オール・タイム・ベスト書評

鮎川哲也


(14)『黒いトランク』
 東京と北九州の間を死体詰めのトランクが行き来する。クロフツの『樽』を思わされる話ですが、こちらの方が数段勝っております。
 この謎に挑戦するのは鬼貫(おにつら)警部(別に鬼警部ではありません)。この人がなかなか渋いんですよね。これもクロフツの比ではありません。
 堅実でけれん味のない作風は好感が持てないこともないのですが……。四枚の時刻表をじいっと眺めていたら、トリックの七割方が簡単にわかってしまいました。やはりけれん味大好きの私としてはあまり高くは買えません。よく組み立てられてはいるんだがなあ。



(22)『リラ荘殺人事件』
 鮎川哲也というと、アリバイ崩しの専門家、鬼貫警部が有名ですが、もう一人忘れちゃいけないのが、この作品でも活躍する密室破りの天才、星影竜三です。
 私は時刻表物は嫌いです。なぜならメイン・トリックは単純明快、これに限るからです。真相を知りあらゆる疑問が氷解してゆくカタルシス。こういう感動が煩雑なアリバイトリックで味わえますか。そりゃあ、よう考えついたなと感心はするかもしれないけど。それに私には時刻表をじっくり読む根気なぞありません。
 というわけで私にとっては、名作と言われる『黒いトランク』よりこちらの方がずっと気に入りました。
 大学寮 −川渡セミナーセンターみたいな所で連続殺人事件が起こるという話です(生憎酒壜での撲殺はありません)。こういうパターンの話では、当然ながら最後まで生き残ったものの内に犯人がいるわけですが、なかなか趣向が効いていて、一筋縄ではいきません。余計な飾りは削り落として堂々と読者に挑んできます。
  78点。但しゲーム性86点。


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