鉄道ミステリーなんてわかりません。

鉄道ミステリーなんてわかりません。


 僕は鉄道物なんて大嫌いなんだよ。アリバイ崩しなんて辛気臭い。鮎哲もクロフツもろくに読んでない。SRにも鉄道物が好きな人なんて周りにはいない。でも、吉田君と五十嵐さんからお願いされてしまったからなあ。しかたないので本棚にある鮎川哲也編の鉄道ミステリーのアンソロジーを紹介しておくことにしましょう。
 なぜ、鉄道物が嫌いなのにそんな本があるかというと、鮎哲さんはアンソロジーを組むときに戦前作家を必ず入れるので、戦前作家に目のない僕としては好きでもないのに鉄道物アンソロジーを買い揃える羽目になるんです。鉄道が好きでたまらないらしい鮎川御大のアンソロジーにはちょっとでも絡まりさえすればこじつけでも何でも収録されてしまい誠にバラエティーに富んだ顔ぶれとなります。

 光文社文庫 鉄道ミステリー傑作集 @『下り「はつかり」』A『急行出雲』B『見えない機関車』C『無人踏切』
 ページをめくるととても懐かしい。乱歩の「押絵と旅する男」正史の「探偵小説」、城昌幸の「ジャマイカ氏の実験」、みんな最初に読んだのはこれのカッパノベルス版だったけ。
 大阪圭吉「とむらい機関車」も傑作。圭吉は戦前における本格短編の第一人者。ルソン島で惜しくも戦死。昨年国書刊行会の”探偵クラブ”から戦後初めて短編集が出た。「とむらい機関車」はその表題にもなった作者の代表作。特定の機関車による連続轢豚事件といった奇妙な状況、巧妙な語り口、漂うユーモアと陰惨さ、しみじみとした悲しい情感、といかにも探偵小説を読んだなーという気にさせてくれる。とってもうれしい。
 青池研吉「飛行する死人」は、雪の中につき立った二本の足の描写から始まる。死者は本当に空を飛んだのか。書き方自体は風俗小説的だけどまるで島田荘司の元祖のような不可能趣味の短編。(以上@)
 河野典生「機関車、草原に」はSFだった。
 黒井千次「子供のいる駅」は、切符をなくしてしまった小学生が主人公。少年が感じる心細さが切々と伝わり、さらに幻想的な結末へ急転直下。(以上A)
 海野詳二「蒸気機関車殺人事件」からは機関士の意地が伝わる。
 戸板康二「グリーン車の子供」。協会賞受賞の傑作短編。御冥福をお祈りします。
 藤木靖子「夜汽車の人々」、井口泰子「森林鉄道みやま号」、南部樹未子「汽笛が響く」と女流作家も大健闘。ユーモアあり、旅情あり、虐げられた弱者の反逆あり。(以上B)
 有栖川有栖「やけた線路の上の死体」は同志社大”カメレオン”から転載された作者の処女作。ちゃんと英都大学推理研の四人組も登場。(C)

 徳間文庫 トラベル・ミステリー @『シグナルは消えた』A『犯罪交差点』B『殺しのダイヤグラム』(不所持)C『殺人列車は走る』D『レールは囁く』
 夏樹静子「山陽新幹線殺人事件」のラストは鉄道ファンに対して誠に皮肉。
 山田風太郎「吹雪心中」。実にこわい話である。偶然ふと再会した男女がひなびた温泉で一夜の不倫の恋に身を焦がす。ところが吹雪で列車は止まり足止めを喰らう。つのる不安と焦燥。どうしても各々の家庭に戻らなくては。互いに対する憎悪が積もりに積もり、一条の汽笛とともに破局を迎える。男女の愛がいかに脆いか、痛烈なまでにえぐった力作。やっぱりこの作者はただものではない。(以上@)
 安永一郎「復讐墓参」。少年は駅員を刺殺した。たった十円の借金を断られたがために。踏切で轢死した母親の月一回の墓参りを決して欠かさなかった少年。その陰には国鉄に対するあまりにも悲しい復讐行為があったのだ。筆者愛着の一編。
 おかだえみこ「映画狂の詩」。作者はアニメーション研究家の岡田英美子と同一人物。鮎哲と親交があるようだ。この作は映画狂でフィニイのファンには多分楽しめると思う(以上C)。僕がこの人で好きなのはもう一つの作、「爪の音」(鮎川編『恐怖推理小説集』双葉文庫)。作者と銀座の美術店のウィンドウの古ぼけたモグラの彫刻との不思議な交流を描いたもの。両作品とも実話。いやー、アマチュア作家はとんでもないもの書くから油断できんわ。
 香山滋「観光列車V12号」。鮎哲さんはこの秘境と原始生物をこよなく愛する作者からもなんと鉄道物を探し出してきた。V12号はダイヤモンド鉱山を巡る陰謀をのせてヴィクトリア湖目指しアフリカの原野を疾走する。(以上D)

 双葉ノベルス 『鉄道ミステリ傑作選』
 作者のラインナップが凄い。泡坂妻夫がメジャーなだけで、あと11人僕も全然知らない作家が並んでいる。さぞ売れなかったろうなあ。坂井薫「さらば愛しの者よ」はロジック小説を構成する文体が印象的。

 立風ノベルス 『鮎川哲也と13の殺人列車』
 これも癖が強い(というより強すぎる)アンソロジー。江戸川亂歩作と伝えられた「陰影」は全くの駄作だが、真作者を探求した解説が読ませる。種村直樹「西海号事件」はとってもくだらない。各大学のミステリー研のメンバーも頑張っている。だいたい大ボケだけど。でも、北大出の沼島りう「浦和が嗤う」は結構よかった。

 まあこんなところです。吉田君、これで少しは参考になったでしょうか。
 ここにあげた作家についても、あげなかった作家についても、まだまだ語りたいことはいっぱいあります。あの天城一やマニアのアイドル山沢晴雄も何編も載ってるし。
 鉄道ミステリーはどうだか知らないけど、やっぱりミステリーは面白い!


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