著者の名探偵の贋作短編集としては『真説ルパン対ホームズ 名探偵博覧会』に続く二冊目。こちらはSRの会の2000年度国内部門第2位だが、残念ながら読みのがしている。
「明智小五郎対金田一耕助」における両者の対決は著者にゆかりの大阪で。昭和十二年、明智小五郎は大陸での任務を終え急行列車で東京に向かう途上。
明智が大阪駅にて『黒蜥蜴』事件で縁が出来た岩瀬商会の社員から新聞記事の切抜きを受け取るとるところからもうわくわくする。
明智は興味深い記事を見つけて途中下車。ところがその事件にはもう若手の私立探偵が名乗りを上げていた。その名を金田一耕助。
元祖と本家が激しく争う薬問屋の大店で片方の当主は失踪しもう一方の当主は硫酸を浴びて黒覆面で蟄居する。
当主が失踪したあとを守るうら若い妹に何か事件が起こりそうだと呼び寄せられた金田一の目前で奇怪な殺人が。
いかにも横溝タッチの事件で若き金田一は苦悩するが先輩の明智が無名の後輩に花を持たせる。
両者の重要な事件の狭間をついての物語の構築はお見事。
「フレンチ警部と雷鳴の城」では、妻とともに休暇旅行に出かけたフレンチ警部が乗り換えの駅でロンドンの著名な探偵Fを迎えに来た老人に出会っていやおうなしに事件に巻き込まれる。実は依頼を受けていたのはフェル博士でひょんなことから両探偵の競演となった。
フェル博士好みのおどろおどろしい道具立ての中で事件を推理する凡人探偵フレンチの姿はなかなか立派。フェル博士のとある秘密を考察もしていて、それなりに説得力はあるが、個人的にはそうじゃないほうがいいな。
「ブラウン神父の日本趣味」は、小森健太朗との合作で、アンソロジーの『贋作館事件』で既読。
元々は天城一の摩耶ものの贋作で、『別冊シャレード 天城一特集4』で原型の高沢のり子(小森健太朗)「白と黒の犯罪」と、それに触発された天城自身の「黒白間なき殺人」も併せて読める。
見えない人テーマの新発明である。
「そしてオリエント急行から誰もいなくなった」は、かの『オリエント急行殺人事件』の後始末を任されたユーゴスラヴィア警察のてんてこ舞いを描く。
確かにその通りなのかもしれないが、ポアロとしても他にどうしようもなかったことだし責めるのは酷かと思う。
「Qの悲劇 または二人の黒覆面の冒険」は探偵エラリー・クイーンでなくて作家エラリー・クイーンの事件。ダネイとリーがエラリー・クイーンとバーナビイ・ロスに分かれて黒覆面をつけたまま講演して回ったという有名なエピソードに材を取る。目の付けどころはさすがに鋭いが、事件の解決がストレートすぎないか。もう一つの趣向の方は面白い。
「探偵映画の夜」では、ファィロ・ヴァンス、ホームズ、クイーン、チャーリー・チャン、金田一耕助、多羅尾伴内と探偵映画の薀蓄がわんさかと出る。
それが次に起こる殺人への伏線になっているわけだがちょっと辛口。
「少年は怪人を夢見る」は、江戸川乱歩の創造したかの人物の出自についての夢想を飛ばす幻想小説。
おもちゃ箱をひっくり返したようで楽しい。
作者のマニア気質がよい方に働いて、概ね楽しく読める作品集だった。