1989年新人作家評定

1989年新人作家評定


 最近面白いミステリが少ないとお嘆きの貴兄に送る(まあ、実際少ないんですが)新人作家評定です。

 私はこの夏、綾辻行人をまとめ読みし、そのせいで綾辻が大嫌いになってしまいました。一冊ずつコメントを付けますと、
 『十角館の殺人』
 全然謎解きがないので驚いた。”島田潔”というのはただの冗談だと思っていたんだがシリーズキャラクターになってしまったとは。『このミステリーがすごい!』(JICC出版局)に寄せた京大推理研のコメント「なお、会員同士が奇妙なあだなで呼び合っている、という噂が流布しているようですが、それはまったく根も葉もないことだとここに明言しておきます」には爆笑。

 『水車館の殺人』
 一年前と現在を交互に書くという構成には感心。しかし、かの横溝正史の名作「鬼火」そっくりというのでは大幅な減点は免れない。トリックの七割方がわかってしまうんだもの。DGM4が出るだろうななと思ったらやっぱり出たo

 『迷路館の殺人』
 世評では最も評価が高い。小説内小説、匿名の作者といった趣向は好みだ。だけど、余りにもちゃちくはないか。『ドグラ・マグラ』『虚無への供物』に並ぷ傑作を書いた作家が、あの程度の殺人起こして死んだら、私は怒り狂いますよ。

 『人形館の殺人』
 竹本健治なら誉めるかもしれない(未だに文庫化されぬ『将棋殺人事件』を見よ)。

 『殺人方程式』
 これで決定的に嫌いになった。SF研にもいたでしょう。文系の人間に限ってエントロビーがどうのこうのいう話を書いて来る人らが。物理ってそんな大層なものなのかなあ。鮎哲を今年のワースト解説賞に推薦。

 以上です。『緋色の囁き』は読んでないけれど、読んだとて好きになれるとは思えません。私は綾辻が大嫌いだし、将来についても期待してません。

 なぜ嫌いか。それはすなわち、本格探偵小説には遊び心が絶対に必要だが、それだけでいいのかということです。私は近年、探偵小説の遊び心は、毒を含んだ遊び心ではないかと思うようになりました。毒という言葉は日本の戦前の探偵小説をも含めた全探偵小説を通じてのキーワードとなります。トリックや仕掛けのみの小説をどうだこうすれば面白いだろう的に読まされても鼻につくだけです。それくらいなら黄金時代の名作を読んでいた方がよろしい。現代に探偵小説を復活させるには過去の名作のひき写しでは不可能です。リアリティを出せというのではありません。大時代的なものも大好物です。ただ、現代を浸食するような強烈な毒が欲しい。
 ……というような話をもっと煮つめて、今度<SR MONTHLY>に投稿しようと思ってます。なお、念のため、綾辻大嫌いというのは私個人の偏見でSRの総意ではありません。今のところは。

 さて、それから島田荘司です。例の『夜は千の鈴を鳴らす』ですが、そのトリックは以前書いたものではなく、高木彬光の完全なパクリでした。これでは”島荘がナゾの鉄道自殺”なるフレーズがささやかれたのもゆえなしではありません。最新作の『幽体離脱殺人事件』もきわめて評判が悪い。島荘を捨てる羽目には絶対になりたくはないので、もう少しどうにかして欲しいものです。

 次に講談社系統の新人、別名新本格派、別名島田一派に移ります。
 一番評判がいいのは『密閉教室』法月綸太郎。第二作『雪密室』はつまらんという話だが。
 斎藤肇『思い通りにエンドマーク』等 斎藤で一字名前は駄目だと言われている(栄、澪、純)。
 我孫子武丸『8の殺人』等 笑えるという話だが。

 歌野晶午『長い家の殺人』
 これはトリックがすぐわかって種明しがくどくて登場人物の性格が悪いと、もう最悪。『白い家』『動く家』はもうただでも読みたくありません。『長い家』は去年の投票で32人も読んでワースト2でした。因みにワースト1は浅川純『空中密室40メートルの謎』(こいつも講談社)、ワースト3は『夜は千の鈴を鳴らす』でした。

 暗い話は仕舞いにしてもっと明るい話をしましょう。東京創元社<鮎川哲也と十三の謎>です。
 @折原一『倒錯の死角』
 折原は黒星警部を主役としたドタバタ・ミステリ『五つの棺』(創)、『鬼が来たりてホラを吹く』(光)と、サイコ・スリラーの倒錯シリーズと、二つの系統を書き分けています。私はこの人のドタバタは余り好きではありません。特に『鬼が来たりて−』は最低だと思う。しかし、一部では大受けしており、読み手を選ぶ作品と言えましょう。『倒錯の死角』はまあ水準以上の出来。近頃『倒錯のロンド』(講)が出たが、少々きたないという話だ。島田荘司が絶賛している。島荘が誉めるものにろくなものはないというのが業界の評判ですが。

 A山崎純『死は甘くほろ苦く……』
 ハズレ。

 B岩崎正吾『風よ、緑よ、故郷よ』<十三の謎>の中では最高の作品。本格ではないが、そんなことどうでもよくなってしまうパワーがある。作者は以前『横溝正史殺人事件』(山梨ふるさと文庫)で一部で評判になった人。読みたいんだけど本が手に入らない。『恋の森殺人事件』(立風)は『風よ−』の続編だがかなり落ちたので残念。ポオのパロディは言いすぎにしても。

 C有栖川有栖『月光ゲーム』
 近頃珍らしい正統的犯人投し。出来は今一歩だが。中に『怪奇大作戦』の歌が出てきたのには笑った。この人はSR関西支部の会員だそうだ。
 今年出た『孤島パズル』はなかなかでした。犯人探しの論理も、作中のモアイパズルも面白い。解けない密室やダイイング・メッセージの趣向も皮肉ぽくて好きです。創元から出た日本人作家で一番面白い(むろん<日本探偵小説全集>を抜いての話)。

 D宮部みゆき『パーフェクト・ブルー』
 犬が語り手。主人公側の私立探偵一家がほのぼのしているのに、敵側がすごく卑劣で、話自体も陰惨至極。評価不能になってしまいました。最近、新潮の日本推理サスペンス大賞で賞金一千万円を獲得。出版社につぶされたりしなければかなりやれる人だと思います。

 E北村薫『空飛ぶ馬』
 落語家と女子大生のコンビが探偵、というとドタバタみたいだが、全然そんなことはなく、地味で味わい深い短縮集。絶賛する人多し。

 F笠原卓『仮面の祝祭2/3』
 この人は大旧人らしいがよくは知らない。やたら読みごたえがあると思ったら七百枚もあるんだって。動機、トリックがどことなく『殺しの双曲線』に似ていた。

 G紀田順一郎『鹿の幻影』
 『幻書辞典』大好きだったけどこれはちょっと。カーのあのトリックを使うのはもうやめて欲しい。どうしちゃったんだよ、紀田先生。

 H辻真先『犯人』
 最近辻真先を読み続けるのが相当苦痛になってきた。『ピーター・パンの殺人』以来全然面白くないんだもの。これにしても、『電気紙芝居殺人事件』(講)にしても、たまのハードカバーだというのに期待した大技が不発だった。そして作者を思わせる人物がどちらも死んで終わっている。なんかかなり疲れているような。この人もそう長くはないかもしれない。でも死んでも追悼特集つくる気力はすでに無くなりました。

 R種村直樹『長浜鉄道記念館』
 鉄道の話、浮世絵の話はすごく面白いけど、ミステリとしてはちょっと。

 というわけで私が今一帯注目している作家は、有栖川有栖岩崎正吾、二番手が北村薫宮部みゆきです。
 なお、<十三番目の椅子>第一次予選通過者の中に村岡圭三、竹谷正の名があるのには笑える(どちらもかつて<幻影城>新人)。



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