三章では第二章が小説で……。こうして現実と虚構が一章ごとに反転し、全てが二重三重の匣の中に封印されてしまう。
 彼には『囲碁殺人事件』等のゲーム探偵小説三部作もあります。

 もう一人は笠井潔です。かつては新左翼の理論家だった人物。彼の(58)『バイバイ・エンジェル』(53)『アポカリプス殺人事件』『薔薇の女』の連作はミステリの器に盛った思想小説といった形を呈しています。ときに過剰な思想のためか、プロットが破綻したりすることもありますが、『アポカリプス−』は傑作でした。
 中世異端カタリ派の秘宝にまつわる四重殺人事件。その犯人を操る影の存在。そして主人公矢吹駆とある女性との形而上の対決。この多重構造には目を見張らされます。
 彼には『ヴァンパイヤー戦争』『巨人伝説』のSFのシリーズもありますが、こちらの方は私より詳しい人が何人もいるでしょう。

 罪を犯す者が必ずしも悪ではなく、それを追う者も善だと言い切れないこの複雑怪奇な現代社会においては、ミステリはアンチ・ミステリと化すことによってのみその存在を主張できる。そんな気がします。



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