出たときに新刊で買ったのだがなんと十年物の積読と化していた。出版芸術社ふしぎ文学館の中でも一番マニアックな巻ではないだろうか。朝山蜻一もそれなりにアンソロジーには収録されるのに、本書でしか読めない作品が九編もある
(→作品目録)。主として初期の作品をまとめた短編集である。
一読すればなかなか上手い作家であることがわかる。デビュー作「くびられた隠者」からして新人の文体とはとても思えない。
初期の代表作三作「くびられた隠者」「白昼艶夢」「巫女」がみな男女の性愛を扱った話であり、どれもがサディズムとマゾヒズムをテーマにしたものである。男女はお互いに肉体を傷つけ傷つけられるが、その間には一種の交感がある。それが度を過ごしたときに傍目には犯罪としか見えない形で現れてしまう。
朝山作品に繰り返して描かれるモチーフがいくつかある。男は女により首を絞められて恍惚感を味わう。女の肢体をゴムで締め付けその体を縮めていく。コルセットによって締め付けられた細い腰への渇仰は聖なる物を求めるかのようだ。
これらの際どいテーマや素材は練達の文章によりまとめられる。題材が微妙なものだけに文章が上手くなくてはとても読めないものになりかねない。
ただあまり上手いだけに、ときには生々しすぎることもある。
売春婦の代わりに牝羊をあてがう店の話「ひつじや物語」や、飲み屋の女主人に犬のように飼われる男の「僕はちんころ」にはちょっと辟易した。
作家としての弱点は引き出しが少ないことか。作者の興味あることにならいくらでも情熱を注いで書けるが、それが同じモチーフの繰り返しにつながる。
「天人飛ぶ」なんて実にもったいない作品だ。
主人公が手に入れた美術品のようなコルセットを、三保という若い女が母の片身だから返してほしいと言ってきた。そのコルセットがはまる理想の体型を目前にした彼は、天女の羽衣を手に入れた漁師のように興奮し、返してほしければ二年間いっしょに暮らせと条件を出す。その二年間は彼にとって天にも昇る時間だったが、期限が近づくにつれて焦りが生じてきた……。
確かに探偵小説的にはこの結末しかないだろうが、無理に探偵小説にまとめたために作品の味が台無しになっていないか。
三保の描く絵のイメージなんてとても魅惑的なのに。
朝山蜻一の作品では、晩年の枯れてきたころに<幻影城>に連載された『蜻斎志異』(『真夜中に唄う島』扶桑社文庫)をベストとしてお勧めする。