原稿遅くなって済みません。なんせマンスリーの3月号が届いたのが6月だったもんで。だいぶ時期を外しちゃいましたが、1991年ベスト、行ってみましょう。
今回SR第1位に輝いたのは、宮部みゆき『龍は眠る』。ネタはメチャ古い。でも読ませる。登場する少年が魅力的。・・・・・・これじゃあ『魔術はささやく』の感想と変わらないか。でもそのとおり。サイキックを扱ったこの作は狭義でも広義でもSFだね。でも作者の側にSFだからという構えたところが全くない。SFだ、ミステリーだというジャンル分けは無意味。彼女はデビュー2年にして既に宮部みゆきの小説としか名づけようのないものを書いている。いくら何でも誉めすぎか。
第3位、若竹七海『ぼくのミステリな日常』は連作短編集で短編の間に隠された謎が最後に解き明かされるというので、山田風太郎『誰にでもできる殺人』みたいなのを期待していたのだが……。まあ、あれと比較しちゃあ可愛そうだね。個々の短編を楽しめれば良いか。北村薫風日常生活の謎から凝りに凝って作り上げた話、或いは日本探偵小説の流れを感じさせる怪談まで。作者はチャターボックス三人娘の一人で立教ミステリクラブ出身。この人相当変な本をたくさん読んでいるようだ。同類として好感が持てる。
第4位、山口雅也『キッド・ピストルズの冒涜』。パラレル英国を舞台にしたパンク刑事の活躍する短編集。『生ける屍の死』でもそうだったようにこの作者はミステリーのために世界を創造しちゃう。中身はガチガチの本格。この遊び心には最敬礼。「曲がった犯罪」なんてチェスタトンの言葉に挑戦した佳作。でもいちいち前書きで自分の話の意図を説明するなよな。うるさい。あの傑作と名高いゲームブック『十三人目の名探偵』も創元から復刊するというのでこっちにも期待。
第5位、逢坂剛『斜影はるかな国』は朝日新聞の夕刊の連載で読んだ。僕は新聞小説を必ず朝夕刊とも読むことにしています。普段なら絶対読まない作家のものを読めるから。中身については殆ど忘れた。
第7位、綾辻行人『時計館の殺人』。なかなかよかったなあ。けなすのが難しい。外界と異なる時間が流れる館というシリーズの設定が今回ほどぴったりはまったことはなかった。スプラッターめいた殺人場面がいやだったけどそれにもれっきとした理由があった。最後のクライマックスは大時代的ながら実に絵になる。全くの善意から出た行動が結果として邪悪なものに変わるというのは僕が一度追求してみたいと思っていたテーマです。この作品は比較的その線に近い。その意味ではまだまだ書き込みが足りないが。
ほんとはけなしたいんだけど絶妙なけなし言葉が見つからない。困った。死人が多すぎるとか、そんな些細な理由で殺されちゃたまらないとかはあるが。でもそんな低レベルのけなしはしたくない。実に困った。
第8位、法月綸太郎『一の悲劇』。この作家、講談社新本格一派の中ではいちばん化けるのじゃないかと言われていたが、なんか大人しくなってしまったなあ。小説としてはうまくなっている。でも初期の頃の得体の知れないエネルギー(あの『密閉教室』!!)が薄れてきてしまったようで残念。どうせなに読まされても同じくけなすんだから、それならパワー全開の作を僕は読みたい。
第9位、島田荘司『水晶のピラミッド』。『暗闇坂の人喰いの木』のヒロイン松崎レオナの依頼を受けた御手洗はニューオリンズのピラミッド島での怪事件に出馬する。あの『斜め屋敷』を凌ぐ大爆発建築ミステリー、と思いきやフェイント。結構いい出来じゃないですか。ここ2年くらいでは。タイタニックでのジャック・フットレルはどうしたとかいうのは大いに不満だが。大好きだったんだよ、思考機械。
宿命を背負ったレオナと御手洗の今後の関係を思うと涙を誘う。御手洗潔自身の事件がいつかは読みたい。
第10位、黒崎緑『しゃべくり探偵』。なかなかあざやか。この人のもう一つの系統の無茶苦茶暗いミステリーというのを今度読んでみたい。
北村薫『秋の花』は第13位。SRの連中は飽きっぽいようだ。同じ調子だとすぐに飽きられちゃう。僕など全然レベルが落ちていないので凄いと思っているのだが。『六の宮の姫君』を読んだらまた何か書きます。
第16位、竹本健治『ウロボロスの偽書』。なんなんだろうね、この本は。一応、連続殺人犯の手記と竹本健治による芸者ミステリーと作者の身辺雑記の三種が混じり合う複合構造をとってあるわけだが。実在作家等もぞくぞく登場。友成純一,新保博久,綾辻行人,果ては島田荘司まで。それどころかあの佐伯千尋までとんでもない形で出現。500ページの分厚さを読み終えても挿入された”読者への忠告状”のとおりカタルシスは何も得られない。やっぱり『匣の中の失楽』などという大傑作でデビューしてしまったので後がつらかったのだろう。本作は苦し紛れに絞り出しただけ以外の何物でもないと思う。僕自身としては、作者には『トランプ殺人事件』の系統(アンチ・ミステリー!)や幻想短編を期待したいところだったのだが。でもこの作自体が作者にどんな影響を与えるかは非常に興味あり。そこはそれー、今後の作風変遷に着目。
第18位、麻耶雄嵩『翼ある闇』。いろいろ毀誉褒貶あるこの書を読んでみて意外に面白いのでびっくりしました。いやあ、壮大なホラ話だなあ。一部にはあの素晴らしいモチーフをこんな使われ方したのに腹が立つという声もあったが、それも納得できる。でもこのとんでもなさも捨て難い気はする。こういうゲテモノ結構好きだよ。例えば、「美少女仮面ポワトリン」が面白い!というのと意味論的に等価で(愛ある限り戦いましょう、命燃え尽きるまで)。あんまり誉めると人格疑われかねない危険はあるが。評価が甘くなってしまったのは結末部分に夢野久作「死後の恋」を連想させられたからかもしれない。なお、このペンネーム、麻耶は天城一からで、雄嵩は『死霊』の埴谷雄高なのは間違いあるまい。しまった、僕は彼氏と文化レベルが同程度だ。
北村想『怪人二十面相・伝 青銅の魔人』(新潮社)
前年の『怪人二十面相・伝』につづく劇作家の手による架空伝記。二十面相の正体については乱歩の本編ではただ一度だけ触れられている。『サーカスの怪人』にて元サーカス団員、遠藤平吉、と。北村想によると二十面相は二人いた。戦前活躍した初代と戦後登場した二代目と。平吉二十面相は二代目の方。初代、武井丈吉は劇場犯罪を夢見てサーカスから失踪、鍛錬(変装、宝石鑑定 etc.)を重ねた後に怪人二十面相としてデビューを遂げる。ところがそこに現れたのがデモーニシュな批評家、名探偵明智小五郎。丈吉二十面相は小林少年と気球の大爆発に飲み込まれその消息を断つ(ここまでが前作)。戦後復員した平吉は師匠の思いを継ぐため二十面相を襲名しようとするが……。二十面相の内幕が家内工業みたいなところが面白い。青銅の魔人がテキ屋製とは知らなんだ。実に愛すべき怪盗。一方探偵側は憎ったらしい。特に小林は最悪のキャラクター。平吉二十面相と二代目明智を継いだ小林はロマノフ家の時計を挟んでついに激突する。師弟二代に渡る深讐連綿たる対決は当事者二人の思惑をも越えた意外な方向へ。そう、芸術家と批評家の永遠の追いかけっこの起源が今明かされる。
井沢元彦『恨(ハン)の法廷』(日経エコノミステリー)。とにかく凄い。これにかろうじて匹敵したのは『翼ある闇』くらい。『水晶のピラミッド』も『ウロボロスの偽書』も目じゃない。日本人と韓国人の一団がある突発事故で死亡する。彼らは冥界に辿りつき、天帝の前で日本人と韓国人のどちらが悪いかの論争を始める。日本側の立会人は聖徳太子、韓国側は檀君。証人は次々と時空を越えて現れ、やがて韓国人に日本人を憎悪させた張本人が歴史の闇から引き出される。ここまで言っちゃっていいのと思うくらい過激なフレーズの連続。正直な話この作品がミステリーなのか、あるいは小説なのかについても疑問が残る。でも、とにかくもうとんでもなかった。
僕の昨年のベストは、
(別表参照)
です。傑作はなかったけど佳作とゲテモノに恵まれたいい年だったと思います。
さて、今年の本もこれから気を入れて読まなきゃ。