先に推理クイズのアンソロジー『江戸川乱歩の推理教室』『江戸川乱歩の推理試験』を読んだが、本書も同様のアンソロジー。
元版は1980年、文藝春秋より。「別冊文藝春秋・漫画讀本」に連載された犯人あてミステリを加筆の上まとめたもの。
鮎川哲也「Nホテル六〇六号室」は、推理作家の鯉川哲也先生が編集者にせっつかれながら書いた本格もの。銀座のホテルの六階に泊まった貿易会社の幹部が刺殺された事件で、被害者はEに見える血文字を書き残していた。
アリバイ・トリックが面白いと思うが、それが偽装だという確証がないのは傷。
三好徹「王妃の首飾り」は、フランス王室を舞台の時代物。王妃マリー・アントワネットの首飾りが奪われて侍女が殺されていた。さらに宝石箱に仕掛けられた罠も発動していた。窃盗は偽装で王妃に対する恋の鞘当が動機とも思われたが。古典的な仕掛けではあるがよくまとまっている。
飛鳥高「分け前」では、会社の倒産に伴って若手社員の長浜は会社の隠し金を持ち逃げしようと会計課の峯子に持ちかける。六千万円の拐帯には成功したが、やむを得ず秘書課長の大坪も巻き込むことになった。さらに長浜の恋人の真智子が一同の不審な行いに気づいて追ってきた。四人で分け前についてもめているうちに金はどこかに消えてしまった。前回もそうだったが、この作者はクイズに妙な着想を持ち込むのが得意なようだ。
佐野洋「これ、おわかりかしら?」では、バー虹の目に勤める千秋は言い寄る客に向かって暗号を出す。大の男三人がしゃかりきになって解いた解答とは。「あるエープリール・フール」と同じで複数の解がある暗号。この作者がこんなこんな言葉遊びの趣味があるとはちょっと意外。
高原弘吉「旅へのいざない」の「私」は一見順調そうに見えても不安を抱えていた。専務の姪に当たる久代を妻に迎えて課長に昇進したが、会社ではその抜擢を苦々しく思う者もいた。久代の男癖の悪さが結婚後に発覚し、今でも何かあるのではないかと疑っていた。久代が実家に帰ると言って留守にしたとき、謎の女性が「私」を訪ねてきて旅へと誘った。折角ロマンチックに盛り上げておいてこの結末の外され感はちょっと凄い。
結城昌治「三人の手切金」では、父親のわからない子を妊娠した女が女友達にけしかけられて、三人の父親候補に結婚か手切れ金かを要求して回る。やっているうちに強気になった女はその要求をエスカレートさせていくが。これは割りとストレートな話だった。
樹下太郎「怪人ギラギロ現わる!」では、目をギラギロ光らせる怪人が妙齢の女性を襲って鼻毛を三本引き抜いていく事件が起こった。熱海で温泉に入っている個性的な美女モデル五人が襲われて、鼻毛を抜かれたのは一人だけ。ギラギロが狙う美女の特徴は何か、という問題。インパクトがあるタイトルだと思ってはいたがこんな話だったとは。
島田一男「執念の島」では、「私」南郷弁護士は三年前に産業省の汚職事件に巻き込まれて自殺した田上の未亡人の冴子に招かれて鹿児島県出水の風切り島に向かう。銀座のバーのマダムとなった冴子は三年前の事件の関係者を集めて正月を迎えようとしていた。南郷の出現に一同は動揺し、やがて有明海に死体が浮かぶ。
トリックはクイズ的であるが十分短編小説としての読み応えがある。
語り手の南郷弁護士はシリーズ・キャラクターの人なのだろうか。
都筑道夫「夢の完全犯罪」は、SFとミステリー好きの夫が見た夢を妻が推理する。ある国の王様を暗殺から守る使命をもらった彼は万全の警備体制を敷く。だが、高い塔の一室に四台のロボットと閉じこもった王様を何者かが暗殺して逃げ去った。SFミステリーの謎解きを夢の話ということで夫婦の会話に包んだわけだが、これは面白い。
笹沢左保「愚かなる殺人者」では、谷花芳彦・洋子夫妻と洋子の妹悦子といっしょに旅行に来た森岡は、悦子が谷花になびいていて全く無視されて後悔する。洋子はそのことに気づいていて、盛岡に自分が殺されるのではないかと漏らす。果たして洋子は鹿児島のホテルの八階から転落死した。話としては並の出来だが、タイトルは意味深。
菊村到「追悼パーティ」で、作曲家宇田川東一が妻恵子の追悼パーティを開いたときに最後まで残ったのは彼を恨みを持つ者ばかりだった。ガスが充満する部屋で宇田川の死体が発見されたが、死因は青酸中毒死だった。
趣向としては面白いが、犯人あてには無理があるような。
陳舜臣「新・黄色い部屋」では、パチンコ店の禿頭自慢の主人がガラスを全部黄色のものに入れ替えた応接間で撲殺された。容疑者は三人いるが、現場付近にいた参考人の画家がすねてしまってなかなか証言してくれない。
ユーモア仕立て。ネタは大したものでないが、冗長な会話の中に手がかりを隠すという手を使った。
筒井康隆「ケンタウルスの殺人」はSFミステリー。アルファ・ケンタウリ第二惑星のハーキュリイ・ホテルの部屋の乾燥機をつけっ放しにして宿泊客をミイラにした上で持ち物のダイヤを持ち去ったのは何者か。容疑者にはアンドロイドとオリオン星人も。引っ掛けがSFならでは。
戸板康二「一枚の紙片」では、歌舞伎の東京座が新劇場の役者引き抜き工作にあう。
ざわついた雰囲気の中で頭取がその交渉を書いてある紙片を拾うが、電話に夢中になっている間に紛失してしまう。隠した犯人は役者の中にいるはずだが誰か。
中村雅楽ものを推理クイズに仕立て直したような話。
生島治郎「モーニング・サービスは死」では、五年間三人で連れ立って喫茶店のモーニング・サービスを食べていた男の一人が結婚と昇進を目前にして毒殺されてしまう。彼は他の二人と喫茶店のマスターの娘から恨まれていた。
手がかりがちょっと露骨で、これならすぐ捕まってしまうのでは。
海渡英祐「ウマい発見」では、競馬好きの男が付き合っている女性とその兄の元へ行ってみると殺されていた。現場には他にも怪しい男がいたのに警察は彼に目をつける。死ぬ間際の被害者が持っていた競馬新聞の彼と同じ名前の騎手の馬を血で塗りつぶしたというのだ。競馬のことはよくわからないがダイイング・メッセージの外し方が好ましい。
推理クイズがそれほど好きなわけではないが、作家のちょっと違う面が見られるのは楽しい。
面白かったのは都筑道夫「夢の完全犯罪」、島田一男「執念の島」、海渡英祐「ウマい発見」
といったところ。