”古今バクハツ小説評定”は一応仕舞いにして”当今探偵小説評定”に移りたいと思います。
まずは、新本格派の中で唯一大化けする可能性があると言われている法月綸太郎。『頼子のために』(講)はN・ブレイク『野獣死すべし』(大藪春彦じゃないよ)に材を借りた娘を亡くした父親の復讐譚だが、原典を読んでなくとも話はわかる。ひとりよがりの文体がたまらない。登場人物の心理は滅茶苦茶だし、この作者、科学捜査についての勉強が足らん。でも、こんなに後味の悪い話を読んだのは久々である(誠に悔しいがこれは私にとっては誉め言葉である)。
デビュー作の『密閉教室』(講)も読みました。高校生が主役の一人称文体。私は若い作家が書くキザったらしい文体が大嫌いなんだけど、これは高校生がいきがっているところがパロディぽく読めてさほど気にならなかった。トリックと(当座の)犯人は噴飯物。だが、わけのわからない熱気がこもっている。積極的に誉める気は全くないが、確かに大化けしそうな気配はある、と五十嵐家への手紙には書いておこう。
宮部みゆき『我らが隣人の犯罪』(新)SRでの評、何も起こらない。小川さん曰く、赤川次郎みたい。確かにそうなのだが、一つ弁護すると、この作者は少年を書くのがうまい。我ながら甘いとは思うが「サボテンの花」には涙してしまう。望むらくは女性としての残酷さをもっと前面に出して欲しい。それができる人だと思うから。
岩崎正吾は前から読みたかった『探偵の夏あるいは悪魔の子守歌』(『横溝正史殺人事件』改題、創)を読むことができました。本歌取りミステリー。期待が大き過ぎたためか残念ながらのれませんでした。刑事の名前が片岡千恵蔵を筆頭に全部金田一役者とか、結構笑えるのだが。
第二弾の『探偵の秋あるいは猥の悲劇』(創)はクイーン見立てがいまいち。クイーンのパロディなら彼の純粋疑似論理をシュロック・ホームズ的におちょくって欲しかった。結局また正史になっちゃってるしね。
『夜叉神山狐伝説』(立)は『風よ、緑よ、故郷よ』の続編の『恋の森殺人事件』のさらなる続編。山の衆に狐憑き。既にミステリーの域を超えている。どこまで行くんだろう、このシリーズ。『風よ−』は私にとっては昭和最後の収穫だったのになあ。
これで私は岩崎正吾を六冊全部読んだわけですが一番面白かったのはやはり『風よ、緑よ、故郷よ』。最近思うのですが、私はどうやら情熱というものに弱いらしい。
竹本健治『カケスはカケスの森』(徳) この人に最初からまともな推理小説は期待してないから怒りはしない。これじゃあ誉める気にもなれないけど。竹本の追及してきたテーマは千二百枚の処女作『匣の中の失楽』からSF第一作『腐蝕の惑星』に至るまで一貫して、狂気、あるいは日常を浸食する非日常。『クー』以降は知らないが。でも何も知らん人が読んだら怒るだろうな。
『将棋殺人事件』(CBSソニー)の帯は内藤国雄九段が書いているのだが、後にぼやいて曰く(<EQ>'88.3)、犯人が完全な二重人格なのにはがっかりした。職業柄、何でも将棋に結びつけるのだが、この時は、囲碁でなくて将棋の棋士であることが有難いと思った。で、書かれた帯は《将棋の駒は、表と裏の二つの性格をもっている。人の心もまた……》 なお、この作品の場合、二重人格ということを明かしても全然差障りがなかったりする。
島田荘司『暗闇坂の人喰いの木』も読みたかったんだけどこれは次にまわします。最後に大ネタが控えていることですし。