鮎川哲也自身が主人公。盗作の疑いをかけられた彼は、かつて泡沫雑誌の執筆者だった石本峯子を探そうとする。ところが、石本の消息がつかめそうになるたびにその鍵となる人物が殺されて、疑いは鮎川にかかる。
いささかファースの味が強いが、これもいかにも作者らしい作品である。
消えた作家を探すという状況が鮎川の晩年の仕事『幻の探偵作家を求めて』そのままである。架空の石本峯子と並んで、実在の幻の作家の名前がいくつも書いてある。
鮎川の奮闘に対して、<宝石>の僚友作家が絶妙なセンスの変名で脇を固める。紀野舌太郎、淵屋隆夫、大虻春彦など。推理文壇のゴシップが豊富で、その中にミスディレクションが隠されてもいる。
<宝石>が健在で、まだ本格推理小説が輝いていた頃、そのときの熱気が伝わってくる快作にして怪作である。