そろそろベスト投票の季節になったので一所懸命読み込んでいるところです。またコメントを述べてみたいと思います。
まずは講談社から。
法月綸太郎『誰彼』
新本格派の中でもこの作者ぐらいは面白いんじゃないかと思って読んでみたが見事に裏切られた。中盤以降は3人兄弟の入れ替りの順列、組合せが問題となるがコロコロ変わり、読者としてはどーでもよくなってしまう。探偵が無節操に意見を変えるところは本家法水麟太郎を思わせるが、虫太郎ほどの異空間を構築できるはずもない。本人は、作者と探偵が同名で、探偵の父親が警視ということでエラリー・クイーンを気取っているつもりなんだろうが。それに、昭和39年生れに全共闘は描けない。
ここで一言。新本格派の十割はクズである。
岩崎正吾『ハムレットの殺人一首』
講談社ノベルスで、いかにもうさん臭い題名から新本格派ではないかと心配して読んだが、田園派は健在。話自体に見るべきものは何もないが岩崎正吾ということで許す。
東京創元社<鮎川哲也と十三の謎>。
J山口雅也『生ける屍の死』
去年のベスト候補との噂。アメリカの葬儀社一族に起こる殺人事件を、死者が次々と甦るというシチュエーションで描いた怪作。もっとパンクになるんじゃないかと思っていたら、結構おとなしかったという印象あり。それでも、死者の論理を築き上げ、現実世界にプラス1したSFミステリとなっています。ところどころに、誰それがこのときこうしていればこの事件はこうなったかもしれないとかいう横正めいた書き方があって、なんか楽しかった。
L今邑彩『卍の殺人』
これをSR例会のオークションで僕がおとそうとしたところ、創元社勤務のM氏日く、「やめときなさい。やめときなさい」 読後の感想、変な屋敷の図面が入ったミステリはもう読みたくない。
Kが鮎川哲也ということですがいったいいつ出るんだろう。未来の古本ファンが幻の13冊目を探し求める羽目にならないといいんですが。それにしても鮎川哲也賞と言うのは冗談としか思えない。
<創元ミステリ’90>という叢書も始まりました。トップバッターは北村薫『夜の蝉』。買ったけど去年の本を読むのに忙しくまだ読めません。それにしても『空飛ぶ馬』が『このミステリがすごい!’89』で第2位とは本当にすごい。確かに良質だが(連城や泡坂には劣るが)、あんなに地味なのにねえ。
二番手は辻真先『合本・青春殺人事件』! これはソノラマ文庫の『仮題・中学』『盗作・高校』『改訂・受験』殺人事件三部作を合本にしたものらしい。辻真先が腐りきった今になって出されるのは複雑な心境。この三冊を高校時代に立ち読みで読みきったときの余韻から、この作者の本を何十冊も買って読むことになってしまったのだから。作者にとっても牧薩次と可能キリコのペアは特別な存在だ。牧薩次のペンネームが辻真先(アナグラム)であり、『仮題・中学』を書いた初代辻真先の本名桂真佐喜こそ<宝石>時代の本人のペンネームなのだから。三部作の中でも『改訂・受験殺人事件』は私の生涯でのベスト10に入る傑作。構成の仕掛け、かのクレイトン・ロースンに挑戦した犯人の設定はもちろんのこと、見立て殺人という大技を扱いながら新機軸を出している凄さ、そのためには高校の校歌まで作ってしまう遊び心、伏線の巧みさ、最後の事件によって犯人を割り出すデータが揃う妙技etc.etc.……。それが今や辻真先は私の最大のアキレス腱になってしまった。悲しい。
薩次、キリコのペアは『東海道36殺人事件』(光)で3年振りに復活。題名の意味が不明で、決して面白くはなかったが、二人の醸す要因気は昔通りだった。
問題の島田荘司ですが、『奇想、天を動かす』は良かった。去年のベストにあげてもいいくらい。三十年前の北海道札沼線の事件が凄い。「破天荒」とか「八方破れ」とか評された初期の島荘そのもの。吉敷物としてはあの『北の夕鶴2/3の殺人』に匹敵する傑作(怪作?)です。でも、その奇想の部分と主人公の老人の長い族路(社会派的部分)があまりうまく融合していない。島荘の社会派というのは見るからに付け焼刃で、最も成功したのはこの作品も例外ではない。作者自身が単なるトリック小説に飽き足らなくなってきたのかもしれないが、資料の引き写しや現実の事件の安易な小説化より、もっと人間の心の闇に注目して欲しい。と言っても、『幽体離脱殺人事件』ではこまるんだよなあ。