お馴染み森江春策シリーズの長編。
弁護士森江春策はたまたま乗り合わせた列車内で息を引き取った男から「グラン・ギニョール城の謎を解いて……」との言葉を聞く。しかも男の所持品の中には幻の探偵雑誌といわれるエラリー・クイーン編の<ミステリー・リーグ>誌が残されていたのだ。それに掲載された匿名作家による犯人当て小説でありながら雑誌の休刊により問題編のみとなった小説の題名が『グラン・ギニョール城』であった。
一方、交互に語られるもう一つの章では、ヨーロッパの古城アンデルナット城での奇怪な事件が語られる。アメリカの大富豪がこの城を買い上げ、地元フロリダにそっくり移築しようとするふって沸いたような騒ぎの中、富豪の近親と元の城主にゆかりの人々が招かれる。一行の中に混じった高名なアマチュア探偵のレジナルド・ナイジェルソープは一抹の不安を感じる。果たして義和団事変での因縁、謎の中国人、前城主の息子の誘拐と怪死と、過去の悪念が入り乱れる中で事件は起きた。
グラン・ギニョールはカーの長編のタイトルにもなった言葉だが、パリの芝居小屋から転じて猟奇的で血みどろなといった意味。雰囲気づくりだけでなくこの小説に深く関わってくる。
現実と虚構が一章ごとに入れ替わり、次第に虚構が現実を侵食していく。
だが、安易なメタのためのメタ・ミステリに堕ちないのがよい。こうなるべき必然性を非常によく押さえてある。久生十蘭の某作を踏まえてあるのも嬉しい。
森江は虚の事件と実の事件の両方を解決するが、実の事件の方がより悪夢的。虚の事件は海外古典名作の非常に懐かしい香気があるが、作中の作者のこの作品における趣向をエピローグで説明せずに謎解きの場で詳説したほうがより効果的だったろう。
いろんな意味で実験作であり意欲作。その冒険心をこそ評価したい。