バークリー,A『シシリーは消えた』

バークリー,A『シシリーは消えた』


 バークリーが別名義で発表した本格推理長編。刊行されてから六十年近くもその存在が一般に知られていなかったという幻の作品。こんなものまで訳されるとは素晴らしい。

 財産をすっかり失ってしまった青年スティーヴン・マンローは従僕として雇われることを決意する。彼が赴いたのはサセックス州のウィントリンガム・ホール。ここで労働者階級として働き始めようとするのだが、何と初日に彼が愛したポーリーン・マナリングとその婚約者に遭遇してしまう。
 その一方では晩餐会の後で余興として降霊会が催されたが、女主人レディー・スーザンのお気に入りの娘シシリーが不可解な状況で姿を消してしまう。
 スティーブンは人間消失の謎を解くために、愛する人の苦境を救うために、そして自らの苦難を切り開くために獅子奮迅の大活躍。

 初期の作であるからあまりバークリーらしくない。主人階級が従僕に身を落として生まれる皮肉さはユーモアものの系譜を引いているのかもしれないが。
 どちらかというと
クリスティーの単発長編の味に近い感じがする。謎を解くこととロマンスを成就させることの両方がプロット上の重要な目的になることにおいて。
 人間消失はあってもオカルトめいた感触はない。謎の組み立てがさすがに見事である。不可解な状況からいくつもの仮説が引き出され、それによって主人公は右往左往することになってしまう。 そうであっても結末において主人公に花を持たさせることで作品全体が明るく爽やかなものになっている。
 同じ年の『プリーストリー氏の問題』はあまり感心しなかったが、これはいい。


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