オール・タイム・ベスト書評
泡坂妻夫
(3)『乱れからくり』
からくり −これが最初から最後まで付きまといます。
玩具会社の製作部長が隕石に当たり急死した。その葬儀も終らぬうちに彼の愛児が睡眠薬を誤飲して死亡する。この二つの奇禍を皮切りにねじ屋敷と呼ばれる奇妙なからくり屋敷に連続殺人劇が始まった……。
玩具、からくり人形、迷路など小道具が凝っています。推理小説自体がからくりであり迷路である上にさらにその手のものを骨組みに用いたこと、これがこの作品の特長です。
そしてそのトリックは、前代未聞の×××犯罪。なにしろ作者の本業はマジシャンです。職業柄ミスディレクションに勝れ、この大マジックをやってのけるのです。
この作品、わりと水準は高いです。しかし、プロットに直接関わるところで二三、不審な点があるのです。思い過ごしならいいんですが。
70点。但し?度56点。
(7)『11枚のトランプ』
私は第三位の『乱れからくり』よりこっちの方が好きです。
奇術クラブの会員水田志摩子が舞台に立っている筈の頃自分のマンションで殺されていた。死体の周囲には、『奇術小説集・11枚のとらんぷ』の十一の小道具が、破壊されて配置されていた……。
『11枚のとらんぷ』とは、クラブの会長鹿川舜平の著書で、実用にはならないが捨ててしまうには惜しいカード奇術のトリック十一を小説にしたものです。この本の第二章がまるまるこの『11枚のとらんぷ』にあてられています。劇中劇という言葉はありますが、長編の中に短編集を組み込んだというのはこの本ぐらいのものでしょう。各々の短編は探偵小説風で面白く、しかも殺人事件を解く鍵になっているという趣向です。
そして第三章、世界魔術大会の会場で謎は解かれますが、思わずある有名な作品を思い出してしまいました。マジシャンがマジックに材をとった好編です。
82点。但しマジカル・プレイ度85点。
(17)『亜愛一郎の狼狽』
ア・アイイチロウというこの名前、名探偵紳士録の一番最初に載るように名付けられたとか。職業はカメラマン。長身。容姿端麗。知的な憂い。上品な着こなし。人は思う。こんなぱりっとした男が本当にカメラマンなのだろうか。ところが口を開けば絶えず奇声を発し、歩けば必ず転ぶ。人は思う。こんな駄目な男に本当に写真が撮れるのだろうか。そういう亜が実はものの見方を裏返しにする魔術師なのですよ。まさに逆説の自乗です。
この短編集に収められた八つの作品はすべてあの<幻影城>に掲載されたものです。私はこんな偉大な雑誌に乗り遅れてしまって非常に悔しい。
79点。但し狼狽度平常点。
亜っていつでも狼狽しているもんね。
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