これがおそらく鮎川哲也が生前最後に編集に絡んだアンソロジー。
本巻の収録作は少年向け探偵小説。これと前後して刊行された山田風太郎ミステリー傑作選9少年篇『笑う肉仮面』など、少年ものをきちんと位置づけようとする動きが近年になって起こっている。
私自身の読書体験でも入り口の部分に少年向け推理小説は確かにあった。乱歩の少年探偵団シリーズはあまり読んでいなかったが、ポプラ社の南洋一郎のルパンは大好きだった。ホームズは主に学研の亀山龍樹訳で読んだ。あかね書房の少年向けシリーズで海外の名作に触れた。
高校のときに大人向けの乱歩作品に接したのと同時期に、ソノラマ文庫を立ち読みながらもむさぼり読んだ。辻真先を発見したのが大きいが、高木彬光『死神博士』『白蝋の鬼』や横溝正史『怪獣男爵』などもこのとき読んだ。
さて、今回の収録作の筆頭はこの分野でも巨大な足跡を残した御大乱歩。ポプラ社にも収録されなかった珍しい幼年向け少年探偵団ものである。
幼年向け、短編であってもあの懐かしい雰囲気は変わらない。
ここにも小林少年やポケット小僧や明智探偵がいる。
二十面相は道化師に化けライオンに化けロボットに化け一人用ヘリコプターや潜航艇などのメカを操る。永遠の王国の祝祭は終わることがない。
少年探偵団シリーズの書誌は黄金髑髏の会(戸川安宣他)『少年探偵団読本』(情報センター出版局)が充実している。やはり短いものでポプラ社収録以外で刊行されたものとしては、講談社江戸川乱歩推理文庫第44巻『新宝島』収録の「赤いカブトムシ」、<創元推理>No.9(1995夏)に収録された「怪人と少年探偵」がある。
高木彬光の「吸血魔」はご存知神津恭介の功名譚。本作で神津探偵の相手となるのは蝙蝠のような怪人。マントを翻して飛び去る姿を大勢の人に目撃され、ピストルで撃たれても衣服だけを残して消えてしまう。その怪人に襲われた人々の死体には牙で咬まれたような傷跡があって生き血を抜かれて死んでいた。
吸血魔が狙うのは大陸で暴れまわった怪盗団の莫大な財宝か。幽霊屋敷、地下の洞窟、生き別れの双子の姉妹と、道具立ても揃った大活劇。
多少無理のある大トリックでもこの世界なら許される。少年向け探偵小説でないとできないことも確かにあるのだ。
鮎川哲也の方はまた対照的な作風。大人向けの鬼貫警部や星影龍三は登場せず少年探偵が謎に挑む。ここに収録された三編は学習雑誌に懸賞小説として掲載されたもの。密室から消えたつぼ。幽霊が出るという部屋から転落した被害者。鉄壁のアリバイを持つ容疑者。
作者の大人向け作品で使われたトリックが装飾を除いたむき出しに近い形で提示されており、作者の小説作法をうかがい知る上でも興味深い。
私は未読だが、鮎川の少年向け作品集としては『悪魔博士』(光文社文庫)がある。
最後の「ビリーパック」は少年マンガ。颯爽たる青年探偵。異形の怪人による復讐。密室と鮮やかな解決。過去の因縁。衆人環視の殺人。等々々。
実に楽しい。
作者の河島光広は手塚治虫も絶賛し後の劇画の誕生にも影響を与えたが病で早世したという。
こうやって幻の作品が手軽に読めるようになることは素直に嬉しい。
しかし本来のターゲットである子供たちにとっての状況はどうなのか。
活字離れが継続的に騒がれる中、次の世代は育っているのか。それが気になる。