芦辺拓編『贋作館事件』


著作著者登場人物原作原作者
ミス・マープルとマザーグース事件村瀬継弥ミス・マープル火曜クラブA・クリスティ
ブラウン神父の日本趣味(ジャポニスム)芦辺拓小森健太朗ブラウン神父G・K・チェスタトン
ありえざる客 贋の黒後家蜘蛛の会斎藤肇ヘンリー黒後家蜘蛛の会I・アシモフ
緋色の紛糾柄刀一シャーロック・ホームズ緋色の研究C・ドイル
ルパンの慈善二階堂黎人アルセーヌ・ルパン赤い絹の肩かけM・ルブラン
黒石館の殺人小森健太朗法水麟太郎(栗生慎太郎)黒死館殺人事件小栗虫太郎
黄昏の怪人たち芦辺拓明智小五郎/怪人二十面相江戸川乱歩
幇間二人羽織北森鴻仙波阿古十郎顎十郎捕物帳久生十蘭
贋作「退職刑事」西澤保彦退職刑事退職刑事都筑道夫
贋作家事件斎藤肇贋作館事件

 若手作家八人による名探偵もののパスティーシュとパロディの短編集。内容は上記の通りで、かなりのバラエティーに富む。

 最初の「ミス・マープルとマザーグース事件」は、『藤田先生とのミステリアスな一年』の村瀬継弥によるミス・マープルの贋作。事件の解明を多人数のディスカッション形式で行うのは、バークリー『毒入りチョコレート事件』やアシモフ『黒後家蜘蛛の会』で知られるが、そう言えばミス・マープルものの第一作『火曜クラブ』もこの形式だった。村瀬による贋作はそつがない。

 二番手「ブラウン神父の日本趣味」は、チェスタトンに着想を得た天城一の作品の小森健太朗による贋作を、芦辺拓がブラウン神父ものに改作したという、成り立ちからしての怪作。この密室トリックは天城一の分類だと何に当たるんだったけ。登場する二人の書痴の名前、ツゥストーリイチャペル教授とキックニー画伯には爆笑。

 「ありえざる客 贋の黒後家蜘蛛の会」は、ショートショート作家として世に出た斎藤肇によるもの。絶対ゲストに呼ばれなかった彼の人物を呼んだらどうなるかという話。折角の設定からもっといろいろふくらませられなかったものか。

 柄刀一「緋色の紛糾」は、題名からしてお馴染みのホームズ・パロディ。だが、何の説明もなく、ホームズとワトスンの部屋を二子玉川221番地Bにおき、川崎市中原区の犯行現場に馬車で駆けつけさせる力技を行う。なんだこれは。

 ルパンというと個人的にはどうしても南洋一郎に呪縛されて波瀾万丈の冒険ものという印象がある。だが、江戸川乱歩編の『世界短編傑作集』に収められた「赤い絹の肩かけ」のような本格物の短編だってある。二階堂黎人「ルパンの慈善」はその続編だという設定。例によりルパンにおびき出されたガニマール警部はある依頼をされる。厳重に監視された密室から修道院の秘宝はどんな手段で持ち出されたか。なかなかの作品。

 小森健太朗「黒石館の殺人」は、小栗虫太郎のパロディ。小森のデビュー長編『コミケ殺人事件』の一部だそうだが、これは未読。何故に『黒死館殺人事件』のパロディで美少女戦隊が出てくるのか、面食らう。虫太郎を扱うのはやっぱり難しい。文体模写だけでも相当たいへんなのに、世界観をも引っ張ってこねばいけないから。

 芦辺拓「黄昏の怪人たち」が今回一番面白かった。怪人二十面相がついに殺人を起こしたとして逮捕される。明智小五郎は無実を訴える獄中の二十面相の依頼でその捜査に当たる。真の敵の正体は実は明智に恨みを持つものだった。それとして仮想されたのはかつての明智の仇敵の中でこれ以外にありえないという人物。後期になって退場した明智文代夫人の消息も明かされる。さすが乱歩を読み込み、師と仰いできた作者らしい佳作。

 北森鴻「幇間二人羽織」は、かつて都筑道夫も挑んだ、才人久生十蘭による傑作捕物帳の贋作。顎十郎は北町南町両奉行所の意地の張り合いで、同じ時刻に同一人物が目撃された事件を探る。時代物でデビューした作者らしく、難しい課題をなんなくクリアしているように見える。

 西澤保彦「贋作『退職刑事』」は、都筑道夫の贋作。奇想天外な設定の中で本格推理を追及する西澤の姿勢には、確かに都筑の初期作に一脈通じるものが感じられる。この作は原典に忠実な丹念なつくり。

 最後の斎藤肇「贋作家事件」は、本書自体のパロディ。面白い試みではあった。


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