コックス,A.B.『プリーストリー氏の問題』

コックス,A.B.『プリーストリー氏の問題』


 鬼才アントニイ・バークリーが探偵作家バークリーになる前、本名のアントニイ・バークリー・コックスに近いA・B・コックス名義で数々のユーモア小説を執筆していたという。コックス名義の単行本は6冊あり、代表作と見做せるのが本書を含めて2編あるという。

 本編の主人公マシュー・プリーストリー氏は独身の青年紳士。一人っきりの気ままな生活を楽しんでいたものの、友人からお前はキャベツだカブだと言いたい放題言われて自分の来し方を考え込む。そんなとき彼は不思議な美女に誘われて思いがけない冒険のさなかに飛び込んでしまう。ところがこれはプリーストリー氏を担ごうとする友人たちの悪ふざけであった。そうとも知らないプリーストリー氏は、自分が人を殺したと思い、謎の美女と手錠でつながれて警察から逃げ回る羽目になる。

 うーむ、ちょっと微妙。バークリーがこのネタで書くならもっと面白くなってもいいのではという思いが強い。まだまだ辛らつさが足りないと思われるのは、まだ後年のバークリーになりきっていないからか。 最晩年の
F・アイルズ名義『被告の女性に関しては』なんて強烈だったのに。
 引っ掛けられる側のプリーストリー氏、そして引っ掛ける側の悪友たちの役割がいつしか逆転して行くのはいいけど、それをあらかじめ読者に知らせたら驚きが生まれない。もうちょっと書き方に工夫があってもいいのではないか。
 プリーストリー氏や相棒となるローラをはじめ、悪友たち、そして警官や召使まで、一人一人キャラクターが立っていて忘れがたい印象を残すのは流石に人間観察の作家だと思った。


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